カナダのレジーナ大学の研究チームは、史上最大級のT-rex「スコッティ」の折れた肋骨を放射光X線で調べ、内部に血管だったとみられる構造が鉱物の鋳型として残っていることを示した。
研究成果は学術誌Scientific Reportsで発表されている。ここで大事なのは、「血管そのもの」が残っていたのではなく、血管があった場所を鉱物が埋めた鋳型とみられる、という点だ。
論文自身も、血管と断定せず「血管のような構造」と呼んでいる。
「スコッティ」の肋骨に残っていた骨折

最大と推定されるT-rex「スコッティ」とは
スコッティは、カナダ・サスカチュワン州で発掘されたT-rexにつけられた愛称だ。現在はロイヤル・サスカチュワン博物館に所蔵されている。
論文は、スコッティをこれまでに回収されたT-rexの中で最大と推定される標本としている。
1991年にサスカチュワン州イーストエンドの近くで見つかり、骨格の65%が回収された、最も完全なT-rex標本の一つでもある。
化石が出た地層は白亜紀末のフレンチマン層で、論文はその年代を約6700万年前としている。
今回調べたのは、肋骨の頭に近い骨折部分だ。

治りかけで止まった骨折
スコッティの骨格には、尾、頭骨、肋骨などに複数の病変がある。
そのうち背側の肋骨の1本には、骨折のあとにできた大きな仮骨(骨折を修復するために新しく成長した骨)があり、治りきっていないように見える。
骨の薄片を調べた論文は、骨折の治癒が始まっていたが完了していなかったことから、スコッティは骨折から数か月以内に死んだと推定している。
骨折などの病変があると、その部分の血管の活動が急に高まる(血管新生)。もとの血管から新しい血管が枝分かれして、治癒に必要な栄養を運び込む。
研究チームは、この骨折した肋骨を探索的な分析の対象に選んだ。
骨折の原因は論文に書かれていない。
放射光X線が明かした骨の内部
なぜCTスキャンでは透けないのか
解説記事によると、化石化した骨は鉱物が元の有機物を置き換えていて密度が非常に高く、通常の医療用CTスキャナーでは大型の化石の内部まで透過できない。
そこで研究チームは、粒子加速器の施設でつくられる非常に強いX線、放射光(シンクロトロン光)を使った。撮影と化学分析はカナダのカナディアン・ライト・ソースで行っている。
撮影は2段階だった。まず骨を切らずに断面をCTで撮って血管のような構造を見つけ、そのあと化学分析のために骨を厚さ6mmの切片に切り出している。
論文は、この化学分析が骨を切る必要がある破壊的なものだったと認めている。
キクとても強いX線でT・レックスの骨の中を撮ったら、いったいどんな形のものが写ってたんだろう?
骨の中を走る高密度の管状構造
放射光CTの画像には、骨の中心側から外側へ向かって、骨の組織を横切るように長く蛇行して枝分かれする高密度の構造が写っていた。
太さは100〜500マイクロメートルで、仮骨のそばの骨の反対側には直径1ミリの大きな構造も見つかった。
化学組成は、蛍光X線による元素の分布図と、鉄のX線吸収スペクトルで調べた。骨の本体はカルシウムが主成分なのに対し、管状構造は鉄が主成分で、マンガンも少し含んでいた。


鉄の鉱物で型どりされた二層の構造
骨折から5cm離れた正常な部分を同じように撮影したところ、似た高密度の構造は見つからなかった。
論文は、この構造が骨折した部分にしかないことから、骨折の治癒で新しくできた血管に由来する可能性があるとみている。
管状構造の中身は鉱物で、炭素は検出されなかった。論文は、血管の通り道に鉱物が詰まり、鋳型として保存されたと考えている。
論文によると、この鉱物は黄鉄鉱(鉄と硫黄の化合物)で、その一部が酸化してゲータイトやヘマタイトという鉄の鉱物に変わっていた。
しかも構造はくっきりと異なる2層に分かれていた。論文は、水のない乾燥した時期に黄鉄鉱が酸素と反応してゲータイトに変わったという道すじを考えている。
鉄の出どころについて、論文は2つの可能性を挙げている。
埋まっていた間に地下水から鉄が入り込んだ場合と、血管の中にあった血液のヘモグロビンの鉄が一部を供給した場合で、どちらかは確かめられていない。
骨折した骨は軟組織探しの候補になる
骨折した骨を調べる意味
論文によると、これまでに報告された鉱物化した恐竜の血管は、骨の中の細い管(ハバース管)の名残だけだった。
骨折で新しくできた太い血管について、3次元の形と化学組成をあわせて調べた報告は、これまでなかったという。
論文は、骨折で傷んだ骨が、軟組織を探すときの標的になりうると考えている。骨折が治りきっていなかったことで、新しい血管が見つかる可能性が高まったという見方だ。
ただし著者らは、これは仮説で、確かめるにはもっと多くの標本の分析が必要だと書いている。
筆頭著者のジェリット・L・ミッチェル氏(レジーナ大学)は、The Conversationに寄せた解説記事(ScienceDaily転載)で、骨が傷つくと患部の血管の活動が高まり、スコッティの肋骨で見つけた構造はその過程の一部とみられると説明している。
研究の始まりは、氏が学部生のときにT-rexの骨を3次元撮影し、血管のように見える構造に気づいたことだったという。
現生の鳥やワニとの比較が次の課題
論文は今後、鳥やワニなど現生の近縁種の骨折でできる血管をCTで調べて比べ、こうした特徴の進化をより広く調べたいとしている。
次の候補と、残る限界
論文は、次に優先して調べる候補として、より大きな標本を挙げている。大きな骨ほど骨折も大きくなり、治るときに必要な血管も密になるため、血管の鋳型が見つかる機会が増えると考えるからだ。
論文の共著者にはマウリシオ・バルビ氏、ライアン・C・マッケラー氏、モニカ・クリヴェティ氏、イアン・M・クールソン氏が名を連ねる。
これまでにも、恐竜の血管や軟組織が見つかったとする報告はある。ただ、血管の中に血球が見つかったとする古い報告は、のちに、化石になる過程での変化と解釈し直されている。
今回の論文は、使った一連の手法では元の軟組織を回収できなかったとはっきり書いている。実験の結果をあわせると、肋骨の中に柔らかい有機物が残っている可能性は低いという。
そのうえで、構造の形と、骨折した部分にだけ見られることから、治るときに新しく伸びた血管に由来すると考えられる、という結論にとどめている。



恐竜の骨折した骨が、血管のような柔らかい組織のあとを探す目印になるかもしれないけど、確かめるにはもっと多くの標本が要るんだね。
参考文献:
Mitchell JL, Barbi M, McKellar RC, Cliveti M, Coulson IM. In situ analysis of vascular structures in fractured Tyrannosaurus rex rib. Scientific Reports, 2025; 15. DOI: 10.1038/s41598-025-06981-z
Scientific Reports 原論文(本文・オープンアクセス: PMC)
Blood vessels found in T. rex bones are rewriting dinosaur science(筆頭著者による解説記事、ScienceDaily転載)








