太陽が沈めば、太陽光パネルは眠りにつく。再生可能エネルギーの、ずっと避けられなかった弱点だ。ところが、その夜の闇そのものを電力に変えようという、発想を逆転させた技術がある。
使うのは、夜空の向こうに広がる宇宙の、途方もない冷たさだ。
2025年11月、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の研究チームが、地面の暖かさと夜空の冷たさの温度差を使って動く発電装置を、科学誌『Science Advances』に報告した。
しかも動力源に選んだのは、200年前に生まれた古典的なエンジンだった。太陽に頼らず、燃料も使わず、ただ「冷えていく」現象から力を取り出す。
その巧みな仕組みを、順に見ていこう。
夜、地面はなぜ冷えるのか
熱が宇宙へ逃げる「大気の窓」
晴れた冬の朝、地面や車のフロントガラスに霜が降りているのを見たことがあるだろう。あれは、夜のあいだに地表が周囲の空気より冷え込んだ証拠だ。
この現象を「放射冷却」と呼ぶ。あらゆる物体は、その温度に応じて赤外線を出し続けている。地表もまた、昼にためた熱を赤外線として夜空へ放っているのだ。
ふつう、この赤外線は大気中の水蒸気や二酸化炭素に吸収され、地表へ戻ってくる。ところが、波長8〜13マイクロメートルの赤外線だけは、大気にほとんど吸収されずに素通りする。
これを「大気の窓」と呼ぶ。この窓を抜けた熱は、何にも遮られずに、そのまま深宇宙へと飛んでいく。曇りの夜に霜が降りにくいのは、雲が赤外線を吸収して地上へ送り返してしまうためである。
熱の捨て先としての宇宙
この放射冷却の行き先である宇宙は、どれほど冷たいのか。宇宙空間は、およそ2.7ケルビン(摂氏マイナス270度ほど)という宇宙背景放射の温度を持つ。
これはビッグバンの名残の電波が全宇宙を満たしているためだ。真空だから温度がない、のではない。
大切なのは、この深宇宙が事実上、無尽蔵の「冷却先」だという点だ。地上のどんな冷却装置も、最後は周りの空気や水に熱を捨てており、そこには限界がある。
だが宇宙は、いくら熱を送り込んでも温度が上がって送り返してくることがない。
キク宇宙って、いくら熱を送っても温まって送り返してこない冷却先なんだ!
200年前のエンジンが、宇宙とつながる


温度差だけで動くスターリングエンジン
研究チームが動力源に選んだのは、スターリングエンジンという古典的な装置だ。1816年、スコットランドの牧師ロバート・スターリングが発明した。
ガソリンエンジンのように燃料を爆発させるのではなく、温度の高い場所と低い場所のあいだで気体を行き来させ、その膨張と収縮でピストンを動かす。
燃やすのではなく、温度差そのものを力に変えるエンジンだ。
密閉した容器の中の気体は、温めれば膨らみ、冷やせば縮む。この繰り返しでピストンが往復し、フライホイールが回る。
温度差さえあれば、どんな熱源でも動く。これまでは温かい側に太陽熱や工場の排熱を使う研究が主流だった。つまり「熱い側」を用意するのが常識だったのである。



温度差で動くエンジンは熱い側を用意するのが常識なのに、宇宙の冷たさはどこに使ったんだろう?
発想の逆転——冷たい側に宇宙を使う
UC Davisのジェレミー・マンデー教授とトリスタン・デッペ氏は、この常識をひっくり返した。熱い側ではなく、「冷たい側」に宇宙を使ったのだ。
地面に置いたパネルの上に小型のスターリングエンジンを載せ、地面側を温かい側に、空へ向けた放熱パネル側を冷たい側にする。
パネルは放射冷却で、大気の窓を通して宇宙へ熱を逃がし、外気より冷えていく。
1年を通じた屋外実験では、ほとんどの月で10度を超える温度差が保たれた。地面の暖かさと、宇宙へ熱を逃がして冷えたパネル。
そのわずかな差が、200年前のエンジンを夜通し動かす原動力になる。


実際に、どれだけ発電できたのか


1年間の屋外実験で、ファンを回した
この装置は、机上の空論ではない。チームは屋外にこの装置を設置し、1年間にわたって夜間の実験を重ねた。
その結果、少なくとも1平方メートルあたり400ミリワット以上の機械的な動力を得ることに成功した。論文は、改良すれば1平方メートルあたり6ワット以上まで伸ばせる可能性があるとしている。
エンジンの効率は、理論上の上限(カルノー効率)の13%だった。
得られた力で、実際に小型のファンを直接回し、さらにモーターにつないで電流を生み出すことも確認された。ファンの前では秒速0.3メートル以上の風が生まれた。
温度差が30度を超える条件では、公共の建物で1人あたりに求められる最低限の換気量にあたる毎分約5立方フィートの風量に近づく。
研究チームは、温室の空気の循環や住宅の換気に使えるとしている。
「24時間発電」ではなく「夜の電源」
ここも誤解を避けたい。この装置は、それ自体で24時間発電できるわけではない。あくまで、放射冷却がよく効く夜に力を発揮する「夜間の電源」だ。
放射冷却は、空気が乾いて夜空が晴れているほど効率が上がる。湿気の多い日や曇りの夜は、熱がうまく宇宙へ逃げず、温度差も小さくなる。
だからこそ、真価は太陽光発電との組み合わせにある。昼は太陽光パネルで発電し、夜はこのスターリング装置で補う。二つを一つの場所に置けば、昼夜を通じて途切れにくい電源に近づく。
太陽が眠る時間を埋める、控えめだが頼もしい相棒。それが、この技術のねらいどころだ。



昼は太陽光パネル、夜は宇宙の冷たさで動くエンジンって、交代で電気をつなぐ相棒なんだね。
なぜ「夜の発電」がそれほど大事なのか


太陽光の弱点を、電池以外で埋める
太陽光発電の最大の弱点は、言うまでもなく夜に発電できないことだ。多くの太陽光システムは、この穴を蓄電池で埋めている。
だが電池はコストが高く、寿命や重量、廃棄時の環境負荷といった課題も抱える。もし同じ場所に置いた一枚のパネルで、夜通し少しでも発電を続けられるなら、電池への依存を減らせるかもしれない。
大電力を生む必要はない。街灯やセンサー、換気ファンといった小さな電力で足りる機器を、電池なしの独立電源で動かせるだけでも、価値は大きい。
特に送電網の届かない地域や、災害で電気が止まった場面では、細くても途切れない電源が命綱になる。放射冷却発電が見据えるのは、まさにこうした「小さくても、絶えない夜の電気」なのだ。
主役ではなく、名脇役として
研究者たちが目指しているのは、火力や原子力に取って代わる主力電源ではない。太陽光が眠る時間を埋める、低コストで部品の少ない、控えめな補完電源だ。
派手さはないが、既存の電力網のすき間を埋め、これまで電気の届かなかった場所に小さな灯りをともす。そんな名脇役としての役割である。


もう一つの道——熱電という選択肢
放射冷却で作った温度差を電気に変える方法は、実は一つではない。もう一つの有力な道が、熱電発電だ。異なる物質を接合し、両端に温度差を与えると電圧が生じる「ゼーベック効果」を使う。
1821年に発見された現象だ。
この分野の先駆けが、2019年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とスタンフォード大学の研究者が発表した研究だ。
熱電素子の冷たい側を放射冷却パネルにつなぎ、暖かい側は外気で温めるだけ。太陽光を「使う」のではなく、宇宙へ熱が逃げる現象そのものを電気に変えた。
1平方メートルあたり25ミリワットで、実際にLEDを点灯させている。論文の題は「暗闇から光を生み出す」だった。
機械式と電子式、それぞれの持ち味
スターリングエンジンと熱電素子、二つの方式は好対照だ。熱電素子は動く部品が一切なく、固体のまま静かに発電できるのが強みだが、変換効率は低く出力も小さい。
一方スターリングエンジンは、ピストンが物理的に動くぶん摩耗や音のリスクはあるが、より大きな出力を、より小さな温度差からでも引き出せる。
UC Davisの400ミリワットは、2019年の熱電方式の25ミリワットの16倍にあたる。
どちらが優れているという単純な話ではない。論文は、衛星データをもとに、この方式がどこでよく働くかも試算している。
空から降りてくる赤外線が少ない乾燥地帯や山岳地帯ほど出力が大きく、平均ではサハラ砂漠、ユーラシアのステップ地帯、そして夏の南極で最もよく働くという。
参考文献:
Mechanical power generation using Earth’s ambient radiation
Deppe & Munday, Science Advances (2025). DOI: 10.1126/sciadv.adw6833
出典: University of California, Davis(熱電方式: Raman, Li, Fan, Joule 3, 2679-2686, 2019, UCLA/スタンフォード大学)









