土の中の微生物が出すわずかな電気で、畑や湿地に置くセンサーを動かせないか。
ノースウェスタン大学が主導し、カリフォルニア大学サンディエゴ校、同サンタクルーズ校、ジョージア工科大学の研究者も加わった13人のチームが、そのための「土壌微生物燃料電池」の形を2年かけて改良し、2024年1月に論文で発表した。
新しい形は、従来の形より少し乾いた土でも発電できるようになった。ただし論文自身は、畑の比較的乾いた土ではまだうまく働かない可能性が高く、屋外では出力が大きく落ちたとも書いている。
狙いは、ごく小さな電力で動くセンサーだ。
土から電気を取り出す新型デバイスの正体
土の中で電気を作る微生物の正体
研究チームが作ったのは「微生物燃料電池(MFC)」と呼ばれる装置で、大きさは文庫本ほどだ。土の中にもともといる細菌が有機物を分解するときに出す電子を、電極で受け取って電気にする。
しくみは電池に似ていて、アノード(負極)、カソード(正極)、その間の電解質でできている。違うのは、電池の中の物質を使い切るのではなく、まわりの土の有機物を使って発電する点だ。
アノードで細菌が有機物を分解して出した電子は、回路を通ってカソードへ流れ、そこで空気中の酸素と反応して水ができる。
電子を細胞の外に渡せる細菌は、論文によると下水や土の中にふつうにいる。この細菌はアノードの表面に膜のように住みつき、酸素のない環境でいちばんよく育つ。
このためアノードは空気から離して埋めるのがふつうだ。
上級著者のジョージ・ウェルズ准教授は「この微生物はどこにでもいて、もう土のあらゆる場所に住んでいる。とても簡単な装置でその電気を取り出せる」と話す。
研究を率いたビル・イェン氏は、微生物が分解できる有機物が土に残っているかぎり、この燃料電池はいつまでも動く可能性があると述べている。
目指したのは畑を見守るセンサーの電源
用途として想定されているのは、広い農地に張り巡らされるIoTセンサーだ。土壌の水分、肥料の濃度、汚染物質などを24時間計測して、データを農家に届けるしくみが世界中で広がっている。
ただ、センサーの電源が問題になる。乾電池はいずれ切れるので交換が要り、広い農場ではそれが難しい。
イェン氏は「農場や湿地にセンサーを置くなら、電池を入れるか太陽光で発電するしかない」と話す。太陽光パネルは土をかぶると働きが落ち、日が出ていないと発電できず、場所も取る。
「農家の人は、100エーカー(約40ヘクタール)の農場を回って電池を替えたり、パネルのほこりを払ったりはしない」という。
キク畑のセンサーには、電池の交換も太陽光パネルの掃除もいらない電源がほしいから、土の微生物に目をつけたんだね。
水分41%から水没まで、ただし乾燥には弱い
研究チームは、電極を平らに並べた従来型(v0)と新しい形(v3)を同じ土の中に並べ、水に沈めたり乾かしたりをくり返して比べた。
新型は水に沈んだ状態でも出力が高く、乾いていく途中では、従来型より4ポイント低い水分でも発電を続けた。発電が止まるのは、土の体積の40〜41%が水という水分だった。
論文は、この条件はほぼ水で満たされた土に近く、畑の比較的乾いた土では新型もうまく働かない可能性が高いと書いている。
一方で、草原や湿地には水分が40〜50%ほどの土が多く、そうした場所の観測には役立つとみている。
この差を、161日間の実験室データを使ったシミュレーションで電力に換算した。新型の平均出力は26.5マイクロワット、従来型は14.7マイクロワットだった。
極めて消費電力の小さいセンサーを直接つないだ場合、新型では動いている時間が従来型より120%長くなった。マイコンを使う装置では、実行できる処理の回数が約40%増えると見積もられた。
屋外での試験は1台だけだった。夏に暑く乾燥する気候の住宅の庭に、少し作りを丈夫にした新型(v3.1)を埋めた。
実験室の土で育ててから移したところ、1日で出力は186マイクロワットから4マイクロワットに落ちた。運ぶときにアノードに酸素が入り、細菌の膜が弱ったためとみられる。
その後は、水やりや雨で土が湿るたびに出力が上がったが、水分が39%を下回ると発電はほぼゼロになった。水やりの間の出力は1〜1.5マイクロワットほどだった。
論文は、屋外での出力は限られており、形をさらに改良する必要があるとしている。
電極の向きを変えて乾燥に強くした
土から電気を作る発想自体は真新しいものではない。微生物燃料電池の原型は1911年までさかのぼり、科学者たちが100年以上も改良を試みてきた分野だ。
しかし出力が安定せず、実用にはなかなか届かなかった。論文によると、水に浸かった条件の外で、長い期間安定して発電できた土壌微生物燃料電池の例はまだ無かった。
イェン氏は「微生物燃料電池は1世紀以上前から概念としてあるが、動作が不安定で出力も低いため、とくに水分の少ない条件で実用化が阻まれてきた」と話す。
難しいのは、アノードとカソードで必要な条件が違うことだ。アノードの細菌は酸素のない環境を好むが、カソードでは酸素が要る。
そのうえ両方の電極の間は湿った土でつながっていないと、イオンが行き来できず発電が止まる。



表面の土が乾いても発電を続けるには、電極をどう置けばいいんだろう?
2年かけて4つの形を比べた
チームは2年かけて4つの形を作り、実験室の同じ土の中で比べた。4つの実験のデータを合わせると9か月分になる。
最初の従来型(v0)は電極を2枚とも横に寝かせた形で、表面の1センチほどの土が乾くと、下の土が湿っていても発電が止まった。
そこで両方の電極を縦にした形(v1)を試したが、かえって不安定になった。
最終的に選んだのは、アノードを横に寝かせて埋め、その上にカソードを縦に立てる形だ。縦のカソードは、表面の土が乾いても下の端が湿った土に触れているので、発電が途切れにくい。
カソードの片面は土に、もう片面は装置の中の空気室に面している。途中の形(v2)では、水に沈めたときに空気室に水が入り、カソードが酸素を取り込めなくなった。
そこで新型(v3)では空気室の底をふさいで土から切り離した。
カーボンフェルトのアノードと防水したカソード
アノードにはカーボンフェルトという炭素繊維の板を使った。安くて表面積が大きく、細菌が住みつきやすい。
カソードは、撥水処理した炭素の布、カーボンフェルト、シリコーン、ステンレスの枠を組み合わせ、横から空気室に水が入らないように作った。
屋外に置いた型(v3.1)では、空気室の上に3Dプリントのふたを付け、雨水やごみが入らず空気は通るようにした。
発表によると、縦の形のおかげで、水が引いた後もカソードは一度にではなく少しずつ乾く。
研究者らは、部品はすべて身近な金物店で買えるとしている。


実験室のデータでは必要な電力の平均68倍
研究チームが電源の相手に選んだのは、MARSと呼ばれる極めて消費電力の小さい無線センサーだ。文献では0.385マイクロワットあれば動く。
161日間の実験室データでは、新型の平均出力はこの68倍だった。ただしこれは実験室の値で、屋外での出力(1〜1.5マイクロワット)はずっと小さい。
MARSは、外から届く電波を反射してデータを送る「バックスキャッタ」という方式を使うので、自分で電波を出す必要がなく、電力がごくわずかで済む。
実験室のデモでは、送信機から915メガヘルツの電波を当て、反射した信号を受信機でとらえた。



実験室ではセンサーが動くのに必要な電力の68倍も出たけど、屋外の出力はずっと小さいんだね。
土の水分とタッチを測るデモ
デモは実験室で行った。燃料電池1台でMARSを動かし、土の水分とタッチを測って無線で送れた。
タッチの測定では、センサーにつないだ電線を人が手で握ると、電線の静電容量が変わって反射する信号の周波数が下がった。
振動ではなく、何かが触れたかどうかを2択で知らせるしくみだ。
論文は、こうしたセンサーを森の地面と同じ高さに置けば、野生動物の観察に役立つ可能性があるとしている。土を乾かしていく実験では、29日目に信号が消えた。
そのときの出力は0.781マイクロワットで、屋外での出力の範囲に入るため、論文は屋外でもMARSを動かせる可能性があるとみている。
成果は米国計算機学会(ACM)の論文誌『Proceedings of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies』に掲載された。
研究チームは、設計図、作り方の手引き、シミュレーションの道具をGitHubで公開している。
次の目標は土に還る材料
チームの次の目標は、装置全体を生分解性の材料で作ることだ。発表によると、どちらの設計も複雑な供給網を通さず、紛争鉱物を使わない。
研究は全米科学財団(NSF)、米農務省の農業食品研究イニシアチブ、アルフレッド・P・スローン財団、VMwareリサーチ、3Mの支援を受けた。
ノースウェスタン大学からジョージア工科大学に移った共著者のジョサイア・ヘスター氏は「コロナ禍で、危機が電子機器の世界的な供給網をどう乱すかを、私たちはみな知った。地元の供給網と安い材料を使う装置を作り、どの地域の人もコンピューターを使えるようにしたい」と話す。
イェン氏は、IoT機器が将来何兆台にもなるなら、そのすべてをリチウムや重金属、環境に有害な物質で作るわけにはいかないと話す。
ウェルズ氏も「この電気で都市全体を動かすつもりはない。でも、ごくわずかな電気を集めて、実用的な低電力の用途に使うことはできる」と述べている。
参考文献:
Yen B, Jaliff L, Gutierrez L, et al. Soil-Powered Computing: The Engineer’s Guide to Practical Soil Microbial Fuel Cell Design(Proceedings of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies 7(4), Article 196, 2023。2024年1月12日公開)
DOI: 10.1145/3631410
論文本文(PDF): UC Santa Cruz
設計とシミュレーションの公開先: GitHub
発表: Dirt-powered fuel cell runs forever(Northwestern University / EurekAlert)
Scientists develop dirt-powered fuel cell that could replace batteries(ScienceDaily)









