セロハンテープをロールから勢いよく引くと、「キーッ」という耳ざわりな音が鳴ります。オフィスでも教室でも、誰もが一度は聞いたことがあるはずです。
あまりにありふれた音なのに、その正体は数十年ものあいだ分かっていませんでした。多くの人は、くっついていた面がこすれる音だろうと思っているかもしれません。
ところが2026年、その予想とはちがう答えが出ました。粘着剤の中を横向きに、空気中の音速の最大およそ1.8倍の速さで走る亀裂が、テープの端に着くたびに、小さな衝撃波をひとつずつ空気へ出していたのです。
音が生まれる場所は、テープの端だった
テープをはがすと音がするのは、素朴に考えれば、くっついていた面が離れるときの「ベリベリ」という音のように思えます。
手がかりは、じつは前からありました。今回の論文の責任著者で、サウジアラビアのキング・アブドラ科学技術大学(KAUST)のシガーズル・トロッドセン氏らは、2010年に毎秒100万コマの撮影で、はがれる境目を横向きに走る幅およそ220マイクロメートルの亀裂の帯をとらえていました。
そのときの論文は、はがれた部分を伝わる弾性波が音のもとではないかと考えていました。さらに2014年の研究は、テープが一気にはがれる1回の「スリップ」のあいだに出る音のパルスの数が、亀裂の数と同じだと示しています。
ただ、音のパルスがどこから、どんな仕組みで出るのかまでは、分かっていませんでした。
キク亀裂の数と音の数が同じなら、音はどこで鳴ってるんだろう?
2台の高速カメラと2本のマイクで確かめた


この問いに答えたのは、中国科学技術大学、KAUST、インド工科大学マドラス校の研究者による国際チームです。論文は物理学の学術誌『Physical Review E』に、2026年2月24日付で載りました。
チームは、幅19ミリのスコッチテープを、厚さ20ミリのガラス板から手で素早く引きはがしました。引く角度は、横に渡した金属の棒で、およそ45度に保っています。
その一瞬を、2台の高速カメラで同時に撮りました。1台はガラス越しに、はがれる境目を走る亀裂を下から撮っています。論文に載った映像は、毎秒およそ9万6000コマです。
もう1台は、空気の密度の変化を影として映す「シュリーレン法」で、テープの端から出る衝撃波を毎秒最大200万コマで撮りました。さらにテープの両側に1本ずつマイクを置いて、音も同時に記録しています。亀裂と衝撃波と音を、同じ一瞬の中でそろえてとらえたわけです。
最初に考えていたのは、音速より速く走る亀裂の先端が衝撃波を出す、という仕組みでした。そうなら、亀裂が始まる側のマイクが先に音を拾うはずです。
ところが結果は逆で、亀裂が終わる側のマイクが先に音を拾いました。論文に示された例では、その側のマイクの音の強さ(rms)が、反対側の1.9倍でした。マイクまでの距離は、ほんの少し近いだけです。
音速を超えて走る亀裂


下からのカメラに映ったのは、はがれていく境目に沿って、細い亀裂が横向きに次々と走り抜けていく姿でした。
亀裂の速さは、毎秒およそ250〜600メートルです。空気中の音速(20度で毎秒342メートル)と比べると、マッハ0.7から1.8にあたります。遅い亀裂は音速に届きませんが、速い亀裂は音速を超えていました。時速に直すと、およそ900キロから2200キロです。
大事なのは、亀裂が走ったあとに何が残るかです。亀裂があまりに速く進むので、空気がすぐには入りこめず、テープとガラスのあいだに、真空に近いすき間ができます。すき間の大きさは、およそ200マイクロメートルと見積もられています。
端で連なる小さな衝撃波


このすき間は、亀裂といっしょにテープの端まで動いていきます。そして端に着いたところで、外の止まっている空気の中へつぶれます。
つぶれるまでの時間は、およそ0.6マイクロ秒と見積もられています。この急な圧力の変化が音のパルスになる、と論文は説明しています。
シュリーレンの映像から測ると、空気中を進む衝撃波の速さは毎秒355メートルでした。音速より4%速いだけの、マッハ1.04の弱い衝撃波です。
亀裂は1本では終わりません。1回のスリップのあいだに何十本も続けて走り、端に着くたびに衝撃波がひとつ出ます。ひとつひとつは弱くても、短い間隔で連なると、耳には一続きの鋭い音に聞こえます。ある撮影の例では、衝撃波は毎秒およそ3万7000回の割合で現れていました。



つまり、亀裂の先っぽじゃなくて、端でつぶれるすき間が音を出してたってことなんだね!
ムチの「パチン」も、身近な超音速


音速を超える動きは、身近なところではムチにもあります。ムチを鳴らしたときの「パチン」という鋭い音は、先端が空気中を音速より速く動くことで生まれる衝撃波だと、2002年の物理学の論文が述べています。
ただ、テープではしくみがちがいます。動く先端そのものが衝撃波を出すのではなく、亀裂がテープの端に着いて、すき間がつぶれる瞬間に衝撃波が出ます。
なぜ長いあいだ解けなかったのか
論文によると、これほど身近な音なのに、数十年の研究を経ても音の出どころは分かっていませんでした。起きていることが、とても小さく、とても速いからです。亀裂の帯の幅はおよそ220マイクロメートルしかなく、亀裂が続けて走るスリップの段階も、1回でおよそ0.5ミリ秒しか続きません。
粘着テープは、なめらかにははがれません。ほとんど動かない「スティック」の段階と、一気にはがれる「スリップ」の段階を、交互にくり返します。亀裂が何十本も続けて走るのは、このスリップの段階です。
論文は、テープのスティック・スリップの研究が、ものが壊れるしくみや地震の動き、摩擦で光が出る現象の理解にもつながると述べています。そのうえで、これまでの研究はテープの幅の向きに走る亀裂を見落としていたため、しくみのモデルをまちがった方向で考えていた、とも書いています。
残された課題と、はがすと出るX線
ただし、細かいところはまだ分かっていません。端ですき間がつぶれるとき、音がどのように出るのかは、さらに研究が要ると著者らは書いています。
実験は手でテープを引いて行いました。角度や速さを機械で一定に保って引く実験も、これからの課題とされています。はがれた部分を伝わる弾性波も音を出しうるものの、今回の映像では、衝撃波の連なりのほうがはるかに大きく出ていました。
テープをはがすときに起きているのは、音だけではありません。真空の中でテープをはがすとX線が出ることが、2008年に科学誌『Nature』で報告されています。次に「キーッ」という音を聞いたら、テープの中で音速を超える亀裂が何十本も走っていることを、思い出してみてください。
参考文献:
一次ソース: Screeching sound of peeling tape, Physical Review E 113, 025508 (2026)
論文本文(オープンアクセス): doi:10.1103/p19h-9ysx
先行研究: Generation of ultra-sound during tape peeling, Scientific Reports 4, 4326 (2014)
研究機関: 中国科学技術大学 / キング・アブドラ科学技術大学(KAUST) / インド工科大学マドラス校









