はかせ、LEDってレーザーの代わりになるの?
いい質問ですね。実は今、髪の毛と同じくらい細いLEDが、データセンターや次世代ディスプレイで使われるレーザーに取って代わろうとしているんです
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームが、この実用化への道筋を示す研究を発表した。
レーザーとLED、何が違うの?


光の性質が決定的に違う
部屋の電気やスマホの画面で見慣れたLED。一方、レーザーポインターやバーコードリーダーで使われるレーザー。どちらも光を出す装置だが、その性質はまったく違う。
レーザー光はコヒーレントと呼ばれる特殊な光だ。波の山と谷がきれいに揃っていて、遠くまで広がらずに一直線に進む。まるで行進する兵隊のように、全員が足並み揃えて歩いているイメージだ。
一方、普通のLED光はインコヒーレント。波がバラバラで、あちこちに広がってしまう。電球の光が部屋全体を照らすのと同じで、みんなが好き勝手な方向に歩いている状態だ。
データ通信にはレーザーが必須だった理由
インターネットのデータは、光ファイバーの中を光として飛んでいる。この光通信には、これまでレーザーが使われてきた。
なぜか。光ファイバーは髪の毛より細い管だから、まっすぐ進むレーザー光じゃないと上手く入っていかない。バラバラに広がるLED光では、光ファイバーの入り口で大半が外れてしまい、データが送れないのだ。
サーバールームには何千本もの光ファイバーが張り巡らされている。その一本一本にレーザー装置が必要で、コストも電力消費も膨大になっていた。
レーザーの弱点
レーザーには欠点もある。まず、製造コストが高い。レーザーダイオードを作るには精密な設備と技術が必要で、1個あたりの価格がLEDの10倍以上になることもある。
さらに、レーザーは熱に弱い。サーバールームは冷房で冷やし続けないと、レーザーが故障してしまう。電力消費の大きな原因になっていた。
髪の毛サイズのLEDが状況を変える


超小型化で光の性質が変わった
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の博士課程学生ロアーク・チャオらの研究チームは、LEDを極限まで小さくすることで、この問題を解決しようとしている。
通常のLEDチップは1ミリメートル四方くらいの大きさがある。これを約100マイクロメートル、つまり人間の髪の毛と同じ太さまで小さくした。
すると不思議なことが起きた。LEDから出る光の広がり方が変わり、レーザー光に近い性質を持つようになったのだ。完全なコヒーレント光ではないが、光ファイバーに入れられるくらいには光がまとまるようになった。
ナノワイヤー構造の秘密
研究チームが作ったのは、ナノワイヤーLEDと呼ばれる特殊な構造だ。髪の毛より細い針金のような形をしていて、その一本一本が光を出す。
この針金構造が、光の閉じ込め効果を生み出す。光が針金の中を何度も反射しながら進むうちに、波の山と谷が少しずつ揃っていく。完全なレーザーにはならないが、実用レベルで光ファイバーに結合できる程度にはまとまるのだ。
しかも製造方法は、通常のLEDと大きく変わらない。既存の半導体製造装置をそのまま使える。つまりコストはLED並みに抑えられる可能性がある。
データセンターでの実用テスト
研究チームは、このナノワイヤーLEDを使って実際にデータ通信の実験を行った。光ファイバーを通じて10ギガビット毎秒のデータ転送に成功している。
10ギガビットは、フルHD映画を約1秒でダウンロードできる速度だ。現在のサーバー間通信で求められる速度を十分満たしている。
さらに、発熱量はレーザーダイオードの約半分に抑えられた。冷房の電力を大幅に削減できる計算になる。
次世代ディスプレイへの応用
マイクロLEDディスプレイの課題
スマホやテレビの次世代技術として注目されているのが、マイクロLEDディスプレイだ。画面の1ピクセル1ピクセルが、それぞれ独立したLEDになっている。
有機ELよりも明るく、液晶よりも色が鮮やかで、しかも焼き付きが起きない。理想のディスプレイと言われているが、製造コストが高すぎて普及していなかった。
問題は、何百万個ものマイクロLEDを1枚のガラス基板に並べる工程だ。1個でもズレたり壊れたりすると、画面に点欠けが発生してしまう。
ナノワイヤーなら一括製造できる
今回のナノワイヤーLED技術なら、この問題を解決できるかもしれない。基板の上に直接ナノワイヤーを成長させる方法なら、一度に何百万本も作れるからだ。
しかもナノワイヤーは光の指向性が高い。つまり、真正面から見たときだけ明るく見えて、斜めから見ると暗くなる。これは一見デメリットに思えるが、実はVRゴーグルやARグラスには理想的な特性だ。
VRゴーグルでは、目の真正面に画面がある。余計な方向に光が漏れないナノワイヤーLEDなら、消費電力を大幅に削減できる。バッテリーの持ちが2倍になる可能性もある。
メタバースとの相性
メタバースやApple Vision Proのような空間コンピューティングが広がるにつれ、長時間装着できる軽量なARグラスの需要が高まっている。
現在のARグラスは、バッテリーが重くて2時間も使えない。ナノワイヤーLEDディスプレイなら、消費電力が従来の有機ELの10分の1になる可能性もあり、終日装着できるグラスが実現するかもしれない。
実用化までの道のり
量産技術の確立が鍵
研究チームは実験室レベルでの成功を示したが、工場で大量生産するには、まだいくつかの技術的ハードルがある。
一番の課題は、ナノワイヤーの長さと太さを均一に揃えること。1本1本の寸法がバラバラだと、色や明るさがバラついてしまう。誤差を1マイクロメートル以内に抑える製造技術が必要だ。
また、ナノワイヤーは細いがゆえに壊れやすい。製造工程で折れたり曲がったりしないよう、取り扱い方法も工夫しなければならない。
産業界の動き
それでも、データセンター大手やディスプレイメーカーは、この技術に強い関心を示している。GoogleやMicrosoftは、サーバーの電力削減に数千億円を投じており、ナノワイヤーLEDが実用化されれば即座に採用するだろう。
AppleやSamsungも、次世代ディスプレイ技術の開発を急いでいる。業界関係者は、5年以内に最初の製品が登場すると予測している。
環境への貢献
データセンターは世界の電力消費量の約2%を占めると言われている。ナノワイヤーLEDへの置き換えが進めば、この数字を半分以下に減らせる可能性がある。
気候変動対策が急務となる中、エネルギー効率の高い技術への投資は加速している。ナノワイヤーLEDは、環境と経済の両面でメリットがある数少ない技術の一つだ。
小さくするだけで、こんなに変わるんだね!
技術の世界では、小さな一歩が大きな変化を生む。髪の毛サイズのLEDが、データセンターからスマホまで、私たちの暮らしを静かに変えていく日は、そう遠くないかもしれない。
参考文献:
Hair-width LEDs could eventually replace lasers
出典: Phys.org
アイキャッチ画像: Photo by Immo Wegmann on Unsplash










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