サメやエイの年齢は、これまで主に背骨(椎骨)に刻まれた輪を数えて調べてきた。しかしこの方法では、サメを殺して椎骨を取り出さなければならない。
論文によれば誤差も大きく、特に年をとった個体で大きくずれる。
これに代わる方法を示したのが、米ジョージア大学(UGA)サバンナリバー生態学研究所とオダム生態学院のベンジャミン・パロット准教授、同学院で博士号を取ったサマンサ・ボック博士(論文の筆頭著者)らのチームだ。
論文は学術誌『Molecular Ecology』(2026年4月号)に掲載された。
チームは、水族館で生まれて年齢が分かっているゼブラシャーク51頭の血液からDNAを調べ、年齢を推定する『エピジェネティック時計』を作った。
推定の誤差(中央値)は、モデルによって1.03〜1.99年だった。
キクサメの年齢が分かると、いったい何の役に立つんだろう?
そもそもなぜサメの年齢は測りにくかったのか
サメ・エイ・ギンザメを含む軟骨魚類は、脊椎動物のなかでも寿命の幅が大きい仲間だ。
サメだけを見ても、アトランティック・シャープノーズシャーク(Rhizoprionodon terranovae)の約10年から、ホホジロザメの70年以上まで幅がある。
ニシオンデンザメ(グリーンランドザメ)は、272年を超えて生きる可能性があるとされる。
その一方で、軟骨魚類には絶滅のおそれのある種が多い。
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストをもとにした2021年の再評価では、サメ・エイ・ギンザメ1199種のうち391種(32.6%)が絶滅危惧とされた。
情報不足の種にも同じ割合を当てはめると、3分の1以上(37.5%)が絶滅危惧と推定される。今回のゼブラシャークも、レッドリストで絶滅危惧種(Endangered)に分類されている。
集団の年齢構成が分かれば、集団が増えているのか減っているのかを考える手がかりになる。しかし論文によれば、絶滅のおそれのある軟骨魚類で、集団の年齢構成が測られることはまれだった。
血液など、殺さずに採れる試料から年齢を推定できる方法は、保全に役立つ道具になりうる。


DNAに刻まれる『化学タグ』の正体


鍵になるのはDNAメチル化という化学修飾だ。DNAの塩基のうちシトシン(C)に、メチル基という小さな化学の目印が付く。
多くは、シトシンのすぐ後にグアニン(G)が並ぶ「CpG」という場所で起きる。塩基配列そのものは変わらないが、遺伝子の近くでメチル化の状態が変わると、遺伝子の働きが変わることがある。
年をとるにつれて、ゲノムのある場所ではメチル化が減り(低メチル化)、別の場所では増える(高メチル化)。DNAメチル化は、個体の年齢を示す分子の目印として最も信頼できるものの一つとされている。
こうした変化を使い、限られた数の場所のメチル化から暦の上の年齢を推定する統計モデルを『エピジェネティック時計』と呼ぶ。
ヒトで最も早く作られた時計の一つ(2013年)は、353か所の情報から、3.6年以内の誤差で年齢を推定した。
時計はどの種類の動物で作られてきたか
エピジェネティック時計はその後、多くの哺乳類と、少数の鳥類、爬虫類1種、両生類2種、数種の硬骨魚で作られてきた。
一方、軟骨魚類のデータはほとんどなかった。レモンザメとウシバナトビエイでは、年齢に伴うメチル化の変化を示す予備的な報告があったが、どちらも参照ゲノム(その種の標準となる全ゲノム配列)がない。
チームは、質の高い参照ゲノムがそろっているゼブラシャーク(Stegostoma tigrinum)を選んだ。UGAによれば、エピジェネティック時計がサメに使われたのは今回が初めてだという。
51頭の血液から作った年齢推定モデル
チームが使ったのは、水族館で生まれ、記録からふ化した日が分かっているゼブラシャーク51頭の血液だ。血液は、水族館の定期的な健康診断のときに採った。
試料の提供には米国各地の水族館に加えて欧州やアジアの施設も協力しており、論文の謝辞には沖縄美ら海水族館の名前もある。
試料全体の年齢は0〜30歳で、この種の最大寿命(28年超)に近い個体も含む。
DNAは、酵素を使ってメチル化を読む方法(EM-seq)で、ゲノム全体にわたって調べた。比べたCpGは約1480万か所にのぼる。
このうち、年齢との相関がはっきりした場所(相関係数の絶対値が0.5を超える)は11万2532か所あり、その85.1%は年をとるとメチル化が減る場所だった。
このデータから、機械学習(エラスティックネット回帰)で、年齢の推定に使う場所を選んだ。
1頭ずつ外して残りで学習させ、外した1頭の年齢を推定する方法(交差検証)では、56〜90か所を使うモデルで、推定誤差の中央値が1.03年、実年齢との相関係数が0.97だった。
年齢と最も強く相関する10か所だけを使う単純なモデルでも、誤差の中央値は1.62年(20か所では1.99年)で、精度は大きくは落ちなかった。
ただし20歳を超える個体では、誤差の中央値が3.32年に広がり、年齢を若く見積もる傾向があった(20歳未満では0.72年)。
チームは、野生で捕獲されて水族館に来た19頭にもモデルを当てはめた。この19頭は本当の年齢が分からず、分かるのは水族館に来てからの年数(最低年齢)だけだ。
体長の記録がある10頭では、成長曲線から捕獲時の年齢を見積もって最低年齢を補正した。推定年齢と補正した最低年齢との差の中央値は3.34年、体長の記録がない9頭では4.19年だった。
1頭は推定年齢が最低年齢より10歳以上高く、採血し直しても同じ結果だったため、大人になってから捕獲された可能性が高いとチームはみている。
論文は、野生由来の個体での差が、モデルの誤差、本当のエピジェネティックな年齢の違い、捕獲時の年齢の見積もりのずれのどれによるのかは切り分けられないとしている。
少ない場所で測れることの意味と限界
論文によれば、多くの個体を調べて集団の年齢構成を推定する目的なら、使う場所が少ない時計ほど、狙った場所だけを増やして読む方法(マルチプレックスPCRとアンプリコンシーケンス)に載せやすい。
一方で、今回の時計は使う場所が少なく、年齢とともにメチル化が減る場所に頼っているため、最も年をとった個体では性能が落ちる。
生物学的な老化の進み具合についての情報も限られる、と論文は書いている。


若い頃ほど時計は速く回っている
もう一つの結果は、メチル化の変わり方が一生を通じて一定ではないことだ。
年齢を性成熟前(6.2歳以下)、成熟後(6.2歳超〜14.2歳)、高齢(14.2歳超)の3群に分けて比べると、若い群と中間の群の差の方が、中間の群と高齢の群の差より大きかった。
成長期の個体ほど変化が大きく、大人になると変化がゆるやかになる。
これは、哺乳類や一部の哺乳類以外の動物で報告されてきた「若いうちほどメチル化の変化が大きい」という観察と一致する。
若い個体の成長や発達が一因と考えられている。ただし論文は、51頭のうち21頭が性成熟前の個体だったことに触れ、若いうちの変化を「老化」と呼べるかどうかは議論が続いていると書いている。
また、年齢に伴って変化した場所の半分以上は、若いころと年をとってからで、変化の向きが逆だった。
もう一つの限界は、時計を水族館生まれの個体で作ったことだ。論文は、水族館や動物園の個体で作った時計を野生に使う影響は、餌やストレスなどの条件が野生とどれだけ近いかで変わりうるとしている。
哺乳類と似ていた、変化が起きる場所
論文がもう一つ強調するのは、年齢とともにメチル化が変わる場所が、ゲノムのどこにあるかだ。
年とともにメチル化が増える場所は、CpGが密集した「CpGアイランド」とその周辺に多く、CpGの少ない領域には少なかった。
これは哺乳類で見られるパターンと同じだ。こうした場所の近くの遺伝子には、ポリコーム抑制複合体(PRC1、PRC2)という、遺伝子の働きを抑えるタンパク質の標的になっているものが多かった。
一方、年とともにメチル化が減る場所は、遺伝子の内部(イントロン)やCpGの少ない領域に多かった。
軟骨魚類は、4億年以上前にほかの脊椎動物と分かれた系統だ。論文は、こうした共通点が、エピジェネティックな老化の背後にある仕組みが脊椎動物の間で保存されていることを示すとしている。
ただし、これらのメチル化の変化が体の中でどんな働きをしているのかは、まだ分かっていない。
パロット准教授はプレスリリースで「エピゲノムは古い納屋によく似ている。建ったときはしっかりしているが、時間がたつにつれて少しずつ壊れていく」と話している。
「私たちの体も同じように年をとる。肌が変わり、髪が白くなり、DNAのパターンもずれていく。時計はその過程をとらえている」。
今回示されたのは、年齢とメチル化の関連だ。メチル化の変化が老化を引き起こすのか、老化に伴うほかの変化の結果なのかは、この研究からは分からない。



年をとるとDNAに付く目印が変わる場所は、サメも哺乳類と同じパターンなんだ。サメの仲間はほかの背骨のある動物と4億年以上も前に分かれたのに、ふしぎ!
保全への応用と残る課題
最も期待されるのは保全への応用だ。採血ならサメを殺さずに済み、体への負担も比較的小さい。論文は、これが保全や管理に使ううえで欠かせない特徴だとしている。
プレスリリースは、集団の年齢が分かれば生存率や繁殖の変化を調べたり、集団が増えているか減っているかを判断したりできると説明している。
年をとった個体ばかりなら、その集団は減っている可能性があるという。
パロット准教授はプレスリリースで「年齢構成は、保全生物学者が測れるもののなかで最も重要なものの一つだ」と述べている。
筆頭著者のボック博士も「動物の年齢を決めるのは、たいていとても難しい。でも、エピジェネティックなパターンでサメの年齢を測れれば、弱い立場にある集団でこうした傾向を見る道具として使える」と話している。
ボック博士は、哺乳類などで知られていた現象がサメでも見つかったことについて「この発見は、長生きの土台について重要な手がかりを得られるかもしれないことを意味する」とも述べている。
ただし論文が示したのは、年齢とメチル化の変化の関連と、変化が起きる場所の共通点だ。寿命の長さを決める仕組みを明らかにしたわけではない。
今回の時計は、ゼブラシャーク1種の血液で作られたものだ。論文は、ほかの組織やほかの種にそのまま使えるかは分からないとしている。
生物学的な老化の進み具合まで測るには、健康状態の指標を加えたり、学習に使う試料の範囲を広げたりと、作り方を変える必要があるという。
参考文献:
一次ソース: Bock, S. L. et al., Genome-Wide DNA Methylation Patterns Predict Age in the Zebra Shark (Stegostoma tigrinum) and Provide Insight Into the Evolution of Vertebrate Aging (Molecular Ecology, 2026) DOI:10.1111/mec.70326(論文本文 PMC13047888)
研究機関: 米ジョージア大学(UGA) サバンナリバー生態学研究所/オダム生態学院(プレスリリース UGA Today)
関連: Dulvy, N. K. et al., Overfishing drives over one-third of all sharks and rays toward a global extinction crisis (Current Biology, 2021) / 二次ソース: Phys.org









