シルミーはかせ、がんって神経と関係あるの?
実はあるんです。膵臓がんは神経を自分の近くに呼び寄せて、神経に成長を手伝わせているという驚きの発見があったんですよ
膵臓がんは治療が難しいがんの一つで、5年生存率は約12%と非常に低い。早期発見が難しく、見つかった時にはすでに進行していることが多いからだ。今回、科学者たちは膵臓がんと神経系の間に隠れた協力関係があることを突き止めた。
膵臓がんが神経を呼び寄せるしくみ


シュワン細胞という協力者
膵臓の中には、シュワン細胞という神経をサポートする細胞がいる。この細胞は通常、神経線維を守り、電気信号がスムーズに伝わるのを助ける役割を持つ。神経の周りを覆うミエリン鞘という絶縁体を作ることでも知られている。
ところが、がん細胞が現れると、シュワン細胞は裏切り者のような行動を始める。研究チームが詳しく調べたところ、シュワン細胞は「GDNF」という化学物質を大量に放出していた。GDNFは神経成長因子の一種で、神経線維を呼び寄せる信号として働く。
この現象を確認するため、研究者たちは膵臓がんの組織サンプルを分析した。すると、がんの周辺では神経線維の密度が通常の膵臓組織に比べて3倍以上高くなっていた。シュワン細胞が出すGDNFに引き寄せられた神経が、がんの近くに集まっていたのだ。
神経が放出する成長信号
呼び寄せられた神経は、ただそこにいるだけではない。神経は「ニューロトランスミッター」と呼ばれる神経伝達物質を放出する。これには「ノルアドレナリン」「アセチルコリン」などが含まれる。通常これらは脳や体の他の部分で情報を伝える役割を持つが、がんの近くではまったく違う働きをする。
実験では、神経伝達物質がパンクレアティック・ステラー細胞(PSC)という膵臓の細胞を刺激していることが分かった。PSCは刺激を受けると「EGF」や「NGF」といった成長因子を大量に作り出す。これらの成長因子は、がん細胞の増殖スイッチを押すような働きをする。
研究チームがマウスを使った実験で確認したところ、神経伝達物質を受け取ったPSCは通常の約2.5倍の速さで成長因子を分泌した。この成長因子を受け取ったがん細胞は、24時間で約40%も増殖速度が上がっていた。
自己持続する悪循環ループ
さらに厄介なのは、この関係が一方通行ではないことだ。がん細胞は神経を呼び寄せ、神経は成長信号を出し、その信号ながん細胞をさらに活発にする。そして元気になったがん細胞は、もっと多くの神経を呼び寄せる信号を出す。
この悪循環は、ちょうど火事が広がるのに似ている。最初は小さな火でも、風が吹いて酸素が供給されると火は大きくなり、大きくなった火はさらに強い上昇気流を生んで、もっと多くの酸素を引き込む。膵臓がんと神経の関係も、まさにこの状態だ。
研究者たちは顕微鏡で観察し続けることで、この循環が約72時間で確立されることを発見した。つまり、がん細胞が住み着いてから3日もあれば、神経との協力関係が完成してしまうのだ。
神経の活動を止めるとどうなるか


ボツリヌス毒素を使った実験
この発見で重要なのは、神経の活動を止めればがんの成長も抑えられるという点だ。研究チームは、神経伝達物質の放出を止める方法を試した。
使ったのは「ボツリヌス毒素A型」だ。これは美容整形で使われる「ボトックス」と同じ成分で、筋肉を動かす神経信号を一時的にブロックする働きがある。実は、この毒素は神経伝達物質の放出も止めることができる。
マウスの膵臓がんにボツリヌス毒素を注射したところ、腫瘍の成長速度が約55%低下した。8週間後、毒素を投与しなかったマウスの腫瘍は平均1.2立方センチメートルまで成長していたが、投与したマウスでは0.5立方センチメートル程度にとどまった。
神経切断手術との比較
過去の研究では、膵臓につながる神経を外科的に切断する実験も行われていた。神経を物理的に切れば、がんへの信号供給を止められるという考えだ。
実際、迷走神経(内臓の働きをコントロールする神経)を切断したマウスでは、膵臓がんの成長が約45%遅くなった。しかし、神経切断は他の臓器の機能にも影響を与えるため、人間の治療には使いにくい。消化不良や血糖値の調整異常などの副作用が出るからだ。
一方、ボツリヌス毒素は局所的に使え、効果も一時的で調整しやすい。注射した部分の神経活動だけを数ヶ月間抑えることができ、効果が切れればまた打てばいい。このため、実用化に向けてより現実的な選択肢だと考えられている。
他のがんにも応用できるか
神経とがんの関係は、膵臓がん以外でも報告されている。前立腺がん、胃がん、頭頸部がんなどでも、腫瘍の周辺に神経が密集している現象が観察されている。
カリフォルニア大学の研究では、前立腺がんの患者で神経密度が高い部分ほど、がんの進行が早いというデータが出ている。また、神経の活動を抑える薬を使うと、前立腺がんの転移が減るという動物実験の結果もある。
これらの発見は、がんと神経の関係が多くのがん種に共通するメカニズムである可能性を示している。もし神経活動を抑える治療法が確立されれば、複数のがん治療に応用できるかもしれない。
実用化に向けた課題と展望


臨床試験への道のり
今回の研究は主にマウスでの実験だが、人間での臨床試験に向けた準備はすでに始まっている。米国のいくつかの医療機関では、膵臓がん患者にボツリヌス毒素を投与する初期段階の試験が計画されている。
ただし、人間での効果と安全性を確認するには、少なくとも3〜5年はかかる見込みだ。最初の試験では、手術で取り切れなかった膵臓がんの患者や、化学療法と併用する形で行われる予定だ。
課題の一つは投与方法だ。膵臓は体の奥深くにあるため、正確に薬を届けるには内視鏡や超音波ガイド下での注射が必要になる。また、どのくらいの量を、どの頻度で投与すればいいのかも、これから調べていく必要がある。
新しい治療戦略の可能性
この発見は、がん治療の考え方そのものを変える可能性がある。従来の治療は、がん細胞だけを攻撃することに集中していた。抗がん剤や放射線療法は、増殖の速い細胞を狙い撃ちする。
しかし今回の研究は、がんを取り巻く環境、特に神経系も治療の標的にすべきだと示している。がん細胞だけでなく、がんを助けている「協力者」も同時に抑えれば、より効果的な治療ができるかもしれない。
実際、がんの周辺環境を標的にした治療法は「腫瘍微小環境療法」として注目されている。血管新生を抑える薬や、免疫細胞を活性化させる免疫療法もこの一種だ。神経活動を抑える治療は、この新しい戦略の一つとして期待されている。
早期発見への応用
もう一つ期待されているのが、早期発見への応用だ。膵臓がんは初期段階では症状がほとんどなく、見つかった時には手遅れということが多い。しかし、がんの周辺に神経が集まってくる現象を利用すれば、早期発見の手がかりになるかもしれない。
研究チームは、神経が放出する物質や、シュワン細胞が出すGDNFを血液中で測定する方法を開発中だ。これらが通常より高い値を示せば、膵臓でがんが育ち始めている可能性があるというわけだ。
もしこの方法が実用化されれば、血液検査だけで膵臓がんのリスクを早期にチェックできるようになる。現在の画像診断では見つけられない小さながんでも、神経との相互作用が起きていれば検出できる可能性がある。



神経とがんがチームを組んでるなんて、想像もしなかった!
そうなんです。体の中では、思いもよらない協力関係が起きているんですよね
膵臓がんと神経の関係を断ち切ることができれば、治療の難しいこのがんに新しい希望をもたらすことになる。臨床試験の結果が待たれるところだ。
参考文献:
Scientists find nerves actively fuel pancreatic cancer
出典: ScienceDaily










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