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飛行機はなぜ重いのに飛べるのか 持ち上げているのはエンジンではなく翼

2026 10/19
テクノロジー
2026年10月20日
雲の上を飛ぶ旅客機の翼
🕑この記事は約10分で読めます

文・パクト

シルミー

はかせ、飛行機ってすごく重いのに、どうして空から落ちてこないの?

はかせ

持ち上げているのはエンジンじゃなくて、翼なんだ。翼は空気の流れを曲げて、そのお返しの力で浮いているんだよ

空港で見る旅客機は、とても大きくて重そうです。人も荷物も燃料も積んでいます。それなのに、すっと空へ上がっていきます。ふしぎに思ったことはないでしょうか。

先に答えを言います。翼が空気の流れを下向きに曲げ、その反対向きの上向きの力で、重さを支えているからです。この上向きの力を揚力(ようりょく)といいます。

ここからは、NASAのグレン研究センターの解説をもとに、順番に見ていきます。翼のまわりの空気を煙で見せた、イギリスのケンブリッジ大学の記事も使います。

目次

飛んでいる飛行機には4つの力がはたらく

飛行機にはたらく揚力・重さ・推力・抗力の4つの力の向きを矢印で表した図
飛んでいる飛行機には、重さ・揚力・抗力・推力の4つの力がはたらきます。4つの力がつり合うと、同じ速さで飛び続けます。

飛んでいる飛行機には、4つの力がはたらいています。力というのは、ある向きに押したり引いたりするはたらきです。

まずは重さです。重さは、いつも地球の中心のほう、つまり下向きにはたらきます。機体の部品に、燃料と、人や荷物を足したものが重さになります。燃料を使うので、飛んでいるあいだも重さは変わり続けます。

重さに負けないように、飛行機は上向きの力を生み出します。これが揚力です。ふつうの旅客機では、揚力のほとんどを翼が生み出しています。

空気は、進もうとする飛行機のじゃまをします。このじゃまをする力が抗力(こうりょく)で、進む向きと反対にはたらきます。抗力に負けないように、エンジンは前向きの力を出します。これが推力(すいりょく)です。

ジェットエンジンは、熱いガスを後ろへ出します。その反動で、機体は前へ押されます。

4つの力がつり合っていると、飛行機は同じ速さで飛び続けます。つり合っていなければ、いちばん大きい力の向きへ速さが変わっていきます。

持ち上げているのはエンジンではなく翼

空を飛ぶグライダー
Photo: Waldemar Brandt / Unsplash

重い飛行機を浮かせているのは、大きなエンジンだと思うかもしれません。でもNASAによると、エンジンの仕事は抗力に負けないことです。飛行機を持ち上げることではありません。

NASAは、重さ100万ポンド(約450トン)の旅客機を例にあげています。この機体には4つのエンジンがあり、推力を合わせると20万ポンドです。推力は、重さの5分の1ほどしかありません。それでも飛べるのは、持ち上げているのが翼だからです。

エンジンがまったく無いのに、ちゃんと飛ぶ航空機もあります。グライダーです。いちばん身近な例は、紙飛行機でしょう。

スペースシャトルも、宇宙から帰ってきて着陸するときはグライダーでした。ロケットエンジンを使うのは、宇宙へ上がるときだけです。

翼は空気の流れを曲げている

では、翼はどうやって揚力を生むのでしょうか。NASAの説明はこうです。動いている空気の流れが、固い物によって向きを曲げられると、揚力が生まれます。

流れをある向きに曲げると、その反対向きに力が返ってきます。これはニュートンの運動の第3法則、つまり作用・反作用の決まりです。

揚力は、飛行機の重さとちょうど反対向きにはたらきます。つまり上向きです。上向きの力を受けるのですから、翼は空気を下向きに曲げていることになります。

翼の上の面も下の面も、流れを曲げるのに役立っています。上の面のはたらきを忘れると、まちがった説明になってしまいます。

空気が無いと、翼は役に立たない

揚力が生まれるには、翼が空気や水のような流れるものにふれていなければなりません。宇宙は、ほとんど真空です。空気が無いので、翼は揚力を生みません。

宇宙で物が落ちずに回り続けるわけは、月はなぜ地球に落ちてこないのかの記事で紹介しました。そちらは、横に速く動いていることがかぎでした。

動いていないと、揚力は生まれない

もう1つの条件は動きです。翼と空気のあいだに動きが無ければ、揚力は生まれません。

止まった空気の中を翼が進んでも、止まった翼に空気が流れてきても、同じことです。揚力は、翼が動く向きに対して直角にはたらきます。

速さが2倍になると揚力は4倍

NASAの解説によると、揚力は空気の濃さや速さで変わります。翼の面積や形、空気に対する翼の傾きでも変わります。

揚力の式では、揚力は速さの2乗に比例します。2乗とは、同じ数を2回かけることです。ほかの条件が同じなら、速さが2倍になると、揚力は4倍になります。

翼の面積が2倍になったときは、揚力も2倍です。重い飛行機を浮かせるには、大きな翼で、速く空気の中を進めばよいわけです。

形や傾きの効果は、「揚力係数」という数にまとめます。この数は、ふつうは実験で決めます。

「上の空気は同時に着く」という説明はまちがい

風を受けるヨットの帆
Photo: Kristel Hayes / Unsplash

揚力の説明は、百科事典や物理の教科書、ウェブサイトにたくさんのっています。ところがNASAは、その多くが誤解をまねく、まちがった説明だとしています。

いちばん広まっているのが、「同時に着く」説です。「長い道のり」説ともいいます。

この説では、翼の上の面は下の面より長いと考えます。上と下に分かれた空気は、翼の後ろの端に同時に着くはずだ、とします。だから長い道のりを行く上の空気のほうが速くなる、という説明です。

実際には、揚力を生んでいる翼の上の空気は、「同時に着く」のに必要な速さよりずっと速く流れています。

煙で見ると、上の空気が先に着く

ケンブリッジ大学のバビンスキー教授は、これを映像で示しました。翼の断面の形をした模型のまわりに、とぎれとぎれの煙を流して撮影したのです。

映像を止めてみると、上と下で通りぬける時間は同じではありません。上の空気のほうが速く流れます。下の空気が翼の下の面の端に着くころには、上の空気はもう翼の後ろを通りすぎています。

教授も、翼の上の空気の圧力が下がると翼が持ち上がる、という点は認めています。ただ、同じ時間で長い道のりを行くから速くなる、という説明については「これはまちがいです」と話しています。

このまちがいは、教科書やテレビ、パイロット向けの手引きにまで出てくるといいます。

教授は生徒向けの講義のはじめに、わざとまちがった説明をします。聞いたことがある人を尋ねると、毎回95%が手を挙げるそうです。まちがいだと知っているのは、ほんの数人だけだといいます。

帆でも揚力は生まれる

では、何が揚力を生むのでしょうか。教授の説明では、空気の流れの中に形を置くことがもとになります。その形が流れの筋を曲げ、上の面の圧力を低く、下の面の圧力を高くするのです。

たとえば帆は平らな面で、表と裏の道のりは同じです。それでも張ると少し曲がり、翼のようにはたらいて揚力を生みます。

教授は、揚力を生むのは曲がり方で道のりの長さではない、と言いかえています。

圧力の差と流れの曲がりは、同じことの別の見方

揚力がどう生まれるかは、大きな論争の種になってきました。考え方は、大きく2つに分かれます。

1つは「ベルヌーイ」の立場です。翼の上と下の圧力の差で揚力が生まれる、と考えます。もう1つは「ニュートン」の立場です。空気の流れを曲げた反作用が揚力だ、と考えます。

じつは、ニュートンもベルヌーイも、揚力を説明しようとしたことはありません。2人の名前は、立場を呼び分けるための名札にすぎないのです。

NASAの解説によると、ダニエル・ベルヌーイにちなむベルヌーイの式は、空気の圧力と流れの速さを結びつけます。翼のまわりで速さが変われば、圧力も変わります。

一方で、翼のまわりの速さの変化を全部合わせると、空気の流れが全体として曲げられたことになります。曲げられた流れの反作用が、翼にかかる力になるわけです。

だからNASAは、どちらも正しいとしています。同じ揚力を、圧力の側から見るか、流れの曲がりの側から見るかのちがいです。

反対に、翼の下の面だけに作用・反作用を当てはめる説明は、まちがいです。水面をはねる水切りの石と同じだと考えるものです。上の面も流れを曲げていることを、見落としています。

揚力が生まれる本当の細かいしくみは、とても複雑だとNASAは書いています。かんたんにまとめられる話ではないのです。

シルミー

上の空気が同時に着くって話、わたしも聞いたことあった。まちがいだったんだ

はかせ

そう。翼は空気の流れを曲げて、そのお返しに上へ押されているんだ。だから空気の無い宇宙では、翼は役に立たないんだよ

飛行機の窓から見る翼は、ただの板のように見えるかもしれません。でもその板は、まわりの空気の流れを曲げ続けて、機体の重さを支えています。教科書にまでまちがいがのってしまうほど、身近なのに説明のむずかしい力だと思います。

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参考文献:
主な資料: NASA Glenn Research Center(NASAグレン研究センター)Beginner’s Guide to Aeronautics, What is Lift?
主な資料: NASA Glenn Research Center(NASAグレン研究センター)Beginner’s Guide to Aeronautics, Bernoulli and Newton
主な資料: University of Cambridge(ケンブリッジ大学)Research News, How wings really work(2012年1月25日)
基礎知識: NASA Glenn Research Center(NASAグレン研究センター)Beginner’s Guide to Aeronautics, Four Forces on an Airplane
基礎知識: NASA Glenn Research Center(NASAグレン研究センター)Beginner’s Guide to Aeronautics, Lift Equation

アイキャッチ画像: Photo: Johny Goerend / Unsplash

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科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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