はかせ、セロトニンって「幸せホルモン」だよね? それが腸で作られるってどういうこと?
実は驚きの発見があったんです。腸の中に住んでいる細菌の中に、セロトニンを作り出せる種類がいることが分かったんですよ
お腹の調子が悪くなる過敏性腸症候群(IBS)。日本では約10人に1人が悩んでいると言われているこの病気に、新しい治療法の道が開けるかもしれない。
腸の中で「幸せホルモン」を作る細菌がいた


セロトニンって本当は何をするホルモン?
セロトニンと聞くと、多くの人は「気分を明るくするホルモン」というイメージを持っているかもしれない。確かに脳の中では気分の調整に関わっているが、実は体の中にあるセロトニンの約95%は腸に存在している。
腸のセロトニンが何をしているかというと、腸の動きをコントロールしている。食べたものを消化して、適切なスピードで腸の中を移動させる。このリズムが狂うと、下痢になったり便秘になったりするわけだ。
過敏性腸症候群の患者さんの多くは、腸のセロトニンの量やバランスが乱れていることが以前から知られていた。でも、なぜ乱れるのか、どうやって治せばいいのかは謎だった。
2種類の細菌が特定された
今回の研究を行ったのは、カリフォルニア大学サンディエゴ校のチームだ。彼らは腸内細菌を1種類ずつ調べる地道な作業の末に、セロトニンを作り出せる2種類の細菌を発見した。
1つ目はLimosilactobacillus reuteri(リューテリ菌)。2つ目はLactococcus lactis(ラクティス菌)。どちらも乳酸菌の仲間で、ヨーグルトなどの発酵食品にも含まれることがある種類だ。
研究チームは、この2種類の細菌が持っている遺伝子を詳しく分析した。すると、セロトニンの材料であるトリプトファンというアミノ酸から、実際にセロトニンを合成する酵素を持っていることが分かったのだ。
マウス実験で効果を確認
本当に腸内でセロトニンを作れるのか。研究チームは、セロトニンを自分で作れない特殊なマウスを使って実験を行った。
このマウスに2種類の細菌を与えると、腸の中のセロトニン濃度が正常レベルまで回復した。さらに驚いたことに、腸の壁にある神経細胞の数も増え始めた。腸の動きを測定すると、食べ物を運ぶスピードも正常なマウスと同じになっていた。
つまり、腸内細菌が作るセロトニンは、ただそこに存在するだけじゃない。腸の神経系全体に影響を与えて、消化システムを正常に機能させる力を持っているのだ。
腸と脳をつなぐ「第二の神経系」


腸には独自の神経ネットワークがある
実は腸には、脳や脊髄とは別に、独自の神経システムが存在する。その名も腸管神経系。腸の壁の中に張り巡らされた神経細胞のネットワークで、約1億個もの神経細胞が働いている。
この数は脊髄全体の神経細胞とほぼ同じだ。だから腸は「第二の脳」と呼ばれることもある。腸管神経系は、食べ物の消化・吸収、腸の動き、血流の調整などを、脳からの指令を待たずに自動的にコントロールしている。
セロトニンは、この腸管神経系の中で重要な伝達物質として働く。神経細胞から神経細胞へと信号を伝える役割だ。セロトニンが不足すると、この信号伝達がうまくいかなくなり、腸の動きが乱れる。
過敏性腸症候群とセロトニンの関係
過敏性腸症候群の患者さんを調べると、腸のセロトニンレベルに異常が見られることが多い。ある患者さんはセロトニンが多すぎて腸の動きが速くなり下痢型に、別の患者さんは少なすぎて便秘型になる。
従来の治療法は、症状に応じて腸の動きを調整する薬を使うというものだった。でも根本的な原因であるセロトニンの異常を直接治す方法はなかった。
今回の発見により、腸内細菌のバランスを整えることでセロトニンレベルを正常化できる可能性が出てきた。薬ではなく、特定の細菌を含むプロバイオティクス(善玉菌)を摂取する治療法が現実味を帯びてきたのだ。
すべての腸内細菌が同じわけじゃない
腸内には約1000種類、100兆個もの細菌が住んでいる。その総重量は約1〜2キロにもなる。
これまでの研究で、腸内細菌のバランスが健康に重要だということは分かっていた。でも、どの細菌がどんな働きをしているのか、詳しいことはまだまだ謎だらけだ。
今回セロトニンを作れる細菌が特定されたことで、腸内細菌研究に新しい扉が開いた。他にも重要な物質を作る細菌がいるはずだ。それを1種類ずつ特定していけば、病気の新しい治療法がどんどん見つかるかもしれない。
治療への応用と今後の課題


プロバイオティクス治療の可能性
この発見を実際の治療に応用するには、いくつかのステップが必要だ。まず、リューテリ菌とラクティス菌を含むプロバイオティクス製品を開発する。次に、それを過敏性腸症候群の患者さんに投与する臨床試験を行う。
研究チームによれば、この2種類の細菌は安全性が高く、すでに一部のヨーグルトやサプリメントにも使われている。そのため、臨床試験へのハードルは比較的低いという。
数年以内に人間での試験が始まる見込みだ。もしうまくいけば、副作用の少ない新しいIBS治療法として実用化される可能性がある。
他の病気への応用も視野に
腸のセロトニン異常が関わっている病気は、過敏性腸症候群だけではない。炎症性腸疾患、うつ病、自閉スペクトラム症などでも、腸のセロトニンレベルの異常が報告されている。
特に注目されているのが、腸と脳のつながり、いわゆる「腸脳相関」だ。腸で作られたセロトニンは血液脳関門を通過できないため、脳に直接届くわけではない。でも、腸の神経系から脳へと信号が送られることで、間接的に脳の働きに影響を与えている可能性がある。
今回の発見は、腸内細菌が脳の健康にも関わっているという仮説を支持する重要な証拠になるかもしれない。
個人差をどう扱うか
腸内細菌のバランスは人それぞれ違う。食生活、遺伝、年齢、住んでいる地域などによって、腸内細菌の構成は大きく異なる。
リューテリ菌とラクティス菌を投与しても、すべての人に同じ効果があるとは限らない。その人がもともと持っている腸内細菌との相性や、腸内環境によって効果が変わる可能性がある。
将来的には、患者さん一人ひとりの腸内細菌を分析して、その人に最適な細菌の組み合わせを処方する「パーソナライズド医療」が実現するかもしれない。
お腹の中の細菌が、こんなに大事な働きをしてたんだね!
そうなんです。私たちの体は、自分の細胞だけで動いているわけじゃない。腸内細菌という「見えないパートナー」と協力して、健康を保っているんですよ
過敏性腸症候群で悩む人は世界中に数億人いる。この発見が、多くの人の生活を改善する新しい治療法につながることを期待したい。腸内細菌研究はまだ始まったばかりで、これから何が分かるのか、ワクワクする分野だ。
参考文献:
Gut bacteria that make serotonin may hold the key to IBS
出典: ScienceDaily










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