はかせ、妊娠すると体が変わるのは知ってるけど、脳も変わるって本当?
その通りなんです。実は妊娠中、女性の脳は驚くほど大きく変化しているんですよ
毎年何百万人もの女性が妊娠を経験しているのに、科学者たちが妊娠中の脳の変化に注目し始めたのはここ10年ほどのこと。スペインとオランダの研究チームが、MRIスキャンを使って妊娠前後の脳を詳しく調べたところ、驚くべき事実が明らかになった。
妊娠中の脳で何が起きているのか


灰白質が減少する不思議な現象
バルセロナ自治大学の研究チームが2016年に発表した研究では、妊娠した女性の脳を出産前後で比較した。すると、脳の表面にある灰白質が明らかに減少していたのだ。
灰白質というのは、脳の神経細胞が集まっている部分のこと。「減少」と聞くと心配になるかもしれないが、これは悪いことではない。実は、思春期にも同じような変化が起きている。
思春期の脳では、使わない神経回路が整理され、必要な回路だけが残る「刈り込み」という現象が起きる。妊娠中の脳でも、同じように神経回路の再編成が行われているのだ。
変化が最も大きい脳の領域
特に変化が大きかったのは、デフォルトモードネットワークと呼ばれる脳の領域。この領域は、自分自身について考えたり、他人の気持ちを想像したりするときに働く部分だ。
研究チームは、妊娠した女性25人の脳スキャン画像と、妊娠していない女性の画像を並べて、どちらが妊娠しているか当てるテストを実施。結果は驚異の100%正解率だった。それほど変化が明確だったのだ。
しかもこの変化は少なくとも2年間は続くことが確認されている。つまり、出産後もママの脳は新しい状態を保ち続けているということだ。
ホルモンが引き起こす脳の変化
では、何がこの変化を引き起こしているのか。最大の要因はエストロゲンだ。妊娠中、女性の体内ではエストロゲンの量が通常の50倍にもなる。
アムステルダム大学の研究者たちは、人間の脳細胞を培養し、妊娠中と同じ濃度のエストロゲンを加える実験を行った。すると、脳細胞の遺伝子発現パターンが変化し、新しい神経回路を作る準備が整ったのだ。
これは、まるで脳が「赤ちゃんを育てる」という新しい任務に向けて、内部のシステムをアップデートしているようなものだ。
ママになるための脳の準備


赤ちゃんへの愛着を生み出す仕組み
妊娠中の脳の変化は、ただ起きているだけではない。ちゃんと目的がある。それは母親としての行動を準備することだ。
スペインの研究チームは、妊婦に生まれたばかりの赤ちゃんの写真を見せながら、脳の活動を記録した。すると、先ほどのデフォルトモードネットワークが強く反応したのだ。
さらに面白いことに、脳の変化が大きかった女性ほど、出産後に赤ちゃんへの愛着が強い傾向があった。つまり、脳の変化は母子の絆を深めるための準備だったのだ。
ネズミの脳で見つかった新しい神経細胞
人間の脳で詳細なメカニズムを調べるのは難しいため、研究者たちはネズミを使った実験も行っている。カリフォルニア大学の研究では、妊娠したメスネズミの脳に驚くべき発見があった。
妊娠中のメスネズミの脳では、海馬という記憶を司る領域で新しい神経細胞が生まれていたのだ。しかも、これらの細胞は子育てに関する記憶を保存するために使われていた。
ネズミの母親は、一度子育てを経験すると、次の出産時には迷わず巣作りや授乳ができるようになる。これは、妊娠中に脳が「子育てマニュアル」を書き込んでいるからだと考えられている。
父親の脳も変わる可能性
さらに最近の研究では、父親の脳も変化する可能性が示されている。スペインの研究チームが、初めて父親になった男性の脳をスキャンしたところ、母親ほどではないが、同じデフォルトモードネットワークに変化が見られたのだ。
ただし、父親の変化は妊娠中ではなく、出産後に赤ちゃんと過ごす時間によって起きる。つまり、ホルモンではなく、育児という行動そのものが脳を変えている可能性がある。
これから解明すべき謎


妊娠中の記憶力低下との関係
妊娠中の女性の中には、「物忘れが増えた」「集中力が続かない」と感じる人が多い。これは俗にマミーブレインと呼ばれる現象だ。
しかし、実際に記憶力テストをすると、妊娠していない女性と大きな差はないことが多い。研究者たちは、脳の変化そのものが記憶力を下げているのではなく、優先順位が変わっているのではないかと考えている。
つまり、仕事のスケジュールよりも「赤ちゃんの健康」に注意が向くように、脳が切り替わっているのかもしれない。
産後うつとの関連性
もう一つの重要な疑問は、脳の変化が産後うつと関係があるかどうかだ。出産後、約15%の女性が産後うつを経験する。
オランダの研究チームは現在、妊娠前から出産後までの脳の変化を追跡し、産後うつになった女性とならなかった女性で、変化のパターンに違いがあるかを調べている。
もし特定のパターンが見つかれば、将来的には産後うつのリスクを予測できるようになるかもしれない。早期に対策を取れれば、多くの母親と赤ちゃんを救えるはずだ。
個人差の理由を探る
脳の変化には大きな個人差がある。同じように妊娠しても、脳の変化が大きい人もいれば、小さい人もいる。この違いがどこから来るのかは、まだ分かっていない。
遺伝的な要因なのか、生活環境の違いなのか、それとも妊娠前の脳の状態が関係しているのか。ライデン大学の研究チームは現在、数百人規模の大規模調査を進めている。
この調査では、妊娠前の女性を募集し、妊娠した場合としなかった場合で脳の変化を比較する予定だ。数年後には、より詳しいメカニズムが明らかになるだろう。
脳って、こんなに柔軟に変われるんだね。すごい!
妊娠中の脳の変化は、人体の神秘的な適応能力を示す素晴らしい例だ。まだ分からないことも多いが、研究が進めば、母子の健康を守る新しい方法が見つかるかもしれない。脳科学の最前線では、ママたちの脳で起きている静かな革命が、今も解明され続けている。
参考文献:
Pregnancy changes the brain, and we are only beginning to understand how and why
出典: Medical Xpress
アイキャッチ画像: Photo by Nandhu Kumar on Unsplash










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