ねえはかせ、おじいちゃんおばあちゃんになると頭が悪くなるって聞いたんだけど、全然ボケない人もいるよね?
いい質問ですね。実は80歳を超えても20代並みに記憶力がいい人たちがいて、その脳には特別な特徴があることが分かったんです
イリノイ大学シカゴ校、ノースウェスタン大学、ワシントン大学の研究チームが、「スーパーエイジャー」と呼ばれる高齢者の脳を調べたところ、驚くべき事実が明らかになった。彼らの脳は、同年代の人よりも新しい神経細胞(ニューロン)を多く作り出しているのだ。
この発見は、認知症の予防や治療に新しい道を開く可能性がある。
スーパーエイジャーって何者?


80代なのに20代の記憶力
スーパーエイジャーとは、80歳以上でありながら、記憶力テストで50〜65歳と同等かそれ以上のスコアを出す人たちのこと。普通の高齢者と比べると、その差は歴然だ。
たとえば、15個の単語を覚えるテストでは、普通の80代が5〜6個しか思い出せないのに対し、スーパーエイジャーは12〜13個も正確に答えられる。まるで時間が止まったかのような認知能力を持っている。
今回の研究では、亡くなったスーパーエイジャー7人と、認知機能が平均的な高齢者6人、さらに若い世代5人の脳組織を詳しく比較した。
脳の特別なエリアに注目
研究チームが特に注目したのは、嗅内皮質という脳の部分だ。ここは記憶の入り口とも言える場所で、新しい情報を脳に刻み込む際に重要な役割を果たす。
アルツハイマー病では、この嗅内皮質が真っ先にダメージを受ける。だからこそ、スーパーエイジャーのこの部分がどうなっているのかを調べることが、認知症予防のカギになると考えられている。
「レジリエンス・シグネチャー」の発見
研究の結果、スーパーエイジャーの嗅内皮質には、普通の高齢者の2倍以上の新生ニューロンが存在することが分かった。しかも驚くべきことに、若い世代と比べても遜色ない数だったのだ。
研究チームはこの特徴を「レジリエンス・シグネチャー(回復力の署名)」と名付けた。まるで脳が自分で自分を若返らせる仕組みを持っているかのようだ。
新しいニューロンが生まれ続ける仕組み


大人の脳でも細胞は生まれる
「脳細胞は大人になったら増えない」という常識は、もう古い。実は人間の脳では、神経新生と呼ばれるプロセスが一生続いている。
特に海馬と嗅内皮質では、幹細胞のような「前駆細胞」が存在し、そこから新しいニューロンが生まれ続ける。ただし、加齢とともにこのプロセスは衰えていくのが普通だ。
ところがスーパーエイジャーの脳では、このプロセスがまるで若い頃のまま維持されている。研究チームは特殊な染色技術を使って、生まれたばかりの未成熟なニューロンを可視化した。
タウタンパク質との意外な関係
さらに興味深いのは、スーパーエイジャーの脳にもタウタンパク質の蓄積がある程度見られたことだ。タウタンパク質はアルツハイマー病の原因物質として知られている。
つまり、スーパーエイジャーの脳には「悪いもの」もあるのだが、それでも認知機能が保たれている。これは、新生ニューロンがダメージを受けた脳回路を補修している可能性を示唆している。
たとえるなら、道路に穴が開いても、すぐに新しい道を作れる都市のようなものだ。
炎症を抑える分子も多い
研究チームはさらに、スーパーエイジャーの脳内で抗炎症性の分子が豊富であることも発見した。慢性的な炎症は脳の老化を加速させるが、スーパーエイジャーの脳はそれを抑え込む力が強いようだ。
これにより、新しく生まれたニューロンが長く生き延びやすい環境が整っていると考えられる。
この発見が私たちにもたらすもの


認知症治療の新しいアプローチ
現在のアルツハイマー病治療薬の多くは、アミロイドβやタウタンパク質を減らすことに焦点を当てている。しかし今回の発見は、別のアプローチの可能性を示している。
それは「脳の自己修復力を高める」という方向性だ。もし神経新生を促進する薬や生活習慣が見つかれば、認知症になりにくい脳を作れるかもしれない。
研究チームのタマル・ゲフェン博士は「スーパーエイジャーの脳には、私たちがまだ理解していない保護メカニズムがある」と語っている。
誰でもスーパーエイジャーになれる?
では、普通の人でもスーパーエイジャーのような脳を手に入れられるのだろうか? 残念ながら、まだ確実な方法は分かっていない。
ただし、これまでの研究から、定期的な運動、知的活動、社会的なつながりが神経新生を促進することは知られている。特に有酸素運動は海馬での神経新生を増やす効果が確認されている。
また、地中海式食事(魚、オリーブオイル、野菜中心)も脳の健康に良いとされる。スーパーエイジャーの多くがこうした生活習慣を持っているかどうかは、今後の研究テーマだ。
次のステップは生きている脳の観察
今回の研究は亡くなった人の脳組織を調べたものだが、次の課題は生きている人の脳で神経新生を観察することだ。
最新のPETスキャン技術を使えば、特定の分子を標識して脳内の新生ニューロンを追跡できる可能性がある。これが実現すれば、リアルタイムでスーパーエイジャーの脳の変化を追えるようになる。
また、遺伝子解析によって、スーパーエイジャーに共通する遺伝的特徴も探されている。もし特定の遺伝子変異が見つかれば、それを模倣する治療法が開発できるかもしれない。
じゃあ私も今から運動とか勉強とかがんばれば、おばあちゃんになっても頭がいいままでいられるかな?
その可能性は十分ありますよ。脳は何歳になっても変われる臓器なんです
スーパーエイジャーの研究は始まったばかりだが、私たちに希望を与えてくれる。加齢は避けられないが、脳の老化は必ずしも避けられないものではないかもしれない。新しいニューロンを生み出し続ける脳の力を引き出せれば、100歳になっても鮮明な記憶を保つことが当たり前になる未来が来るかもしれない。
参考文献:
Superagers’ brains have a ‘resilience signature,’ and it’s all about neuron growth
出典: Medical Xpress
アイキャッチ画像: Photo by Vitaly Gariev on Unsplash










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