AIを使って設計し、針を使わずに皮膚の中へ接種する、コロナウイルス用のDNAワクチン候補「pEVAC-PS」。
これを人で初めて試した第1相試験の結果が、2026年に学術誌Journal of Infectionに掲載された。
健康な39人が接種を受け、4段階の用量のいずれでも安全性に大きな懸念は見られなかった。
ただし、第1相試験の主な目的は「安全に接種できるか」を確かめることで、「病気を実際に防げるか」という有効性は調べていない。
免疫の反応についても、論文自身が「控えめ」だったと書いている。ニュースの見出しになりがちな「次のコロナを防ぐ」は、あくまで将来への期待であって、今回の結論ではない。
何が発表されたのか

複数機関の共同で行われた第1相試験
この第1相試験は、複数の機関による共同研究だ。論文の筆頭著者は、サウサンプトン大学病院NHS財団トラストのNIHR臨床研究施設に所属するマンロー(A. P. S. Munro)氏。
連絡先の著者は、サウサンプトン大学のサウル・ファウスト教授と、ケンブリッジ大学獣医学部のジョナサン・ヒーニー教授の2人だ。
ファウスト教授は試験全体の責任者(チーフ・インベスティゲーター)を務め、ヒーニー教授は研究の科学面を率いた。
ワクチンは、ケンブリッジ大学と、同大学発のスタートアップDIOSynVax(DVX)社が開発した。
pEVAC-PSは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)だけでなく、SARSや、コウモリが持つ近縁のウイルスまで含む「サーベコウイルス」のグループ全体に備えることを狙ったワクチンだ。
試験は、サウサンプトンとケンブリッジにあるNIHR(英国国立衛生研究所)の臨床研究施設2か所で行われ、サウサンプトン大学病院NHS財団トラストが主催した。
研究費はおもにInnovate UKが出している。なお、著者のうち数人はDIOSynVax社の社員や株主で、論文はそのことを利益相反として開示している。
背景には、ウイルスが変わり続けるという問題がある。
ファウスト教授は「インフルエンザやコロナウイルス、エボラのグループのようなウイルスは絶えず進化していて、ワクチンが行き渡るころには(流行しているウイルスと)合わなくなっているかもしれない。今の『後手に回る』ワクチンの仕組みは、ついていくのに苦労している」と話している。
39人で安全性に大きな懸念はなし、免疫の反応は控えめ
試験に参加したのは、18〜50歳の健康な39人。全員が新型コロナワクチンを2回か3回接種済みで、最近コロナに感染したと確認されていない人だった。
用量を0.2mg、0.4mg、0.8mg、1.2mgと段階的に上げながら順に接種し、1回目の28日後に2回目を打った。
ランダム化はしておらず、参加者も自分が何を接種されるか知っている「非盲検」の試験だ。
主な評価項目は、安全性と、接種したところや全身に出る反応(副反応)だった。参加者が報告した有害事象や、重い有害事象などを記録した。
結果は、4つの用量のいずれでも接種によく耐えられ、安全性に大きな懸念は見られなかった。副反応の件数や重さごとの内訳は、論文の全文を確認できなかったため、ここでは書けない。
免疫の反応は、2回目の接種から28日後(56日目)に、SARS(SARS-CoV-1)と新型コロナの抗原に対する抗体を中心に調べた。
論文によると、参加者はもともと抗体の量が多く、募集期間(2021年12月〜2023年9月)にはオミクロン株の流行の波が続いていた。
感染歴は用量のグループごとに違い、結果の読み取りに避けられない偏りが入ったという。
そのうえで論文は、免疫の反応は控えめだったが、ワクチンに組み込んだ、サーベコウイルスに共通する部分に対しては、測れるだけの反応が出たとまとめている。
プレスリリースによると、新型コロナとSARSだけでなく、コウモリの近縁ウイルスに対しても免疫の反応が見られた。

AIで設計した抗原を、DNAワクチンで届ける

pEVAC-PSはDNAワクチン
pEVAC-PSの中身は、サーベコウイルス全体に備えるために設計した抗原の、設計図となるDNAだ。抗原とは、ワクチンの中で、免疫に感染の相手を覚えさせる部分のことをいう。
論文によると、今回DNAワクチンの形にしたのは、熱に強い性質(熱安定性)と、針を使わずに皮膚の中へ打てることを生かすためだ。
将来、資源の限られた地域でも使えるようにする狙いがある。プレスリリースによると、この抗原は、DNA以外の多くのワクチンの方式とも組み合わせられるという。
ウイルスのグループに共通する特徴をまとめる
抗原の設計には、ケンブリッジ大学発の技術DIOSynVax(Digitally Immune Optimised Synthetic Vaccines)を使った。
研究チームは、世界の監視プログラムが集めたサーベコウイルスの遺伝子配列データをすべて使い、機械学習によって、このグループ全体に共通する特徴を1つの「スーパー抗原」にまとめた。
プレスリリースは、有効成分がすべてコンピューターのシミュレーションで設計されたワクチンが人で試されたのは、今回が初めてだとしている。
狙いは、ウイルスが変異しても長く続く守りだ。
ケンブリッジ大学獣医学部のLab of Viral Zoonotics(ウイルス性人獣共通感染症の研究室)のヒーニー教授は、「私たちはワクチン開発を、後手に回るものから、将来に備えたものに変えた」と話す。
ただし、これは研究者の見方で、病気を防ぐ効果は今回の試験では調べていない。

キク針を使わずに、どうやって皮膚の中までワクチンを届けるんだろう?
針を使わない「ジェット噴射」接種
もう一つの特徴が、接種方法だ。pEVAC-PSは、PharmaJet社の「Tropis」という装置を使い、針を使わずに皮膚の中(皮内)へ接種した。
プレスリリースは、細い液体の噴流(マイクロ流体ジェット)で打つ方式だと説明している。
研究チームは、針を使う注射が怖い人の選択肢になり、通常の注射が難しい場所でも、多くの人に速く簡単に接種できるようになるかもしれないとしている。
ただし、今回の試験の評価項目は安全性と免疫の反応で、接種の速さや使いやすさを比べたわけではない。


次に何が起きるのか
ワクチンを一般に使えるようにするには、さらに開発が必要だ。
次はより大規模な第2相試験で、より幅広く多様な人々で免疫の反応を引き出せるか、強く幅広い守りにつながる免疫の反応が得られるかを確かめる予定だ。
公表されている計画は免疫の反応を確かめるもので、感染や発症をどれだけ防ぐかを直接測るとは書かれていない。
NIHRで研究基盤を担当する科学ディレクターのマリアン・ナイト教授は、今回の成果は、生命科学の産業界と、ケンブリッジとサウサンプトンにあるNIHRの臨床研究施設との連携があって初めて実現したとコメントしている。
安全性の確認から、効果の確認、実用化まで、越えるべき段階はまだいくつも残っている。
次のパンデミックへの備えになるか
研究チームは、新型コロナなどのサーベコウイルスは今も公衆衛生上の心配の種で、ほかにも多くのウイルスが動物の間で広がり、人にうつる可能性があると指摘する。
ただ、次にどのウイルスが、いつ現れるかを予測することはできない。
ファウスト教授は「ウイルスの流行が始まる前に、この新しい種類のワクチンを開発し、臨床試験を進められれば、何百万もの命が救われ、ロックダウンを避け、経済を守れるかもしれない」と話す。
ただし、こうした効果や、設備の限られた地域で配りやすくなるといった点は、あくまで将来への期待であって、今回の試験が示したことではない。
研究グループは、同じ方法を、エボラウイルスやインフルエンザウイルスなど、ほかのウイルスのグループにも広げられると考えている。
DIOSynVax社は、季節性インフルエンザや、パンデミックを起こしうるインフルエンザ、出血熱ウイルスなどのワクチン候補も開発している。



AIが設計した針のいらないコロナワクチンは、39人で安全に打てることは分かったけど、本当に病気を防げるかはこれからの試験で確かめるんだね。
参考文献:
Munro, A. P. S., et al. (2026). A Phase I, Needle Free, Dose Escalation Clinical Trial of pEVAC-PS, a Candidate Pan-Sarbecovirus Vaccine. Journal of Infection. DOI: 10.1016/j.jinf.2026.106759(抄録: PubMed)
University Hospital Southampton(2026年6月5日)「New AI-designed ‘universal vaccine’ could protect against future virus outbreaks」
NIHR Cambridge Clinical Research Facility「New ‘universal vaccine’ technology could protect from future virus outbreaks」
試験登録: ISRCTN87813400









