食品の保存料を多く摂る人ほど、高血圧や心血管疾患になりやすい傾向がある——そんな大規模な観察研究が、医学誌European Heart Journalに掲載された。
フランスの11万人超を平均約8年追跡した調査だ。ただし最初に、いちばん大事な点を強調しておきたい。
これは「関連(相関)」を見つけた研究であって、「保存料が血圧を上げる」という因果関係を証明したものではない。
「29%増」という数字も、後で説明するように特定のグループ同士を比べた相対的な差だ。数字だけが一人歩きすると、必要以上に不安をあおってしまう。
11万人を約8年追跡した大規模調査

112,395人のフランス人が記録した食生活
フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のMathilde Touvier博士と博士課程学生のAnaïs Hasenböhler氏らのチームは、NutriNet-Santé研究に参加するフランスの112,395人を解析対象にした。
NutriNet-Santéはフランスのコホートで、今回は2009〜2024年のデータが使われた。参加者の99.5%が、参加から2年以内に何らかの保存料を口にしていた。
参加者は6カ月ごとに、3日間に飲食したものをすべて申告した。食事記録は最大96回分で、市販品はブランド名まで記録された。
保存料の摂取量は、複数の成分データベースと、食品を使った検査室での分析を組み合わせて見積もった。
追跡期間の中央値は7.9年。参加者の平均年齢は42.8歳で、78.7%が女性だった。
追跡中に、高血圧と診断された人は5,544人、心筋梗塞や脳卒中、狭心症などの心血管疾患になった人は2,450人だった。
ただし、コホート研究が示せるのは「関連」であって、原因の証明ではない。この研究を率いたTouvier氏自身も、観察研究という設計に伴う限界があることを認めている。
保存料には2つのグループがある
保存料には大きく2つのグループがある。ひとつは非抗酸化系保存料で、カビや細菌などの微生物が増えるのを防ぐ。
もうひとつは抗酸化系保存料で、酸化を防ぎ、食品が茶色く変わったり、傷んだにおいが出たりするのを抑える。
「食品の保存料は、工業的に加工された何十万種類もの食品に使われています。一部の保存料が心血管の健康に害をおよぼす可能性は実験研究で示唆されていますが、ヒトへの影響についての証拠は十分ではありませんでした。私たちの知るかぎり、幅広い保存料と心血管の健康との関係を調べた同種の研究は、これが初めてです」とHasenböhler氏は語る。
数字で見るリスクの上昇——その正しい読み方

「29%高い」とは何と何を比べた数字か
分析の結果、非抗酸化系保存料の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて、高血圧になる割合が約29%高く、心血管疾患になる割合が約16%高かった。
抗酸化系保存料を最も多く摂るグループでも、高血圧になる割合が約22%高かった。
論文では、これらの比はハザード比で、非抗酸化系では高血圧が1.29(95%信頼区間1.20〜1.39)、心血管疾患が1.16(1.04〜1.29)、抗酸化系の高血圧が1.22(1.13〜1.31)と報告されている。
ここで数字の意味を正確に押さえたい。この「29%高い」は、あなたの血圧が29%上がるとか、リスクの絶対値が29ポイント増えるという意味ではない。
「保存料を最も多く摂るグループ」と「最も少ないグループ」を比べたときの、なりやすさ(相対リスク)の差だ。もともとの発症率がそれほど高くなければ、29%増といっても実際に増える人数は限られる。
研究チームは、心血管疾患のリスクを高めたり下げたりするほかの要因を考慮して分析している。ただし、観察研究では、考慮しきれなかった要因が結果に影響している可能性が残る。


関連が見られた保存料のリスト
研究チームは、参加者の10%以上が摂っていた17種類の保存料を一つひとつ調べた。多重検定の補正をしたあとも、そのうち8種類が高血圧と、1種類が心血管疾患と関連していた。
高血圧と関連していた8種類は、ソルビン酸カリウム(E202)、ピロ亜硫酸カリウム(E224)、亜硝酸ナトリウム(E250)、アスコルビン酸(E300)、アスコルビン酸ナトリウム(E301)、エリソルビン酸ナトリウム(E316)、クエン酸(E330)、ローズマリー抽出物(E392)だ。
アスコルビン酸(E300)は、高血圧に加えて、心血管疾患との関連も報告された。心血管疾患と関連した保存料は、17種類のうちこの1種類だった。
いずれにせよ、ここでも「関連が見られた」段階であり、その保存料が病気を引き起こすと決まったわけではない。
アスコルビン酸(E300)の結果をどう読むか

調べたのは食品添加物としての摂取量
この研究が調べたのは、食品に添加物として入ったアスコルビン酸などの摂取量だ。果物や野菜に含まれるビタミンCの摂取を調べた研究ではない。
したがって、この結果から、果物や野菜のビタミンCについて言えることはない。また、保存料が原因で血圧が上がったと示したわけでもない。
研究者が呼びかけていること
論文の結論は、結果が確かめられれば、消費者を守るために、これらの添加物の使用を定める規制の再評価が必要だ、というものだ。
あわせて、実験研究で仕組みを調べる必要があるとも書いている。
Touvier氏は、「これらの結果は、欧州のEFSAや米国のFDAなど、担当する当局が、こうした食品添加物のリスクと利点を再評価する必要があることを示しています」と述べている。
さらに、「それまでの間、これらの結果は、未加工や最小限の加工にとどめた食品を選び、不要な添加物を避けるという既存の推奨を裏づけます」とも語っている。
仕組みはまだ分かっていない。Touvier氏によると、既存の実験研究は、保存料が体内で酸化ストレスを起こしたり、膵臓の働きに影響したりする可能性を一貫して示してきた。
研究チームは現在、添加物や超加工食品が、炎症や酸化ストレスの兆候、血液の代謝プロファイル、腸内細菌の構成にどう影響するかを調べている。
「29%増」って聞くとドキッとするけど、グループ同士を比べた相対的な数字なんだね! 保存料が犯人だと決まったわけじゃないんだ
そう。観察研究は「関連」を見つける研究で、原因を突き止めるのは次の段階なんだ。この研究が調べたのは添加物としての保存料で、果物や野菜のビタミンCの話ではないんだ
参考文献:
Hasenböhler, A., Touvier, M., et al. (2026). Preservative food additives, hypertension, and cardiovascular diseases: the NutriNet-Santé study. European Heart Journal. DOI: 10.1093/eurheartj/ehag308









