キク菌がつくる体って、大きいものだとどれくらいになるんだろう?
キノコと聞くと、かさとひだのある形を思い浮かべる人が多いでしょう。けれども、菌類で最大のグループである子嚢菌(しのうきん)は、そうした本当の意味でのキノコの形はつくらないとされています。子嚢菌では、子実体の中や表面にある小さな袋の中で胞子がつくられます。知られている種は6万4000を超えるといいます。
その子嚢菌の仲間で、高さが最大50cmにもなる菌が中国・雲南省の森で見つかりました。調べたのは、中国科学院昆明植物研究所などのグループです。チームはこの菌を新属新種とし、さらに新しい科「ディアンジュン科」も立てました。種の名前は「ディアンジュヌス・レックス(Dianjunus rex)」で、以下では D. rex と書きます。
論文は2026年9月29日、学術誌『Frontiers in Fungal Biology』に掲載されました。遺伝子をもとに年代を推定すると、この科が枝分かれしたのは約6500万年前です。恐竜が絶滅した白亜紀末の大量絶滅から、それほどたっていない時期にあたります。
アベマキの根元から生えていた、黄色い子座


画像: Kim / iNaturalist(CC BY)
チームは雲南省で菌の調査を続けてきました。標本が採られたのは、2024年8〜9月の昆明市禄勧県の大麦地村と、2025年7月のシーサンパンナの勐臘県南邦村などです。南の熱帯雨林と、昆明市や禄豊市の温帯の針葉樹林の両方から見つかっています。
種の基準になった標本は、2024年8月5日に大麦地村で採られました。ブナ科のアベマキという木の根についていたものです。発表文によると、白っぽくてとても大きな「子座(しざ)」が、アベマキの根から生えていました。子座は、植物の根のまわりの土である根圏から出ていたといいます。
論文の記録では、子座は、全体の高さが20〜50cmでした。胞子をつくる部分は高さ10〜20cm、太さ7〜10cmで、太いものは15cmあります。重さは250〜600gです。土に埋まった部分は長さ20〜30cm・幅3〜6cmの柄になっていて、ここでは胞子をつくりません。
論文の抄録には、重さが2.2kgになる子座もあったと書かれています。図の説明によると、これは2つに分かれた、いちばん大きな子座の合計の重さです。種の記載にある重さとは、分けて読む方がよさそうです。
地上に出た部分の表面は、粉っぽい白っぽい黄色の繊維におおわれています。若いうちは白く、熟すにつれて濃い黄色に変わります。若い子座は先が球根のようにふくらみ、熟すと指のように枝分かれします。
とれたての子座はとても肉質で、採ると急速に水分が抜けていきます。強いにおいや味はありません。食べられるかどうか、毒があるかどうかは、論文には書かれていません。また、熱帯で採った子座は、亜熱帯で採ったものより大きかったそうです。
これまでの「大きな子嚢菌」と比べると


画像: Song J et al. Frontiers in Fungal Biology(2026) Figure 4 / 論文(CC BY 4.0)
論文は、D. rex の子座を、子嚢菌で記録された中で最大の子実体としています。発表文は、D. rex の高さは50cmに達し、これまでの記録よりかなり高いと書いています。
これまでの記録では、子嚢菌で最も高い子実体はおよそ20〜30cmだったと、発表文は説明しています。D. rex の論文の序論にも、以前に記録された大きな菌が出てきます。
以前の記録で、大きな子座をつくる代表例とされてきたのがエングレロミセス・ゲッツェイです。竹の茎に、丸く大きな子座をつくります。ケニアで記録された標本は、2つのこぶからなる直径約30cmのもので、重さは約3.2kgありました。重さだけなら、このケニアの記録の方が上です。
これまでの研究で知られる、ほかの似た菌はもっと小さめです。マメザヤタケの仲間(Xylaria polymorpha など)は、1本の高さが5〜8cmほどです。群れて生えると、全体の幅が20cmを超えることがあります。見た目が似た Squamotubera le-ratii の子座は、高さ約7cm・幅約5cmと報告されています。
D. rex が属するクロサイワイタケ目の菌は、ふつう炭のように黒っぽい子座をつくるとされています。論文によると、D. rex は大きさのほか、枝分かれが少ない点で似た菌とちがいます。淡い黄色から濃い黄色で、先が丸い点もちがいます。
新しい科を立てるほど離れた枝


画像: no rights reserved / iNaturalist(CC0)
見た目だけでは、どの仲間に入るかは決められません。チームは4か所の遺伝子の領域をPCRという方法で増やし、配列を読みました。4つの配列をつなげたデータを202の株でそろえ、系統樹を描いています。
すると新しい標本は、グラフォストロマ科のとなりの枝(姉妹群)として、最も強い支持(100%/1.00)でまとまりました。ゲノム全体を使った解析でも、3つの方法すべてで、同じ位置に最大の支持で置かれました。
ところが見た目は、グラフォストロマ科の菌とは大きくちがいました。論文によると、グラフォストロマ科で直立した子座をつくる属は、カミレア属やビスコグニアウキシア属など、わずかしかありません。そこでチームは、この枝を新しい科「ディアンジュン科」としました。
新しい科の目印は、粉っぽい繊維におおわれた大きな子座と、胞子にあるS字形の割れ目(発芽溝)などです。胞子の大きさは12〜17×5〜7マイクロメートルです。平らな面に、胞子の長さの半分から5分の4にもなる、目立つS字形の割れ目があります。
2016年の研究では、クロサイワイタケ目には16の科が認められていました。発表文は、いちばん近い既知の親せきを、北半球の広葉樹の枯れ木に生える Graphostroma platystoma としています。
名前にも由来があります。属の名前は、標本を採った今の雲南省のあたりにあった古代の「滇(てん)国」と、中国語でキノコや菌を意味する「菌(jūn)」を組み合わせたものです。種の名前の rex はラテン語で「王」を意味し、子座の大きさと堂々とした姿にちなみます。発表文によると、あだ名は「D-rex」です。



見た目も遺伝子も、知られている科のどれとも十分にちがったから、新しい科になったんだね!
遺伝子の時計が指す約6500万年前
では、この系統はいつごろ生まれたのでしょうか。チームは、野外で採った子座3つのゲノム全体と、働いている遺伝子(トランスクリプトーム)を読みました。3つのゲノムの大きさは、それぞれ約3000万〜3200万塩基でした。
公開データベースにある63種のたんぱく質の配列に、今回の3つを加えた66試料で系統を調べています。66試料に共通する302個の遺伝子をそろえて並べました。発表文は「数百の菌と比べた」と書いていますが、論文の数は66試料です。
年代は、発表文が「分子時計」と呼ぶ方法で推定しました。目盛り合わせには、既存のデータベース TimeTree にある枝分かれの年代を使っています。推定の結果、ディアンジュン科が枝分かれしたのは約6500万年前でした。幅をもたせると、5000万〜8000万年前になります。
論文は、この時期を暁新世のはじめとしています。発表文は、白亜紀末の大量絶滅の「およそ100万年後」と書いています。ただ、論文の推定には上のように3000万年分の幅があります。絶滅の何年後かまで言い切れる数字ではない、と読んでおくのが安全でしょう。
白亜紀末の大量絶滅では、鳥以外の恐竜と、数えきれない動物や植物が姿を消しました。論文は、動植物の種のおよそ75%が絶滅したと推定されている、と書いています。
論文は、大量絶滅のあとにこの系統が現れたことについて、森が回復する途中で空いた生きる場所を使ったことを反映しているのかもしれない、とみています。責任著者のインドゥニル・C・セナナヤケ准教授は「大量絶滅の後、森は大きく変わり、大量の死んだ植物が急に手に入るようになりました」と話しています。「木を分解する菌にとって、こうした環境の乱れが新しい機会になったのかもしれません」とも語っています。
菌と大量絶滅のつながりについては、2026年に別の研究チームが発表した研究もあります。ベイカーとカサデヴァルは、米国コロラド州デンバー盆地の白亜紀末の地層を調べました。そして、隕石が衝突した直後に、菌が急に増えた跡を見つけています。
この別の研究によると、白亜紀末の後に菌が増えた証拠は、それまでニュージーランドの1か所だけでした。これまでの報告と合わせて、ベイカーらは生態系がくずれた後に菌がしばしば栄えることを示す結果だとしています。ただ、この研究は D. rex の論文が引用したものではありません。D. rex の系統の始まりを直接示す証拠ではない点に注意が要ります。



でも、あんなに大きな体をつくるなら、木を分解する道具もたくさん持っているのかな?
大きいのに、分解の道具はおよそ半分


画像: Kieran Roy Powell / iNaturalist(CC BY)
チームは、ゲノムを読んだ3株について、糖を分解したりつくったりする酵素(CAZyme)の遺伝子を数えました。数はそれぞれ220個、224個、219個でした。
この数を、木などを分解する典型的な仲間と比べています。クロサイワイタケ属は535〜635個、チャコブタケ属は458〜496個、アカコブタケ属は423〜577個です。D. rex の酵素の遺伝子の数は、こうした仲間のおよそ半分か、それより少ない数でした。
とくに少なかったのが、植物の細胞壁にあるペクチンを切る酵素、ペクチンリアーゼの遺伝子です。近い仲間は7〜19個もっていました。D. rex は0〜1個で、1株では1つも見つかりませんでした。
これまでの研究では、植物と菌の関係で、ペクチンを分解する酵素が植物の細胞壁を最初にこわすのに大事な役割をもつとされています。
反対に、全体に占める割合が大きかったのが、糖をつなげる酵素(糖転移酵素)です。遺伝子は57〜58個で、酵素の遺伝子全体の約26%を占めていました。論文によると、この酵素は主に菌の細胞壁をつくる働きをもちます。
なぜ巨大になったのかは、まだ仮説
分解の道具が少ないのに、なぜこれほど大きな体をつくれるのでしょうか。論文は、ひとつの「作業仮説」を出しています。
ペクチンリアーゼの遺伝子がほとんど無いことは、ゲノムの上でペクチンを分解する力が小さいことを示します。論文によると、これは生きた植物の中にひそんで暮らす菌(内生菌)などのゲノムの特徴と矛盾しない、といいます。また、D. rex の子実体は、宿主の木が死んだ後にしか見られませんでした。属の説明にも、弱って死にかけた宿主の植物の根から生える、と書かれています。
こうした点から論文は、生きた木の中にひそむ暮らしから、死んだ木を分解する暮らしへ切りかわるのではないか、という仮説を出しています。分解の酵素にかけるコストが小さく、細胞壁づくりに力を回し続けることで、炭素を素早く菌の体に変えられるのかもしれない、と論文は書いています。それが巨大な子座につながった可能性がある、という考えです。
セナナヤケ准教授は、大きさの意味について、もうひとつの仮説も話しています。「まわりの草や落ち葉より高くそびえる子実体は、こみあった森で、風で胞子をよく広げられたのかもしれない」。そのうえで「大きな体には多くのエネルギーが要ります。この作戦は、得が損を上回る場所でだけ進化したのでしょう」と述べています。
どちらの考えも、まだ確かめられた結果ではありません。論文も、切りかわりの話を「作業仮説」と呼んでいます。ゲノムを読んだのは子座3つで、酵素の数は遺伝子から数えたものです。論文はまた、子嚢菌の巨大化は、クロサイワイタケ目とトリュフなどのチャワンタケ目で、別々に起きたことを示すとしています。
研究の舞台になった雲南省では、これまでに6000種以上の菌が記録されています。2022年の研究は、全体では10万種を超える可能性があると推定しています。セナナヤケ准教授は、この地域にはすみかの多様さや安定した気候、生き物どうしの複雑な関係がそろい、菌が多様になりやすいと話しています。
一方で准教授は、採集の難しさや、子実体が季節限定で見つけにくいことを挙げます。役に立つ菌ばかり調べられてきたこともあり、菌の多様さは低く見積もられてきたといいます。そして今回の発見を「東アジアの森に、まだどれほど多くの菌の多様性が見つかるのを待っているかを示しています」と語っています。
これほど目立つ大きさの菌に、まだ名前がついていなかった点に、菌の世界の調べ残しの大きさが表れていると感じます。なぜ大きくなったのかという問いは、まだ答えの途中です。
研究メモ
- 掲載誌
- 菌類の研究を載せる学術誌『Frontiers in Fungal Biology』に、2026年9月29日に掲載されました。
- 研究者
- 中国科学院昆明植物研究所のインドゥニル・C・セナナヤケ准教授(責任著者)らのグループです。タイのチェンマイ大学農学部なども共同研究に加わっています。
- 対象
- 中国・雲南省の熱帯雨林と温帯の針葉樹林で、2024年8月〜2025年7月に採った、大きな直立した子座をつくる菌の標本です。ゲノムを読んだのは、野外で採った子座3つです。
- 方法
- 子座や胞子の形を顕微鏡で調べ、胞子を培地で育てました。4か所の遺伝子の配列で202の株の系統樹を描き、66試料に共通する302個の遺伝子で系統と枝分かれの年代を推定しました。糖を分解したりつくったりする酵素の遺伝子の数も、近い仲間と比べています。
- 結果
- 新しい科ディアンジュン科と、新属新種 D. rex を立てました。子座は高さ20〜50cmです。科の枝分かれは約6500万年前(5000万〜8000万年前)と推定されました。酵素の遺伝子は約220個で、木を分解する仲間のおよそ半分か、それより少ない数でした。
- 注意点
- 年代は遺伝子から推定したもので、幅があります。巨大になった理由は、木の中にひそむ暮らしから分解する暮らしへ切りかわるという「作業仮説」の段階で、確かめられていません。食べられるかどうかは論文に書かれていません。


参考文献:
一次ソース: Song J, Yan Z, Pérez-Moreno J, et al., Unearthing a fungal giant: Dianjunaceae fam. nov., a novel Paleocene lineage of Xylariales harboring Dianjunus rex gen. et sp. nov(Frontiers in Fungal Biology, 2026)DOI:10.3389/ffunb.2026.1940464
研究機関: 中国科学院昆明植物研究所 / 発表文: Frontiers「Chinese scientists discover D-rex, a giant fungus with roots stretching back 65 million years」(ScienceDaily, 2026年10月26日)
別の研究: Baker RP, Casadevall A, Fungal proliferation before and after the Cretaceous-Paleogene mass extinction event in North America(PNAS, 2026)DOI:10.1073/pnas.2536899123










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