年々きびしくなる夏の暑さ。とりわけ都市の暑さは、コンクリートに囲まれて逃げ場がない。この都市の暑さをやわらげる、意外な「天然のクーラー」がある。
街路樹だ。
そして今、その木をどこに、どんな種類で植えれば最も効果的かを、AIが計算してくれるツールが登場した。開発したのは、オーストラリアのクイーンズランド工科大学(QUT)の研究チームだ。
実際に何がどこまでできるのかを見ていこう。
キク最大3.5℃って、街全体がまるごと3.5℃下がるってことなのかな?
街の暑さをAIが計算し、木の場所を決める


QUTの研究チームは、都市のどこに、どの種類の木を植えれば暑さをやわらげられるかを計算するAIの枠組みをつくった。
成果は都市研究の専門誌『Cities』の2025年12月号(167巻)に掲載された。
筆頭著者はQUT博士課程のAbdul Shaamala氏で、Tan Yigitcanlar教授らが加わっている。
使われているのは、アリの行動をヒントにした「蟻コロニー最適化(Ant Colony Optimisation)」というアルゴリズムだ。
これに、人が感じる暑さの指標であるUTCI(Universal Thermal Climate Index)の高解像度シミュレーションと、樹種ごとの熱に関する性質を組み合わせた。
UTCIは、人にとっての「体感」の温度を測る指標だ。
論文はさらに、時間帯ごとの暑さのストレスの変化をとらえる新しい指標として、Bio-Thermal Gain Index(BTGI)を提案している。
検証の舞台は、クイーンズランド州ブライビー島の新しく開発された郊外だ。極端な夏の条件を想定して、新しい緑化策を試すのに向いた場所として選ばれた。
最適化した配置では、39℃を超える区域が22%減り、熱的に快適な区域が18%増え、冷却効果は最大で3.5℃になった。
Shaamala氏は「配置と樹種の組み合わせを専用のアルゴリズムで探したところ、最適化した配置では、39℃を超える区域が22%減り、熱的に快適な区域が18%増え、冷却効果は最大で3.5℃になった」と述べている。
3.5℃は「最大」の値で、街全体の気温が一律に3.5℃下がるという意味ではない。また、これは実際に木を植えた街での測定ではなく、シミュレーション上の評価だ。


なぜ都市は、田舎より暑いのか


建物や道路などの構造物は、森林や水辺などの自然の地面より、太陽の熱を吸収して再び放出しやすい。緑が少なく構造物が集中する都市は、周囲より気温の高い「島」になる。
これがヒートアイランドだ。
木や植物は、日陰をつくり、葉から水を蒸散させて空気を冷やす。屋根、歩道、道路、駐車場のような硬くて乾いた表面は、日陰も水分も少ないため、気温を押し上げる。
米国EPA(環境保護庁)によると、アメリカでは都市の日中の気温が周辺より華氏で約1〜7度(摂氏でおよそ0.6〜3.9度)高く、夜間は約2〜5度(摂氏でおよそ1.1〜2.8度)高い。
ヒートアイランドは日中の気温を上げるだけでなく、夜間の冷え込みも弱める。
熱の影響がとくに心配なのは、高齢者、幼い子ども、低所得の人々、屋外で働く人、持病や障害のある人などだとEPAは述べている。
木が街を冷やすしくみと、この研究が見たもの


EPAは、木や植物が日陰と蒸散によって空気を冷やすと説明している。QUTの発表では、この蒸散を「蒸発散」と呼び、水蒸気を出して空気を冷やすことだと説明している。
Shaamala氏は「従来の緑化の取り組みは日陰と蒸発散の恩恵をもたらすが、見た目を重視した固定的な植え方が多く、都市の熱の流れの複雑さにも、樹種ごとの特性や地域の気候の大きな影響にも対応できていない」と述べている。
この研究では、熱への強さ、調査地への適応力、樹冠の形をもとに4種類の木が選ばれた。
アッシュ(Fraxinus griffithii)は丸い樹冠の中型の落葉樹、ブラッシュボックス(Tristania conferta)は半球形でそろった樹冠の密な常緑樹、イエローウッド(Podocarpus elongatus)は細く直立する樹冠のコンパクトな常緑樹、クイーンパーム(Syagrus romanzoffiana)は細い幹と扇形の樹冠をもつ背の高いヤシだ。
QUTの発表は、気温を下げるうえで、木の種類の選び方は植える場所と同じくらい大切だと伝えている。
確実に言えること、まだ分からないこと


論文の抄録とQUTの発表から言えるのは、樹種と配置を同時に最適化した場合に、シミュレーション上で暑い区域が減り、快適な区域が増えたことだ。
一方で、この結果は1か所の郊外を対象にしたシミュレーションで、実際に木を植えた街での測定ではない。
この記事は論文の抄録とQUTの発表をもとにしており、論文本文にある計算条件や木の本数などの細部は確かめられていない。
日本の街で同じ効果が出るかは分からない


QUTの発表によると、研究チームは、猛暑で過熱の危険がある地域で、都市計画の担当者が植樹の樹種と場所に優先順位をつけるのにこのツールを使えるとしている。
論文の抄録も、この枠組みを、ほかの場所にも使える再現可能な枠組みとして提案している。
ただし、実際に検証したのはクイーンズランド州ブライビー島の1つの郊外だけだ。気候や街のつくりが違う日本の街で同じ効果が出るかは、この研究だけでは分からない。



木で下がる3.5℃は最大の値で、シミュレーションの結果なのか。数字より、どこにどの木を植えるかを計算で選べるところがこのツールのねらいなんだな。
参考文献:
Algorithmic urban greening for thermal resilience: AI-optimised tree placement and species selection(Cities, 2025, DOI:10.1016/j.cities.2025.106356)
New AI tool optimises tree species and planting for cooling urban streets(QUT, 2026年2月16日)
What Are Heat Islands?(US EPA)
出典: Cities (Elsevier) / US EPA / QUT









