はかせ、がんの薬を1回注射するだけで、体中のがんが消えちゃうって本当なの?
すごい話ですよね。実はアメリカの研究チームが、たった1箇所の腫瘍に注射するだけで、全身のがん細胞が次々と消えていく治療法を開発したんです
この治療法の正体は、改良型のCD40抗体という薬だ。従来の免疫療法とは投与方法が根本的に違う。血液に流すのではなく、腫瘍に直接注射する。すると、注射していない離れた場所のがんまで消えてしまう。まるで体の中でドミノ倒しが起きるように。
免疫療法が抱えていた大きな問題


30年間失敗し続けた理由
実はCD40抗体という薬は、1990年代から研究されてきた。理論上は完璧なはずだった。CD40というスイッチを押せば、免疫細胞が目を覚まし、がんを攻撃し始める。
ところが臨床試験では何度も失敗した。薬を血液に注射すると、肝臓にダメージを与えてしまう。肝臓にはクッパー細胞という特殊な免疫細胞がいて、CD40抗体に過剰反応してしまうからだ。
薬の量を増やせば効果は上がるが、肝臓へのダメージも大きくなる。減らせば安全だが、がんには効かない。このジレンマに、研究者たちは30年以上悩まされてきた。
「注射する場所」を変えたら何が起きたか
ピッツバーグ大学のロバート・バーチャ博士のチームは、発想を180度転換した。血液に流すのをやめて、腫瘍に直接注射してみたらどうだろう?
結果は予想を超えていた。注射した腫瘍だけでなく、体の別の場所にあるがんまで縮み始めたのだ。しかも肝臓へのダメージはほとんどない。
これは全身性の免疫応答と呼ばれる現象だ。腫瘍の中で目覚めた免疫細胞が、がん細胞の特徴を学習し、血液に乗って全身を巡る。そして他の場所にある同じタイプのがんを見つけては攻撃する。まるで指名手配犯を追う刑事のように。
改良版CD40抗体の秘密
研究チームはもう1つ工夫をした。従来のCD40抗体の構造を作り変えたのだ。
抗体の形には意味がある。Y字型をしたタンパク質で、枝の先端がターゲットにくっつき、根元の部分が免疫細胞を呼び寄せる。研究チームは根元の部分を改造し、より強力に免疫細胞を活性化できるようにした。
さらに、腫瘍の中に長くとどまる設計にした。血液に流すとすぐに体外に排出されてしまうが、腫瘍に注射すれば数日間その場に留まり、じわじわと効果を発揮する。
人間での臨床試験で見えた希望


15人の患者で何が起きたか
初期の臨床試験には、15人のがん患者が参加した。全員が標準治療では効果がなかった進行がんの患者だ。
治療法はシンプルだ。体の中のがんのうち、1箇所だけを選んで改良型CD40抗体を注射する。量は従来の血液投与と比べて非常に少ない。
数週間後、驚くべき結果が出た。注射していない別の場所の腫瘍が縮小し始めた患者がいたのだ。中には、複数の腫瘍が同時に小さくなったケースもあった。
副作用は本当に少ないのか
がん治療で最も恐れられるのが副作用だ。抗がん剤は正常な細胞も攻撃してしまい、吐き気や脱毛、免疫力の低下を引き起こす。
ところがこの治療法では、重篤な副作用はほとんど報告されなかった。注射した部分に軽い炎症が起きる程度だ。肝臓の数値も正常範囲内に保たれた。
なぜこんなに安全なのか。理由は2つある。1つは薬の量が少ないこと。もう1つは、腫瘍という「がんの本拠地」で免疫細胞を訓練するため、正常な組織への誤爆が起きにくいことだ。
他の免疫療法との組み合わせ
さらに面白いのは、この治療法が他の免疫療法と相性が良いことだ。
チェックポイント阻害薬という別のタイプの免疫療法がある。これは免疫細胞にかかっているブレーキを外す薬だ。ところが、ブレーキを外しても、そもそも免疫細胞が「がんを攻撃しよう」と思っていなければ効果がない。
改良型CD40抗体は、免疫細胞に「攻撃しろ」という命令を出す。そこにチェックポイント阻害薬を組み合わせれば、より強力な効果が期待できる。実際、動物実験では併用療法で腫瘍が完全に消えたケースもあった。
実用化への道のりと今後の展望


どんな種類のがんに効くのか
現時点では、固形がんと呼ばれるタイプのがんで効果が確認されている。乳がん、大腸がん、メラノーマなどだ。
一方、血液のがん(白血病など)には別のアプローチが必要かもしれない。固形がんは「塊」として存在するため、そこに直接注射できるが、血液のがんは体中に散らばっているからだ。
ただし研究チームは、リンパ節に転移したがんにも効果があることを確認している。リンパ節は免疫細胞が集まる場所なので、そこで免疫細胞を訓練すれば、より効率的に全身に広がる可能性がある。
臨床試験の次のステップ
現在進行中の臨床試験は第I相試験と呼ばれる段階だ。主な目的は安全性の確認で、患者数も少ない。
次は第II相試験に進む。ここでは数十人から百人規模の患者で、どれくらいの割合で効果が出るのかを調べる。がんの種類ごとに最適な投与量や投与スケジュールも決めていく。
最終的な第III相試験では、従来の標準治療と比較して、本当に生存率が上がるのかを証明する必要がある。ここまで来れば、薬として承認される可能性が高い。
日本での実用化はいつ頃か
アメリカでの臨床試験が順調に進めば、5年以内に承認される可能性がある。
日本では、アメリカで承認された薬を審査するプロセスがあるため、さらに1〜2年かかるかもしれない。ただし、画期的な治療法には優先審査制度が適用されることもある。
費用も気になるところだ。免疫療法は一般的に高額で、年間数百万円かかることもある。ただしこの治療法は投与回数が少なく、入院も不要なため、トータルのコストは抑えられる可能性がある。
将来的にはどんな使い方ができるのか
研究チームは、この治療法を手術前の補助療法として使うアイデアも持っている。
手術でがんを取り除く前に、腫瘍に注射して免疫細胞を訓練する。すると手術後に残っているかもしれない微小ながん細胞を、免疫細胞が見つけて排除してくれる。再発率を下げる効果が期待できる。
また、転移しやすいがんの患者には、定期的に注射することで、新しい転移が起きるのを防ぐ使い方もできるかもしれない。
1箇所に注射するだけで、体中のがんをやっつけられるなんてすごいね!
本当にそうですね。免疫の力を上手に使えば、体自身ががんと戦ってくれる。まだ研究段階ですが、多くの患者さんに希望を与える治療法になりそうです
がん治療の歴史は、試行錯誤の連続だった。手術、放射線、抗がん剤、そして免疫療法。30年かかって、ようやくCD40抗体の正しい使い方が見つかった。注射する場所を変えるだけで、結果がこれほど変わるとは誰も予想していなかった。
次の臨床試験の結果が待たれる。
参考文献:
Scientists inject one tumor and watch cancer vanish across the body
出典: ScienceDaily










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