

はかせ、朝早く起きる人は糖尿病になりにくいって本当なの?


ピッツバーグ大学の研究チームが、まさにそれを心拍リズムから示したんですよ。しかもリーダーは17歳のボート部の高校生です
早起きは三文の徳、と昔からいわれている。今回、朝型の遺伝子をもつ人は2型糖尿病のリスクが低いことが、24時間の心拍リズムを手がかりに明らかにされた。そのきっかけを作ったのは、毎朝4時半に起きる現役高校生の素朴な疑問だった。
朝型か夜型かは生まれつき決まっている


クロノタイプは遺伝子レベルで刻まれた性質
人が一番活発に動ける時間帯の傾向を、クロノタイプと呼ぶ。朝型か夜型かという二分法で日常的に使われる言葉と同じ概念だ。
大切なのは、クロノタイプが気合いや努力で自由に切り替えられる性質ではない点だ。どの遺伝子を親から受け継いだかによって、体がしゃっきり動く時間帯はほぼ決まってしまう。夜型の人が早朝会議に弱いのは、本人のやる気の問題ではなく、体のしくみとしてそうなっている。
研究を率いたピッツバーグ大学医学部のニール・ケリー助教は、クロノタイプが病気のかかりやすさに関わるとこれまでの研究で示されてきた、と説明する。ただし、その橋渡しを担うのは概日リズム(サーカディアンリズム)の個人差だという。
概日リズムは生活習慣で動く
クロノタイプと似た言葉に概日リズムがある。この2つはよく混同されるが、別物として区別して考える必要がある。
クロノタイプが生まれつきの設定値だとすると、概日リズムはその設定を踏まえて実際に体の中で動いている24時間の波だ。起床時刻や食事、運動、光を浴びる時間といった生活習慣によって、波のかたちは少しずつ前後に動いていく。
体の中の時計は、この波に合わせて血圧、ホルモン分泌、消化、脳の覚醒度を1日単位で細かく調整している。時計の針を右にも左にも無理矢理は動かせないが、毎日少しずつ撫でてやれば、やがて針の位置は変わっていく。そんなイメージだ。
夜更かしが代謝を乱すメカニズム
リズムが夜寄りにずれていくと、食事や活動のタイミングも後ろ倒しになり、本来は眠っているはずの時間帯に体が消化や代謝を続けることになる。体にとっては夜勤シフトが恒常化したような状態だ。
夜遅い食事は血糖の処理に負担をかける。深夜までスマートフォンの明るい画面を見ていれば、眠気を誘うメラトニンの分泌タイミングが後ろにずれる。こうした小さなずれの積み重ねが、代謝、気分、依存の回路にじわじわと影響する。
ケリー助教は「遅くまで起きていて活動を夜ふけまで先延ばしすることは、健康の面でマイナスな結果と結びついている」と語っている。今回の研究はこの経験則を、数万人規模の心拍データで裏取りした形といえる。
心拍の24時間パターンが体内時計を映し出す


従来は連続採血が必要だった
概日リズムを調べる研究は長らく、実験室に被験者を寝泊まりさせて数時間おきに採血し、メラトニンやコルチゾールの濃度変化を追いかける方法に頼ってきた。
当然ながら参加者にも研究者にも負担が大きい。ケリー助教は「連続採血を使う手法は手間がかかる」と振り返る。一度の研究で数十人分のデータをそろえるのがやっとで、何万人もの体内時計を比較するような大規模な解析は現実的ではなかった。
一般の生活をしている人の体内時計を、後からざっくり推定する簡便な指標。長年それが見つかっていなかった。そこでチームが目をつけたのがウェアラブル端末の心拍データである。
All of Usプロジェクトの大規模データを活用
活用したのは、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が主導するAll of Usリサーチプログラムというデータベースだ。参加者が提供した医療記録や生活情報を活かして医学研究の加速を目指す巨大プロジェクトで、スマートウォッチなどから送られてくる心拍記録もそこに集約されている。
チームは参加者1人あたり24時間分の心拍の変動を取り出し、その上下動のピークとボトムが1日のどのタイミングに現れるかという位相に注目した。そして、この位相を心拍フェーズ(HRP)と名付けた。
朝型の人ほど心拍のリズムは時間的に前寄りに、夜型の人ほど後ろ寄りにずれていた。しかもその位相は、すでにクロノタイプと関係があると分かっていた遺伝子変異のパターンときれいに対応した。採血せずとも、スマートウォッチの心拍記録だけで体内時計の傾きを読み取れることになる。
17歳の高校生が筆頭著者
研究を率いた筆頭著者は、毎朝4時半起きのボート選手として活動する高校生、ザッカリー・チャン君(当時17歳)だ。ペンシルベニア州のフォックス・チャペル・エリア高校の3年生で、中学2年生のころからボート部の朝練を続けている。
練習のない休日でも体が勝手に早く目覚める自分を見て「この早起き生活は自分の健康にどう効いているんだろう」という疑問を持ち、地元の大学研究室の扉を叩いた。ピッツバーグ大学のケリー助教が指導役となり、この研究は動き始めた。
共同研究者として精神医学のコリーン・マクラング教授、内科学のセイェド・メフディ・ヌーライ准教授といったベテラン研究者も名を連ねた。高校生が論文の筆頭著者を務めるのは異例だが、調査設計やデータ解釈の段階からチャン君自身が関わったという。
朝型の遺伝子が糖尿病の盾になる


3000以上の病気とリズムの関係を一気に調査
心拍フェーズという新しい物差しを手に入れたチームは、3,000以上の病気を対象に、心拍の位相と発症リスクの関係を一気に洗い出した。
統計的に意味のある結びつきが見つかったのは22件。夜型に寄った心拍リズムを持つ人ほど、代謝性疾患、依存症、気分障害のリスクが上がる傾向がはっきり現れた。
これまで別々の研究で散発的に指摘されてきた「夜型と病気の関係」を、単一の大規模データから裏付けた格好になる。心拍フェーズがクロノタイプ研究の実用的な指標として通用することも、この作業で確認された。
rs1144666という名の小さな文字違い
22件の関連の中でとりわけ目立ったのが、rs1144666(T)という1文字分の遺伝子変異だ。この変異を持つ人は朝型(いわゆる「モーニングネス」)に傾きやすく、同時に2型糖尿病の発症リスクが明らかに低いことが分かった。
人間のDNAは約30億文字のアルファベット列のようなもので、その中の1文字が人によって違っている場所が無数にある。rs1144666はその小さな個性の1つにすぎない。ただこの1文字の違いが、血糖のコントロールに関わる体内の時刻合わせに効いているとみられる。
朝型の人がなぜ糖尿病になりにくいのか、具体的な経路はまだ完全には解明されていない。血糖値をコントロールするインスリンの分泌タイミングが、朝型の人では1日の活動と上手くかみ合っている可能性があるが、仮説の段階だ。The Journal of Physiologyに掲載された今回の論文は、そのメカニズム解明の地図を描き始めた段階にある。
生活習慣で体内時計を押し戻せる可能性
朝型遺伝子を持って生まれなかった人には、ここまでの話は少し酷に聞こえるかもしれない。ただしケリー助教は、概日リズムそのものは生活の工夫で動かせる点を強調している。
早起きを習慣にして朝に運動を取り入れる、就寝前のスマートフォン時間を減らす、夕食を早めに済ませるといった行動で、心拍の位相は前寄りにシフトしていく余地がある。遺伝という土台はそのままでも、その上で揺れている波の位置は変えられる、ということだ。
「朝の運動で心拍フェーズが健康的な方向に動くと断言するのはまだ時期尚早だ」とケリー助教は慎重に付け加えつつ、「できる範囲で朝型の生活に寄せることには、健康上の手応えがありそうだ」とも話している。チームは今後、動物実験でリズムを司る遺伝子の働きを直接確かめ、生活介入による位相シフトが本当に発症リスクを下げるかを前向き試験で検証していく予定だ。


わたしも週末の夜更かしをちょっと減らしてみようかな!


無理なく続けることが一番ですよ。スマートウォッチを着けていれば自分のリズムも見えてきますね
ボート部の高校生が抱いた素朴な問いが、数万人分のデータと合流して1本の論文になった。スマートウォッチが当たり前になった時代だからこそ可能になった研究ともいえる。手首の心拍が語る24時間のリズムは、自分の体とうまくつきあうヒントを差し出し始めた。
参考文献:
Heart rate rhythms reveal early bird genetics may help shield against type 2 diabetes
出典: Medical Xpress










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