研究は2026年、生物学誌Ecology and Evolutionに掲載された。夜の街灯の光が、地面を歩く小さな生き物の行動を変えているかもしれない。
ゴラン高原で撮られた5000匹超の円形行進
夜の街灯で始まる集団行進
今回の主役は、庭先や公園でおなじみのダンゴムシだ。彼らは湿った石や落ち葉の下に単独で潜り、乾燥に弱いため日中はほとんど動かない。
集団で目立つ場所に出てくる姿は、専門家の記録にもほとんど残っていない。
ところが夜の街灯の近くでは、数千から数万匹の個体が、中心を空けた円を描いて歩く様子が、2021〜2025年の動画4本に記録された。
1本の画像解析では、約5575匹が数えられている。
円の中心には個体がおらず、回る向きは時計回りも反時計回りもあった。ヘブライ大学の発表は、この現象を「死のスパイラル(death spirals)」と呼んでいる。
発見は北イスラエルのアマチュア博物学者
異変にまず気付いたのは、イスラエル北部ゴラン高原で夏の夜に渦を見たアマチュア博物学者のEviatar Itzkovich氏だ。
論文が解析した動画は2021〜2025年に撮られた5本で、場所はイズレエル渓谷のゲバと、ゴラン高原南部のエリアドの2か所だ。
ゲバの記録はLena Ben Yehudaさんの撮影で、Itzkovich氏は論文の共著者にもなっている。
研究を率いたのは、エルサレム・ヘブライ大学のPhD学生Idan Sheizaf氏と、指導教員のAriel Chipman教授だ。
チームは現地で観察と実験を行った。実験はエリアドの1か所で、自然に起きている行進の最中に、1回10分ずつ行われた。
成果は2026年に生物学誌Ecology and Evolutionの16巻4号(DOI: 10.1002/ece3.73487)として発表されている。
主役は謎の多い等脚類 Armadillo sordidus
渦の中身はArmadillo sordidusという等脚類の一種だった。等脚類はエビやカニと同じ甲殻類の仲間で、陸上で暮らすものはワラジムシ亜目(英語でwoodlice)と呼ばれる。
陸生の甲殻類では最も種の多いグループだ。
日本でおなじみのダンゴムシやワラジムシもこの仲間である。
Armadillo sordidusは非常に研究の少ない種で、これまで生息が確認されていたのは南シリアとゴラン高原だけだった。
今回、行進の観察を進める過程でイスラエル北部のイズレエル渓谷(Jezreel Valley)にも生息していることが初めて記録された。
円形の光の縁が行進を生むという説明
磁場は無関係だった
研究チームが検討した仮説の一つは磁場だった。ゴラン高原は火山性の高原で、溶岩の玄武岩のために磁場の向きが逆になる場所がある。
ところが行進中の群れの縁から約0.5 mの所に強力な磁石を置いても、はっきりした反応はなく、円を描く動きは続いた。
紫外線と白色光の決定的な差
次に光の種類を比べた。約5 m離れた紫外線ライト(395 nm)には向かって動いたが、円を描く動きは起きなかった。
ライトを地面の高さに置くと、引き寄せられたのは5〜10%ほどで、大半は元の場所にとどまった。
白色光(6000 K、22 W)は、地面と平行に置くと多数の個体が光源の周りに集まったが、円を描く動きは起きなかった。
白色光を地面に垂直な向きにして三脚に置いた3回の試行では、10分ほどで群れが光の下へ移動し、やがて円形の動きに整っていった。
同じ白色光でも、向きによって結果が分かれたことになる。
キク同じ白色光なのに、向きを変えるだけで円になるのはどうしてだろう?
光の縁に沿って歩く
鍵は光の形だと論文は考えている。光を地面に垂直に向けると、地面にほぼ円形の明るい範囲ができる。ダンゴムシはこの明るい範囲の縁に沿って歩いているように見える。
論文が提案する仕組みはこうだ。夜に巣から出た個体が人工光に引き寄せられ、光の下の密度がある値を超えると、明るい範囲の縁をたどる円形の動きが始まる。
必要な個体数は、明るい範囲が大きいほど多くなると推定されている。2025年8月6日の動画には、大集団はできたが円にはならなかった例もある。
Sheizaf氏は発表で「集団行動は動物界で一般的ですが、等脚類でこの形が見られるのは全く予想外でした。現代世界の幾何学、つまり街灯がつくる円形の光だまりが、この生き物たちの生まれつきの本能と相互作用して、目を奪われるが害になりかねない創発現象を生み出しているようです」と述べている。
夜間の人工光と円形の行進


ムカデに捕食される例が1回あった
観察中、近くにはムカデの一種Scolopendra cingulataやワラジムシの仲間Porcellio laevisもいた。
ムカデがダンゴムシを捕食しているように見える場面は1回で、論文は、人工光による集まりが行動の乱れにとどまらない影響を生むかもしれないと述べる。
発表は、巣から引き出されて円を描き続けると、捕食されやすくなり、生き延びるためのエネルギーも使うおそれがあるとしている。
メスが約8割で、繁殖のための集まりではなさそう
円形の集まりの中心部で102匹を採集したところ、オスが20匹、メスが82匹(約1対4)で、メスのうち24匹が卵を持っていた。
卵を持つメスが多いことから、論文は、この集まりが繁殖と関係するものではないと見ている。
ただし、約1対4という性比は他のArmadillo属で報告されている値と同程度で、集まりに別の生態的な役割があるのかもしれないとも述べる。
夜間の人工光(ALAN)研究のなかでの位置づけ
夜の人工光による生態系への影響は、ALAN(Artificial Light At Night)と呼ばれる分野で長く議論されてきた。
ただし論文が挙げる例は、チョウ、ガ、甲虫、ハエ、ヤスデなど、光に引き寄せられる節足動物が中心だ。
近年は、地面を歩く甲虫やワラジムシでも、活動のパターンや大胆さ、集まり方が変わるという報告が出ている。
今回の観察が新しいのは、等脚類で円形の集団行動を正式に記録し、光が当たる範囲の形がその引き金になりうると示した点だ。
論文は今後の課題として、月明かりなど自然光の下でも起きるのか、なぜこの種に限られ夏に集中するのかを挙げている。
実験はエリアドの1か所で、使った白色光も1種類のランプだったため、街灯の設計にまで話を広げることはできない。



街灯がつくる光の範囲の形が、円い行進の引き金になりうるってことか。
参考文献:
Streetlights are trapping thousands of pill bugs in giant "death spirals"
論文: Sheizaf, Itzkovich, Chipman (2026) A Novel Light-Induced Collective Circular Movement in Armadillo sordidus Isopods, Ecology and Evolution 16(4)
論文全文(PMC)
出典: ScienceDaily / Hebrew University of Jerusalem









