はかせ、T-rexの骨から血管が見つかったってホント?
本当ですよ。カナダで見つかった史上最大のT-rex「スコッティ」の肋骨から、6600万年前の血管が残ったまま発見されたんです
カナダのレジーナ大学の研究チームは、史上最大級のT-rex「スコッティ」の折れた肋骨を放射光X線で透視し、内部に6600万年前の血管がそのまま鉱物として保存されていることを確認した。研究成果は学術誌Scientific Reportsで発表されている。
「スコッティ」の肋骨に残された傷の物語


史上最大のT-rex「スコッティ」とは
スコッティは、カナダ・サスカチュワン州で発掘されたT-rexにつけられた愛称だ。現在はロイヤル・サスカチュワン博物館に所蔵されている。研究者の間では「これまでに見つかったT-rexの中で最大の個体」として知られる存在で、保存状態も非常によい。
生きていた時代は6600万年前。恐竜が地球から姿を消す直前にあたる時期だ。今回の論文では、その巨体を支えていた肋骨のうち1本が解析の主役を担った。
折れた肋骨が物語る生前のドラマ
スコッティの遺骸には、ある決定的な特徴があった。肋骨の1本に大きな骨折の痕が残っており、しかもその傷は完全には治りきっていなかった。骨折直後ではなく、傷口がふさがり始めた途中で命を落とした個体だったわけだ。
骨が折れたとき、生きている動物の体は患部に血を集めて修復を始める。新しい血管を一気に増やし、栄養と酸素を運び込む仕組みだ。研究チームが目をつけたのは、まさにその「治癒中の組織」が化石として残っている可能性だった。
骨折の原因はわかっていない。仲間との争いか、獲物との格闘か、あるいは病気か。いずれにせよその一撃が、結果として6600万年後の科学者に貴重な手がかりを残すことになった。
放射光X線が明かした骨の内部


なぜCTスキャンでは透けないのか
病院で使われるCTスキャンは、人の骨や臓器を映し出すには十分な力を持つ。だが恐竜の化石を相手にすると話は別だ。スコッティのような大型T-rexの肋骨は密度が極端に高く、医療用CTのX線では中までは透視しきれない。
ちょうど、薄い紙ならライトを当てれば文字が透けるのに、分厚い辞書を相手にすると光が抜けない、というイメージに近い。化石を割って中身を見れば一発だが、そんなことをすれば二度と元には戻らない。
そこで研究チームが頼ったのが、シンクロトロンと呼ばれる粒子加速器から取り出される強烈なX線、いわゆる放射光だ。これが今回の発見を支えた最大の武器となった。
巨大装置から放たれる「最強のX線」
シンクロトロンは、電子をほぼ光速まで加速させる巨大な円形装置で、進路を曲げられた電子から非常に明るいX線が発生する。医療用CTのX線とは桁違いの強度で、密度の高い化石内部までくっきり映し出すことができる。
研究チームはこの放射光を肋骨に当てることで、化石を一切傷つけずに内部の三次元構造を観察した。化石を割ってしまえば二度と元には戻らない。「壊さずに中身を見る」ことが、現代の古生物学では何より重視される作業になっている。
得られたのは単なる影絵のような白黒画像ではない。X線の波長を細かく変えながら撮影することで、内部にどんな元素が含まれているかという化学組成のマップまで読み取れるのが放射光のすごさだ。
具体的には、X線を当てたときに発生する蛍光信号を捉えれば、鉄やカルシウム、硫黄といった元素ごとの分布を画像として可視化できる。化石のどこにどの元素が濃く残っているかを、地図のように描き出せるわけだ。これによって「色は同じに見える石の塊」の中に、生体由来の構造と純粋な鉱物の堆積を区別する手がかりが生まれる。
鉄分で保存された二層の血管網
放射光画像を解析した結果、肋骨の骨折部分に密に絡み合った網状の構造が浮かび上がった。これがまさに、修復のために増殖した血管の痕跡だ。
血管そのものはとっくに分解されているが、その鋳型となった部分に鉄分を多く含む鉱物が入り込み、形を保ったまま化石化していた。粘土に押し付けたコインの跡に石こうを流し込んで型をとるようなイメージで、生体が消えたあとに鉱物が代役を務めた格好だ。
しかも構造はくっきりと異なる2層に分かれていた。研究チームは、これは血管が埋もれた後に異なる環境を経験した証拠だと指摘する。地下水の組成や圧力が時代とともに変化し、層ごとに違った鉱物が積み重なったわけだ。
そもそも生き物の血液にはヘモグロビンという鉄を含むタンパク質が大量に存在する。動物が死んだあと、ヘモグロビン由来の鉄イオンが組織にしみ込み、酸素や水分と反応して安定な鉄鉱物に変わる。この鉄が組織のすぐ近くで結晶化することで、繊維やチューブ状の構造を内部から支える「鋳型」の役割を果たし、何千万年たっても形が崩れずに残ると考えられている。
つまり、血管が残ったというよりも、血管の通り道に鉄が雪のように降り積もって形を写し取ったと表現したほうが近い。スコッティの肋骨の場合、その鉄分の供給源は自分自身の血液にあった可能性が高い。
恐竜研究のターゲットが変わる


「傷ついた骨」が宝の山になる
これまで、化石の中から血管や軟組織のような繊細な構造が見つかる例は限られてきた。骨そのものは石のように残るのに、内部の柔らかい部分は微生物に分解されたり水で押し流されたりしてしまうのが普通だったからだ。発見されても保存状態が悪く、構造をしっかり読み取れる例はさらに少なかった。
スコッティの研究は、「ケガをして治りかけていた骨」こそが軟組織保存のホットスポットであることを浮き彫りにした。患部では血管が一時的に増え、組織が活発に動いている。化石化の過程でも、その密集した血管網がそのまま鉱物に置き換えられやすいというわけだ。
逆に、無傷で穏やかに埋もれた骨では、内部の血管はもともと均等に分布しているうえ、鉱物を局所的に呼び込みやすい状況も生まれにくい。こうした「平凡な骨」は、軟組織を狙う標本としてはむしろ不利だったわけだ。これまでなぜ軟組織が見つかりにくかったのか、その理由を裏側から説明する結果ともいえる。
研究チームを率いたレジーナ大学物理学部の博士課程学生ジェリット・レオ・ミッチェル氏は、骨が損傷した部位では血管活動が活発になると説明したうえで、スコッティの肋骨で観察された網目構造はまさにその治癒過程の一部だと述べている。
現代の鳥との比較で恐竜の生理に迫る
恐竜の最も近い親戚は、現代の鳥類だ。鳥の骨が折れた時の血管反応は、今日でも生きた個体で観察できる。スコッティの肋骨に残された血管網と現生鳥類のそれを比べれば、恐竜から鳥へとつながる進化の道筋を読み解くヒントになる。
骨が再生する速度や血管の太さなどを定量的に比較できれば、T-rexの代謝の高さや活動量についてもより踏み込んだ議論ができる。これまで姿形からの推測に頼ってきた巨大恐竜の生理が、実物の組織を介して語られる時代に入りつつあるのだ。
たとえば、骨折部位での血管の枝分かれの密度、骨芽細胞が活動した範囲、修復の進み具合を示す層構造などが比較対象になる。鳥の数日〜数週間スケールの治癒データを物差しにすれば、スコッティが怪我をしてからどれくらい生き延びたのかという時間軸での推定もしやすくなる。
次に「掘るべき骨」が変わる
ミッチェル氏らは、「ケガや病気の痕がある骨」こそ次に詳細解析すべき優先候補だと提案している。世界中の博物館の収蔵庫には、骨折跡や腫瘍跡を持つ化石が数多く眠っている。これまでは見栄えの悪い「キズ物」として後回しにされていた標本が、シンクロトロンの登場で一気に研究の最前線に躍り出る格好だ。
論文の共著者にはマウリシオ・バルビ氏、ライアン・C・マッケラー氏、モニカ・クリヴェティ氏、イアン・M・クールソン氏が名を連ねる。物理学・古生物学・地球化学が交差する分野横断のプロジェクトとして進められた点も、近年の古生物学の流れを象徴している。
骨折した骨が一番すごい情報を持ってるなんて意外!
そうですね。これからは博物館に眠っている「ケガをした恐竜の骨」から、次々と新しい発見が出てくるかもしれませんよ
恐竜研究は、化石を「形」で見る時代から「中身」で見る時代へと急速に変わりつつある。スコッティが残した1本の肋骨は、その大きな転換点として記憶されることになりそうだ。
参考文献:
Blood vessels found in T. rex bones are rewriting dinosaur science
出典: ScienceDaily










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