はかせ、土から電気が作れるって本当なの?
いい質問ですね。実はノースウェスタン大学のチームが、土の中の微生物を使って電気を取り出す新しい燃料電池を作ったんです
バッテリーも太陽光パネルもいらず、土に差し込むだけで畑のセンサーを動かしつづける。そんな未来のデバイスが現実に近づいてきた。
土から電気を取り出す新型デバイスの正体


土の中で電気を作る微生物の正体
ノースウェスタン大学の研究チームが発表した新型デバイスは、「微生物燃料電池(MFC)」と呼ばれるタイプだ。土の中にもともと住んでいるバクテリアが、落ち葉や根っこなどの有機物を分解するときに電子を放出する性質を利用している。
仕組みは乾電池とそっくりだ。プラス極(カソード)、マイナス極(アノード)、電気を伝える電解質の3点セットで成り立っている。ただし化学反応で電気を作る代わりに、微生物が電子を手放す動きをそのまま電流として取り出している。
地球の土壌1グラムには数十億個ものバクテリアが暮らしている。そのうち一部は酸素ではなく金属や電極表面に電子を渡して呼吸する「電気活性微生物」と呼ばれるグループだ。彼らにとってアノードは、ふだん息を吐くときの酸素と同じくらい自然な「電子の受け皿」になる。
発電量は大きくないが、土の中に有機物が残っているかぎり動きつづけるのが強みだ。上級著者のジョージ・ウェルズ准教授は「微生物はどこの土にもいるありふれた存在で、シンプルな装置でその電気を捕まえられる」と説明する。
目指したのは畑を見守るセンサーの電源
用途として想定されているのは、広い農地に張り巡らされるIoTセンサーだ。土壌の水分、肥料の濃度、汚染物質などを24時間計測して、データを農家に届けるしくみが世界中で広がっている。
ところが電源の確保が最大の悩みだった。乾電池は切れたら交換が必要で、100エーカー(約40ヘクタール)を超える大規模農場では人が歩いて回るだけでも一苦労となる。
太陽光パネルも完璧ではない。土や泥で覆われると発電量が落ち、曇りや夜間は使えず、設置スペースも取られる。プロジェクトを主導したビル・イェン氏は「センサーを自然の中に置くなら、電池か太陽光しか選択肢がなかった」と振り返る。
乾いた土でも水没しても動く実力
完成した試作機は、水分量が体積比41パーセントのやや乾いた土から、完全に水に沈んだ状態まで幅広い環境で発電を続けた。屋外で長期的に動かしつづけるためには、この頑丈さが欠かせない。
似たタイプの既存デバイスと比べると、連続して働く時間が約120パーセント長かった。電池で言えば「寿命が2倍以上に伸びた」ようなイメージだ。
乾燥地帯の農場では昼間に土がカラカラに乾き、夜露や雨でしっとりするサイクルが繰り返される。従来の微生物燃料電池はこの湿度変動に弱かったが、新型はどちらの状態でも発電を止めず、センサーへ電力を供給しつづけた。
100年以上の課題を解決した「垂直配置」の秘密


1911年から眠っていた未完成のアイデア
土から電気を作る発想自体は真新しいものではない。微生物燃料電池の原型は1911年までさかのぼり、科学者たちが100年以上も改良を試みてきた分野だ。
しかし出力が不安定で、実用化にはなかなか届かなかった。とくに乾いた環境では発電がストップしやすく、実験室を出ると性能が落ちるのが難点だった。イェン氏も「1世紀以上前からある概念なのに、信頼できる動作と出力の低さが壁になり続けてきた」と語る。
微生物が働くには水分と酸素の両方が必要なのに、土の中ではどちらか一方が欠けがちというジレンマを抱えていたのだ。
2年かけてたどり着いたL字型の設計
ノースウェスタン大学のチームは4種類のプロトタイプを作り、9カ月にわたる屋外データを集めて比較した。2年ほどの試行錯誤の末にたどり着いた答えは、電極の配置を変えることだった。
従来は2枚の電極を平行に並べる設計が主流だったが、新型は電極を直角(垂直方向)に組み合わせる「L字型」に作り替えた。横向きに寝かせたアノードと縦方向に伸ばしたカソードが、ちょうどアルファベットのTを逆さまにしたような形になる。
この配置のおかげで、装置の上部は空気に触れて酸素をたっぷり受け取れる一方、下部は湿った土に埋まったまま水分を保てる。「水分と酸素の両取り」という100年来のジレンマを、物理的なレイアウトで一気にほどいた格好だ。
カーボンフェルトと金属電極の巧みな役割分担
アノードにはカーボンフェルトという、安価で大量に出回っている炭素繊維の板が使われた。微生物が放出する電子を効率よく受け止める役目を担う。スポンジ状の構造で表面積が大きく、微生物が住みつきやすい。
カソードは導電性の金属で作られ、地表まで垂直に伸びている。先端には雨水やゴミの侵入を防ぐ保護キャップと、空気が通る小さなチャンバーが付いている。防水コーティングを施してあるので、大雨で水没しても金属部分は機能を失わない。
水が引いた後に少しずつ乾いていく緩やかな構造のおかげで、装置は急な環境変化にも耐えられる。部品はすべてホームセンターで手に入るありふれた素材だというのも、将来の量産を考えたときの大きな利点だ。
ちょうど家の屋根と基礎のような関係と言える。屋根(カソード)は空気と接して換気を保ち、基礎(アノード)は地面に深く埋まって湿り気を確保する。役割がはっきり分かれているから、どちらか一方が極端な環境にさらされても全体はバランスを失わない。
IoT時代を支える縁の下の力持ちへ


必要な電気の68倍を生み出す発電力
屋外試験では、完成した試作機がセンサー駆動に必要な電力の平均68倍を生み出した。家で例えるなら「スマホ1台を充電するためのコンセントから、68台分の電気が流れてくる」ような余裕がある計算になる。
余った電力は、データを無線で飛ばすための小型アンテナにも回せる。研究チームは周囲に飛んでいる既存のラジオ周波数(RF)信号を反射して送信する「バックスキャッター通信」を採用した。自分で強い電波を発する必要がないので、消費エネルギーを極限まで抑えられる。
しかもこの発電量は「アイドリング状態」でも得られる値だ。ピーク時にはさらに高い出力を叩き出せるため、夜の気温変化や雨上がりなど短時間のデータを集中的に送るタイミングでも電力不足に陥らない。
土の湿り気から野生動物の足跡まで
試作機はすでに土壌水分センサーとタッチセンサーを動かすデモに成功している。土壌水分センサーは農作物の生育を助ける基本データで、タッチセンサーは動物が踏んだときの微弱な振動を検知できる。
野生動物のモニタリングに使えば、保護区でどんな生き物がいつどこを通ったかが把握できる。広大な自然の中に何百台ものセンサーを置いても、電池交換のために人が出向く必要はない。
成果は米国計算機学会(ACM)の論文誌『Proceedings of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies』に掲載され、研究チームは設計図やシミュレーションツールまで公開している。
生分解性デバイスと地産地消の電子工学
チームの次の目標は、装置全体を土に還る生分解性素材で作ることだ。リチウムや重金属といった「紛争鉱物」を避け、地元で手に入る材料だけで完結するIoTデバイスを目指している。
研究プロジェクトは全米科学財団(NSF)、米農務省の農業食品研究イニシアチブ、アルフレッド・P・スローン財団、VMwareリサーチ、3Mなどから資金提供を受けた。設計データやシミュレーションコードもすべて公開されており、世界中の研究者や個人が自由に改良できる仕組みになっている。
ジョージア工科大学に移籍した共著者のジョサイア・ヘスター氏は「コロナ禍で電子部品の供給網がどれほど脆いかを皆が思い知った。地元の素材と低コスト部品で動くデバイスなら、どんな地域でもITの恩恵を届けられる」と話す。
大規模な都市を丸ごと動かせるわけではない。それでも、トリリオン(1兆)台規模に増えるといわれるIoT機器の一部でも土の電気でまかなえれば、電子ごみや電池の廃棄問題をやわらげる現実的な一手になる。
土の中の小さな生き物が、そんなすごい電気を作ってたなんて知らなかった!
畑や森の中で、ひっそり電気を生む土の微生物たち。今まで存在すら意識してこなかったその働きが、次世代のIoTを支える主役になる日もそう遠くないのかもしれない。
参考文献:
Scientists develop dirt-powered fuel cell that could replace batteries
出典: ScienceDaily (Northwestern University)










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