いびきをかき、夜中に何度も呼吸が止まる。睡眠時無呼吸症候群は、日中の強い眠気だけでなく、高血圧や心臓の病気のリスクも高める身近だが侮れない病気だ。
その治療には長らくマスクを装着する方法が中心だった。だがそのマスクを続けられずに脱落する人が、後を絶たなかった。
もし飲み薬で治療できたら——。長年の空白地帯だったこの願いに、意外な薬が光を当てた。もともとはてんかんの薬だ。
ヨーロッパの研究チームが298人を対象にした試験で、その効果を確かめた。ただしこれはまだ承認前の薬だ。
睡眠時無呼吸症候群とは
眠ると気道がふさがる
睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、眠っているあいだに空気の通り道であるのどが、繰り返し狭くなったり塞がったりする病気だ。
睡眠時無呼吸には、眠っている間の筋肉の働きの低下と、もともとの気道の形という2つの要因が重なって関わる。
試験では、睡眠中の呼吸の止まりやすさを表す無呼吸低呼吸指数(AHI)を使い、AHIが15以上50以下の中等症から重症の成人を対象にした。
世界では10億人近くが睡眠時無呼吸にかかっているという推計がある(Apnimed社の発表)。
放っておくと全身に響く
眠っている間に気道が何度もつぶれると、呼吸が一時的に止まって酸素が下がり、眠りが繰り返し妨げられる。
治療せずにいると、高血圧や心臓病、脳卒中、2型糖尿病のリスクが高まる。
治さないままだと、血圧や心臓にも関わってくるんだね。
マスク治療の大きな壁
睡眠時無呼吸の標準治療は、CPAP(シーパップ)と呼ばれる方法だ。鼻や口に装着したマスクから空気を送り込み、その空気の力で内側から気道を押し広げて、閉塞を防ぐ。
効果そのものは非常に高い。問題は、その効果を続けられるかどうかにある。
CPAPの壁は、マスクを着けたまま眠る負担だ。1年以内に最大で半数が使うのをやめるという。
やめる理由には、マスクの不快感や、眠りの妨げになることが挙げられている。
飲み薬という長年の空白
マスクのほかには、舌を前に出すタイプのマウスピースなどがあるが、噛み合わせが変わるといった欠点がある。
そして、睡眠時無呼吸の原因に直接働く薬は、これまでなかった。
2024年末には米国で、肥満のある中等症から重症の患者向けにチルゼパチドが承認されたが、効果は主に首まわりの減量によるとみられ、気道の筋力や呼吸の調節といった別の原因には働かない。
その空白を埋めるかもしれない候補として現れたのが、意外な薬だった。
てんかんの薬がなぜ呼吸に効くのか


てんかん薬として使われてきたスルチアム
その薬の名は、スルチアム(sulthiameとも表記される)という。
1950年代に合成された抗てんかん薬で、欧州の複数の国やイスラエル、日本、オーストラリアなどで部分発作の治療に使われている。
米国では登録されていない。
この薬は以前から、小児のてんかんの一種の治療薬として承認されている。2024年の予備的な研究で、上気道の筋の張りを高め、呼吸の制御を安定させることが示されていた。
呼吸の制御を安定させる
スルチアムは炭酸脱水酵素を阻害する薬だ。論文の要旨は、この働きで換気の反応と上気道の筋の活動が改善するとしている。
ヨーテボリ大学の発表では、体の呼吸の制御を安定させて呼吸の駆動力を高め、睡眠中に上気道がつぶれる可能性を下げる、と説明されている。
てんかんの薬が呼吸に効くなんて意外! 既にある薬の再発見って面白いね。
298人で確かめた「FLOW試験」
用量を変えて効果を測る
この効果を確かめたのが、「FLOW試験」と呼ばれる臨床研究だ。ヨーロッパの5カ国、28の施設が参加した大規模な試験である。
結果は、権威ある医学誌ランセットに2025年に報告された。対象は、まだ治療を受けていない中等症から重症の睡眠時無呼吸の成人298人。
298人は、プラセボ(75人)か、スルチアム100mg(74人)、200mg(74人)、300mg(75人)のいずれかに同じ割合で無作為に分けられた。
就寝前に1日1回、15週間飲み、投与を終えたのは240人だった。
用量を3段階に変えたのは、どの量がいちばん効いて副作用とのバランスが取れるかを探るためで、こうした試験を用量探索試験という。
錠剤は見た目が同じで、医師も患者もどちらを飲んでいるか知らされない二重盲検だった。
最高用量で無呼吸低呼吸指数が約35%低下
結果は、用量が多いほど無呼吸低呼吸指数(AHI3a)の低下が大きくなった。プラセボとの差し引きで、100mgは約16%、200mgは約30%の低下だった。
最も多い300mgのグループでは、プラセボとの差し引きで無呼吸低呼吸指数が約35%低下した。95%信頼区間は20.0〜49.1%の低下だった。
夜間の低酸素や睡眠の質、日中の眠気も改善した。
副作用で多かったのは手足のしびれ感で、用量が多いほど増えた(プラセボ9%、100mg 22%、200mg 43%、300mg 57%)。
頭痛は300mgで15%、プラセボで8%だった。何らかの有害事象があった人は、プラセボで61%、300mgで91%だった。
発表では、副作用の多くは軽度から中等度で、炭酸脱水酵素阻害薬で知られている内容と一致していたという。
ただし、この試験の資金は、てんかん薬の製造販売元であるDesitin社が出している。
著者にはDesitin社の社員2人が含まれ、ヘドナー氏ら3人は、スルチアムによる睡眠時無呼吸の治療に関する特許のライセンスを受けた会社の株主だと、論文に記されている。
マスクが続かない人に、飲み薬の選択肢が出てくるかもしれないんだね!


「これから」の薬であるという現実
まだ承認前、より大きく長い試験が必要
ここで慎重に伝えたいことがある。FLOW試験は、あくまで第2相の用量を決めるための試験だ。スルチアムは、睡眠時無呼吸の治療薬としてまだどの国でも承認されていない。
298人、15週間というデータだけでは、より長い期間の安全性や心臓の病気を実際に減らす効果、より多様な患者での効果は、まだ十分に確認できていない。
試験に加わったヨーテボリ大学サールグレンスカアカデミーの呼吸器医学のシニア教授、ヤン・ヘドナー氏は、大学の発表でこう話している。
「長いあいだこの治療法に取り組んできました。結果は、睡眠時無呼吸に薬で実際に影響を与えられることを示しています。画期的だと感じています。効果が長く続くのか、より幅広い患者で安全なのかを確かめる、より大規模で長期の試験を楽しみにしています」
なお、飲み薬の候補はスルチアムだけではない。米国のApnimed社の別の飲み薬AD109は、2025年に2本の第3相試験で主要評価項目を達成したと発表されている。
Apnimed社はスルチアムの開発権も得ているが、AD109とは作用の仕組みが異なる薬だと説明している。
これからもっと大きくて長い試験をするんだね。期待しつつ、冷静に待つのが大事だ。
候補が現れた意味
とはいえ、原因に直接働く承認済みの薬がなかった睡眠時無呼吸に、新しい候補が現れた意味は小さくない。
スルチアムはてんかん薬として以前から使われてきた薬で、今回の試験でも副作用は、炭酸脱水酵素阻害薬で知られている内容と一致していた。
睡眠を守るための新しい一歩
自分の眠りに目を向ける
もしあなたや家族が大きないびきをかいたり、寝ても疲れが取れなかったり、日中に強い眠気を感じたりしているなら、睡眠時無呼吸のサインかもしれない。
一度専門の医療機関に相談してみる価値がある。Apnimed社は、患者の最大8割が診断を受けていないと推計している。
参考文献:
Sultiame once per day in obstructive sleep apnoea (FLOW): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, dose-finding, phase 2 trial
Randerath W, Grote L, Stenlöf K, Fietze I, et al.; Hedner J, FLOW study investigators. The Lancet 406(10514), 1983-1992 (2025). DOI: 10.1016/S0140-6736(25)01196-1
出典: The Lancet / FLOW investigators
PubMed(要旨)
ヨーテボリ大学の発表(ScienceDaily)
Apnimed社の発表









