はかせ、ハダカデバネズミってがんにならないって本当なの?
ほとんどならないことで有名だね。しかもその親戚も、発がん物質を与えて3年以上たっても腫瘍が一つもできなかったんだ。
これまでの研究で、とても長生きで、がんにもなりにくいことが知られている動物がいます。アフリカの地下で暮らすハダカデバネズミです。では、その近い親戚も、同じようにがんになりにくいのでしょうか。
九州大学の三浦恭子教授、岡香織助教らのグループは、近縁種のダマラランドデバネズミに発がん物質を与える実験を行いました。最長で3年を超えて追跡しても、腫瘍は一例もできませんでした。
ところが、発がん物質に対する免疫の反応は、ハダカデバネズミとは大きく違っていました。がんへの強さは共通でも、体の守り方は種ごとに違うのかもしれません。論文は、米国の学術誌『GeroScience』に2026年10月26日付で掲載されました。
親戚のダマラランドデバネズミは、まだ試されていなかった
これまでの研究によると、ハダカデバネズミは最大寿命が40年にもなる、齧歯類でいちばん長生きの動物です。自然にがんになった例は、数千の病理解剖のうち数例しか報告されていません。
同じデバネズミの仲間に、ダマラランドデバネズミがいます。これまでに知られているところでは、アフリカ南部の地下に暮らし、最大寿命は23年です。これまでの研究では、およそ3100万年前にハダカデバネズミと分かれたと考えられています。
ダマラランドデバネズミは、ハダカデバネズミと同じように真社会性で、低い酸素に強いことも知られています。
これまでの研究で、両種は高分子のヒアルロン酸を持つことやネクロプトーシスという細胞死が起きないことなど、がんを防ぐことに関わる分子の特徴を共有していると報告されてきました。ただ、ダマラランドデバネズミの悪性腫瘍はこれまでに3例しか記録がありません。本当にがんになりにくいのかを、体系的な実験で確かめた例もありませんでした。
この研究グループは2022年にも、ハダカデバネズミで発がん実験を行った結果を報告しています。その研究では、発がん物質で皮膚の細胞が傷ついても、ハダカデバネズミの皮膚に入り込む免疫細胞はマウスよりずっと少なかったのです。炎症の反応を弱めることで、強い発がん物質にも耐えていると論文は結論づけていました。
体重に合わせて量を決めた、2通りの発がん実験
デバネズミは、熊本大学と九州大学で飼育されている個体を使いました。ダマラランドデバネズミは生後20〜30か月、比べる相手のマウスは8〜10週齢でした。マウスはC57BL/6Nという系統で、オスとメスの両方を使っています。
まず、3-メチルコラントレン(3MC)という発がん物質を、背中の皮膚の下に一度だけ注射しました。発表文の用語解説によると、この物質はDNAを傷つける化学発がん物質です。
量は平均の体重に合わせて決めました。体重が平均23.2グラムのマウスには0.4ミリグラム、平均153.6グラムのダマラランドデバネズミには2.4ミリグラムです。
もう一つは、皮膚がんの実験でよく使われるDMBA/TPAという2段階の方法です。最初に発がん物質のDMBAを1回塗り、そのあと炎症を起こす物質のTPAを、観察のあいだずっと週2回塗り続けます。
ハダカデバネズミについては、以前の研究で3MCを注射した個体の皮膚の試料を、今回あらためて調べ直しました。遺伝子の働きを調べる解析(RNA-seq)では、何もしていないときと3MCを注射して1週間後の皮膚を、マウスを含む3種で比べています。組織や遺伝子の解析に使ったのは、1つの群あたり3匹、一部の群では5匹でした。
3年を超えても腫瘍ができなかった
注射の実験では、量を0.2ミリグラムに減らしたマウスでも、10匹中9匹が21週以内に腫瘍(線維肉腫)になりました。0.4ミリグラムを注射したマウスは腫瘍ができるか、皮膚のひどい潰瘍のために24週以内に安楽死させることになりました。
これに対して、同じように注射したダマラランドデバネズミ9匹には、一匹も腫瘍ができませんでした。54週目に3匹の皮膚を調べると、注射した場所に、がんの前の段階のような明らかな異常は見られませんでした。表皮の細胞の核に、軽い乱れがあった程度です。残りの6匹は、論文の時点で197週(およそ3年9か月)がたっても生きていて、腫瘍はありません。
DMBA/TPAの実験でも、結果は分かれました。マウスは45週までに7匹中6匹で腫瘍(乳頭腫)が実験を終える大きさになり、残りのマウスにも小さめの腫瘍ができました。ダマラランドデバネズミは7匹とも、53週まで見ても目に見える腫瘍はできませんでした。
そのあともTPAを184〜208週まで塗り続け、203〜227週まで観察しました。それでも、7匹すべてに腫瘍はできないままでした。
傷はできても、腫瘍には進まない
皮膚に何も起きていなかったわけではありません。DMBA/TPAの実験で調べた表皮には、増えている細胞が何層にも重なり、核の形が乱れた異形成がところどころ見られました。
早い時期の反応を見るため、研究チームは3MCを注射して1週間後の皮膚も調べています。DNAが傷ついた細胞は、ダマラランドデバネズミでもマウスでも増えていて、どちらも統計的に意味のある差でした。DNAの傷はできても、それが腫瘍にまで進まなかったわけです。
ハダカデバネズミのほうも以前の実験で3MCを筋肉に注射した15匹と、DMBA/TPAで処置した6匹のその後が、今回の論文で報告されました。5〜8年たっても、腫瘍はできていません。論文は、両方の種とも、ときどき異形成ができても腫瘍には進まない長続きする耐性をもっているとまとめています。
免疫細胞が集まるダマラランドデバネズミ


では、がんになりにくい理由も、2つの種で同じなのでしょうか。研究チームは皮膚の切片を目印のタンパク質で染めて、免疫細胞を数えました。白血球全体(CD45)・マクロファージ(IBA1)・好中球(MPO)・T細胞(CD3)の4種類です。
3MCを注射したダマラランドデバネズミの皮膚では、4種類の免疫細胞がどれも何もしていない個体より多くなっていました。その差は統計的に意味のあるものでした。同じグループの以前の研究では、ハダカデバネズミの皮膚に入り込む免疫細胞は、発がん物質を与えてもわずかでした。
ダマラランドデバネズミの皮膚には、もともと免疫細胞、とくにT細胞が多くいました。発がん物質の前もあとも、その数はマウスと同じか、それより多いほどです。発表文は、発がん物質の刺激で免疫細胞がマウスと同じかそれ以上に増えたことを「意外なことに」と紹介しています。
この状態は長く続きました。DMBA/TPAを始めて53週たっても、白血球とマクロファージの数は何もしていない個体より多く、統計的に意味のある差がありました。免疫細胞が入り込んだ状態が続いても、異形成が腫瘍に進むことはなかったのです。
毛と体温の違いも関わる?
ダマラランドデバネズミは毛におおわれていて、毛包がたくさんあります。これまでの研究では、ダマラランドデバネズミは体温が約35℃でほぼ一定なのに対し、ハダカデバネズミは体温が変わりやすく約32℃を好むことが知られています。
論文は、こうした体のつくりや体温の違いが、2つの種の免疫細胞の分布の違いに関わっているかもしれないと考察しています。
遺伝子の働きにも出た違いと、共通点
発がん物質を注射したあとに働きが変わった遺伝子の数は、マウスがいちばん多く、ダマラランドデバネズミとハダカデバネズミは同じくらいでした。中身は種ごとにかなり違います。
マウスだけで働きが強まった遺伝子は、自然免疫と炎症の経路に集中していました。発表文も、マウスでは炎症に関わる遺伝子群の働きが大きく高まったと伝えています。
ハダカデバネズミだけで強まったのは、角化の経路などに関わる遺伝子でした。発表文は、p53シグナル経路などのストレスに応える仕組みが活性化していることも示唆されたとしています。p53シグナル経路は、DNAの傷などに応じて細胞の増殖を止めたり、修復や細胞死を起こさせたりする仕組みです。異常な細胞が増えるのを防ぐ、重要ながん抑制の仕組みの一つでもあります。
ダマラランドデバネズミだけで強まった遺伝子には、免疫を働かせる経路と抑える経路の両方が含まれていました。免疫を抑えるSiglecという仲間の遺伝子も増えていて、行き過ぎた炎症や長引く炎症にブレーキをかける反応があるのかもしれません。
両方の種に共通していたこと
細菌やウイルスの成分を見つけて免疫反応や炎症を起こすセンサーに、Toll様受容体というタンパク質があります。その遺伝子のほとんどが、デバネズミの両種ではマウスより低いレベルでした。発がん物質を与えたかどうかに関係なく、です。炎症の信号を伝えるIL-1経路の遺伝子も、両種でマウスより低くなっていました。
ネクロプトーシスは、細胞膜が破れて中身が周りに出るため強い炎症を引き起こす細胞死です。両種とも、この経路が活性化しないことが共通していました。発表文は、こうした共通の特徴が、炎症を起こしすぎない仕組みに関わるかもしれないと述べています。
それでも、両種で共通して働きが強まった遺伝子は21個だけでした。
違いが原因かどうかは、まだ確かめられていない
見つかった違いは、あくまで相関です。免疫の反応の違いががんへの強さの原因になっているかどうかは、今後の研究で確かめる必要があると論文は書いています。発表文も、免疫応答の違いが発がん耐性にどう関わるかは今後の課題だとしています。
観察した期間はおよそ4年までで、調べたのは皮膚だけです。動物の数も少なく、論文はこれを、長生きでなかなか増えない動物を使う研究につきものの弱点だと認めています。この研究では、ダマラランドデバネズミで最長4年、ハダカデバネズミで最長8年のあいだ腫瘍が見つかっていません。ダマラランドデバネズミの耐性がハダカデバネズミと同じくらい長く続くかは、もっと長く観察して分かることです。
ほかの齧歯類を調べた別の研究もあります。アフリカトゲマウスは、DMBA/TPAを30週続けてようやく小さな良性の腫瘍ができました。中東にすむブラインドモールラットは長く耐えたものの、16か月で良性の肉芽腫、30か月で線維肉腫ができた個体もいました。
論文は、がんへの強さは炎症を抑えることとも、きっちり調節された免疫の働きとも結びつきうると考察しています。人では長く続く炎症ががんと老化の両方を進めるので、デバネズミが免疫の働きと抑えをどう釣り合わせているかを知ることが手がかりになりうる、というのが論文の見方です。
同じようにがんになりにくいのに、体の守り方はちがうかもしれないんだね。
そうなんだ。ただ、その違いががんを遠ざけている理由なのかは、まだ確かめられていないんだよ。
熊本大学大学院の博士課程にいた関口功記氏(研究当時)は、「こうした違いを比べることで、1種だけを調べていては気づけない、がんを防ぐ仕組みのヒントが見つかると考えています」と話しています。
ハダカデバネズミだけを見ていたら、炎症を抑えることだけががんへの強さの答えに見えたかもしれません。親戚どうしを並べて比べたからこそ、同じ結果にたどり着く道が一本ではなさそうだと見えてきた点に、この研究の面白さがあります。
参考文献:
一次ソース: Sekiguchi K, et al., Shared cancer resistance but divergent immune responses in two long-lived African mole-rat species: the naked mole-rat and the Damaraland mole-rat(GeroScience, 2026)DOI:10.1007/s11357-026-02576-2
研究機関: 九州大学・熊本大学・科学技術振興機構(JST) 共同発表「ダマラランドデバネズミの強い発がん耐性を世界で初めて実証」(2026年10月26日)
同じグループの前の研究: Oka K, et al., Resistance to chemical carcinogenesis induction via a dampened inflammatory response in naked mole-rats(Communications Biology, 2022)DOI:10.1038/s42003-022-03241-y
紹介した別の研究: Athar F, et al., African spiny mice show resistance to DMBA/TPA-induced squamous carcinogenesis with distinct benign tumor profile(Protein & Cell, 2025)DOI:10.1093/procel/pwaf024










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