年間1兆ドル。日本円で約150兆円、日本の国家予算の1.5倍。シカゴ大学のB・B・ケール助教授の研究チームが算出した、2030年までにアメリカの気象災害被害が到達しうる数字だ。確率は30%以上。竜巻、ハリケーン、山火事、洪水が、もはや「たまに起きる不運」ではなく年間コストとして計上される時代になりつつある。
40年で10倍に膨らんだ災害コスト

1980年代の年間被害額は約200億ドル。2020年代は2,000億ドル以上。インフレ調整後でも約5倍。NOAAが記録する「10億ドル級災害」は、年平均3件から年間20件超に増えた。2023年は28件、総額930億ドル。
「高額化」の3つの理由
都市化――かつて人が住まなかった沿岸部や森林地帯に高級住宅が建ち並ぶ。インフラの老朽化――50年以上前の送電網や橋が災害に耐えられない。2021年テキサス大寒波では古い送電設備の凍結で経済損失1,950億ドル。そして気候変動――海水温上昇でハリケーンが強まり、大気中の水蒸気増加で豪雨が頻発。2017年ハリケーン・ハービーはヒューストン上空に5日停滞し、1兆3,000億トンの雨を降らせた。
災害が増えたんじゃなくて、同じ災害でも被害額が跳ね上がってるってこと?
両方だ。内陸部の洪水と竜巻の増加も顕著で、2022年ケンタッキー州東部では24時間で300ミリ以上の雨が山間部の町を壊滅させた。
1兆ドルが現実になったら何が起きるか

保険制度の崩壊
フロリダ州では2022-2023年に6つの保険会社が破綻または撤退。カリフォルニアでも山火事リスクの高い地域で大手が新規契約を停止。住宅ローンには火災保険が必須なのに保険に入れない――家が買えない事態が起きている。年間1兆ドルなら保険料は現在の2倍以上に跳ね上がると試算されている。
住める場所が縮小する
沿岸はハリケーン、内陸は竜巻と洪水、西部は山火事。災害リスクの低い地域がどんどん減っている。マイアミでは海抜5メートル以下の物件価格が前年比15%下落。フロリダ南部やルイジアナ沿岸では住民が自主的に移住を始めた。
インフラが「直す傍から壊れる」
2021年のインフラ投資法は1兆2,000億ドル規模だが、年間1兆ドルの損失が現実になれば焼け石に水だ。特に小規模自治体は1回の災害で年間予算の数倍を失い、連邦支援金が届くまで数ヶ月、復旧が止まる。
打てる手はあるのか

NOAAの次世代気象レーダーは竜巻の平均13分前に警報を出せるまで精度が上がった。グーグルのFloodHubは最大7日前に洪水を予測する。フロリダ州マイアミデード郡は時速270キロの風に耐える建築基準を導入し、実際に被害が大幅に減った。カリフォルニアでは防火建材の義務化が広がっている。
コンクリートの代わりに自然を使う「グリーンインフラ」も注目されている。ルイジアナ州は500億ドル規模の湿地復元プロジェクトを進行中。過去100年で消失した4,900平方キロの湿地はハリケーンの波を吸収するクッションだった。その復元には数十年かかるが、完成すれば被害を大幅に減らせる。
アメリカの1兆ドルの危機は対岸の火事ではない。日本も豪雨災害が毎年のように発生し、南海トラフ地震のリスクを抱えている。早期警報、建築基準、自然の力を借りた防災。今からできることを積み重ねるしかない。
参考文献:
US weather and climate disasters could top $1 trillion by 2030
出典: Phys.org
アイキャッチ画像: Photo by Bulat Akhtiamov on Unsplash


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