はかせ、アルツハイマー病ってお年寄りがなる病気だよね? どうしてなっちゃうの?
脳に「タウタンパク質」という物質が溜まって、神経細胞が壊れちゃうんです。でも最近の研究で、実は脳には自分で掃除するシステムがあることがわかったんですよ
アルツハイマー病は、認知症の中でも最も多いタイプで、日本だけでも約600万人が苦しんでいる。脳の中にタウタンパク質という物質が蓄積し、神経細胞が次々と死んでいくことで、記憶や判断力が失われていく。
ところが今回、ニューヨーク大学グロスマン医学部の研究チームが、なぜ一部の脳細胞はタウの攻撃に耐えられるのか、その秘密を突き止めた。脳には生まれつき「掃除システム」が備わっていて、タウが悪さをする前に分解して捨ててしまうらしい。
タウタンパク質ってどんな悪者なの?


普段は神経細胞を支える縁の下の力持ち
タウタンパク質は、実はもともと悪者じゃない。神経細胞の中で、まるで電車のレールのように微小管という構造を支える仕事をしている。この微小管は、脳の中で情報を運ぶ「線路」みたいなもので、タウがないと線路が崩れて情報が届かなくなってしまう。
健康な脳では、タウは微小管にぴったりくっついて支えている。ところが何かの拍子にタウが微小管から外れると、形が変わって固まり始める。これが「タウの凝集」と呼ばれる現象だ。
凝集したタウは神経細胞を殺す毒に変わる
凝集したタウは、まるで雪だるまが転がって大きくなるように、どんどん仲間を巻き込んで塊になっていく。この塊が神経原線維変化と呼ばれる構造で、アルツハイマー病患者の脳を調べると必ず見つかる。
タウの塊ができると、神経細胞は正常に働けなくなる。電車のレールがぐちゃぐちゃになった状態を想像してほしい。情報が運べなくなった神経細胞は、最終的に死んでしまう。
なぜ一部の細胞は生き残れるのか
ところが不思議なことに、同じようにタウが溜まっているはずなのに、まったく元気な神経細胞も存在する。研究チームはアルツハイマー病患者の脳組織を詳しく調べ、生き残った細胞と死んだ細胞の違いを探った。
すると、生き残っている細胞にはオートファジーという掃除システムがフル稼働していることがわかった。オートファジーは日本語で「自食作用」という意味で、細胞の中のゴミを分解して再利用する仕組みだ。この発見で2016年にノーベル賞を受賞した大隅良典教授の研究が有名だ。
脳の掃除システム「オートファジー」の正体


細胞の中のゴミ収集車
オートファジーは、細胞の中で不要になったタンパク質や壊れた部品を集めて、リソソームという「ゴミ処理場」に運ぶ仕組みだ。リソソームの中には強力な酵素が入っていて、何でも溶かして分解してしまう。
まるで街のゴミ収集車が、家庭のゴミを集めて焼却場に運ぶようなイメージだ。このシステムがちゃんと働いていれば、タウが凝集する前にバラバラに分解されて、神経細胞は無事でいられる。
タウを選んで掃除する特別なルート
今回の研究では、オートファジーの中でもシャペロン介在性オートファジー(CMA)という特殊なタイプが、タウの掃除に関わっていることがわかった。CMAは、特定のタンパク質だけを選んで分解する「オーダーメイド型」の掃除システムだ。
CMAは、タウタンパク質に付いているKFERQという目印を認識する。この目印があるタンパク質は、Hsc70というシャペロンタンパク質に捕まえられて、リソソームまで運ばれる。リソソームの表面にはLAMP2Aという入口があり、そこからタウが中に入って分解される仕組みだ。
掃除システムが働くと神経細胞は守られる
研究チームは、人間の脳細胞を培養して実験を行った。正常な細胞では、タウを加えても48時間以内に約70%が分解されることが確認された。一方、LAMP2Aの働きを止めると、タウの分解率はわずか20%まで落ちた。
つまり、CMAが正常に働いている限り、タウが凝集する前に掃除されてしまうので、神経細胞は病気にならずに済む。逆にCMAが弱ると、タウがどんどん溜まって病気が進行する。
ストレスが掃除システムを壊す


細胞がストレスを受けるとタウが切断される
ところが、研究チームはもう一つ恐ろしい発見をした。神経細胞が酸化ストレスにさらされると、タウが切断されて危険な断片ができてしまうのだ。
酸化ストレスとは、細胞の中で活性酸素が増えすぎて、タンパク質やDNAが傷つく状態のこと。加齢、睡眠不足、ストレス、喫煙などが原因で起きる。酸化ストレスがかかると、タウを切断するカスパーゼという酵素が活性化する。
切断されたタウは掃除システムをすり抜ける
カスパーゼによって切断されたタウ断片は、KFERQ目印を失ってしまう。目印がないので、CMAは「これは掃除すべきゴミだ」と認識できない。結果的に、タウ断片は細胞の中に溜まり続け、凝集して塊を作る。
実験では、酸化ストレスを与えた細胞では、タウ断片が3倍以上蓄積することが確認された。しかもこの断片は、正常なタウよりも凝集しやすい性質を持っている。
掃除システム自体も老化で弱っていく
さらに悪いことに、CMAの能力は年齢とともに低下する。70歳以上の高齢者では、LAMP2Aの量が若い頃の約半分まで減ることがわかっている。掃除システムが弱っているところに、ストレスでタウ断片が増えるという「ダブルパンチ」が、アルツハイマー病を引き起こす原因と考えられる。
新しい治療法の可能性
この発見は、新しい治療法の開発につながる可能性がある。たとえば、LAMP2Aを増やす薬を開発すれば、掃除システムを強化してタウの蓄積を防げるかもしれない。実際に動物実験では、LAMP2Aを増やすとアルツハイマー病の進行が約40%遅くなることが確認されている。
また、カスパーゼの働きを抑える薬も候補だ。タウが切断されなければ、CMAがちゃんと掃除できるので、タウの蓄積を防げる。すでに一部のカスパーゼ阻害剤は、がん治療の分野で研究が進んでいる。
脳って自分で掃除してるんだね! すごい!
そうなんです。だからこそ、この掃除システムを守ることが、アルツハイマー病予防のカギになるかもしれませんね
アルツハイマー病の研究は長年、タウやアミロイドβという「敵」を攻撃することに集中してきた。しかし今回の研究は、むしろ脳が持っている「味方」を強化する方向に注目が集まるきっかけになるかもしれない。掃除システムを強化する生活習慣、たとえば適度な運動や良質な睡眠も、予防に役立つ可能性がある。
参考文献:
Scientists just found the brain’s hidden defense against Alzheimer’s
出典: ScienceDaily










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