はかせ、宇宙に触手が生えた銀河があるって本当なの?
触手というか…クラゲみたいな形の銀河ですね。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、85億光年も離れた場所でこの珍しい銀河を見つけたんです
その銀河は、長い尾を引きずりながら宇宙を泳ぐクラゲのような姿をしている。正式には「クラゲ銀河」と呼ばれるこの天体は、今回見つかったものが観測史上最も遠い、つまり最も古い時代のものだ。
この発見は、銀河がどうやって進化してきたのかを知る手がかりになる。85億年前といえば、宇宙の年齢が今の約6割しかなかった頃だ。
クラゲ銀河ってどんな銀河なの?


触手の正体はガスと星の流れ
クラゲ銀河の「触手」に見える部分は、実は銀河から引きちぎられたガスと新しく生まれた星でできている。まるで走っている車から長い髪が風になびくように、銀河が移動する勢いでガスが後ろに流されているのだ。
この現象は「ラム圧剥離」と呼ばれる。銀河が密集した銀河団の中を猛スピードで通り抜けると、銀河団の中に漂う高温ガスとぶつかる。その衝撃で銀河が持っていたガスが吹き飛ばされ、長い尾のような構造ができあがる。
今回見つかった銀河は、時速数百万キロメートルという想像を絶する速さで銀河団の中を移動していた。これは地球から月まで約15秒で到達する速さだ。
尾の中で星が生まれ続けている
驚くべきことに、この引きちぎられたガスの尾の中で、新しい星がどんどん生まれている。普通、銀河からガスが奪われると星の材料がなくなって星形成が止まってしまう。
ところがクラゲ銀河では、剥ぎ取られたガスが圧縮されることで、かえって星が生まれやすい環境ができるのだ。これはガスが外側に押し出される衝撃で密度が高まるためで、ちょうど雲が集まって雨粒になるのと似ている。
研究チームの観測によれば、この銀河の尾は少なくとも10万光年以上の長さがあり、天の川銀河とほぼ同じサイズだ。つまり銀河本体と同じくらい巨大な尾を引きずっているわけだ。
なぜ「クラゲ」と呼ばれるのか
この種類の銀河が初めて見つかったのは2000年代に入ってからで、その独特な見た目から「ジェリーフィッシュ銀河」というニックネームが付けられた。英語でクラゲを意味するJellyfishから来ている。
海を漂うクラゲが触手を揺らしながら進む様子と、銀河がガスの尾を引きずりながら宇宙空間を移動する様子が、確かによく似ている。天文学者たちのセンスが光く命名だ。
ジェイムズ・ウェッブはどうやって見つけたの?
赤外線の目で過去を覗く
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は2022年に本格稼働を始めた、人類史上最強の宇宙望遠鏡だ。その最大の特徴は、赤外線で宇宙を観測できることにある。
遠くの天体から来る光は、宇宙の膨張によって引き伸ばされ、赤外線の領域にまでずれ込んでしまう。可視光線では見えない遠方の銀河も、赤外線なら捉えられる。これが85億光年という途方もない距離の銀河を観測できた理由だ。
今回の観測では、NIRCam(近赤外線カメラ)という装置が使われた。この装置は、波長0.6〜5マイクロメートルという人間の目には見えない光を検出できる。
銀河団を狙い撃ちする戦略
研究チームは、大質量銀河団と呼ばれる、銀河が特に密集している領域をターゲットにした。クラゲ銀河は銀河団の中でしか形成されないため、この戦略は理にかなっている。
銀河団の中には数百から数千もの銀河が集まっていて、その間を高温のガス(数百万度以上)が満たしている。この環境こそが、ラム圧剥離を引き起こす舞台なのだ。
観測された銀河団は85億光年の距離にある。つまり私たちが今見ているのは、85億年前の姿だ。宇宙が誕生してから約60億年しか経っていない時代の光景である。
過去の観測記録を塗り替えた
これまで見つかっていた最も遠いクラゲ銀河は、約65億光年先にあるものだった。今回の発見はそれを大きく上回り、記録を20億光年も更新したことになる。
この20億光年の差は、宇宙の歴史から見れば非常に大きい。宇宙初期の銀河進化を理解するうえで、貴重なサンプルが手に入ったわけだ。
この発見が教えてくれること
銀河の運命を決める環境の力
今回の発見で分かったのは、85億年前の宇宙でも、銀河団という環境が銀河の形や進化に大きな影響を与えていたということだ。
銀河は孤立して存在するよりも、銀河団のような密集地域にいる方が、ダイナミックな変化を経験する。ガスを剥ぎ取られることで星の材料を失い、最終的には星形成が止まってしまう銀河も多い。
一方で、クラゲ銀河のように剥ぎ取られたガスの中で星形成が活発化するケースもある。つまり環境が銀河の「生き方」を左右しているのだ。
宇宙の歴史の空白を埋める
これまで、宇宙がどのように進化してきたかを調べるには、現在の銀河と、ごく初期(誕生から数億年)の銀河を比べるしかなかった。その間の時代、つまり宇宙年齢が50億〜80億年くらいの時期については、サンプルが少なかったのだ。
今回のクラゲ銀河は、まさにその「空白期間」に属する天体だ。この時期の銀河がどんな環境でどう進化していたのか、直接観測できるようになった意義は大きい。
将来の観測計画への弾み
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測能力が証明されたことで、今後さらに多くの遠方クラゲ銀河が見つかる可能性が高まった。研究チームは、100億光年を超える距離にあるクラゲ銀河の探索も計画している。
そうした観測が進めば、銀河進化の「教科書」が書き換えられるかもしれない。宇宙のどの時代に、どんな環境で、どんな銀河が生まれたのか。その全体像が見えてくる日も近いだろう。
クラゲみたいな銀河、実物を見てみたいなあ!
残念ながら85億光年の距離を人間が旅することは不可能だが、ジェイムズ・ウェッブの「目」を通せば、私たちは遠い過去の宇宙をのぞき見ることができる。宇宙の謎を解く鍵は、これからも次々と見つかっていくはずだ。
参考文献:
James Webb spots a galaxy with tentacles in deep space
出典: ScienceDaily
アイキャッチ画像: Photo by Falco Negenman on Unsplash










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