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太陽の1540倍の星が1年で「変身」!? 宇宙で最も稀な巨星の最期

2026 7/09
宇宙・天文
2026年2月28日2026年7月9日
🕑この記事は約12分で読めます
シルミー

はかせ、星がたった1年で「変身」したって! 星の一生って何百万年もかかるんじゃないの?

はかせ

いいところを突くね。ふつうはその通り、気の遠くなる時間がかかる。ところが今回の主役、太陽の1500倍もある巨大な星は、わずか1年で色も大きさも変えてしまった。人生でいえば最後の数時間に起きた、劇的な「顔の変わりよう」なんだ。

宇宙には、太陽の1500倍もの大きさを持つ、想像を絶する巨星が存在する。もしその星を太陽の場所に置いたら、表面は火星の軌道あたりまで広がってしまう。そんな怪物のような星の一つ、大マゼラン雲にあるWOH G64が、天文学者たちの目の前で「変身」を遂げた。しかも、星の一生からすればまばたきほどの、わずか約1年で。

この観測結果は、アテネ国立天文台などの国際チームが30年ぶんの記録を解析してまとめ、2024年に発表された。巨大な星が一生を終える直前に見せる、めったに拝めない特別な姿——その一部始終を、順に解き明かしていこう。

目次

まず、その大きさが桁外れだ

赤く輝く巨大な星
Photo by Frank Cone on Pexels

WOH G64があるのは、天の川銀河のとなりにある小さな銀河、大マゼラン雲。地球からおよそ16万光年という、途方もない距離にある。それでも研究対象になるのは、この星が宇宙で知られる最大級の恒星の一つだからだ。

その半径は、変身前で太陽のおよそ1540倍にも達していた。ピンとこない数字だが、太陽の位置にこの星を置くと、その表面は地球はおろか火星の軌道すら飲み込んでしまう。星というより、もはや小さな太陽系がまるごと一つの星になったような規模だ。重さは生まれたときで太陽の25〜28倍。明るさにいたっては太陽のおよそ28万倍にも達する。宇宙の巨人と呼ぶにふさわしい存在だった。ただし、これほど巨大でも密度はきわめて薄い。星全体を太陽系規模まで膨らませているため、その外層は地上の実験室で作れる真空よりもさらにスカスカなのだ。「大きい」ことと「詰まっている」ことは、星の世界では必ずしも一致しない。

1年で「赤」から「黄」へ変わった

黄色く輝く星の観測
Photo by Lucas Pezeta on Pexels

天文学者たちは、この星を30年にわたって見張ってきた。地道に集めた明るさの記録を解析すると、2013年から2014年にかけての約1年間で、星がそれまでとまるで違う振る舞いを見せ始めたことが分かった。

変化の中身はこうだ。それまで赤くくすんでいた星の色が、はっきりと黄色っぽく変わった。ここで多くの人が誤解しがちなのだが、赤から黄色への変化は「冷えた」のではなく「熱くなった」ことを意味する。星の色は表面温度で決まり、赤いほど低温、黄・白・青と高温になる。実際この星の表面温度は、およそ3200度から4700度へと1500度も上昇した。同時に、あれほど膨れていた半径は太陽の1540倍から約800倍へと縮んだ。ふくらんで赤かった巨星が、ひとまわり縮んで黄色く輝きだしたのだ。

この発見が地道な30年ぶんの観測記録の積み重ねから生まれたことにも触れておきたい。星の変化は多くの場合、人間の一生よりずっとゆっくり進む。だから天文学者は、何十年も同じ星を測り続け、わずかな明るさや色のゆらぎを記録していく。今回はその根気が報われ、赤色超巨星から黄色ハイパージャイアントへと移り変わる「境目」の1年を、まるでコマ送りのように捉えることができた。星の進化を実時間で目撃できる機会は、めったにない。

この黄色い星は「宇宙で最も稀」な段階だった

夜空に稀に輝く星
Photo by Apiwit sriphoto on Pexels

色が変わっただけの話ではない。この変化によって、WOH G64は黄色ハイパージャイアントという、きわめて珍しい種類の星に仲間入りした。どれほど珍しいかというと、天の川銀河全体を見渡しても十数個しか見つかっていない。

なぜそんなに稀なのか。それは、この姿でいられる時間がせいぜい1000年ほどと、あまりに短いからだ。星の寿命は数百万年。その中のたった1000年といえば、80年生きる人間にとっての最後の数時間にあたる。つまり黄色ハイパージャイアントとは、巨大な星が一生を終えるまさに直前の、ほんの一瞬の姿なのだ。今まさにその瞬間を目撃できたことに、天文学者たちは沸いた。

なぜこの段階がこれほど短いのか。その背景には、黄色ハイパージャイアントが直面する「イエロー・ボイド(黄色い空白域)」と呼ばれる不安定な壁がある。星が赤い段階から温度を上げて青い方向へ進もうとすると、およそ7000度あたりで大気が力学的に不安定になり、大量のガスを噴き出してしまう。すると星は見かけ上ふたたび赤く膨らみ、噴出が収まるとまた青へ——という往復を繰り返す。まるで越えられない一線の前で行ったり来たりするように、この温度帯で星は激しく揺れ動く。だからこそ、安定してこの姿でいられる時間はごく短いのだ。

なぜ「静かに」変身できたのか

連星系のイメージ
Photo by Zelch Csaba on Pexels

ところが、この変身には一つ不思議な点があった。ふつう、これほど劇的な変化には激しい「爆発的な噴火」がともなうものだ。星が外側の層を一気に吹き飛ばして姿を変える。ところがWOH G64は、そうした大噴火を起こさず、まるで手品のように静かに顔を変えてみせた。

その謎を解く鍵として浮かんだのが、伴星の存在だ。研究チームは、この星のそばに青く高温なB型の星が寄り添う「共生連星」ではないかと考えている。その相手の星が、WOH G64の膨らんだ外皮を少しずつ引きはがしていった——だから爆発なしに、静かに中の熱い層が顔を出したのではないか、というわけだ。もっとも、この変身が超新星爆発が近いことを告げる前触れだという見方もあり、真相はこれからの観測に委ねられている。

もう一つの巨人「ピーナッツ星」HR 5171A

二重星系の天体
Photo by Frank Cone on Pexels

黄色ハイパージャイアントの話をするとき、忘れてはならない星がもう一つある。私たちの天の川銀河、ケンタウルス座の方向およそ1万2000光年にあるHR 5171Aだ。こちらは太陽の約1300倍という、銀河系でも最大級の黄色い巨星の候補として知られてきた。あの有名なベテルギウスより、さらに5割ほど大きい。

この星が面白いのは、その奇妙な形にある。2014年の観測では、すぐそばを回る伴星が主星に接触するほど近づき、二つがくっついて「ピーナッツ」のような形になっていると報告された。二つの星が一つの外皮を共有する、めったに見られない姿だ。ただし2017年には「連星の証拠ははっきりせず、そもそも黄色ハイパージャイアントではなく赤色超巨星かもしれない」という異論も出た。正体がまだ決着していないという点でも、この星は天文学者を惹きつけ続けている。

他の黄色い巨人たちも、激しく揺れている

脈動する変光星
Photo by Micotino on Pexels

黄色ハイパージャイアントが不安定であることは、他の星の観測からもよく分かる。その代表格が、カシオペヤ座にあるρ(ロー)カシオペヤという星だ。この星は1946年、そして2000年に大噴火を起こした。とりわけ2000年の噴火では、わずか200日ほどの間に表面温度が7000度台から4000度以下へと3000度以上も急降下し、太陽の質量の5%にあたるガスを一気に放出した。観測史上でも最大級の激変だ。

もう一つ、IRC+10420という星は「最速で進化する星」として知られる。わずか20年ほどの間に表面温度が1000度以上も上がり、赤色超巨星から次の段階へと移り変わる様子を、人類がリアルタイムで観測できる稀有な例だ。こうした星々の激しい振る舞いを並べてみると、WOH G64の変身も決して孤立した珍事ではなく、巨星が最期に向かうときに共通して見せる「あがき」の一つなのだと分かってくる。

星の中心では「タマネギ」が育っている

超新星爆発のイメージ
Photo by Daniel Cid on Pexels

では、こうした巨大な星の内部では何が起きているのか。星は中心で軽い元素を融合させ、そのエネルギーで自らの重みに耐えている。太陽より何十倍も重い星は、水素をヘリウムに変え、それを使い果たすと今度はヘリウムを炭素に、さらに酸素、ケイ素……と、より重い元素を次々に燃やしていく。

その結果、星の内部は中心ほど重い元素が層をなす「タマネギ構造」になる。いちばん外に水素、内へ向かってヘリウム、炭素と重なり、中心には最も重い鉄の芯ができる。そしてこの鉄こそが、巨星の運命を決める鍵になるのだ。

鉄の芯ができると、星は一瞬で自壊する

中性子星と宇宙の爆発
Photo by Nicola Narracci on Pexels

なぜ鉄が運命を握るのか。それは鉄が、原子核の中で最も安定した「燃えかす」だからだ。鉄より重い元素を作ろうとしても、もうエネルギーが出てこない。むしろ逆にエネルギーを吸い取ってしまう。星を内側から支えていた「火」が、鉄の芯では消えてしまうのだ。

燃料という支えを失った中心は、自分自身の重さに耐えられなくなる。鉄の芯が太陽の約1.4倍という限界の重さを超えると、あまりの高温高密度に鉄の原子核すらばらばらに分解され、電子が原子核に吸い込まれて、星を支えていた圧力が消え去る。するとわずか1秒足らずで中心が一気に潰れ、その反動で外側の層が宇宙へ吹き飛ばされる。ちなみに、水素を燃やす期間が数百万年なのに対し、最後にケイ素を燃やして鉄の芯を作る段階は、たった1日ほどで終わってしまう。巨星は、最期に近づくほど加速度的に命を燃やし尽くすのだ。これが超新星爆発だ。あとには中性子星やブラックホールが残る。そして爆発の中で作られ、宇宙にばらまかれた重い元素が、次の星や惑星、そして生命の材料になる。私たちの血液に含まれる鉄も、骨のカルシウムも、はるか昔に果てた星の最期の贈り物なのだ。

シルミー

私たちの体が星のかけらでできてるなんて、ロマンだね……! でも爆発したら地球は大丈夫なの?

はかせ

心配ないよ。危険なのはだいたい50光年以内の爆発。今回の星は1万光年以上も先だから、まったくの安全圏。むしろ、爆発の瞬間を拝めたら大ごちそうなんだ。

もし爆発したら、地球からどう見える?

夜空に輝く歴史的な超新星
Photo by Miriam Espacio on Pexels

超新星爆発が地球に害を及ぼすのは、およそ50光年以内で起きた場合に限られるとされる。WOH G64もHR 5171Aも、その200倍以上も遠い。だから仮に爆発しても、地球にとっては壮大な「見世物」になるだけだ。ちなみに、過去に地球のすぐ近くで超新星が起きた痕跡は実際に見つかっている。約250万年前、およそ300光年の距離で爆発した星がまき散らした放射性の鉄が、海底の地層から検出されているのだ。幸いその距離でも壊滅的な被害には至らなかったとみられるが、宇宙の爆発が地球に無縁ではないことを教えてくれる。

人類は過去、その見世物を何度も目撃してきた。有名なのは1054年、おうし座に現れた超新星だ。中国の記録によれば昼間でも見えるほど明るく、600日以上も夜空に輝き続けた。その爆発の残骸が、今も望遠鏡で見える美しいかに星雲である。さらに1006年には、記録に残る中でもっとも明るい超新星がおおかみ座に現れ、金星の何倍もの輝きを放ったと、世界各地の記録が伝えている。1572年にはカシオペヤ座に超新星が輝き、若き天文学者ティコ・ブラーエがこれを観測して「天は永遠に不変」という当時の常識を打ち砕いた。だが、私たちの天の川銀河で肉眼で見えた超新星は、1604年にケプラーが記録したものを最後に、もう400年以上も現れていない。統計的には数十年に一度は起きるはずで、「そろそろ次が」とささやかれ続けている。もし今、巨星のどれかが最期を迎えれば、私たちもまた、数週間にわたって輝く「新しい星」を夜空に見上げることになるだろう。

WOH G64の静かな変身は、巨大な星が最期へ向かう道のりの、貴重な一場面をとらえたものだ。赤から黄へ、膨張から収縮へ。星もまた、生き物のように姿を変えながらその生涯を閉じていく。宇宙の巨人たちが見せる最期のドラマから、私たちはまだ当分、目を離せそうにない。

参考文献
Muñoz-Sanchez G, et al. 『The dramatic transition of the extreme red supergiant WOH G64 to a yellow hypergiant』 Nature Astronomy, 2024/2026. arXiv:2411.19329
Chesneau O, et al. 『The yellow hypergiant HR 5171 A』 Astronomy & Astrophysics 563, A71, 2014. DOI: 10.1051/0004-6361/201322421
Space.com (2026-02): Astronomers just watched a star 1,540 times the size of our sun transform into a hypergiant

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この記事を書いた人

シルミー編集者のアバター シルミー編集者

科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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