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皆既月食の月はなぜ『血の色』になるのか 次に日本で見られるのは2029年元旦

2026 7/11
宇宙・天文
2026年3月1日2026年7月11日
🕑この記事は約9分で読めます
シルミー

皆既月食って、月が真っ暗になるんじゃなくて赤くなるよね。あの不気味な赤って、どうして?

はかせ

あれはね、地球じゅうの夕焼けと朝焼けの光が、はるばる月まで届いて映ったものなんだよ。

皆既月食のとき、月は空から消えるのではなく、赤黒く染まる。人はこれを「ブラッドムーン(血の月)」と呼び、古くは不吉のしるしとして恐れてきた。地球の影にすっぽり入っているのに、なぜ月は真っ暗にならず、赤い光をまとうのだろうか。その答えには、私たちが毎日見ている夕焼けとまったく同じ仕組みが隠れている。しかも赤い月は、ときに人類の歴史さえ動かしてきた。

目次

そもそも皆既月食とは何か

赤く染まる月
皆既月食の赤い月

月食は、太陽・地球・月がこの順で一直線に並んだときに起こる。太陽の光を地球がさえぎり、その影の中に月が入り込む現象だ。地球の影には、光がまったく届かない濃い部分(本影)と、うっすら届く薄い部分(半影)がある。月がこの本影にすっぽり入りきった状態が、皆既月食である。

皆既月食は、ゆっくりと進んでいく。まず月の一部が本影に入る部分食から始まり、やがて月全体が本影に収まると、赤い皆既の状態が数十分から1時間ほど続く。その後はふたたび部分食を経て、もとの満月へと戻っていく。ほんの数分で終わる日食にくらべ、月食はずっとゆったりと味わえるのが魅力だ。

しかも、日食のように見える場所が限られない。月さえ出ていれば、地球の夜側のどこからでも同時に眺められるし、太陽を直接見る日食と違って、裸眼のまま見ても危険はない。誰にでも開かれた、空の大きなショーなのだ。

月が本影のどのあたりを通るかによって、皆既の長さは変わる。影の中心を突っ切れば1時間を超える長い皆既になり、ふちをかすめるだけなら短く終わる。2026年3月の皆既はおよそ1時間続き、日本中でたっぷりと赤い月を味わうことができた。

月食には、じつは目立たない前段階がある。月がまず半影に入る「半影食」だ。半影ではまだ太陽の光がうっすら届くので、月はほんの少し暗くなる程度で、注意して見ないと気づかないことも多い。そこから月が本影に入ると、いよいよ欠けが目に見えはじめ、部分食、そして皆既へと進んでいく。

なぜ満月のたびに起きないのか

夜空の満月

満月は月に一度めぐってくるのに、月食は年に数回しか起きない。ふしぎに思えるが、その理由は月の通り道にある。

月が地球をまわる軌道の面は、地球が太陽をまわる軌道の面に対して、約5度かたむいている。そのため、ほとんどの満月では、月は地球の影の少し上か下をすり抜けてしまう。太陽・地球・月がぴたりと一直線にそろい、月が影の中へ飛び込むのは、限られたタイミングだけだ。

この「そろう瞬間」の希少さこそが、皆既月食を特別なものにしている。だからこそ、赤い月が現れる夜は、昔から人々の記憶に強く刻まれてきた。

月の軌道と地球の軌道が交わる点の近くに満月がくるのは、1年のうち二度ほどしかない。天文では、月食や日食が起こりやすいこの時期を「食の季節」と呼ぶ。逆にいえば、それ以外の満月は、地球の影のわきをすり抜けているだけなのだ。

なぜ月は『血の色』になるのか

では本題だ。地球の影にすっぽり入っているのに、なぜ月は真っ暗にならず、赤く光るのか。じつは、地球の影の中にも、わずかに光が差し込んでいる。太陽の光が地球の大気の縁をかすめて通るとき、大気がレンズのように光を曲げ、影の内側へと送り込むのだ。

このとき、青い光は空気の粒子にぶつかって四方へ散らばってしまう。昼間の空が青いのも、夕焼けが赤いのも、この「レイリー散乱」という同じ現象のしわざだ。散らばりにくい、波長の長い赤い光だけが、大気をくぐり抜けて月まで届く。

つまり、皆既月食の赤い月を照らしているのは、地球をぐるりと取り巻く夕焼け・朝焼けの光の集まりなのである。もし月の上に立って地球をふり返れたら、地球の輪郭が赤いリングのように燃えて見えるはずだ。あの不気味に思える赤は、地球の空気そのものが描いた色にほかならない。

言いかえれば、皆既月食の月には、地球の全周でいま起きている夕焼けと朝焼けが、一枚の絵のように集められている。地球のどこかで日が沈み、どこかで日が昇る。その境目の赤い光をすべて足し合わせた色が、あの月の赤なのだ。地球という星の大気のふちを、私たちは月を鏡にして眺めていることになる。

視点を月に移すと、この光景はもっと壮大になる。皆既月食のさなか、もし月に立っていたら、地球が太陽をぴたりと隠す皆既日食を見ていることになる。そして太陽を隠した地球のふちが、ぐるりと赤く燃えて見えるはずだ。地球の全周の夕焼けに照らされて、自分の足もとが赤く染まる。それを地球側から眺めたものが、あの赤い月なのである。

赤の濃さは、その日の地球の空気しだい

噴煙を上げる火山

皆既月食の赤は、毎回同じではない。明るいオレンジ色に輝くこともあれば、ほとんど見えないほど暗い赤褐色に沈むこともある。これを左右するのが、そのときの地球の大気の状態だ。

大きな火山の噴火などで空高くにちりが多いと、光がさえぎられて月は暗く沈む。実際、1993年6月の皆既月食は、2年前に起きたフィリピン・ピナツボ火山の巨大噴火の影響で、通常の10分の1ほどの光しか届かず、近年まれにみる暗さになったと記録されている。

天文学者は、この色と明るさを0から4の「ダンジョンスケール」という物差しで記録している。0はほとんど見えない暗さ、4は明るい銅色だ。言いかえれば、皆既月食の月の色は、その日の地球の空気ぐあいを映す健康診断にもなっているのだ。

だから皆既月食は、同じ人でも一生に何度か見比べる価値がある。明るいオレンジの月と、消え入りそうな暗い月とでは、まるで別の天体のように見える。その差を生んでいるのが、はるか上空の火山灰やちりだと知っていると、赤い月はいっそう味わい深くなる。

月食の縁に光る青い帯『ターコイズフリンジ』

皆既に入る直前や直後、本影のふちにあたる部分に、わずかな青緑色の帯が見えることがある。「ターコイズフリンジ」と呼ばれる現象だ。

これも大気のしわざである。地球の成層圏にあるオゾン層は、赤い光を吸収し、青い光を通しやすい。本影のふちを通る光はこのオゾン層を長くくぐるため、赤みが抜けて青緑に色づく。2008年にNASAの研究者が名づけた、比較的あたらしく知られるようになった見どころだ。

赤い本影のなかに、ふちどりのように残る青緑。肉眼では気づきにくいが、双眼鏡や写真でとらえると、月食がぐっと表情ゆたかに見えてくる。

見逃さないコツは、皆既が始まる直前と、終わった直後をねらうことだ。月が本影に入りきる瞬間と出る瞬間、ふちのあたりに一瞬だけ青緑がさす。赤一色になりきる前の、ほんのわずかな時間に現れる、月食の隠れた見どころである。

古代の人々は、月食に歴史を動かされた

赤い月は、科学が仕組みを解き明かすずっと前から、人類の歴史に深く関わってきた。有名なのが、探検家コロンブスの逸話だ。1504年、航海の途中でジャマイカに立ち往生し、食糧を断たれた彼は、天体暦から近く月食が起こることを知っていた。先住民に「神が怒って月を奪う」と告げ、予告どおり月が赤く欠けはじめると人々は震え上がり、以後も食糧を差し出し続けたという。月食の知識が、一行の命をつないだのだ。

月食は、科学の歴史も動かした。古代ギリシャのアリストテレスは、月食のたびに月に映る地球の影が、いつも丸い円弧を描くことに気づいた。もし地球が平らな板なら、影はこうはならない。この観察は、地球は丸いという考えの有力な証拠のひとつになった。頭上の赤い月が、人類に足もとの地球の形を教えたのである。

世界の神話にも、月食は色濃く残っている。日本では月を食べる天狗、中国では龍、南米のインカではジャガーが月を襲うと語られてきた。赤く染まる月は、多くの文化で災いや変事の前触れとされ、人々の不安をかき立ててきた。同じひとつの現象が、あるときは恐怖の種になり、あるときは科学の芽になってきたのだ。

時代がくだっても、赤い月は人の心を揺さぶり続けた。戦の前に月食が起きれば凶兆とされ、王の死や国の乱れと結びつけて記録された例は世界中にある。だが、仕組みがわかった今では、それが地球の大気のいたずらだと私たちは知っている。同じ光景でも、正体を知っているかどうかで、恐怖は驚きや美しさへと変わる。これもまた、科学を知る楽しみのひとつだ。

次に日本で見られるのは2029年の元旦

夜空と月

では、次に赤い月に出会えるのはいつか。2026年3月3日には、日本全国で好条件の皆既月食が見られた。だが、皆既月食はそうそう続けては起こらない。

国立天文台の一覧によれば、次に日本で皆既月食を楽しめるのは、2029年1月1日――なんと元旦の未明である。年が明けてまもない0時すぎから月が欠けはじめ、赤い満月が新年の空を彩る。なお、2028年7月にも月食はあるが、月の一部しか欠けない部分月食で、全体が赤く染まる皆既ではない。新年最初の夜空に血の月というのは、なかなかに劇的だ。

観測に特別な道具はいらない。街灯の少ない、空の開けた場所を選べば、裸眼のまま赤い月を眺められる。月が低い位置にあるときは、地平線近くの分厚い空気を通る分いっそう赤みが増して見えるし、双眼鏡があれば赤銅色の表面に浮かぶ濃淡まで楽しめる。

さらにその先は、2029年末や2030年代にも皆既月食の機会がめぐってくる。数年に一度の空のショーだから、日程を手帳の隅にでも控えておくといい。晴れてさえいれば、あとは空を見上げるだけ。準備のいらない、いちばん気軽な天体観測だ。

はかせ

次に赤い月を見上げたら、思い出してごらん。あれは地球じゅうの夕焼けが届いた光で、同じ現象を見た昔の人は、歴史さえ動かしたんだよ。

シルミー

不気味な赤だと思ってたのに、ロマンもドラマもあるんだね…! 2029年の元旦、ぜったい見る!

何気なく見上げる赤い月は、じつは地球の大気というフィルターが生み出した、一瞬かぎりの作品だ。同じ皆既月食でも、その日の空気の澄みぐあいで色が変わる。つまり、二度と同じ赤はない。2029年の元旦、もし夜空が晴れていたら、その「地球が描いた赤」を、自分の目で確かめてみてほしい。ふだんは意識しない頭上の空気の存在を、月がそっと教えてくれるはずだ。

参考文献:
観測データ: 月食一覧(国立天文台)
解説: 月食のしくみ(国立天文台)
指標: ダンジョンスケール(月食の月の明るさ・色を0〜4で表す天文指標)/ NASA — Turquoise Fringe(2008)

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この記事を書いた人

シルミー編集者のアバター シルミー編集者

科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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