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髪の毛ほどのマイクロLEDを反射鏡で囲み光を前へ データセンター通信に

2026 10/28
テクノロジー
2026年2月28日2026年10月28日
青く光るガラスの球体
🕑この記事は約10分で読めます

編集・パクト

スマートフォンの画面から部屋の照明、信号機まで、LEDはいまや光る道具の代名詞になった。安くて、丈夫で、電気を食わない。

けれど「まっすぐ遠くまで飛ぶ光」が必要な場面では、これまでずっとレーザーの独壇場だった。インターネットの土台を支える光ファイバー通信が、その代表だ。

ところが、そのすみ分けが揺らぎはじめている。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の研究チームが2026年1月、髪の毛ほどの大きさまで小さくしたLEDの光を、狙った方向へぐっとまとめる技術を発表した。

青色LEDでノーベル物理学賞を受けた中村修二さんも名を連ねる研究だ。

目次

まず、レーザーとLEDは何が違うのか

暗闇に伸びる赤いレーザー光
Photo by Тимур Керимов on Pexels

同じ「光」でも、そろい方がまるで違う

どちらも電気を光に変える半導体の仲間だが、出てくる光の質がまったく違う。レーザー光はコヒーレント光と呼ばれる。

光を波として見たとき、無数の波の山と谷のタイミング(位相)がぴたりとそろっている状態だ。だから細く絞れるし、遠くまでまっすぐ届く。

一方、ふつうのLED光はインコヒーレント光だ。波の位相はバラバラで、あちこちに広がっていく。

部屋の照明として天井から床まで満遍なく照らすには好都合だが、一点に集めて遠くへ飛ばすのは大の苦手だ。

この違いは、光の生まれ方そのものに根ざしている。LEDは半導体の中で電子と正孔がぶつかって消えるとき、てんでにパッと光を放つ「自然放出」で光る。

対してレーザーは、共振器という鏡の箱の中で光を何度も往復させ、位相のそろった光子を雪だるま式に増やす「誘導放出」で光る。

設計思想が根っこから異なるのだ。

だからこそ、両者は得意分野が正反対になる。LEDは広く柔らかく照らす照明やディスプレイで力を発揮し、レーザーは一点に集めて情報を運ぶ通信や計測、加工で選ばれてきた。

同じ半導体の光でありながら、片方は「あまねく照らす光」、もう片方は「まっすぐ届ける光」として、それぞれの居場所を守ってきたわけだ。

今回の研究は、その長年のすみ分けにLEDの側から風穴を開けようとする試みだといえる。

キク

レーザーとLEDの違いって、波のタイミングがそろってるかどうかだったんだ!

データ通信がレーザーを手放せなかった事情

光ファイバーの束の先端が光る様子
Photo by Suki Lee on Pexels

髪の毛より細い管に光を通すという難題

私たちが動画を見たりメッセージを送ったりするとき、そのデータは光ファイバーの中を光の点滅として飛んでいる。この光通信を担ってきたのが、半導体レーザーだ。

理由はシンプルで、光ファイバーが髪の毛より細い管だから。まっすぐ進むレーザー光でなければ、細い入り口に効率よく光を送り込めない。

バラバラに広がるLED光をそのまま当てても、大半は入り口の縁でこぼれ落ちてしまう。せっかくの光の大部分が無駄になり、届く信号が弱すぎて通信にならない。

だからこそ、指向性の高いレーザーが選ばれてきた。とりわけデータセンターの内部では、サーバーの棚と棚のあいだを大量のデータが行き交い、その一本一本の光リンクに光源が必要になる。

クラウドとAIが増やし続ける通信の圧力

この構図に拍車をかけているのが、クラウドサービスと生成AIの急拡大だ。私たちが使う動画配信もAIチャットも、裏側では巨大なデータセンターが膨大な光信号をやり取りすることで成り立っている。

扱うデータ量が増えれば増えるほど、光源の数も、それが生む熱も、消費する電力もふくらんでいく。

そこでレーザーの弱点が重くのしかかってくる。半導体レーザーは温度に敏感で、比較的低い温度から性能が落ちはじめる。

安定して動かすには精密な温度管理や冷却のしくみが要る。UCSBの研究に加わった博士課程学生のロアーク・チャオさんは「レーザーは比較的低い温度から熱の問題を抱えはじめる」と指摘する。

冷やし続けるための電力と設備が、静かにコストを押し上げていた。

「小さくすれば解決」ではなかった落とし穴

電子回路基板の上のチップ
Photo by Sergei Starostin on Pexels

小さくするほど光が暗く、散らばる

LEDを極限まで小さくすれば、細い光ファイバーにも通せるのでは——そう考えたくなる。今回の主役はマイクロLEDと呼ばれる、幅100マイクロメートル以下の小さなLEDだ。

チャオさんは「文字どおり毛穴ほどの大きさの素子だ。光の出方を設計できれば、マイクロLEDは短距離のデータ通信でレーザーの代わりになりはじめる」と話す。

チームは一辺15〜110マイクロメートルの正方形の素子を作って比べた。

ところが、ここに厄介な落とし穴がある。LEDは小さくすればするほど、性能が素直には上がってくれない。素子が小さくなると、光を生む中心部分に対して「側面(側壁)」の割合が相対的に大きくなる。

この側壁から光が横に漏れたり、余計な散乱を起こしたりして、前へ出ていく光が減ってしまうのだ。小さくした結果、暗くて頼りない光源になっては本末転倒である。

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UCSBが選んだ答えは「光を囲い込む鏡」

研究チームの答えは、小さくしたマイクロLEDの発光部を、分散ブラッグ反射器(DBR)という特殊な鏡で側面からぐるりと囲むことだった。

DBRは屈折率の異なる薄い膜を何層も重ねた構造で、特定の色の光をよく反射する。今回のDBRは、このLEDが出す青い光(波長440ナノメートル)を約99%反射する。

横へ漏れ出そうとする光を反射鏡で押し返し、前方へと導いてやるわけだ。

数字が示す改善の中身

この論文はOptica Publishing Groupの査読誌『Optics Express』に2026年1月に掲載された。

比較に使ったのは、側面を鏡ではなく酸化チタンの膜で覆っただけの素子だ。これと比べ、光が飛び出す方向の広がり(ビーム発散角)が約30%小さくなった。

より狙った方向へまとまって光が出るようになったということだ。

光の出力も伸びた。素子の表(空気側)へ出る光は約20%、裏(基板側)へ出る光は130%以上増えた。

電気を光に変える効率も上がり、電気効率で約35%、投入した電力がどれだけ光になったかを示すウォールプラグ効率で約46%の向上を記録している。

小さくしたうえで、明るく、まとまった光を出す——両立が難しかった課題への、構造による回答である。

キク

鏡で囲んだ小さなLEDの光がまとまるようになったなら、もうレーザーと同じ光になったってこと?

「コヒーレント」ではなく「指向性」が上がった

ここで一つ、大事な区別をしておきたい。この研究が改善したのは光の指向性、つまり光が飛び出す方向のばらつきである。

レーザーのようなコヒーレント光(位相のそろった光)にLEDを作り変えたわけではない。

指向性は「みんなが同じ方向を向いて歩く」こと、コヒーレンスは「みんなが同じ歩幅で足並みをそろえて歩く」こと。今回進んだのは前者だ。

この違いは地味に見えて重要だ。光ファイバーに光を送り込むうえでまず効くのは「どれだけまとまった方向に光が出るか」であり、そこを構造で稼いだ意義は大きい。

一方で、レーザーと完全に同じ土俵に立ったと言えば言い過ぎになる。

キク

鏡で囲んでそろったのは光の向きで、レーザーみたいに波のタイミングまでそろったわけじゃないんだね。

レーザーの弱点を、LEDの丈夫さで置き換える

データセンターのサーバーラック
Photo by panumas nikhomkhai on Pexels

熱に強いという地味で大きな利点

まとまった光を出せるようになったマイクロLEDには、レーザーにはない強みがある。熱への頑丈さだ。

前述のとおりレーザーは低めの温度から性能が落ちるが、マイクロLEDはずっと高い温度でも動き続けられる。

チャオさんは、マイクロLEDなら複雑な冷却が不要になり、それは交換頻度の低下やコスト減、データセンター運用の柔軟性向上につながると語る。

既存の製造ラインをそのまま使える

もう一つ見逃せないのが、作りやすさだ。

今回のマイクロLEDは、青色LEDでおなじみのInGaN/GaN(窒化インジウムガリウム/窒化ガリウム)という、すでに広く使われている半導体材料でできている。

DBR構造を加えるとはいえ、土台となる材料も製造の考え方も、確立されたLED技術の延長線上にある。

ゼロから新しい素材や装置を用意しなくてよいということは、実用化のハードルを大きく下げる。

この研究チームには青色LEDを実用化した中村修二さんやスティーブン・デンバーズさん、ナノスケールの光工学を専門とするジョン・シュラーさんが名を連ねており、LED材料と微細な光制御という両分野の蓄積がこの成果を支えている。

チャオさんは「マイクロLEDは1つの技術で複数の解決策になる。データ通信を良くし、より明るく薄いディスプレイを可能にし、ARやVRにも使える」と話す。

実用化はこれから——冷静に見ておきたいこと

実験室で作業する研究者
Photo by Jonathan Borba on Pexels

まだ基礎研究の段階

期待のふくらむ話だが、現在地は正確に押さえておきたい。今回発表されたのは、マイクロLEDの指向性と効率を構造で改善したという基礎研究の成果だ。

いつ製品になるのか、量産のめどはどうか、といった商用化のスケジュールは、論文にも公式発表にも示されていない。「明日から通信機器が変わる」という段階ではない。

また、実際の通信で何ギガビット出るのか、どこまでの距離を担えるのか、といった通信性能の具体的な数値も、今回の発表からは確認できない。

仮にレーザーを置き換えるとしても、まずはデータセンター内部のような短い距離の光リンクが現実的な出発点になるだろう。

長距離の基幹通信までいきなり届く話ではない。

この地味な置き換えが、私たちに関わる理由

光ファイバーケーブルがつながった配線盤
Photo by Brett Sayles on Pexels

意識しない場所で効いてくる技術

マイクロLEDが光通信に食い込むという話は、スマホの新機能のように目に見える変化ではない。

それでも、私たちが毎日使うクラウドやAIサービスは、データセンターで飛び交う無数の光信号に支えられている。

その光を出す部品が、熱に弱く冷却の要るレーザーから、丈夫で扱いやすいLEDへ置き換わっていけば、サービスの安定性や運用コスト、ひいては消費電力に、じわりと効いてくる可能性がある。

参考文献:
Enhanced emission efficiency and directionality in InGaN/GaN microLEDs laterally enclosed by distributed Bragg reflectors
Roark Chao et al., Optics Express Vol.34, No.2, p.2037 (2026). DOI: 10.1364/OE.583145
出典: UC Santa Barbara / Optica Publishing Group

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この記事の編集者

パクトのアバター パクト

科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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