PFAS(ピーファス)と呼ばれる有機フッ素化合物は、母親の体から胎盤を通って、お腹の赤ちゃんにも届く。
北京で母子157組を調べた研究では、母親の血液とへその緒の血液の両方から、同じ種類のPFASが見つかった。では、子どもの免疫とは関係があるのか。
北大西洋のフェロー諸島で生まれた子どもを7歳まで追った観察研究(Grandjean氏ら、JAMA、2012年)では、血液中のPFASの濃度が高い子ほど、ジフテリアと破傷風のワクチンでできる抗体の量が少ない傾向が見られた。
ただし、これは観察研究なので、PFASが抗体を減らしたとまでは言えない。抗体の少なさとはっきり結びついていたのは、母親の妊娠中の濃度よりも、5歳の子ども自身の血液の濃度だった。
また、免疫、出生体重、神経発達では、証拠の強さが違う。順に見ていこう。
「永遠の化学物質」PFASとは何か
PFASは、炭素とフッ素の原子が鎖のようにつながった構造をもつ人工の化学物質の総称で、数千種類がある。炭素とフッ素の結合は最も強い結合の一つなので、環境の中でなかなか分解されない。
これが「永遠の化学物質」と呼ばれる理由だ。
米国立環境健康科学研究所(NIEHS)によると、PFASは1950年代ごろから、食品が包装や調理器具にくっつかないようにする加工、衣類やカーペットの汚れ防止、消火用の泡などに使われてきた。
体に入ったPFASも出ていきにくい。代表的なPFOA、PFOS、PFHxSは、人の体内で量が半分になるまでに少なくとも4年かかる。
米疾病対策センター(CDC)の全国調査では、アメリカ人の97%の血液からPFASが見つかっている。
暮らしの中に、当たり前にある
NIEHSによると、人がPFASを取り込む主な経路は、汚染された水や食べ物、PFASを使った製品、PFASを含む空気だ。
妊娠中の女性も例外ではなく、母親の血液中のPFASは胎盤を通って胎児にも移る。
なかなか分解されなくて、アメリカでは97%の人の血液から見つかるの? しかも赤ちゃんにまで伝わるんだ。


胎盤という「関所」を、すり抜ける


母親とへその緒の血液を比べる
胎盤は、母親から胎児へ栄養や酸素を届ける臓器だ。
中国の研究チームは2013年、北京の病院で出産した健康な女性157人について、出産の1〜2日前の母親の血液と、生まれた直後のへその緒の血液を集め、PFASの濃度を比べた(Yang氏ら、Scientific Reports、2016年)。
この研究のおもな目的は、PFASと甲状腺ホルモンの関係を調べることだった。
母親の血液とへその緒の血液の両方から、7種類のPFASと、PFASのもとになる物質2種類が見つかった。母親の濃度が高いほどへその緒の濃度も高く、相関係数は0.336〜0.806だった。
最も強かったのはPFOAの0.806だ。ただし、へその緒の濃度は母親より低く、母親の値がそのまま胎児に移るわけではない。
PFOAだと相関係数が0.8まであったんだね。でも、へその緒の方が濃度は低いんだ。
種類によって移りやすさが違う
へその緒と母親の濃度の比(中央値)は、PFOAが0.65で最も高く、PFNAが0.43、PFHxSが0.35、PFOSが0.29、PFUnAが0.27、PFDAが0.25だった。
論文は、中国・江蘇省や米国シンシナティの研究でも、PFOAが移りやすくPFOSなどが移りにくいという、似た順番が見られたと書いている。
なお、この北京の研究のPFASの濃度は、ほかの多くの国の報告より低かった。
PFASが多い子ほど、ワクチンの抗体が少ない傾向


フェロー諸島の、子どもたちを追って
子どもの免疫との関係を調べたのは、米ハーバード公衆衛生大学院のフィリップ・グランジャン氏らのチームだ。
北大西洋のフェロー諸島の病院で1997〜2000年に生まれた単胎児656人を集め、587人を7歳まで追った(前向きの出生コホート研究)。
フェロー諸島は漁業の島で、魚介類をよく食べるとPFASの取り込みが増える。ただし、母親の血液中の濃度は、1999〜2000年のアメリカの成人女性と同じか、やや低かった。
チームは、妊娠32週の母親の血液と、5歳の子どもの血液でPFASの濃度を測った。フェロー諸島では、生後3か月、5か月、12か月にジフテリアと破傷風のワクチンを打ち、5歳で追加接種をする。
抗体の量は、5歳の追加接種の前と、その約4週間後、7歳の時点で測った。抗体が血液1ミリリットルあたり0.1国際単位(IU)を超えていることが、病気を防ぐ目安とされる。
5歳の追加接種の前の時点で、この目安を下回っていた子は、破傷風で26%、ジフテリアで37%いた。
母親より子ども自身の濃度で関連がはっきり
母親の妊娠中のPFASのうちでは、PFOSと5歳のジフテリア抗体との関連が最も強かった。
母親のPFOS濃度が2倍の子は、5歳の追加接種前のジフテリア抗体が39%少なかった(95%信頼区間は-55%〜-17%)。
関連がよりはっきりしていたのは、5歳の子ども自身の血液の濃度だ。
主な3種類のPFAS(PFOS、PFOA、PFHxS)をまとめて見ると、5歳の濃度が2倍の子は、7歳の抗体の量がおよそ半分(-49%)だった。
7歳で抗体が0.1 IU/mLを下回るオッズは、5歳のPFOA濃度が2倍になるごとに、ジフテリアで3.27倍、破傷風で4.20倍だった。
ただし、7歳で目安を下回っていたのは、破傷風で18人、ジフテリアで32人と少数だった。
著者たちは、関連が因果関係であれば、決められた回数のワクチンを打っても、ジフテリアや破傷風を防げるだけの抗体を保てない子が増えるおそれがある、と書いている。
一方で、測った5種類のPFASはどれも抗体と負の関連を示したが、信頼区間が重なっていることなどから、どの物質が原因かは決められないとしている。
フェロー諸島で多い汚染物質のPCBの量で調整しても、結果はほとんど変わらなかった。
欧州食品安全機関(EFSA)は2020年の評価で、その後に出た研究も含めて、PFOSやPFOAとワクチンの抗体の少なさとの関連はさらに裏づけられたと結論した。
そして、ドイツの1歳児の研究とこのフェロー諸島の研究をもとに、免疫への影響を最も重要な健康影響とみなし、PFOA、PFNA、PFHxS、PFOSの4種類の合計で、1週間に体重1キログラムあたり4.4ナノグラムという耐容週間摂取量を定めた。
PFASが多い子ほど、抗体が少ない傾向なんだね。ヨーロッパでも、この関連を重く見ているんだ。


ここが肝心――「証拠の強さ」は、一律ではない


免疫、出生体重、神経発達――強さが違う
ここで、最も慎重に伝えたいことがある。出生前PFAS暴露をめぐっては、免疫のほかにも、いくつかの懸念が語られる。
だが、それぞれの「証拠の強さ」は、決して一律ではない。この違いを混同すると、話を必要以上に恐ろしく受け取ってしまう。
丁寧に、腑分けしておこう。
EFSAの2020年の評価をもとに整理すると、次のようになる。免疫については、ワクチンの抗体の少なさとの関連が複数の研究で見られ、規制の根拠にも使われている。
出生体重については、PFOSとPFOAとの因果関係が「十分ありうる」としつつ、交絡要因で調整したあとの減り方は大きくなく、長い目で見た影響もはっきりしないとしている。
神経発達、知能、行動、甲状腺の働きについては、関連を示す証拠は不十分だとした。すべてを同じ強さの「判明した悪影響」として並べるのは、正確ではない。
免疫は証拠が強いけど、出生体重や神経発達はまだ不確か。この違いを混同しないのが大事だね。
「第3の要因」という、落とし穴
出生体重との関連には、見落とせない注意点がある。
Verner氏らのチーム(Environmental Health Perspectives、2015年)が注目したのは、母親の腎臓のろ過の働き(糸球体ろ過量、GFR)だ。
GFRは妊娠の前半に約50%増え、後半にやや下がる。妊娠中にGFRが十分に上がらない女性は、小さめの赤ちゃんを産む傾向があるという研究がある。
一方で、GFRはPFASが尿に出ていく量にも関わる。GFRが低い母親は血液中のPFASが高くなり、赤ちゃんも小さめになりやすい。
それだけで、PFASと出生体重の間に見かけの関連が生まれうる。
チームは、妊娠中のPFASの体内での動きを再現するモデル(PBPKモデル)で25万回のシミュレーションを行い、GFRだけでどれくらいの関連が生まれるかを見積もった。
GFRだけで生まれる見かけの関連は、へその緒の血漿のPFOAが1ng/mL高いごとに、出生体重が7.13グラム軽いというものだった。
これまでの疫学研究をまとめた解析では、PFOAが1ng/mL高いごとに14.7グラム軽かった。チームは、関連の一部はGFRで説明できるが、すべてではないとしている。
観察研究では、こうした交絡を完全には取り除けない。
各国で進む飲み水の規制
飲み水の規制は進んでいる。
アメリカの環境保護庁(EPA)は2024年4月、PFOAとPFOSをそれぞれ1リットルあたり4.0ナノグラム(ppt)とするなど、6種類のPFASについて飲み水の基準を決めた。
ただしEPAは2026年5月、PFOAとPFOSの基準は保ちつつ、守る期限を2031年まで延ばせるようにする案と、PFHxS、PFNA、HFPO-DA(GenX)などの基準を取り消す案を示している。
日本では、水道水のPFOSとPFOAが2026年4月から水質基準になり、合計で1リットルあたり50ナノグラム以下とされ、水道事業者に検査と基準を守ることが義務づけられた。
わかったこと、まだわからないこと
まとめると、PFASは胎盤を通って胎児に届き、フェロー諸島の観察研究では、PFASの濃度が高い子ほどワクチンの抗体が少ない傾向があった。
この関連はほかの研究でも見られ、EFSAは規制の根拠に使っている。ただし観察研究なので、PFASが抗体を減らした原因だとは言い切れない。
出生体重との関連は母親の腎臓の働きによる交絡を一部含んでいる可能性があり、神経発達との関連は証拠が不十分だ。
参考文献:
Serum Vaccine Antibody Concentrations in Children Exposed to Perfluorinated Compounds(本文: PMC4402650)
Grandjean P, et al. JAMA 307(4), 391-397 (2012). DOI: 10.1001/jama.2011.2034
胎盤移行: Yang L, et al. Scientific Reports 6, 21699 (2016). DOI: 10.1038/srep21699 / 交絡の指摘: Verner MA, et al. Environ Health Perspect 123(12) (2015). DOI: 10.1289/ehp.1408837
本文: Yang et al. 2016(PMC4762009) / Verner et al. 2015(PMC4671243)
EFSA: Risk to human health related to the presence of perfluoroalkyl substances in food (2020)
解説(NIEHS): Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)
規制(米EPA): Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) drinking water regulation
規制(環境省): 「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」等の公布について









