ウイルスに感染したあと、集中しにくい、考えが遅くなる、物忘れが増えるといった「ブレインフォグ(脳の霧)」を訴える人がいる。
スイスのジュネーブ大学とジュネーブ大学病院のチームは、新型コロナ、HIV、ヘルペス、肝炎、EBV(エプスタイン・バーウイルス)の感染と認知機能を調べた研究を集め、血液中の免疫の目印と認知の検査結果の関連を整理した。
新しい実験ではなく、これまでの研究をまとめた文献レビューである。
931件の論文から基準を満たした32件(対象者は計2万5325人)を選んで調べたところ、感染症の種類をまたいで、いくつかの免疫の目印が特定の認知の領域と関連していた。
ただし、いずれも関連(相関)であり、免疫の変化が認知の低下の原因だと確かめたわけではない。
ブレインフォグとは何か
頭に霧がかかったような状態
「ブレインフォグ」は、正式な診断名ではない。集中できない、思考が遅くなる、物事を思い出しにくいといった状態をまとめて表す通称だ。
新型コロナの後に続くこうした訴えは多くの医療者が目にしており、HIV、ヘルペス、肝炎の人にも似た認知の問題がよく見られるという。
ウイルス感染が認知に与える影響は、HIV、ヘルペス、肝炎などで数十年研究されてきたが、まだよく分かっていない。
新型コロナの登場で、この問題への関心が再び高まった。
病気の枠を超えて調べた
これまでの研究の多くは、MoCAのような認知全体をざっと見る簡易な検査を、感染症ごとに別々に使っていた。
今回のチームは、病気の枠を超えて研究を並べ、記憶や処理速度といった個別の認知の領域と、免疫の目印の関係を比べた。
チームのジュリー・ペロン准教授は「この分野に広がっている、ばらばらの見方を越えるため、分野を横断して取り組むことが目標だった」と説明している。
病気ごとじゃなくて、まとめて比べてみたんだね。
多数の研究を、ふるいにかけて見えたもの


931件から、32件を厳選
研究チームが使ったのは、「システマティックレビュー」という手法だ。あるテーマの研究を網羅的に集め、あらかじめ決めた基準でふるいにかける。
今回は、各研究の数値を合算して計算し直すメタ分析ではなく、結果を文章で整理する形(ナラティブレビュー)をとった。
がんや精神疾患などを併せ持つ患者の研究は除いた。
チームは931件の候補論文を調べ、基準を満たした32件の研究(対象者は計2万5325人)の結果を整理した。
対象のウイルスは新型コロナ、HIV、ヘルペス、肝炎、EBVと、複数の感染が重なる場合である。
認知と関連した免疫の目印
成績の低さと関連していたのは、まず血液中のCD14+CD16+中間型単球(白血球の一種)だ。
これが多いほど、情報の処理速度が遅く、エピソード記憶(体験の記憶)や頭の切り替えの柔軟性が低かった。
炎症を促すサイトカインのIL-6、TNF-α、IFN-γの多くも、記憶などの低さと関連していた。抗体のIgGが高く、T細胞とB細胞が少ないことは、記憶と注意の低下を予測していた。
逆に、成績のよさと関連していた目印もある。CD4+T細胞が多い人は処理速度がよく、炎症を抑えるサイトカインのIL-10は、実行機能と記憶の成績のよさと一貫して関連していた。
筆頭著者のアンソニー・ヌベール=シャンピエ氏(ジュネーブ大学の博士課程の学生)は「ただし、免疫の反応は人によって違う。長期的な認知の安定に決め手となるように見えるのは、こうした炎症のさまざまな信号のバランスだ」と述べている。


血液の目印は脳の中を映すのか


多くは血液で測った値
取材記事によると、レビューに入った研究の多くは、免疫の目印を脳脊髄液ではなく、末梢の血液で測っていた。脳脊髄液は脳と脊髄を包む液で、脳の状態をより直接に映す。
血液の目印が、脳の中で起きている炎症をそのまま映しているかどうかは、はっきりしない。
血液で測った目印が、脳の中まで映すとは限らないんだね。
「原因が分かった」とは、まだ言えない
抄録は、目印と認知の関係を「相関した」「関連した」と書いている。
免疫マーカーと認知の成績の低さが一緒に見られても、免疫の変化が原因で認知が落ちたのか、別の要因が両方に影響したのかは区別できない。
たとえば、もとの研究の中には、参加者の教育歴などの情報が欠けたものがあった。教育歴は、脳が別のやり方で仕事をこなす力(認知の予備力)に関わり、認知の低下の初期の兆しを隠すことがある。
そのほかの限界
データの多くはHIVの研究から来ており、結果をほかの感染症にどこまで当てはめられるかに影響しうる。
古い研究の多くは簡易なスクリーニング検査を使っており、特定の認知の領域の細かな変化はとらえにくい。研究ごとに設計も異なっていた。
このため、このレビューが示すのは、免疫と認知の関係についての手がかりであり、原因の解明ではない。
一緒に見られても、原因とまでは言えないんだね。
この研究から言えること
プレスリリースは、この結果を、一部の感染後に見られる認知の障害の理解を助け、さらに調べるための土台になるものと位置づけている。
持続する炎症が記憶や集中の問題と結びついている可能性を確かめた、という書き方である。
新型コロナ後の患者を調べる研究
プレスリリースによると、今回の結果は、ジュネーブ大学とジュネーブ大学病院が参加する、新型コロナ後の患者の神経心理・精神の障害を調べるCOVID CogとTrajectoryという研究(スイス国立科学財団が資金を出している)の結論とも合っている。


今後の研究
チームは今後の研究に、より精密でそろった認知の検査と、詳しい心理評価に脳画像の技術を組み合わせることを求めている。
全身の炎症が脳のどの神経回路をどう変えるのかを見るためだ。社会的な要因や遺伝、環境が、免疫と認知の関係にどう影響するかも調べるべきだとしている。
測り方をそろえて、脳の中も見るのが次の課題なんだね。
まとめ
このレビューで分かったのは、ウイルスの種類をまたいで、特定の免疫の目印と特定の認知の領域のあいだに、くり返し関連が見られたということだ。
免疫の変化が認知の低下を引き起こすのか、また血液の目印から一人ひとりの認知の変化を予測できるのかは、まだ分かっていない。
感染後の体調の変化が気になるときは、医師に相談してほしい。
参考文献:
Immune-cognitive relationships across viral infections: A transnosological systematic review
Nuber-Champier A, Bréville G, Lalive PH, Assal F, Péron JA. Neuroscience & Biobehavioral Reviews 184:106588 (2026). DOI: 10.1016/j.neubiorev.2026.106588 / 論文本文(オープンアクセス) / PubMed
University of Geneva (UNIGE) / Geneva University Hospitals (HUG): How viruses mess with our brains









