はかせ、火星のローバーが岩にくっつかれて動けなくなったって本当なの?
本当ですよ。2026年4月25日、NASAのCuriosityが自分で掘ろうとした13kgの岩を地面ごと引きずり上げてしまって、それから6日間も岩がアームから離れなかったんです
地球から約2億2500万キロメートル離れた火星で、まるで靴底にガムが張り付いたような事態が起きた。岩には「Atacama」という愛称が付けられ、火星到着から13年以上活躍してきたCuriosityにとって初めてのトラブルになった。
始まりはいつものドリル作業だった


4月25日、Atacamaにドリルを刺した瞬間
2026年4月25日、火星のゲール・クレーターで活動中のNASA火星探査車Curiosityは、いつものように岩石サンプルを採取しようとしていた。ロボットアームの先端に付いたドリルを地面の岩に押し当て、回転を始めたところまでは予定通りだった。
ターゲットになった岩石には「Atacama」という愛称が付けられた。地球の南米にある同名の砂漠は、乾燥していて火星に環境が似ていることで有名な場所だ。火星探査チームは、印象的な特徴を持つ岩石にこうした地球の地名や人名のニックネームを付ける文化がある。
通常、ドリルは岩の表面に押し当てたまま回転して、岩の一部だけを砕き、粉状になった試料を筒状の先端部分(ドリルスリーブ)に取り込む。アームを引き上げる頃には、岩は地面に残ったまま、サンプルだけがドリルの中に収まっているはずだった。
ところがこの日のCuriosityは、サンプルではなく岩そのものを抱え上げてしまった。アームを上に持ち上げると、Atacamaは地面から抜けて、ドリルにぶら下がる形で宙に浮いていた。火星の地面は見た目以上にもろい場合があり、ドリルの引っかかりに対して岩全体が一緒に動いてしまったとみられる。
推定13キログラムの予期せぬ獲物
NASAの推定によれば、Atacamaは底辺の幅が約0.5メートル(1.5フィート)、厚さが約15センチメートル(6インチ)、重量は13キログラム(28.6ポンド)。中型のスイカ約2個分の重さで、アーム先端で吊るすには相当な大物だ。
Curiosityのアームは、ドリルで採取したサンプル粉末(数グラム単位)を機体内部の分析装置まで運ぶ精密作業用に設計されている。その先端に13kgの岩がぶら下がるという状況は、地球で言うなら家庭用ドリルでネジを抜こうとしたら木材ごと持ち上がってきたような場面に近い。
幸いだったのは、アームが岩の重みでも壊れなかったこと。Curiosityのアームは複数の関節とモーターを持ち、ある程度余裕を持って作られているため、想定外の負荷に耐えながら次の指令を待つことができた。
火星探査13年で初めての出来事
Curiosityは2012年8月にゲール・クレーターに着陸して以来、火星の岩石サンプル採取を何度も繰り返してきた。砂嵐や零下130℃近くまで下がる気温など過酷な環境にも耐えてきた老兵だ。
それでも、岩そのものを地面から引きずり上げてしまい、ドリルから外れなくなったのは、火星到着以来13年以上続く任務で初めてのトラブルになった。NASAは過去にも砂に埋まった車輪、すり減ったタイヤ、ソフトウェアの不具合など数々の困りごとをCuriosityで経験してきたが、「ドリルに岩が張り付いて取れない」という事態は前例のない種類のものだった。
6日間続いた火星での攻防戦


第1作戦は振動で振り落とすこと
NASAの管制チームが最初に試したのは、ドリルに搭載されたバイブレーション機能を使う作戦だ。
このバイブレーションは本来、ドリル内部に詰まった岩石粉末を払い落とすために組み込まれた仕組みで、強く揺らすことでこびりついた試料を切り離せる。チームはこれを作動させて、Atacamaを振り落とそうとした。
結果は完全な空振りに終わった。岩はまったく微動だにせず、ドリルスリーブにしっかりはまり込んだままだった。火星の重力は地球の約3分の1。13kgの岩は地球換算で5kg弱の見かけになっているはずなのに、それでも振動だけでは離れなかった。
4日後の第2作戦は姿勢変更
最初の試みから4日後、エンジニアたちは戦術を変えてアームの向きを変更した。Atacamaを違う角度から揺らすことで重力の働き方を変え、再びバイブレーションをかける狙いだった。
今度は岩から多少の砂が振り落とされる様子が確認できた。少し前進したように見えたが、岩本体は依然としてドリルにしがみついたままで、根本的な解決には至らなかった。
地面の砂塵を振り落とすのに4日もかけたという事実が、火星での遠隔作業がいかに慎重で時間のかかるものかを物語る。一度の動作のたびに地球と火星のあいだで通信が往復し、結果を画像で確認してから次の指令に進むサイクルは、地上ロボット作業との大きな違いだ。
遠隔操作ならではのもどかしさ
火星と地球は離れすぎていて、電波の往復だけで最大40分以上かかる。地球の管制室からリアルタイムでアームを操作することはできず、「指令を送る → 結果を待つ → 次の指令を考える」というやり取りを繰り返すしかない。
これがCuriosityの脱出劇を引き延ばした要因の一つだ。地上ロボットなら数分で試せる動きが、火星では1日仕事になる。地球側のチームは、毎回の指令を入念にシミュレーションしてから送らなければならなかった。
失敗すればアームを壊しかねないし、ドリル機構が破損すれば残された任務に大きな支障が出る。1つの動作の選択ミスが、ローバーの寿命を縮める場面でもあった。チームは慎重に、しかし時間との闘いの中で次の一手を選び続けた。
5月1日、ついに振り払われた瞬間


4つの動きを組み合わせた決め手
最初のトラブルから6日目の5月1日、地球のチームは戦術をさらにエスカレートさせた。
具体的には、ドリルアームを大きく傾けて重力をフルに使い、ドリルスリーブを回転させ、ドリルビット自体も回し、加えてバイブレーションを同時にかけるという4つの動作を組み合わせた複合作戦を立てた。チームはこの一連の動作を何度も繰り返す前提で計画を組んでいた。
1回目の試行で岩は砕け散った
ところが勝負は初回の試行で決着した。Atacamaはついにドリルから離れ、火星の地面に落下した瞬間に砕け散った。地面からむしり取られて以来、岩はようやく自由になった。
Curiosityはこの「やっと取れた」瞬間を機体のカメラで撮影しており、NASAは攻防の様子をGIF映像として公開した。岩がドリルから離れて落下する数秒間の映像には、火星探査の歴史でも珍しい一瞬が記録されている。
機体には地形を撮るマストカメラ、足元を確認するハザード回避用カメラ、岩を間近で観察する顕微鏡風カメラなど合わせて17台のカメラが積まれている。今回はこれらが偶然そろって、ドリル先端の岩を別の角度からとらえる素材を残した。
その後のCuriosity
Atacamaから解放されたCuriosityは、何事もなかったかのように本来の科学観測へ復帰した。火星表面での岩石分析や水・有機物の痕跡探しといった通常任務に戻り、不要な岩を引きずりながら動く奇妙な数日間を抜け出した。
数十億ドルをかけた最先端ロボットが、ガムを踏んだような状況で6日間も足止めされる――。火星から2億2500万キロ離れた地球でこの一部始終を見守った管制チームにとって、忘れられない1週間になったはずだ。
今回のトラブルは、Curiosityのドリルや関節がいかに過酷な使い方に耐えられるかを、計画外の形で示した格好でもある。任務の延長が続くなかで、機体の限界を実地で確かめた経験は今後の運用にも生きる。後継機Perseveranceや将来の有人ミッションにとっても、現場で起きうる「予想外」の典型例として記憶される一件だ。
13キロの岩石ってけっこう大きいよね! 振動で取れないって、どんだけくっついてたの?
地球から最後の一押しが届くまで6日間。火星探査の現場では、アクシデントへの対応そのものが大きなチャレンジになるんですよ
Curiosityは2025年で火星着陸から13年を超え、当初予定の2年間というミッション期間をはるかに上回って働き続けている。次にどんな珍事が起きるかは、赤い地面の上を進むこのローバーと火星本人だけが知っている。
参考文献:
A 29-pound Mars rock held NASA’s Curiosity rover hostage for 6 days
出典: Space.com










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