胸の痛みが突然起こり、救急外来の心電図は異常を示し、血液中の心臓の酵素も高い。
心臓発作とほとんど見分けがつかないが、冠動脈に詰まりはない。これが「たこつぼ症候群」だ。
チューリッヒ大学とグライフスヴァルト大学などの国際チームは2026年8月31日、この二つを血液検査と性別で見分ける新スコア「BioTAK」を英学術誌『European Heart Journal』に発表した。
3,615人のデータで開発と外部検証を行い、検証用の1,792人では、事前に決めた基準で約9割の患者が、造影検査の前に診断の見込みがついた群に分けられた。
キクたこつぼ症候群って心臓発作とそっくりなのに、そもそも何が違うんだろう?
たこつぼ症候群と心臓発作、そもそも何が違うのか


論文が見分ける相手は、心筋梗塞などの急性冠症候群(ACS)だ。ACSでは原因となる冠動脈の病変があるが、たこつぼ症候群にはそれがない。
国際たこつぼ登録の患者1,750人では、感情的な誘因があったのは27.7%、身体的な誘因は36.0%で、28.5%ははっきりした誘因がなかった。
同じ登録では、たこつぼ症候群の患者の89.8%が女性で、平均年齢は66.8歳だった。
たこつぼ症候群は軽い病気ではない。ショックや死亡といった重い院内合併症の割合は、ACSの患者とほぼ同じ(P=0.93)だった。
また、神経や精神の病気がある割合はたこつぼ症候群で55.8%、ACSで25.7%と高かった。
『心電図も血液もそっくり』という壁


たこつぼ症候群の患者は、胸の痛み、心電図の異常、心臓の酵素の上昇という、心臓発作に似た所見で受診する。
診断は、病歴、繰り返しの心臓画像検査、そして原因となる冠動脈病変がないことの確認に頼っている。確認は多くの場合、侵襲的冠動脈造影(ICA)というカテーテル検査で行う。
たこつぼ症候群では冠動脈に詰まりがないため、多くの患者は、症状の原因を調べるためにこのカテーテル検査を受けている。
『5つの手がかり』を組み合わせたBioTAKスコア


今回開発されたBioTAKスコアは、5つの項目を組み合わせて診断を支援する。血液から測る4種類のバイオマーカーと、患者の生物学的性別だ。
1つ目、NT-proBNP(N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド)は、心筋への負荷を反映するマーカーだ。
2つ目、PAM(ペプチジルグリシンα-アミド化モノオキシゲナーゼ)は、血管の収縮や不安の調節を反映する指標だ。
3つ目、sLOX-1(可溶性LOX-1)は、動脈硬化のプラークの不安定さを反映する指標だ。
4つ目、LDLコレステロールは、脂質代謝を反映する指標だ。
この4つの血液指標に生物学的性別を加えた5項目を、機械学習で候補から絞り込み、ロジスティック回帰でスコアにした。


AUC 0.93、その数字が意味するもの
論文は、開発コホートのAUC 0.97(95%信頼区間0.95〜0.98)と外部検証コホートのAUC 0.93(95%信頼区間0.90〜0.96)を、たこつぼ症候群とACSの「優れた識別」と表現している。
較正も良好で、外部検証でも高い性能が保たれた。
対象は、ACSまたはたこつぼ症候群の患者3,615人。
開発コホートは1,823人(ACS 1,754人、たこつぼ症候群69人)、外部検証コホートは1,792人(ACS 1,715人、たこつぼ症候群77人)だった。
検証用の集団は開発用とは別の患者だが、元になった登録(スイス、SPUM-ACS登録、国際たこつぼ登録)は時期も場所も重なっている。
スコアには、事前に決めた陽性側と陰性側の基準値がある。この基準で、ほぼ90%の患者が、造影検査の前に診断の見込みがついた群に分けられた。
残りの患者は、どちらにも分けられなかった。
『ブレイン・ハート軸』を示唆する手がかり
新しく見つかった2つの指標(PAMとsLOX-1)は、脳と心臓をつなぐ「ブレイン・ハート軸」がたこつぼ症候群で重要な役割を持つことを示唆する。
また、この病気が動脈硬化とは別の仕組みで起こる可能性も示す。
一方のタンパク質は、ストレス反応、不安、血管の緊張、自律神経の働きに関わる神経ペプチドを活性化する。もう一方のタンパク質は、動脈硬化のプラークの安定性に関係する。
2つを合わせると、典型的な心臓発作とは根本的に違うパターンが見えてくる、と発表資料は説明している。
BioTAKが突き止めたのは『たこつぼ症候群では特定のバイオマーカーの並びが心筋梗塞と統計的に異なる』という相関であって、PAMやsLOX-1がたこつぼ症候群を引き起こす原因だと証明したわけではない。
論文の結論も、「たこつぼ症候群は、ACSとの病態生理の違いを反映する独自のバイオマーカー像を持つ」という表現にとどまる。
共同筆頭著者のフロリアン・ウェンツル氏(チューリッヒ大学分子心臓病学センター/英オックスフォード大学ラドクリフ医学部)は「血液バイオマーカーと生物学的性別のシンプルな組み合わせが、カテーテル検査より前に、驚くほどの精度でこうした患者を見分けられることを、私たちの研究は示している」と述べる。
同じく共同筆頭著者のヴィクトル・シュヴァイガー氏(チューリッヒ大学病院)は「同時に、このバイオマーカーは、たこつぼ症候群と典型的な心臓発作を分ける生物学的プロセスを知る手がかりにもなる」と加える。
共同最終著者のトーマス・リュッシャー氏(英インペリアル・カレッジ・ロンドン国立心肺研究所)は「ストレス応答、心機能不全、プラークの安定性を捉えるシグナル経路をまとめ上げ、複雑な疾患メカニズムを実用的な診断ツールに変換した」とコメントしている。
なお、論文の著者には、ドイツの企業2社(4TEEN4 Pharmaceuticals、PAM Theragnostics)に所属する人も含まれている。
カテーテルは要らなくなるのか
BioTAKは必要なカテーテル検査の代わりにはならない、と研究チームは述べている。
共同最終著者で国際たこつぼ登録(InterTAK、2010年設立)を立ち上げたクリスチャン・テンプリン氏(独グライフスヴァルト大学医療センター)は「BioTAKスコアは、医学的に必要なカテーテル検査の代わりにはならない。ただ、選ばれた患者では、診断の手順をより効果的に導き、不要な侵襲的検査を避ける助けになりうる」と述べる。
今回の研究には限界もある。まず症例数の非対称だ。3,615人のうちたこつぼ症候群はわずか146人(開発69+検証77)で、心筋梗塞側の3,469人と比べれば圧倒的に少ない。
対象はスイスの患者と2つの登録(SPUM-ACS登録、国際たこつぼ登録)の患者で、研究チームは今後、BioTAKを日常診療に加えると診断や治療が良くなるかを調べるとしている。
救急の現場で使えるか
研究チームは、BioTAKがACSが疑われる患者の早期の評価に役立つ追加の道具になりうると述べている。診療で役立つかどうかは、これからの研究で確かめる段階だ。



血液検査で見分ける新しいスコアは、カテーテル検査の代わりじゃないけど、選ばれた患者では不要な検査を避ける助けになりうるんだね。
参考文献:
一次ソース: Wenzl FA, Schweiger V, et al. Takotsubo syndrome diagnosis: the biomarker-based BioTAK score. European Heart Journal, 2026. DOI:10.1093/eurheartj/ehag597
研究機関: チューリッヒ大学分子心臓病学センター、グライフスヴァルト大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、オックスフォード大学ほか / 二次ソース: ScienceDaily / PubMed(抄録) / 登録の基礎データ: Templin C, et al. Clinical Features and Outcomes of Takotsubo (Stress) Cardiomyopathy. N Engl J Med, 2015









