牛乳に含まれるタンパク質から、食品を包むフィルムを作る研究が発表された。土に埋めると少しずつ分解し、研究チームは約13週間で分解しきると見積もっている。
論文は2025年に学術誌『Polymers』に掲載された。
牛乳のタンパク質が主材料のフィルム
主役はカゼインというタンパク質
この素材の主材料は、カルシウムカゼイネートという物質だ。牛乳に含まれるカゼインというタンパク質のカルシウム塩で、論文によると、牛乳のタンパク質の約80%をカゼインが占める。
カゼインは、直径50〜400ナノメートルの球状の集まり(ミセル)をつくる。
論文は、カゼインは毒性がなく、手に入りやすく、熱にも強いので、食べられるフィルムや包装用のコーティングの材料になると説明している。
ただし、カゼインだけのフィルムは乾くと縮んでもろくなりやすい。これを防ぐために、可塑剤のグリセロールを加えると論文は説明している。
合成の高分子PVAも使っている
研究チームは、このカゼインに、変性デンプンとベントナイトという粘土(ナノクレイ)を混ぜ合わせた。
ここまでは自然由来の材料である。
ただし、フィルムをしなやかで丈夫にするために、グリセロールという可塑剤と、ポリビニルアルコール(PVA)という合成の高分子も加えられている。
PVA溶液は、カゼイン・デンプン・ベントナイトの混合液に対して、体積比で3対7の割合で混ぜられた。天然由来の材料だけでできたフィルムではない。

キク牛乳のタンパク質が主役だけど、PVAっていう合成の高分子も混ぜてあるフィルムなんだ。
誰が、どこで作ったのか


オーストラリアとコロンビアの共同研究
この研究は、コロンビア・ボゴタのホルヘ・タデオ・ロサノ大学と、オーストラリアのフリンダース大学の共同研究だ。
論文の著者は、ニコライ・エスティベン・ゴメス・メサ氏(Nikolay Estiven Gomez Mesa)、アリス・ヨバナ・パタキバ・マテウス教授(Alis Yovana Pataquiva-Mateus)、ヨウホン・タン教授(Youhong Tang)の3人。
パタキバ・マテウス教授はホルヘ・タデオ・ロサノ大学の工学部、タン教授はフリンダース大学のナノ材料の研究者で、筆頭著者のゴメス・メサ氏は、論文に両大学の所属が書かれている。
ゴメス・メサ氏は、きっかけをこう話している。「カゼイン塩を使って牛乳由来のナノ繊維を作る実験をしていて、一般的な包装材に似たポリマーをキャストできることがわかりました」
薄いフィルムに仕上げる
カゼイン、デンプン、ベントナイトの混合液にPVA溶液を混ぜ、シャーレに流して38℃で24時間乾かすと、フィルムになる。
目指すのは、食品を包むための包装材だ。
食品包装のフィルムでは、水蒸気をどれだけ通すかが、保存のしやすさと湿気からの守りやすさに直結する、と論文は説明している。
カゼインとデンプンの比率を変えて試したところ、カゼイン2に対してデンプン1(1.8g対0.9g)の配合が、引っ張り強度がもっとも高かった。
この配合が土台に選ばれた。
完成したフィルムの引っ張り強度は13.08MPaだった。論文の抄録は、似た配合と比べて最大30%上がったとしている。
論文の表で比べると、似た配合のカゼイン・デンプン・グリセロール・粘土のフィルム(9.92MPa)より約32%高い。
水蒸気の通しにくさも、従来のカゼインとデンプンの配合より改善した。ただし、その改善幅は論文の本文では約3桁、結論では約2桁と、書き方が分かれている。
このフィルムの水蒸気透過率は、論文の表で8.23×10のマイナス8乗(g/m・s・Pa)だった
土の中での分解は、どこまで確かめたのか


「13週間」は見積もり
ただし「13週間」は実際に13週間埋めて確かめた数字ではない。
研究チームは21℃の室内の土にフィルムを9日間埋めて重さの減り方を測り、その曲線を先へ延ばして、約13週間で分解しきると見積もった。
試料は2×3センチに切ったフィルムで、深さ5センチに埋めた。重さの減りは最初の72時間がもっとも速く、その後はほぼ直線的だったという
分解したあとに何が残るかは、論文に測定がない。論文が調べたのは、フィルムに付く微生物の数だ。
細菌は1平方センチあたり71.67個で、論文は包装材として許容される目安(100個未満)の範囲内とした。カビは7.0個で、目に見えるカビは空気中からの混入によるものらしいと書かれている。
フィルム自体に抗菌作用はなかった
毒性の試験はしていない。
見積もりは、21℃の室内の土という条件での話だ。論文は、低温の環境や海の中での分解は調べていない。また、PVAやベントナイトは分解を遅らせることがあると論文自身が述べている
背景:なぜ分解する包装材を探すのか


プラスチックごみの現状
フリンダース大学の発表によると、プラスチックの生産量は1950年の200万トンから、2022年には4億7500万トンになった。
マイクロプラスチックは、土や川、空気の中、さらに人体の臓器からも見つかっているという。
論文の導入部は、包装用の高分子は完全に分解するまでに数十年から数世紀かかることが多いと述べている。廃棄物の最大43%は埋め立てに回るという。
こうした背景から、分解する包装材の研究が進められている。





このフィルム、もう食品の包装に使える段階まで来ているのかな?
まだ探索的な研究段階
論文は、この研究を探索的な段階のものと位置づけている。確かめたのは、引っ張り強度、水蒸気の通しにくさ、微生物の数、9日間の土中での重さの減り方までだ。
今後の課題として、論文は抗菌性の評価と、さまざまな温度での安定性を確かめる熱分析を挙げている。タン教授も「今後の試験や開発では、さらなる抗菌性の評価を勧めます」と話している。
食品に触れる包装材としての安全性や実用化の見通しは、論文では扱われていない。
参考文献:
Exploring Biodegradable Polymeric Nanocomposite Films for Sustainable Food Packaging Application
Gomez Mesa et al., Polymers 17(16), 2207 (2025). DOI: 10.3390/polym17162207
論文本文(PMC・オープンアクセス)
フリンダース大学のニュース記事(2025年9月8日)
出典: Flinders University / Universidad de Bogotá Jorge Tadeo Lozano









