はかせ、体育館でバッシュ履くとキュッキュッて鳴るけど、あれってなんで音が出るの?
あの音の秘密、実は靴底のゴムブロックが振動するからなんです。しかも面白いのが、ブロックの形を変えると音階まで変えられることが分かったんですよ
アメリカの研究チームが、スニーカーが床を擦るときに出る「キュッ」という音の物理メカニズムを徹底的に調査した。その結果、靴底のトレッドパターン(溝のデザイン)の幾何学的な形が音の高さを決めていることが判明。研究者たちは調子に乗って、スター・ウォーズのテーマ曲を演奏できる靴底まで設計してしまった。
なぜゴムは床で鳴くのか


stick-slip現象という不思議な動き
スニーカーが床を擦るときの「キュッ」という音は、stick-slip現象と呼ばれる物理現象が原因だ。これは「くっつく→滑る→くっつく→滑る」を超高速で繰り返す動きのこと。
たとえばバイオリンの弦を弓で擦ると音が出るのも同じ原理だ。弓の毛が弦にくっついて引っ張られ、限界まで来ると一気に滑り、またくっつく。この繰り返しが弦を振動させて音になる。
靴底のゴムも床に押し付けられながら滑ると、1秒間に数百回から数千回もstick-slipを繰り返す。この振動が空気を震わせて、あの独特な「キュッ」という音になるのだ。
音の高さは何で決まる?
stick-slip現象自体は昔から知られていたが、靴底の「どこが」振動の周波数(音の高さ)を決めているのかは謎だった。靴底全体が振動するのか、それとも部分的なのか。
研究チームはマサチューセッツ大学アマースト校のアルフレッド・クロスビー教授らで、特殊な高速度カメラとレーザー振動計を使って靴底の動きを詳しく観察した。すると、靴底全体ではなく、個々のゴムブロック(トレッドの突起部分)が独立して振動していることが分かった。
さらに実験を重ねると、ブロックの高さと幅の比率が音の高さを決める最大の要因だと判明した。背の高い細いブロックは低い音を出し、背の低い太いブロックは高い音を出す。まるでパイプオルガンの管の長さで音階が変わるのと似ている。
靴底で音楽を演奏する


計算式から音階を設計
クロスビー教授のチームは、ブロックの形状と振動周波数の関係を数式にまとめることに成功した。この式を使えば、「この高さの音が欲しい」と思ったらそれに対応するブロックの寸法を逆算できる。
そこで研究チームは遊び心を発揮した。スター・ウォーズのメインテーマの冒頭部分に必要な音階を計算し、それぞれの音に対応するゴムブロックを3Dプリンターで作成したのだ。
完成した実験用の靴底には、異なるサイズのブロックが音階順に並んでいる。これを床に押し付けて一定の速度で滑らせると、ド・レ・ミ・ファ…と音階が順番に鳴る。動画では実際に、あの有名な「ジャーン、ジャジャジャーン、ジャジャジャーン♪」というフレーズが靴底から流れている。
音量もコントロールできる
音の高さだけでなく、音量(音の大きさ)もブロックの形で調整できることが分かった。ブロックの接地面積が大きいほど、床との摩擦面が増えて振動が強くなり、音も大きくなる。
研究チームは論文の中で、「音階と音量の両方を制御できるということは、理論上はどんなメロディーでも靴底で演奏できる」と述べている。ベートーベンの第九も、モーツァルトの『きらきら星変奏曲』も、靴底で奏でられる時代が来るかもしれない。
なぜこんな研究をしたのか
「音楽を演奏する靴」と聞くと遊びのように思えるが、この研究には実用的な狙いもある。スポーツシューズメーカーにとって、靴底の音は長年の悩みの種だった。
バスケットボールシューズは急停止や方向転換が多いため、床との摩擦が大きくなければいけない。しかし摩擦が大きいとキュッキュッという音がうるさく、選手や観客の集中を妨げることがある。逆に、音を完全に消すとグリップ力が落ちて滑りやすくなる。
今回の研究成果を使えば、グリップ力を保ちながら音の周波数だけを変えることができる。たとえば、人間の耳に聞こえにくい超音波領域(2万ヘルツ以上)に音をシフトさせれば、摩擦力は維持したまま「静かなバッシュ」が実現できるかもしれない。
日常生活への応用


歩行補助や視覚障害者支援
クロスビー教授は別の応用例も提案している。たとえば高齢者向けの靴に、歩き方の異常を音で知らせる機能を組み込むアイデアだ。
正常な歩行時は一定のリズムで「トン、トン、トン」と静かに鳴るが、つまずきかけたり重心が偏ったりすると音の高さやリズムが変わる。介護施設などで、スタッフが離れた場所からでも歩行状態を音で確認できるようになる。
また、視覚障害者向けの点字ブロックと組み合わせる案もある。点字ブロックの上を歩くと特定の音階が鳴るように設計すれば、音で現在地や進行方向を把握しやすくなる。交差点の手前では高い音、駅のホームでは低い音、といった具合だ。
床材メーカーも注目
この研究は靴だけでなく、床材の開発にも役立つ可能性がある。病院や図書館など静かさが求められる場所では、どんな靴で歩いても音が出にくい床材が求められる。
逆に、工場や倉庫では「フォークリフトが近づいてくる音」が安全確保に重要だ。床の表面パターンを工夫して、タイヤの種類ごとに異なる警告音が鳴るようにすることも考えられる。
自動車タイヤへの展開
研究チームは、この技術が自動車タイヤの騒音対策にも応用できると考えている。タイヤと路面の摩擦音(ロードノイズ)は、高速道路沿いの住民にとって深刻な騒音問題だ。
タイヤのトレッドパターンを最適化して、音の周波数を人間の耳に聞こえにくい帯域にシフトさせれば、グリップ性能を損なわずに静かなタイヤが作れるかもしれない。電気自動車の普及でエンジン音が消えた今、タイヤの音がより目立つようになっているため、この研究の重要性は増している。
靴底で音楽が作れるなんて思わなかった! 次の体育の授業が楽しみになってきた
遊び心から始まった実験が、スポーツ用品や福祉機器、さらには都市騒音対策にまで広がる可能性を秘めている。身の回りの「当たり前の音」にも、まだまだ知られていない物理の法則が隠れているのかもしれない。
参考文献:
The physics of squeaking sneakers
出典: Ars Technica
アイキャッチ画像: Photo by Karsten Winegeart on Unsplash










コメント