知らない人が家に来ると、さっと物陰に隠れてしまう猫がいます。飼い主から見ると、ただ怖がっているように見えるかもしれません。
ところが、人の赤ちゃんを調べたこれまでの研究では、人見知りは怖いだけとは限らないとされています。近づきたい気持ちと、怖くて離れたい気持ちが混ざった状態でありうるのです。
では、猫の人見知りはどうなのでしょうか。飼い主への質問を3回くり返し、のべ310匹の猫を調べた論文が、2026年11月4日に学術誌『PLOS One』に掲載されました。その結果、猫の人見知りは主に恐れと結びついているとみられました。それでも、怖がりなのに近づく傾向も強い、一群の猫が見つかっています。
キクそもそも、人の赤ちゃんの人見知りって、どんな気持ちなんだろう?
人の赤ちゃんの人見知りは「怖いけど気になる」


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2013年に学術誌『PLOS One』に載った別の研究は、人の赤ちゃんの人見知りを調べました。赤ちゃんが知らない大人に人見知りをするのは、生後6〜9か月ごろからです。
2013年の研究では、質問票と、目の動きを追う装置を使いました。人見知りの強い赤ちゃんは、近づく気質と恐れの気質の点が、どちらも高くなっていました。近づきたいのに怖い、という葛藤です。
この2013年の研究で人見知りの強かった赤ちゃんは、こちらを見ている知らない人より、目と顔をそらした知らない人を好みました。研究チームは、赤ちゃんの人見知りには、近づきたい気持ちと知らない人への恐れの葛藤が含まれると考えています。
同じ2013年の研究では、生後7〜13か月の赤ちゃんで、人見知りの点と近づく点の間に「U字形」の関係も見られました。人見知りが弱い子と強い子の両方で、近づく点が高めだったのです。
人の赤ちゃんの研究で作られた物差しで猫を調べた例は、ほかにもあります。2019年に学術誌『Current Biology』に載った別の研究は、猫が世話をする人に対して、いくつかの異なる愛着のタイプを示すと報告しました。
動物では「人見知り=怖がり」とされてきた


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これまでの動物の研究では、人見知りと恐れは、はっきり分けられてきませんでした。チャールズ・ダーウィンは、人見知りを恐れの一種で、自然選択で進化した身を守る仕組みだと書いています。
これまでの哺乳類や魚の性格の研究でも、人見知りは「大胆さ」の反対の、臆病さの目安として使われてきました。こうした前提のせいで、人で見られるような人見知りの複雑さが見落とされてきた、と論文は指摘しています。
そこで研究グループが選んだのが、猫です。猫は飼い主に対しても、攻撃的になる度合いがまちまちで、相反するふるまいを見せます。そのため、恐れと近づく気持ちが混ざった性質を調べるのに向いていると考えました。
猫の歩みについては、これまでの研究で次のように言われています。猫は約1万年、人と暮らしてきましたが、繁殖を人があまり管理してこなかったことなどから「半家畜化」とも呼ばれます。犬と猫の性格を直接比べた研究は少ないものの、猫は一般に犬より社会的なふるまいが少ないとされています。
研究グループが思い描いたのは、こんな猫です。知らない人から最初は離れるものの、その人を見続けて、少しずつ近づいてくるかもしれない猫です。すぐに近づく人なつこい猫とも、離れたままの怖がりの猫とも違う姿です。
飼い主に聞いた3回の調査
猫も、言葉を話す前の赤ちゃんも、自分の気持ちを言葉で説明できません。そのため、ふるまいや、世話をする人の報告から推し量るしかありません。
人の赤ちゃんの研究では、大人が赤ちゃんのふるまいを答えます。今回の研究では、同じように飼い主が猫のふるまいを答えました。
使ったのは、人の子ども向けの気質の質問票2つ(CCTIとIBQ-R)を、猫向けに直したものです。たとえば「ほかの子とすぐ仲良くなる」という質問は、「何度か会ったことのある家族以外の人と、すぐ仲良くなる」に変えました。
人見知りの点は、「知らない人に慣れるのに時間がかかる」「人見知りしがち」など5問の合計で、5〜25点です。近づく傾向は12問、恐れは16問で、どちらも1〜7点の平均で表します。質問には「新しいおもちゃをもらうと、とても興奮する」「急な大きな音に驚く」のような場面が並びます。
研究グループは、人と猫で中身が同じだとは仮定せず、探索的な物差しとしてこの質問票を使っています。調査は京都大学野生動物研究センターの研究倫理委員会の承認を受け、前もって計画を登録してから行われました。
1回目(研究1)は、2024年4月にSNSで飼い主を集めました。対象は1〜7歳の不妊・去勢手術済みの猫で、答えたのは20〜50歳の女性です。オス44匹とメス38匹の計82匹で、そのうち66匹は雑種でした。
2回目(研究2)はオスだけを114匹、3回目(研究3)は野良生まれのオスだけを114匹調べています。
予想した「U字形」は出なかった


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研究グループの予想は、人の赤ちゃんと同じ形でした。人見知りの点と恐れの点に相関があり、人見知りの点と近づく点の間にはU字形の関係が出る、というものです。
1回目の82匹では、人見知りと恐れの点に強い正の相関がありました。相関の強さを表す数(相関係数)は0.788です。ところが、U字形の関係は統計的に意味のあるものではありませんでした。
恐れの点と近づく点の間には、弱い負の相関が見られました。怖がりの猫ほど、近づく点がやや低い傾向です。
研究グループは、オスではU字形の関係が弱いか、無いのかもしれないと考えました。ただ、1回目はオスの数が少なく、そのせいで見つからなかった可能性も否定できません。そこで2回目は、オスを114匹に増やしました。
オス114匹の2回目でも、人見知りと恐れの点には強い正の相関がありました。相関係数は0.846です。一方で、U字形の関係はここでも見られませんでした。
論文は、こうした結果は仮説を支持しないとまとめています。猫の人見知りが、人の赤ちゃんのように恐れと近づく気持ちの混ざりだ、という仮説です。



猫の人見知りは、まずは「怖い」の気持ちとつながってるみたいなんだね。
怖がりなのに近づく猫の一群
研究グループは、2回目のデータで別の分析も試しました。人見知り・恐れ・近づく傾向の点の組み合わせが似た猫どうしをまとめる、クラスター分析です。前もって決めた検証ではなく、探索的な分析という位置づけです。
オス114匹は、4つのまとまりに分かれました。人見知りと恐れの点が最も低く、近づく点が高い「とても人なつこい」型は21匹です。人見知りと恐れが低めの「人なつこい」型は33匹でした。人見知りと恐れが高く、近づく点が低い「怖がり」型は12匹です。
そして、人見知りと恐れの点が高いのに、近づく点も高い猫が48匹いました。研究グループは、この一群を「人の赤ちゃんのような人見知り」型と呼んでいます。近づく点の平均は4.656で、「怖がり」型の2.875より高く、「人なつこい」型の4.618とほぼ同じでした。
これまでの人の子どもの研究では、近づく傾向と避ける傾向がどちらも高い子を「葛藤型の人見知り」と分類することがあります。論文は、猫のまとまりの分かれ方も、人の赤ちゃんの型分けと重なるかもしれないとみています。



じゃあ、野良生まれの猫ほど、この人見知り型になりやすいのかな?
野良生まれの猫は、人と暮らして変わるのか


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2回目では、猫の生まれ育ちも聞いていました。「人の赤ちゃんのような人見知り」型の48匹のうち、野良生まれは23匹です。生まれた時から人と接してきた純血種は4匹、生まれ育ちが分からない猫は21匹でした。
ただし、生まれ育ちの分布には、4つのまとまりの間で統計的に意味のある差はありませんでした。猫の年齢にも、まとまりの間で統計的に意味のある差は見られていません。
それでも研究グループは、ある可能性を考えました。野良生まれの猫の一部は、最初は赤ちゃんのような人見知りなのではないか。そして年を重ねたり人と長く暮らしたりするうちに、人なつこい型か怖がり型に変わるのではないか、という見方です。
これを確かめたのが3回目です。2024年7月に264件の回答を集め、野良生まれのオス114匹を調べました。飼われている期間は6〜82か月です。
年齢の影響を除くと、人見知り・恐れ・近づく傾向のどれも、飼われている期間と相関がありませんでした。人なつこい型と怖がり型の2つに分かれていく、という予想の形も見られていません。
まとまりの分かれ方そのものは、2回目と似ていました。ただ予想に反して、人の赤ちゃんのような人見知り型の35匹は、ほかの型より多くはなりませんでした。最も多かったのは、人見知りと恐れの点が低めの41匹のまとまりです。
人とのやりとりが時間とともに恐れや近づく傾向に与える影響は、予測しにくいのかもしれません。測っていない別の要因が関わっている可能性もある、と研究グループはみています。
飼い主の目を通した結果という限界
この研究には、論文自身が挙げている限界があります。まず、データは行動の実験や遺伝の解析ではなく、飼い主への質問です。恐れや近づく傾向の点は、猫の気持ちを直接測ったものではなく、飼い主の受け止め方です。
次に、人の赤ちゃん向けの質問票を直したものが、大人の猫で同じものを測っているとは言えません。猫での妥当性は、これから確かめる必要があります。
クラスター分析にも注意が要ります。人見知りと恐れの点は強く相関しているので、両方を入れたことが分かれ方に影響したかもしれません。野良生まれかどうかも飼い主の報告だけが頼りで、正確でない可能性があります。
人なつこさに遺伝や幼いころの経験が影響することは、これまでの研究で知られています。ただ、その後の人とのやりとりで変わるのかは、まだ分かっていません。研究グループは、同じ猫を長く追う研究が今後必要だとしています。
そのうえで研究グループは、怖がっていても近づく猫がいることに意味を見ています。人とのふれあいを少しずつ増やすことが、猫が人に早く慣れる助けになるかもしれない、という見方です。猫ごとの恐れの強さや性格が分かれば、保護施設や飼い主が暮らしの環境を合わせられるかもしれない、とも述べています。
物陰からじっとこちらを見ている猫は、ただ怖いだけなのでしょうか。今回の調査だけでは答えは出ませんが、ひとくくりにされてきた猫の「人見知り」に、別の顔があるかもしれないと見えてきた点は面白いと思います。



怖いのに近づく猫って、人の赤ちゃんと同じ気持ちなの?
そこまでは言えません。論文は、恐れや近づく傾向の点は猫の気持ちを直接測ったものではなく、飼い主によるふるまいの受け止め方だと書いています。直した質問票が、人の赤ちゃんと猫で同じものを測っているとも言えないとしています。
記載されている箇所: 論文(PLOS One)の総合考察



オスとメスで、結果はちがったの?
最初の調査では、オスとメスを分けた分析もしています。メスでもオスでも、人見知りと恐れの点に正の相関がありました。人見知りと近づく点のU字形の関係は、メスでもオスでも統計的に意味のあるものではありませんでした。
記載されている箇所: 論文(PLOS One)の研究1の結果



人と長く暮らせば、怖がりな猫も人なつこくなるの?
この研究では、そうした形は見えませんでした。野良生まれのオスを調べた調査で、年齢の影響を除くと、人見知り・恐れ・近づく傾向のどれも、飼われている期間と相関がありませんでした。ただし同じ猫を長く追った研究ではなく、論文は今後そうした研究が必要だとしています。
記載されている箇所: 論文(PLOS One)の研究3の結果
研究メモ
- 掲載誌
- 幅広い分野の論文を載せるオープンアクセスの学術誌『PLOS One』に、2026年11月4日に掲載されました。
- 研究者
- Hattori M、Saito A、Yamamoto Sによる論文です。調査は京都大学野生動物研究センターの研究倫理委員会の承認を受け、JSTや日本学術振興会の科研費などの支援を受けて行われました。
- 対象
- 飼い主が答えた、家で暮らす猫のべ310匹です。研究1はオス44匹・メス38匹の計82匹、研究2はオス114匹、研究3は野良生まれのオス114匹で、どれも1〜7歳の猫です。実験ではなく、飼い主の報告にもとづく調査です。
- 方法
- 人の子ども向けの気質の質問票CCTIとIBQ-Rを猫向けに直し、20〜50歳の女性の飼い主にオンラインで答えてもらいました。人見知りと恐れの相関と、人見知りと近づく傾向のU字形の関係を調べ、探索的なクラスター分析で猫をまとまりに分けました。
- 結果
- 人見知りと恐れの点には強い正の相関があり、相関係数は研究1で0.788、研究2で0.846でした。予想したU字形の関係は見られませんでした。研究2のオス114匹のうち48匹は、恐れも近づく点も高いまとまりに分かれました。
- 注意点
- 点は飼い主によるふるまいの受け止め方で、猫の気持ちを直接測ったものではありません。クラスター分析は探索的で、人見知りと恐れの強い相関が分かれ方に影響したかもしれません。野良生まれかどうかも飼い主の報告だけです。


参考文献:
一次ソース: Hattori M, Saito A, Yamamoto S, Exploration of complex shyness and the relationship between fear and approach behaviors in domestic cats (Felis catus)(PLOS One, 2026)DOI:10.1371/journal.pone.0360035
別の研究: Matsuda YT, Okanoya K, Myowa-Yamakoshi M, Shyness in early infancy: approach-avoidance conflicts in temperament and hypersensitivity to eyes during initial gazes to faces(PLOS One, 2013)DOI:10.1371/journal.pone.0065476
別の研究: Vitale KR, Behnke AC, Udell MAR, Attachment bonds between domestic cats and humans(Current Biology, 2019)DOI:10.1016/j.cub.2019.08.036
アイキャッチ画像: Photo: Chris Smith / Unsplash









