地響きを立てて歩く巨大な肉食恐竜——ティラノサウルス・レックス(T.レックス)といえば、多くの人がそんな姿を思い浮かべる。
そんなT.レックスが「つま先立ちで歩いていた」という話が、新発見のように語られることがある。
2026年2月に発表された研究が調べたのは、足のどの部分から地面に着くかで、歩幅と歩くテンポ、そして速さの推定がどう変わるかだ。
指で立つこと自体は新しい話ではない

恐竜は、足の指で立って歩く「趾行性(しこうせい)」の動物に数えられる。指で立つ動物では、人間の足首にあたる骨が、人間よりずっと高い位置にある。
鳥の脚で後ろへ曲がっている関節は、膝に見えて、じつは人間の足首にあたる。
2026年に科学誌『ロイヤル・ソサエティ・オープン・サイエンス』に発表された研究は、T.レックスの足の運び方が歩幅や歩く速さにどう影響するかを調べた。
論文によれば、足の着地のしかたが歩幅や速さにどう影響するかは、これまで十分に調べられていなかった。従来の復元では、かかと側から着地すると仮定されることが多かった。
一方、ティラノサウルス類のものとされる足跡では、指の下の部分がもっとも深く沈んでいる。
動物の歩き方は、大きく3種類ある
そもそも、動物の足の着き方は、大きく3つに分けられる。
一つ目は、人間のように足の裏を地面に着ける歩き方だ。
二つ目は、イヌやネコ、鳥、そして恐竜のように、指で立って歩く歩き方だ。人間の足首にあたる骨が高い位置にあるので、実質的に足が長くなり、一般にほかの動物より素早く動けるとされる。
三つ目は、ウマやウシのように、指先の先端だけで歩く歩き方だ。
T.レックスの足は鳥の足に近い働きをしていた

T.レックスの足を考えるとき、手がかりになるのが鳥だ。鳥は、指で立って歩く動物の代表でもある。
論文は、T.レックスの足が鳥の足と似た働きをしていたと結論している。
鳥は、T.レックスと同じ獣脚類に属する恐竜の一群だ。
いまでは、鳥は生き残った唯一の恐竜だと考える古生物学者が大半だ。
研究チームは、保存のよいT.レックスの標本4体(MOR 555、FMNH PR 2081、旧BHI 3033、LACM 23845)の脚と足の骨を測り、腰の高さを推定した。
そして、速度や歩幅を予測する3つの式に当てはめ、足の着地を、かかと側、足の中ほど、指先の3通りに想定して計算した。
同じ式で計算したダチョウやヒトとも比べた。その結果、T.レックスの歩き方はダチョウに近く、ヒトとは大きく違っていた。
論文のタイトルは「ティラノサウルスにおける鳥のような足の機能の証拠」だ。

着地を指先からと想定すると、推定速度は約2割上がった

具体的には、T.レックスは体の大きさの割に歩幅が短く、そのぶん足を運ぶテンポが速く、推定される速度も高めだった。
論文は、これを鳥によく似た歩き方だと述べている。 想定する着地を、かかと側から指先に変えると、推定される最高速度は平均で約20%上がった。
差が約42%に達した条件もある。足を運ぶテンポ(歩調)の増加は小さく、平均で約6%だった。 論文には、次の一文がある。
「私たちの研究は、私たちの知る限り、足の着地のしかたがティラノサウルスの歩き方に与える影響を、定量的に生体力学の面から分析した最初のものだ。T.レックスの足は、鳥の足と似た働きをしていたことがわかった」。

キクT.レックスの足の着地を、かかと側じゃなく指先からと考えるだけで、推定の最高速度が平均で約2割も上がるのか。
T.レックスはどれくらいの速さで動けたのか
つま先歩きと聞くと、「では、さぞ速く走れたのだろう」と思いたくなる。しかし、T.レックスの走る速さは、古生物学で議論が続いてきたテーマだ。
2002年の研究は、速く走るために必要な脚の筋肉の最小量を見積もった。
その結果、体重およそ6000kgの大人のT.レックスが速く走るには、非現実的なほど大きな筋肉が必要になり、速く走れた可能性は低いと結論した。
2017年の研究は、コンピューターで骨にかかる負荷を計算し、本当に走る歩き方では骨への負荷が許容できないほど高くなると示した。
骨の応力の上限を高く設定した条件でも、この研究が出した最高速度は秒速7.7メートル(時速約28キロ)だった。この研究は、大人のT.レックスは歩く速さに制限されたと結論している。
今回の2026年の研究のモデルでは、大人のT.レックスの最高速度は秒速5〜11メートル(時速約18〜40キロ)の範囲に収まり、遅めから中程度とする最近の研究と合っていた。
サンプルの中では、小さく若い個体のほうが、重い成体より高い速度が出せたという。若い個体と成体で、狙う獲物が違っていた可能性と結びつけて論じられている。
著者らは限界も認めている。測定の一部は2次元の骨格復元図に基づいていて、直接の測定誤差は最大で約3%、腰の高さは姿勢の仮定で最大約10%変わりうる。
現生動物に基づく式は、大型の二足動物でこそ当てはまりがよく、小型の鳥では精度が落ちる。
T.レックスの走りを確かめるには、筋肉や関節、尾の動きまで入れた3次元モデルが必要だと、論文は述べている。
足跡の化石が示す着地のしかた


地面に残された足跡の化石は、恐竜の動き方を知る手がかりになる。ティラノサウルス類のものとされる足跡では、指の下がもっとも深く沈んでいる。
今回の研究は、この足跡の証拠をモデルに取り入れ、いちばん可能性が高い着地は、かかと側ではなく指先からだと判断した。
T.レックスの体重は、推定に幅がある
T.レックスの体重は、研究によって見積もりが違う。大人の平均的な体重の推定は、約4.5トンから7.2トン超まで開きがあり、近年の推定の多くは5.4〜8.0トンに収まる。
最大級とされる標本「スコッティ」は、大腿骨の太さから約8.87トンと見積もられている。





T.レックスって、恐竜の時代のいつ頃を生きていたんだろう?
T.レックスが生きたのは白亜紀の終わりごろ
T.レックスの化石は、白亜紀の終わりのマーストリヒト期後期、約6900万年前から6600万年前の地層から見つかっている。
約6600万年前の大量絶滅は、直径10〜15kmの小惑星の衝突で起きたと一般に考えられている。衝突の跡とされるチクシュルーブ・クレーターは、メキシコのユカタン半島にある。
衝突後の長い「衝突の冬」で、植物やプランクトンの光合成が止まり、地球の環境が大きく悪化したとされる。T.レックスは、この絶滅より前に生きていた最後の鳥以外の恐竜の一つだった。
この絶滅で、鳥以外のすべての恐竜と、翼竜、首長竜、モササウルスが姿を消した。
ただし、鳥は生き残った。多くの古生物学者は、鳥を生き残った唯一の恐竜と見ている。
参考文献
Boeye AT, Atkins-Weltman KL, King JL, Swann S. 『Evidence of bird-like foot function in Tyrannosaurus』 Royal Society Open Science 13(2), 2026. DOI: 10.1098/rsos.252139
Sellers WI, Pond SB, Brassey CA, Manning PL, Bates KT. PeerJ 5:e3420, 2017. DOI: 10.7717/peerj.3420 (PMC)
Hutchinson JR, Garcia M. Nature 415:1018-1021, 2002. DOI: 10.1038/4151018a
報道: Tyrannosaurus rex walked like a bird on its tiptoes









