はかせ、太陽が元気な時のほうが、地球に降ってくる放射線ってきっと多いんだよね?
それが逆なんだ。太陽が静かな時のほうが、飛行機の高さで浴びる宇宙線がむしろ増えるってイスラエルのチームが数字で示したんだよ
宇宙から地球に降り注ぐ高エネルギーの粒子を、まとめて「銀河宇宙線」と呼ぶ。地上ではほとんど気にならないが、飛行機が飛ぶ高度になると、地上の何十倍もの量が降ってくる。ここで意外なことに、太陽が活発に燃えているときよりも、逆に太陽が静かなときのほうが、機内で浴びる量は増えることが最新の測定で示された。
ヘブライ大学とライヒマン大学、テルアビブ大学の共同チームは、2014〜2016年にイスラエル南部から気球を計6回打ち上げ、高度35キロメートルまで宇宙線を直接測定した。成果は2026年8月29日付で学術誌『Journal of Geophysical Research: Atmospheres』に掲載された。太陽活動と放射線量の相関係数は-0.71と、はっきりした負の関係が確認されている。
宇宙から粒子は年中降り注いでいる


まず前提として、地球には常に外から粒子が飛び込んできている。太陽系の外にある超新星爆発や銀河中心の高エネルギー現象から放たれた陽子や原子核が、光速に近い速さで飛来する。これが銀河宇宙線の正体だ。
これらが地球大気に突入すると、空気の分子とぶつかって二次的な粒子の雨を生む。中性子、ミュー粒子、電子、光子といった顔ぶれで、飛行機が飛ぶ高度の放射線環境をつくっている。
地上で測るとほぼゼロに近い理由は簡単で、地球の大気がぶ厚い盾になっているからだ。海抜0メートルまで届く粒子は、途中の空気にほとんど吸収され尽くしている。だが高度が上がるほど盾が薄くなり、放射線量は跳ね上がる。高度10キロメートルの巡航高度ともなれば、地上で暮らしているときとは比べものにならないほど量が増える。
この量は、太陽の「機嫌」によって季節のように変動する。しかもその変動は、直感とは逆向きに動くのが今回の研究のポイントになる。
太陽の磁場が地球を守るシールドになっている


太陽は光と熱を出すだけでなく、周囲に強力な磁場を張り巡らせている。太陽風という荷電粒子の流れと一緒に、この磁場は太陽系のかなり外側まで広がっていて、まとめてヘリオスフィアと呼ばれる。
宇宙のもっと遠くからやってくる銀河宇宙線は、この磁場のバリアに引っかかる。荷電粒子は磁場の中で進路を曲げられるため、太陽系の内側に入り込むには磁場をかき分けなければならない。傘をさして横風の雨を防ぐようなイメージだ。
太陽の活動は、およそ11年周期で強くなったり弱くなったりを繰り返している。活発な時期(極大期)は黒点が増え、太陽風も強くなり、磁場のシールドも硬くなる。逆に静かな時期(極小期)は磁場が弱まり、シールドに穴が空いたような状態になる。
この磁場シールドが弱まった隙をついて、外からの銀河宇宙線がなだれ込んでくる。太陽が「元気」なほど地球に降る量は減り、「寝ぼけている」ほど増えるという逆説はここから生まれる。太陽そのものが放つ粒子(太陽エネルギー粒子)は太陽活動が強いほど増えるので、こちらは逆の動きをする。だが飛行機の高度で問題になる被ばくの主役は、あくまで銀河宇宙線のほうだ。
なぜ「静かな太陽」ほど飛行機で被ばくが増えるのか


今回の測定で得られた相関係数-0.71は、太陽活動が低い時ほど飛行高度の放射線が高い、という関係の強さを示す数値だ。1に近いほど強い連動を意味するので、-0.71はかなりはっきりした逆相関になる。
雨と傘の売り上げの相関がだいたい0.6〜0.8程度と言われるので、それに近いレベルで両者は連動していることになる。しかも太陽活動と地球への粒子流入は物理的なメカニズム(磁場による偏向)がはっきりしているため、これは単なる偶然の一致ではなく、因果関係を伴う相関だと考えてよい。
チームがこの相関を外挿して見積もったところ、太陽極小期の飛行高度の被ばく量は、極大期に比べて40〜60%高くなるという結果になった。乗客からすれば、同じ路線を同じ時間だけ飛んでも、太陽の時期次第で浴びる量が大きく違ってくる。
気球6回で見えた「被ばくの山」の場所


研究チームはイスラエル南部から気球を6回打ち上げた。搭載したのはガイガー・ミュラー計数管と大気イオン化を測るセンサーで、地上から高度およそ35キロメートルまで、垂直方向の被ばく量プロファイルをそのまま記録している。
その結果、宇宙線由来の粒子密度は高度17〜20キロメートルで最大になることが確認された。この高度は、大気中で二次粒子のシャワーが最も強くなる場所として1930年代からPfotzer極大と呼ばれてきた「名所」だ。今回の観測は、その位置と量が最新の大気モデルとどれだけ一致するかを検証したことになる。
被ばく量が特定の高度で山になるのには理由がある。宇宙から降ってきた粒子は大気とぶつかって初めて二次粒子の雨を生むので、空気が薄すぎる上空ではまだシャワーが十分に発達していない。逆に地表へ近づくほど、生まれた二次粒子が分厚い空気に吸収されて減っていく。この「生まれる量」と「吸収される量」のバランスがちょうど釣り合う中間の高度、つまり17〜20キロメートル付近に密度のピークができるというわけだ。旅客機が飛ぶ10キロメートルは、その山を少し下ったあたりに位置している。
興味の的である旅客機の巡航高度は、その山の中腹にあたる高度10キロメートル前後だ。ここでのガンマ線等価の測定値は1時間あたり0.9〜1.3マイクロシーベルト(μSv/h)という範囲に収まっていた。日本の一般人が自然界から受ける放射線量は年間およそ2.1ミリシーベルトなので、片道10時間のフライトで往復20時間ほど機内で過ごしても、加算されるのはおよそ20マイクロシーベルト前後、1年分の自然放射線量のおよそ1%程度にとどまる計算になる。数字そのものは小さいが、これはあくまで中緯度のイスラエル上空という条件つきの値である点は押さえておきたい。
ここは緯度が中程度のイスラエル上空での値で、地球の磁場が薄い高緯度地方(北極ルートなど)では、これより大きな値になることが以前から知られている。日本発の欧米路線が北回りを取ることが多いのは、飛行時間の短縮と引き換えに、この高緯度での被ばく量を受け入れているとも言える。地球の磁場は、赤道付近では宇宙線を強く弾き返す「カットオフ剛性」が高く、北極や南極に近づくほどそれが小さくなる。今回の観測地であるイスラエル南部は「中〜低リスク」側の値と考えてよい。
大気モデルEXPACSと10〜15%以内で一致


気球で実測した電磁成分(光子や電子)の被ばく量は、原子力機構が開発したモデルEXPACS/PARMAの予測値と10〜15%以内で一致した。EXPACS/PARMAは、高度・緯度・太陽活動を入力すると、その場所での宇宙線由来の被ばく量を計算してくれる有名なモデルで、航空会社や規制機関が乗務員の管理に使っている。
今回のように「実測」と「モデル」が近い値になったことは、モデルの信頼性を裏付ける意味を持つ。逆に言うと、実測が難しい地域の値も、モデルからそれなりの精度で推定できるということだ。
ただし、モデルとの一致は電磁成分に限った話だという条件がついている。飛行高度の被ばくには、モデル上では中性子という別の顔ぶれも大きく貢献しており、その部分は今回の気球観測ではまともに測れなかった。
中性子という「測れなかった」成分


大気に飛び込んだ銀河宇宙線が空気とぶつかると、二次粒子として中性子が大量に生まれる。中性子は電荷を持たないため、電気を頼るガイガー・ミュラー計数管では感度がほとんどない。
チームがEXPACS/PARMAで見積もったところ、飛行高度の総被ばくのうち、中性子が40〜45%を占め、光子や電子・陽電子といった電磁成分は35〜40%だった。つまり今回の気球観測は、乗客が実際に受ける被ばくの半分未満しか直接測っていない。
とはいえこれは論文の失敗ではなく、あくまで「この方法で測れる範囲を丁寧に測った」という話だ。残る半分については、モデルが電磁成分と同じ精度で当たっている可能性が高い、と論文は示している。中性子まで含めて実測するには、専用の中性子検出器を機体に載せる必要があり、これは今後の観測課題になる。
プロの乗務員と一般の乗客で意味は違う
ここまでの数字を、自分ごととして受け取るときには、対象を分けて考える必要がある。ICRP(国際放射線防護委員会)は、パイロットや客室乗務員を「職業被ばく」の対象と位置づけ、年間被ばく量の目安を設けている。彼らは年間600〜1000時間という長時間を上空で過ごすため、太陽活動によって年間線量が有意にぶれる存在だ。
一方、多くの読者に近い一般の乗客が国際線に年に数回乗る程度であれば、往復で数十マイクロシーベルトから100マイクロシーベルト程度の追加被ばくになる。これは日本人が普段自然界から受ける量の数%程度に収まり、健康影響の証拠は今のところ薄い。
ただしここは、相関≠因果を丁寧に切り分ける必要がある領域でもある。過去には乗務員のがん発生率と飛行時間の関連を調べた研究もあるが、飛行機に長く乗る人は生活習慣・時差・睡眠パターン・食事も違うため、宇宙線だけを取り出して原因と決めつけるのは難しい。今回の論文は「被ばく量そのものが太陽活動でどれだけ変動するか」を測ったものであって、「だから何倍がんが増える」まで語る研究ではない。
これから太陽は「静かなフェーズ」に入っていく
今、太陽は第25太陽活動サイクルを進んでいて、2024〜2025年ごろに極大期を迎えたあと、これから数年かけて活動が落ちていく段階に入る。つまり今回の論文が示した「静かな太陽ほど被ばくが増える」という関係でいえば、これから数年〜10年ほどは飛行被ばくが少しずつ底上げされていく局面ということになる。
もちろん、いきなり2倍になるような話ではない。極大期と極小期の間で40〜60%の差、というのは1回のフライトで比べれば数十マイクロシーベルト単位の差でしかなく、日常の健康リスクを大きく書き換えるほどではない。ただ、宇宙船やロケットに乗るような人には全く違うレベルで効いてくる話で、有人月・火星計画の被ばく管理には無視できない情報になる。
筆者としては、「太陽が元気なほうがむしろ地球にやさしい」というこの逆説自体がこの分野の面白いところだと考えている。太陽フレアや黒点は「地球に迷惑をかけるもの」というイメージが強いが、実は太陽の元気さが、より遠くからやってくる粒子を弾き返すバリアの強さでもある。これから静かな太陽の時代を迎えるとき、その「優しい風除け」が薄くなることをどう受け止めるかは、宇宙開発の現場だけの話ではなくなっていくかもしれない。
だから北極ルートを飛ぶ長距離便に何度も乗る人ほど、太陽の元気さを気にする理由がある、というわけ
雲より上でも、太陽って地球を守ってくれてるんだ! 静かなときは頑張ってほしいなあ
参考文献:
一次ソース: Yaniv, Yair, Price, Cosmic Radiation Dose‐Rates for Civil Aviation in the Middle East: Vertical Structure, Solar Modulation, and Comparison With Models(Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 2026)DOI:10.1029/2026JD047316
研究機関: ヘブライ大学 / ライヒマン大学 / テルアビブ大学 / 二次ソース: Phys.org









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