木星の衛星エウロパは、厚い氷に覆われた衛星だ。NASAによると、その氷の下には、地球の海を合わせた量の2倍以上の水をたたえた塩水の海があると考えられている。
太陽系のなかで、地球の外の生命を探すうえで最も有望な場所の一つとされている。
その海に、表面でできた酸素が届くのかを調べた研究がある。
テキサス大学オースティン校とNASAジェット推進研究所(JPL)のチームは2022年、表面の酸素が氷の中にできる塩水に溶け、地下の海まで運ばれうることを、物理法則にもとづくコンピューターシミュレーションで示した。
観測で確かめたのではなく、この運ばれ方が成り立ちうることを計算で示した研究だ。
そもそもエウロパとは、どんな星か
氷の下に海を持つ、ガリレオの衛星
エウロパは、1610年にガリレオ・ガリレイが発見した木星の四大衛星の一つだ。赤道での直径はおよそ3100キロメートルで、地球の月の約90%の大きさにあたる。
表面は水の氷でできていて、赤褐色のひび割れが縦横に走っている。この氷の下に、液体の水でできた広大な地下海が広がっていると考えられている。
NASAはエウロパを「地球の外で、何らかの生命に適した現在の環境を見つけられる、太陽系で最も有望な場所の一つ」と位置づけている。
海があると考えられる根拠の一つは、ガリレオ探査機の観測だ。エウロパのまわりで木星の磁場が乱れる様子がとらえられ、地下に電気を通す液体の層、つまり塩水の海があることが強く示された。
氷の厚さは、どれくらいか
その氷の厚さは、これまでおよそ15キロメートルから25キロメートルほどと考えられてきた。日本一高い富士山が3776メートルだから、その4倍から6倍以上にあたる。
NASAによると、氷の下の海の深さは60キロメートルから150キロメートルと見積もられている。
ただし、この数字は確定したものではない。ジュノー以前の推定は、3キロメートルほどから45キロメートルほどまで幅があった。
2025年12月には、木星探査機ジュノーのマイクロ波放射計のデータから、冷たく硬い外側の層だけで平均29キロメートル(プラスマイナス10キロメートル)という推定が学術誌ネイチャー・アストロノミーに発表された。
JPLによると、氷に塩が少し含まれていれば推定は約5キロメートル薄くなり、下に温かい対流層があれば氷全体はさらに厚くなる。
キク大気もほとんど無いのに、エウロパの表面ではどうやって酸素ができるんだろう?
表面で、酸素が作られている
物語は、エウロパの表面から始まる。エウロパには大気がほとんどなく、木星の強力な磁場が生み出す高エネルギーの荷電粒子——電子や陽子、イオン——が、絶えず降り注いでいる。
この粒子が氷の表面にぶつかると、水の分子が物理的にちぎれる。
これは電流を流して起こす電気分解とは違い、放射線が水分子の結合を断ち切る「放射線分解」と呼ばれる現象だ。水分子が壊れると、酸素と水素が残る。
軽い水素は宇宙へ逃げやすく、重い酸素は表面や表面近くの大気にとどまりやすい。
2022年9月、木星探査機ジュノーはエウロパの表面から352キロメートルまで近づき、大気から失われる酸素と水素を直接観測した。
この観測をもとに、プリンストン大学などのチームは2024年、エウロパで作られる酸素を毎秒およそ12キログラムと見積もった。
ジュノー以前の見積もりは、毎秒数キログラムから1000キログラム超まで大きくばらついていた。
作られた酸素の、行き先という難問
作られた酸素の一部は大気から宇宙へ失われ、一部は表面の氷の中にとどまる。生命の役に立つには、とどまった酸素が厚い氷を抜けて海まで届かなければならない。
研究を率いたマーク・ヘッセ教授は、この問題を「エウロパの地下海が生命に適しているかをめぐる、未解決の大きな問題の一つ」と呼んでいる。
塩水が氷の中を下っていく仕組み


塩水が、じわじわ滲みていく
2022年、テキサス大学オースティン校のマーク・ヘッセ教授らは、NASA JPLの研究者と共同で、この過程を物理法則にもとづいてコンピューター上で再現した。
同じ考えはほかの研究者も提案していたが、シミュレーションで確かめたのはこれが初めてだという。
鍵を握るのは「カオス地形」と呼ばれる、ひび割れや尾根、氷の塊が入り乱れた地形で、エウロパの表面の4分の1を覆っている。
カオス地形は、氷の殻が部分的に融けて塩分を含んだ「ブライン(塩水)」ができる場所の上にできると考えられていて、その塩水に表面の酸素が混ざりうる。
ブラインは、周りの氷より密度が高いため、重力に従って下へと滲み出そうとする。モデルでは、氷の中の微小なすきまが一時的に広がって塩水を通し、通過すると再び閉じる。
この動きが波のように下へ伝わっていくことから、研究チームはこれを「多孔性波(ポロシティ波)」と呼んでいる。
ヘッセ教授はこの様子を、庭のホースの中を水のこぶが進んでいくという、アニメでおなじみの場面にたとえている。
シミュレーションでは酸素の8割以上が海へ届いた
シミュレーションでは、塩水は再び凍りきる前に氷の殻を抜けて海まで流れ落ち、表面で取り込まれた酸素の大半を海へ運んだ。
その割合は、大学の発表では86%、論文の要旨では約85%だ。かかる時間はおよそ2万年と見積もられた。
研究チームは、エウロパの表面の多孔質な層には3.7×10^14〜5.6×10^18モルの酸素が閉じ込められていると見積もっている。
ただし、海へ届く酸素の量には大きな幅がある。
カオス地形の分布と表面の年代から見積もった供給量は、年に200万モルから130億モル(毎秒0.002〜13.2キログラム)で、1万倍ほどの開きがある。
共著者のスティーブン・ヴァンス氏(NASA JPL)によると、最も多い見積もりなら、エウロパの海の酸素濃度は今の地球の海と同じくらいになるという。
研究に参加していないJPLのケビン・ハンド氏は「エウロパの表面に酸素のような有用な化合物があることはわかっている。だが、それは生命が利用できる下の海まで届くのだろうか。ヘッセ氏らの研究では、答えはイエスのようだ」と述べている。



エウロパの氷の中にできた塩水がすきまを波みたいに下って、計算では表面の酸素の8割以上を海へ運んだんだ。
木星の潮汐がもたらす熱
エウロパは3.5日で木星を一周する。その軌道はわずかにつぶれた楕円なので、木星との距離が変わり、木星の重力から受ける潮汐の強さも周期的に変わる。
そのたびにエウロパの表面は引き伸ばされたり緩んだりする。表面に走るひび割れの多くは、この潮汐による変形でできたと考えられている。
この変形によって、内部には熱も生まれる。これを「潮汐加熱」と呼ぶ。太陽の光で温められるのとはまったく違う、木星の重力に由来するエネルギーだ。
NASAによると、エウロパに海があるなら、潮汐加熱が海底で火山活動や熱水活動を起こし、生き物に役立つ栄養分を海に供給している可能性がある。
海底に、熱水噴出孔があるかもしれない
さらに、この地質活動が海底にまで及んでいれば、地球の深海底に見られるような「熱水噴出孔」が、エウロパの海底にも存在する可能性がある。
地球では、太陽の光が一切届かない深海の熱水噴出孔のまわりに、化学合成細菌を土台にした独自の生態系が、豊かに繁栄している。
もしエウロパの海底にも同じような熱水噴出孔があれば、そこから噴き出す鉱物豊かな熱水が、生命のエネルギー源になりうる。
ただし、これはまだ直接観測されたわけではなく、あくまで理論上の推測の段階だ。
生命に必要とされる3つの条件


水、エネルギー、そして材料
NASAは、私たちが知る生命には主に三つのものが必要だと説明している。液体の水、特定の化学元素、そしてエネルギー源だ。
エウロパには豊富な水と、炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄といった生命の材料になる元素がそろっていると考えられている。
エウロパの海は、太陽系の歴史とほぼ同じ約40億年にわたって存在してきた可能性があり、生命が生まれるだけの時間もあったかもしれない。
残るエネルギーについては、氷の下には日光が届かないため、エウロパに生命がいるとすれば、光合成ではなく化学反応からエネルギーを得ていると考えられる。
表面でできた酸素は、そうした生き物のエネルギー源になりうる。今回の研究は、その酸素が海へ届く道筋がありうることを、計算で示したものだ。
「条件がそろう」と「生命がいる」は別
ただし、ここは慎重に受け止めたい。条件がそろっていることと、実際に生命が存在することは、まったく別の話だ。現時点で、エウロパに生命がいるという証拠は、何一つ見つかっていない。
三つの条件がそろっているというのは、あくまで「生命が存在できる舞台が整っている」という意味にすぎない。


2030年、氷の下をのぞき込む


探査機エウロパ・クリッパー
この謎に、いよいよ本格的に挑む探査機がある。NASAの「エウロパ・クリッパー」だ。2024年10月14日、フロリダ州のケネディ宇宙センターからスペースXのファルコン・ヘビーで打ち上げられた。
2025年に火星、2026年12月に地球のそばを通って重力で加速しながら、およそ29億キロメートルを旅し、2030年4月に木星に到着する予定だ。
エウロパ・クリッパーは、木星を周回しながら、エウロパへの接近飛行を49回も行う計画だ。
九つの科学観測機器を、毎回の接近ですべて同時に動かし、氷の厚さや組成、表面の化学物質、内部構造を、詳しく調べ上げる。
ただし、これは生命そのものを探すミッションではない。あくまで「エウロパに生命が存在できる環境が整っているか」を検証する、居住可能性の調査が目的だ。
酸素の見積もりを絞り込む
共著者のヴァンス氏は、エウロパ・クリッパーの観測が、エウロパの酸素などの生命の材料の見積もりを改善するのに役立つかもしれないと述べている。
氷の厚さも重要だ。JPLによると、ジュノーが示したように氷が厚ければ、酸素や栄養分が表面から海へ届くまでの道のりはそれだけ長くなる。
ジュノーの研究責任者スコット・ボルトン氏は、氷の厚さや、氷の中のひび割れやすきまの有無が、2030年に到着するクリッパーと、その翌年に到着するヨーロッパ宇宙機関の探査機ジュースにとって重要な前提になると述べている。
参考文献:
Downward Oxidant Transport Through Europa’s Ice Shell by Density-Driven Brine Percolation
Hesse et al., Geophysical Research Letters 49(4), e2021GL095416 (2022). DOI: 10.1029/2021GL095416
論文本文(出版社サイト)
プレスリリース: On Jupiter’s Moon Europa, ‘Chaos Terrains’ Could be Shuttling Oxygen to Ocean(University of Texas at Austin)
Europa’s ice thickness and subsurface structure characterized by the Juno microwave radiometer, Nature Astronomy (2025). DOI: 10.1038/s41550-025-02718-0
NASA’s Juno Measures Thickness of Europa’s Ice Shell(NASA JPL)
Juno spacecraft measures oxygen production on Jupiter’s moon, Europa(SwRI)
Europa Facts(NASA)
Europa Clipper(NASA)









