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朝型人間は糖尿病になりにくい!? 心拍リズムが明かした意外な関係

2026 7/12
人体・医学
2026年4月22日2026年7月12日
🕑この記事は約10分で読めます
シルミー

はかせ、朝早く起きる人は糖尿病になりにくいって本当なの?

はかせ

ピッツバーグ大学の研究チームが、心拍リズムからそういう関連を見つけたんですよ。しかもリーダーは17歳の高校生なんです。ただし「早起きすれば防げる」とまでは、まだ言えないところが大事なんですよ

早起きは三文の徳、と昔からいわれている。今回、朝型の遺伝子をもつ人ほど2型糖尿病のリスクが低いという関連が、24時間の心拍リズムを手がかりに明らかにされた。そのきっかけを作ったのは、早起き生活を送る現役高校生の素朴な疑問だった。ただし先に大事な点を言っておくと、これは「朝型の人にそういう傾向がある」という関連を見つけた研究であって、「早起きすれば糖尿病を防げる」という因果が証明されたわけではない。ここを取り違えないよう、順を追って見ていきたい。

目次

朝型か夜型かは生まれつきの傾向が大きい

朝日が差し込む寝室の窓

人が一番活発に動ける時間帯の傾向を、クロノタイプと呼ぶ。朝型か夜型か、という日常語とほぼ同じ概念だ。大切なのは、クロノタイプが気合いや努力だけで自由に切り替えられる性質ではない点である。どの遺伝子を親から受け継いだかによって、体がしゃっきり動く時間帯には、生まれつきの傾向がかなりある。夜型の人が早朝会議に弱いのは、必ずしも本人のやる気の問題ではなく、体のしくみとしてそうなっている面が大きいのだ。

研究を率いたピッツバーグ大学医学部のニール・ケリー助教らは、このクロノタイプが病気のかかりやすさに関わることが、これまでの研究で示されてきたと説明する。ただ、その橋渡しをしているのは概日リズム(サーカディアンリズム)の個人差だと考えられている。

クロノタイプと似た言葉に、この概日リズムがある。2つはよく混同されるが、別物として区別したほうがいい。クロノタイプが生まれつきの「設定値」だとすれば、概日リズムは、その設定を踏まえて実際に体の中で動いている24時間の波だ。起床時刻や食事、運動、光を浴びる時間といった生活習慣によって、この波の形は少しずつ前後に動く。体内時計は、この波に合わせて血圧やホルモン分泌、消化、脳の覚醒度を、1日単位で細かく調整している。

夜更かしが代謝を乱すと考えられる理由

リズムが夜寄りにずれていくと、食事や活動のタイミングも後ろ倒しになり、本来は眠っているはずの時間帯に体が消化や代謝を続けることになる。体にとっては、夜勤シフトが恒常化したような状態だ。

夜遅い食事は血糖の処理に負担をかけやすい。深夜までスマートフォンの明るい画面を見ていれば、眠気を誘うメラトニンの分泌タイミングが後ろにずれる。こうした小さなずれの積み重ねが、代謝や気分の調子にじわじわと影響していく――というのが、これまで考えられてきた大まかな筋書きだ。ただし、こうしたメカニズムの多くはまだ仮説を含んでおり、すべてがきっちり証明されているわけではない。今回の研究は、この「夜型と不調の関連」を、数万人規模の心拍データという大きな物差しで確かめようとしたものだ。

心拍の24時間パターンが体内時計を映し出す

心拍を計測するスマートウォッチ

概日リズムを調べる研究は長らく、実験室に被験者を寝泊まりさせ、数時間おきに採血してメラトニンやコルチゾールの濃度変化を追いかける方法に頼ってきた。当然、参加者にも研究者にも負担が大きい。ケリー助教も、連続採血を使う従来の手法は手間のかかる作業だったと振り返る。一度の研究で数十人分のデータをそろえるのがやっとで、何万人もの体内時計を比較するような大規模解析は、現実的ではなかった。

そこでチームが目をつけたのが、ウェアラブル端末の心拍データだ。活用したのは、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が主導するAll of Usリサーチプログラムという巨大データベース。参加者が提供した医療記録や生活情報を医学研究に活かす仕組みで、スマートウォッチから送られてくる心拍記録もそこに集まっている。

心拍が体内時計の手がかりになるのには理由がある。心臓の拍動は、自律神経を通じて体内時計の指令を受けており、1日の中でゆるやかに速くなったり遅くなったりする波を描く。チームは参加者一人あたり24時間分の心拍の変動を取り出し、それを24時間周期の波(サイン波)に当てはめて、その上下動のピークとボトムが1日のどのタイミングに現れるか、という「位相」を割り出した。そしてこの位相を心拍フェーズ(HRP)と名付けた。

分析すると、朝型の人ほど心拍のリズムは時間的に前寄りに、夜型の人ほど後ろ寄りにずれていた。しかもその位相は、すでにクロノタイプと関係があると分かっていた遺伝子変異のパターンときれいに対応していた。つまり、実験室での採血に頼らずとも、多くの人が身につけているスマートウォッチの心拍記録だけで、体内時計の傾きをおおまかに読み取れる――そういう新しい道具を手にしたことになる。これが、何万人という規模での比較を初めて可能にした。

17歳の高校生が筆頭著者

この研究を率いた筆頭著者は、早起きのボート選手として活動する高校生、ザッカリー・チャン君(当時17歳)だ。ペンシルベニア州のフォックス・チャペル・エリア高校の生徒である。ボート部の朝練のために早起きの生活を続けるうち、「こんなに早く起きる生活は、自分の健康にどう効いているんだろう」という疑問を持った。「この早起きは、自分の健康に何か影響しているのか。もし影響しているなら、どんなふうに?」――その素朴な問いを胸に、彼は地元の大学研究室の扉を叩いた。

ピッツバーグ大学のケリー助教が指導役となり、研究は動き始めた。共同研究者として、精神医学のコリーン・マクラング教授、内科学のセイェド・メフディ・ヌーライ准教授といったベテランも加わった。高校生が論文の筆頭著者を務めるのは異例だが、チャン君自身が調査設計やデータ解釈の段階から関わったという。「睡眠は健康の中で過小評価されている要素だと思う。とくに高校生にとっては」という彼の言葉には、当事者ならではの実感がにじむ。

朝型の遺伝子と糖尿病リスクの関連

血糖値を測る測定器

心拍フェーズという新しい物差しを手に入れたチームは、3,000以上の病気を対象に、心拍の位相と発症リスクの関係を一気に洗い出した。統計的に意味のある結びつきが見つかったのは22件。夜型に寄った心拍リズムを持つ人ほど、代謝性の病気、依存、気分の不調などのリスクが高い傾向が現れた。これまで別々の研究で散発的に指摘されてきた「夜型と不調の関連」を、単一の大規模データからまとめて裏付けた格好だ。

22件の中でとりわけ目立ったのが、rs1144666(T)という1文字分の遺伝子変異だ。この変異を持つ人は朝型に傾きやすく、同時に2型糖尿病の発症リスクが低いことが分かった。人間のDNAは約30億文字のアルファベット列のようなもので、その中の1文字が人によって違う場所が無数にある。rs1144666は、その小さな個性の一つにすぎない。ただ、この1文字の違いが、血糖のコントロールに関わる体内の時刻合わせに効いているのではないか、とみられている。

ここで、いちばん誤解されやすいポイントを整理しておきたい。今回はっきりしたのは、あくまで「朝型になりやすい遺伝子を持つ人は、糖尿病リスクが低い傾向がある」という関連だ。生まれ持った遺伝子と病気のなりやすさの結びつきであって、「夜型の人が早起きに切り替えれば糖尿病を防げる」という話とは、まったく別の次元にある。朝型の人がなぜ糖尿病になりにくいのか、その具体的な経路もまだ解明されていない。インスリンの分泌タイミングが朝型の人では活動と噛み合っているのでは、という仮説はあるが、確定していない。The Journal of Physiologyに掲載された今回の論文は、そのメカニズム解明の地図を描き始めた段階なのだ。

「早起きすれば防げる」とは まだ言えない

朝型の遺伝子を持って生まれなかった人には、ここまでの話は少し酷に聞こえるかもしれない。ただし救いもある。生まれつきのクロノタイプは変えにくくても、その上で動いている概日リズム(24時間の波)の位置は、生活の工夫である程度動かせると考えられているからだ。早起きを習慣づける、就寝前のスマホ時間を減らす、夕食を早めに済ませる。そうした行動で、心拍の位相は前寄りにシフトしていく余地がある。

ただし、ここが今回いちばん慎重に扱うべきところだ。「生活を朝型に寄せれば、本当に糖尿病のリスクが下がるのか」は、今回の研究では確かめられていない。今回分かったのは遺伝子と病気の関連であって、生活を変えることで病気を防げるという因果は、まだ検証されていないのだ。ケリー助教自身、「朝の運動で心拍フェーズが健康的な方向に動くと断言するのは、まだ時期尚早だ」と明確に釘を刺している。その一方で、「私自身は、今回分かったことをもとに、自分の行動を少し変えてみようという気持ちになっている」とも語る。あくまで一個人としての前向きな受け止めであって、万人への処方箋ではない。チームは今後、動物実験でリズムを司る遺伝子の働きを直接確かめ、生活の改善が本当に発症リスクを下げるのかを、前向き試験で検証していく予定だという。

個人的にこの研究で感心したのは、17歳の問いの立て方と、それを受け止めた研究チームの誠実さの両方だ。「自分の早起きは体にどう効いているのか」という等身大の疑問が、数万人のデータと出会って一本の論文になった。しかもチームは、成果を「早起きは糖尿病予防になる」と大きく言い切ってしまわず、「今分かったのは関連まで」と丁寧に線を引いている。健康の話題は、少し盛れば一気に広まる。だからこそ、こうやって相関と因果の境目をきちんと守る姿勢こそが、本当に信頼できる情報の条件なのだと考えている。手首の心拍が語る24時間のリズムは、自分の体とうまくつきあうための、新しいヒントを差し出し始めたばかりだ。

シルミー

「早起きしたら必ず防げる」わけじゃないんだね。でも夜更かしを減らすこと自体は、悪くなさそう!

はかせ

そのくらいの距離感がちょうどいいんですよ。過度に期待せず、でも生活リズムを整えること自体は気持ちよく続けられますからね

ボート部の高校生が抱いた素朴な問いが、数万人分のデータと合流して一本の論文になった。スマートウォッチが当たり前になった時代だからこそ可能になった研究だ。大切なのは、その結果を正しい距離感で受け取ること。早起きは魔法ではないけれど、自分のリズムを知る手がかりは、もう手首の上にある。そしてその小さな手がかりを、17歳の好奇心が科学へと押し上げた。身近な疑問こそが研究の出発点になる――この一本は、そのことも静かに教えてくれる。

参考文献:
Chan Z, et al. Heart rate phase is an indicator of chronotype-relevant circadian shifts associated with human disease: an All of Us Research Program analysis. The Journal of Physiology, 2026. DOI: 10.1113/JP290337
The Journal of Physiology 原論文
Heart rate rhythms reveal early bird genetics may help shield against type 2 diabetes(Medical Xpress)

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2型糖尿病 ピッツバーグ大学 代謝 体内時計 睡眠 遺伝子変異
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この記事を書いた人

シルミー編集者のアバター シルミー編集者

科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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