宇宙が生まれて20億年ほどしか経っていない時代に、中心に「棒」を持つ渦巻銀河がすでに存在していた。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の画像と地上望遠鏡の分光データをもとにした発見で、論文はarXivに公開されている(掲載誌での査読を経たかどうかは確認できていない)。
見つかったのはCOSMOS-74706という銀河だ。論文によると、分光観測で測った赤方偏移は3.159で、そのときの宇宙の年齢は約20億5千万年にあたる。
中心には星が細長く連なる「棒」があり、長さは片側で約1.4キロパーセク(約4600光年)と測られている。
ただし赤方偏移を直接測ったのは銀河の北側にある青い塊で、渦巻銀河の本体が同じ赤方偏移にあることは、光の色の分析から裏づけられた段階だ。
この点も含めて、論文に沿って順に見ていこう。
棒渦巻銀河とは、どんな銀河か
中心を貫く、星の棒
渦巻銀河の中には、中心部に星が細長く連なった「棒」を持つものがあり、棒渦巻銀河と呼ばれる。私たちの天の川銀河も、強い棒を持つ棒渦巻銀河だ。
論文によると、棒は銀河の進化に大きな役割を果たす。星形成を促し、ガスと角運動量を外側へ再配分し、超大質量ブラックホールに間接的にガスを送り込む可能性もあるという。
「整っている」ことの意味
今の宇宙では、大きな円盤銀河の60%以上が強い棒を持つ可能性があると論文は書いている。
論文によると、棒は、回転で支えられた円盤が十分に重くなり、力学的に冷えたとき(星の動きがそろっているとき)に、円盤全体の不安定性を通じてできることが多い。
そのため棒は、重く落ち着いた円盤がすでにあることの目印になる。ただし、角運動量の大きいダークマターのハローがあれば、力学的に熱い円盤でも棒ができるという研究もある。
キク棒って、重くて落ち着いた円盤がもうあることの目印になるんだね。
なぜ初期宇宙の棒が注目されるのか


初期の円盤は乱れていたと考えられてきた
論文によると、JWST以前の観測では、整った渦巻構造をもつハッブルの分類のような形は、赤方偏移2より前にはまだできていないと考えられていた。
装置の解像度が足りなかったためで、JWSTの打ち上げ前に見つかっていた最も遠い棒渦巻銀河は赤方偏移1.97だった。
JWSTの観測で、遠い棒渦巻銀河は次々に見つかっている。論文が挙げる例では、分光で確かめられた最も遠い棒は赤方偏移2.467、測光による推定では約3.03、有力な候補では3.10がある。
COSMOS-74706(3.159)は、レンズ効果で拡大されていない銀河で、分光による赤方偏移が3を超えた棒渦巻銀河として報告された。
強い重力レンズを受けた銀河では、赤方偏移3.76と4.26に棒の初期段階を思わせる特徴が見つかっている。
シミュレーションとの食い違い
シミュレーションでは、赤方偏移6より遠い時代には、銀河が不規則で乱流が強いため棒はほとんどできないとされる。
初期の円盤にガスが多いと、棒の形成が抑えられたり、棒の成長が妨げられたりするとも予想されている。
論文は、COSMOS-74706のように頑丈な棒があることから、この銀河がガスを異例に早く使い切ったか、棒が近接遭遇で引き起こされたか、ガスの多い環境での棒の形成の理解を見直す必要があるか、のいずれかだと述べている。
ただし、これは1つの銀河の例だ。論文は、この銀河が赤方偏移3を超える棒渦巻銀河全体をどこまで代表するのかは、まだわからないと述べている。
ジェイムズ・ウェッブだから、見えた


赤外線が、遠い過去を映す
JWSTは赤外線で観測する望遠鏡だ。宇宙は膨張しているため、遠い銀河の光は波長が引き伸ばされ、赤い側へずれる。
これを赤方偏移と呼ぶ。
COSMOS-74706の赤方偏移は3.159で、観測に使ったJWSTの近赤外線カメラNIRCamの0.9〜4.44マイクロメートルは、この銀河では紫外線から赤外線(0.21〜1.85マイクロメートル)の光に相当する。
ハッブル宇宙望遠鏡の可視光(F606WとF814W)の画像では、この銀河は北側の青い塊を除いてほとんど写らない。
論文は、赤方偏移3付近の銀河に予想されるバルマー・ブレイクのためだと説明している。棒は、NIRCamのF200W、F277W、F356Wのフィルターでとくにはっきり見えた。
宇宙誕生から約20億年後の姿
論文が採用した宇宙論(ハッブル定数69.6 km/s/Mpc、物質密度0.286)では、赤方偏移3.159は宇宙の年齢が20億4900万年(2.049 Gyr)の時期にあたる。
私たちが見ているのは、その時代の光だ。
分光観測は、ハワイのケック望遠鏡のMOSFIRE(MOSDEFサーベイの既存データ)によるものだ。ここで赤方偏移を測れたのは銀河の北側にある明るい青い塊で、輝線から3.1591と決まった。
渦巻銀河の本体が同じ赤方偏移にあることは、色の分析から支持されている。
塊を含めた全体の測光赤方偏移は3.07(+0.10、-0.13)、塊を隠して調べた本体は2.95(+0.90、-0.16)だった。



棒がいつ現れたかを調べると、何が分かるんだろう?
銀河の「かたち」が語る、成長の物語
棒があるかどうかは、銀河の円盤がどんな状態にあるかを知る手がかりになる。論文は、棒が宇宙のどの時期に現れたかを調べることが、銀河の円盤がいつ組み上がったかを絞る鍵になると述べている。
時代をさかのぼると、棒の割合は減る
星の質量が太陽の100億倍以上の銀河をJWSTで調べた研究では、目で見て分類した棒の割合は、赤方偏移2〜3で約15%、3〜4で約5%だった。
短くて弱い棒は見逃されやすいため、どちらも下限値とされる。
COSMOS-74706は、星の質量が太陽の約430億倍(対数で10.63±0.13)で、棒と、中心の丸い膨らみである古典的なバルジを同時に持つように見える。
論文は、これほど強い棒が宇宙の年齢20億年未満の時代にあったことは、成熟した円盤ができる条件がこの時代の重い銀河でそろっていた強い証拠になると述べている。
棒は、どうやって生まれるのか
論文によると、棒は円盤の中の軌道共鳴によってできる。円盤が不安定になると、銀河の中心付近の星の軌道がそろって細長くなり、回転する密度の波、つまり棒になる。
棒は数十億年にわたって安定して残ることがある。
円盤を不安定にする引き金はさまざまだが、主に潮汐(近くの天体の重力による乱れ)だろうと論文は述べている。
ただし、棒ができるかどうかは、円盤とハローの質量の比、円盤の力学的な状態、ガスの割合など、多くの条件に左右される複雑な過程だ。
COSMOS-74706では近接遭遇が引き金だった可能性
COSMOS-74706の渦巻腕はやや非対称で、重力的な乱れを受けた形跡がある。近くにはっきりした伴銀河は見えないが、北側の青い塊が別の銀河なら、それが引き金だった可能性がある。
そうした遭遇はガスを圧縮してスターバーストも起こす。この銀河は観測の約10億年前にスターバーストを経験していて、棒は赤方偏移5ごろにはできていた可能性があると論文は述べている。
論文は、円盤に星やガスなどの通常の物質(バリオン)が多いほど棒が速くできるというモデルに触れ、COSMOS-74706の発達した1.4キロパーセクの棒は、この速い形成を観測から支持すると述べている。


天の川の半分ほどの棒が、宇宙誕生20億年後にあった


天の川の棒と比べると
論文は、COSMOS-74706の棒の半長軸を0.18秒角、約1.4キロパーセクと測っている。これは天の川の棒のおよそ半分の長さだ。
また、天の川の薄い円盤の星が赤方偏移4より前にできたという最近の年代測定は、棒が早くできたという見方と合うと論文は述べている。
この銀河には、古典的なバルジ(セルシック指数は約4)もある。論文はこれを、合体でできた成熟したバルジと考えている。



宇宙誕生20億年後の銀河に、天の川の半分ほどの長さの棒がもうあったんだ。
まだわかっていないこと
論文は、この銀河の赤方偏移の確認と内側の円盤の成長史には、今後の分光観測がいると述べている。ガスの動きを空間的に分解して調べ、棒による動きがあるかを確かめる観測も、有効な検証になるという。
棒の判定には、モデルを引いた残差画像の目視確認、等光度線の楕円フィッティング、フーリエ分解の3つの方法が使われ、いずれも棒の存在を支持した。
一方、青い塊は棒の領域に一部かかっていて、銀河の中の星形成領域なのか、手前の別の銀河なのかは、論文でも完全には決着していない。
参考文献:
Discovery of a Barred-Spiral Galaxy at z_spec = 3.16
Ivanov et al. (2026), arXiv:2606.23792(査読の有無は未確認)
論文PDF(arXiv)
データ: JWST PRIMER(PID 1837)/ Keck MOSDEF









