はかせ、ブラックホールの近くで星が超高速で回ってるって聞いたんだけど、本当なの?
よく知ってますね! 実は天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール「いて座A*」のすぐ近くで、8.19ミリ秒に1回転する超高速パルサーが見つかったんです
パルサーとは、猛スピードで回転しながら電波を放つ天体だ。まるで宇宙の灯台のように、一定間隔で電波のビームを地球に向けて発している。
今回見つかったパルサーは、1秒間に約122回も自転している。これは地球上のどんな物体よりも速い。しかも、それが銀河系で最も極限的な環境――超巨大ブラックホールのすぐそばで起きているのだ。
パルサーって何? 宇宙の時計の正体


中性子星が作る宇宙の灯台
パルサーの正体は中性子星と呼ばれる天体だ。太陽の8倍以上の重さを持つ恒星が一生を終えるとき、超新星爆発を起こして外側を吹き飛ばす。その後に残るのが中性子星だ。
中性子星は直径わずか20キロメートルほどしかない。これは東京の山手線の内側とほぼ同じ大きさだ。だが、その小さな星の中に太陽1個分以上の質量が詰め込まれている。
スプーン1杯分の中性子星の物質は、地球上では約10億トンの重さになる。これは東京スカイツリー約1,600本分の重さに相当する計算だ。
1秒間に数百回転する理由
中性子星が高速回転する理由は、元の恒星が持っていた回転エネルギーが保存されるからだ。フィギュアスケート選手が腕を縮めると回転が速くなるのと同じ原理だ。
巨大な恒星が小さな中性子星に圧縮されると、回転速度が劇的に上がる。さらに中性子星は強力な磁場を持っており、磁極から電波ビームを放出する。この電波が地球の方向を向くたびに、私たちはパルス信号として観測できるのだ。
宇宙で最も正確な時計
パルサーが「宇宙の時計」と呼ばれるのは、その回転周期が極めて安定しているからだ。最も安定したパルサーは、原子時計と同等かそれ以上の精度を持つ。
天文学者はパルサーを使って、重力波の検出や宇宙航法システムの開発を進めている。GPSが地球の衛星を基準にするように、将来の宇宙船はパルサーを目印に航行するかもしれない。
銀河系の心臓部で見つかった理由


いて座A*――天の川の超巨大ブラックホール
今回パルサーが見つかったのは、いて座A*(エースター)と呼ばれる超巨大ブラックホールの近くだ。このブラックホールは地球から約2万6,000光年離れた場所にあり、太陽の約400万倍の質量を持つ。
いて座A*は天の川銀河の中心に位置し、銀河全体の重力の「錨」として機能している。2022年には国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ」が、このブラックホールの影を史上初めて撮影して話題になった。
極限環境での天体観測
超巨大ブラックホールの周辺は、宇宙で最も過酷な環境の一つだ。強烈な重力場、高密度のガスや星、激しい放射線が飛び交う。
これまで銀河系中心付近では数個のパルサーしか見つかっていなかった。電波観測が難しいからだ。銀河中心には高温のガスが充満しており、電波を散乱させてしまう。まるで濃い霧の中で懐中電灯を探すようなものだ。
8.19ミリ秒という驚異的な速さ
今回発見されたパルサーの回転周期は8.19ミリ秒。これは「ミリ秒パルサー」と呼ばれる超高速回転する種類だ。
通常のパルサーは1秒間に1〜10回程度回転する。一方、ミリ秒パルサーは1秒間に数百回転する。これは長い時間をかけて、連星系の相手の星から物質を吸い取り、回転エネルギーを得た結果だと考えられている。
ブラックホール近くでミリ秒パルサーが見つかるのは極めて珍しい。なぜなら、このような連星系が超巨大ブラックホールの潮汐力を生き延びるのは難しいからだ。
発見がもたらす科学的意義
アインシュタインの理論を試す実験場
ブラックホール近くのパルサーは、一般相対性理論を検証する絶好の実験場になる。アインシュタインが1915年に発表したこの理論は、重力が時空を歪めることを予言した。
強い重力場では時間の進み方が遅くなる。これを「重力赤方偏移」という。パルサーの正確な回転周期を測定することで、ブラックホール周辺でどれだけ時空が歪んでいるかを測れる。
もし理論と観測結果にズレがあれば、物理学の根本を見直す必要が出てくる。だからこそ、科学者たちはこの発見に注目しているのだ。
銀河中心の星の歴史を読み解く
このパルサーがどうやって現在の位置に来たのかも謎だ。考えられるシナリオは2つある。
1つ目は、銀河中心で生まれた星が超新星爆発を起こし、その場でパルサーになったというもの。2つ目は、銀河の別の場所で生まれたパルサーが、何らかの理由で銀河中心に引き寄せられたというものだ。
どちらのシナリオが正しいかを突き止めることで、銀河の進化の歴史や、星がどのように移動するかを理解できる。
新しい観測技術の試金石
この発見は、次世代の電波望遠鏡の能力を示すものでもある。研究チームは高感度の観測装置を使い、ノイズの中から微弱なパルサー信号を検出した。
今後、スクエア・キロメートル・アレイ(SKA)などの巨大電波望遠鏡が稼働すれば、銀河中心でさらに多くのパルサーが見つかるだろう。それにより、ブラックホール周辺の環境がより詳しく分かってくる。
宇宙の極限環境で生き残る天体
超巨大ブラックホールの近くは、星が引き裂かれたり、軌道が乱されたりする危険地帯だ。それでもこのパルサーは安定して回転し続けている。
これは中性子星の強靭さを物語る。直径20キロの小さな星が、太陽400万個分の重力にも負けずに存在している。宇宙で最も密度が高く、最も頑丈な天体の一つだと言えるだろう。
ブラックホールの近くでも壊れないなんて、すごいね!
この発見は、宇宙の極限環境を理解する新たな窓を開いた。今後の観測で、さらに多くのパルサーが銀河中心で見つかれば、天の川銀河の「心臓部」の謎が次々と明らかになっていくだろう。科学者たちは、このパルサーが放つ規則正しい電波ビームを追跡し続けている。




参考文献:
Ultra-fast pulsar found near the Milky Way’s supermassive black hole
出典: ScienceDaily










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