炎症による痛みは、雌のマウスのほうが雄より長く続く。
その差に、単球という免疫細胞が出すIL-10という物質と、男性ホルモンが関わっていることを、アメリカのミシガン州立大学などのチームがマウスの実験で示した。
交通事故などでけがをした245人のデータでも、男性のほうが痛みが早く引き、血液中のIL-10や単球が多いという関連が見られた。
ただし人のデータは関連を見たもので、因果を確かめたのはマウスだ。
論文は2026年2月、専門誌サイエンス・イムノロジーに掲載された。調べたのは、痛みが「始まる」しくみではなく、痛みが「引く」速さの男女差だ。
そもそも慢性痛とは何か
3か月を超えて続く痛み
痛みは本来、けがや炎症を知らせて体を守るための信号で、危険が去れば消えていく。ところが、なかなか引かない痛みもある。
国際疼痛学会(IASP)がまとめた国際疾病分類(ICD-11)向けの分類では、3か月を超えて続く、または繰り返す痛みを慢性痛と定義している。
論文の序論によると、多くの慢性痛では女性の患者が多い。その背景には、女性のほうが痛みが引くのに時間がかかることがあるとみられ、痛みが引きにくいほど慢性痛に移るリスクも高まる。
ただ、なぜ女性で引きにくいのかは、はっきりしていなかった。
感じ方の違いとされてきた男女差
痛みの強さは、今も患者に0〜10の数字で答えてもらって測っている。
感じ方は人それぞれなので、長引く痛みを訴える人が男性より女性に多くても、その差は感じ方や申告のしかたの違いとされがちだったと、大学の発表は書いている。
ミシガン州立大学のジェフロワ・ローメ准教授は「痛みの男女差には生物学的な基礎がある。気のせいでも、あなたが弱いからでもない。免疫系にあるのだ」と話している。
ただし、人で免疫の差が男女差のどこまでを説明するのかは、まだ分かっていない。
気のせいじゃなくて、体の中に理由があるかもしれないんだね。
痛みを鎮める単球とIL-10
研究を率いたのは、ミシガン州立大学で生理学を教えるローメ准教授と、当時その研究室の大学院生だったジェウォン・シム氏らのチームで、ノースカロライナ大学チャペルヒル校などと共同で行った。
実験の中心はマウスで、人については、けがをした人のデータで関連を調べた。
チームが注目したのは、単球という免疫細胞だ。単球は血液中を巡り、傷ついた組織に入り込む。
マウスの足の裏に強い炎症を起こす物質(完全フロイントアジュバント)を注射すると、炎症を起こした皮膚で、IL-10(インターロイキン10)を出す免疫細胞が増えた。
IL-10を出す単球・マクロファージのうち、およそ8割は単球だった。IL-10は、皮膚の感覚神経にある受け皿(IL-10R1)に働き、神経の興奮を抑える。
感覚神経からこの受け皿をなくしたマウスでは、痛みが長引いた。
マウスでは男性ホルモンがIL-10を増やす
マウスでは、雄は注射の1週間後から痛みが引きはじめたが、雌は強い痛みが続いた。腫れの大きさや、皮膚に集まった免疫細胞の総数には男女差がなかった。
違ったのはIL-10を出す細胞の数で、雄のほうが多かった。単球などからIL-10の遺伝子をなくすと、雄でも雌でも痛みが長引いた。
ホルモンを操作した実験もある。雄マウスの精巣を取り除くと、IL-10を出す単球が減り、痛みの引き方が遅れた。男性ホルモンの受容体をふさぐ薬(フルタミド)を与えた雄でも、痛みの引き方が遅れた。
雌マウスの卵巣を取り、男性ホルモンの一種ジヒドロテストステロン(DHT)を補うと、IL-10を出す単球が増え、痛みが早く引いた。
単球などで男性ホルモンの受容体をなくしたマウスも、痛みが長引いた。著者らは、男性ホルモンが単球に働いてIL-10を増やしているとみている。
卵巣を取っても痛みの引き方は変わらなかった


マウスで調べた女性ホルモンの影響
では、女性ホルモンはどうか。雌マウスの卵巣を取って偽薬を入れただけでは、痛みの引き方も、皮膚のIL-10を出す細胞の数も、手術のまねだけをしたマウスと変わらなかった。
論文は、エストロゲンが痛みの引き方に影響する可能性は低いとしている。
このマウスの実験では、女性ホルモンが痛みを長引かせていたのではなく、男性ホルモンがIL-10を出す単球を増やし、痛みを早く引かせていた。
IL-10の働きは雌雄で同じ
一方で、IL-10の働きそのものは雌雄で変わらなかった。炎症を起こした皮膚にIL-10を注射すると、雄でも雌でも同じくらい痛みが早く引いた。
感覚神経のIL-10の受け皿の量にも男女差はなかった。著者らは、男女差を生んでいるのは受け手の神経ではなく、IL-10の量の違いだと考えている。
マウスでは、男性ホルモンがIL-10を出す単球を増やしてたんだね。
マウスの実験と、けが人のデータ


2種類のマウスと245人のデータ
チームは、IL-10を出すと緑色に光るマウスを使い、どの免疫細胞がIL-10を出しているかを調べた。
足の裏を切開したうえで、狭い筒に入れて動けないようにしてストレスを与える、人のけがに近づけた別のマウスのモデルでも、雄のほうが痛みが早く引き、皮膚のIL-10も多かった。
大学の発表によると、チームは偶然ではないことを確かめるため、少なくとも5種類の試験をマウスで行い、結果は毎回同じだったという。
人については、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のサラ・リンステット氏らが進めるAURORA研究のデータを使った。
アメリカの23か所の救急外来で、主に交通事故でけがをして72時間以内に受診した人を登録した研究で、今回は女性172人、男性73人の計245人を解析した。
けがの直後の痛みの強さに男女差はなかったが、8週後と84日後には男性のほうが痛みが軽かった。男性は受診時の血液中のIL-10が多く、血液のRNAから推定した単球の割合も高かった。
IL-10が多い人ほど、84日後の痛みが軽い傾向もあった。
ただし、人のデータは関連を見たもので、因果は確かめられない。
血液のRNAから細胞の割合を推定する方法は、細胞を1つずつ見るものではないため、人でIL-10を主に出しているのが単球だとは確かめられなかったと、著者ら自身が限界に挙げている。
マウスでは炎症を起こした皮膚そのものを調べたが、人では血液しか調べられなかったという違いもある。
「痛みが引く」のは、能動的な過程
ローメ氏は「この研究は、痛みが引くのが受け身の過程ではないことを示している。免疫が動かす、能動的な過程なのだ」と話す。
論文によると、免疫細胞はこれまで慢性痛を引き起こす側として見られてきた。単球も、痛みの研究では主にマクロファージになる前の細胞とみなされてきた。
治療の手がかりになりそうな結果もある。炎症をおさめる働きを持つ脂質の一種、レゾルビンD1をマウスの炎症を起こした足に1回注射すると、雄でも雌でもIL-10を出す単球が増え、痛みが早く引いた。
痛みの引き方の男女差も消えた。単球などがIL-10を出せないマウスでは効かなかった。いずれもマウスでの結果だ。
マウスでは、痛みが引くのに免疫細胞が関わっていたんだね。
オピオイドに頼らない治療につながるか


研究チームが描く次の段階
論文の序論によると、アメリカで慢性痛を抱える人は1億人を超える(大学の発表は約5000万人としている)。大学の発表は、この研究をオピオイド以外の痛みの治療につながる道筋と位置づけている。
IL-10を出す免疫細胞を狙えば、依存性のある薬に頼らずに痛みを早く引かせられるかもしれないという。
ローメ氏は「この研究は、慢性痛が定着する前に防ぐ、オピオイド以外の治療の新しい道を開く」と話している。
論文も、IL-10を出す単球を増やすことが、男女で差のある痛みの治療に役立つ可能性を挙げている。どちらも可能性の段階だ。
実用化には、まだ時間がかかる
大学の発表は、新しい治療ができるのはおそらく数十年先だとしている。次の段階は、この経路を狙ってIL-10を増やす治療ができるかを調べることだという。
ローメ氏は、この研究が、女性の痛みを真剣に受け止めることにもつながってほしいと考えている。ただ、今回の結果がそのまま人の治療に当てはまるかは、これからの研究しだいだ。
治療に使えるかどうかは、まだこれからなんだね。
分かったことと、まだ分からないこと
まとめると、マウスでは、炎症を起こした皮膚に入り込んだ単球がIL-10を出し、感覚神経に働いて痛みを引かせていた。
雄では男性ホルモンの働きでこの単球が多く、痛みが早く引いた。人では、男性のほうが痛みが早く引き、血液中のIL-10や単球が多いという関連が見られた。
残された課題
単球にIL-10を出させる信号が何なのかは、まだ分かっていない。
著者らは、炎症のときに感覚神経が出す物質がIL-10づくりを促し、痛みを引かせる流れを強めている可能性を挙げ、今後の研究が必要だとしている。
IL-10の受け皿から先の神経の中の信号が男女で同じかどうかも、調べていない。
参考文献:
Monocyte-derived IL-10 drives sex differences in pain duration
Laumet et al., Science Immunology (2026). DOI: 10.1126/sciimmunol.adx0292
出典: Michigan State University / University of North Carolina at Chapel Hill
論文本文(PMC): PMC13198883
ミシガン州立大学の発表: Why chronic pain lasts longer in women: Immune cells offer clues









