はかせ、嵐のときって木が光るってホント?
見たことがある人はほとんどいないと思います。でも先日、ペンシルベニア州立大のチームが改造ミニバンで嵐を追いかけて、木のてっぺんから出る青白い光を世界で初めてとらえたんですよ
2026年にGeophysical Research Lettersで発表されたこの論文は、70年以上も仮説のままだった「コロナ放電」を自然のなかで初めて確認したものだ。森の木が嵐のたびに、目に見えない光でひっそりと空気を掃除している可能性が見えてきた。
そもそもコロナ放電ってなに?


葉っぱの先端から飛び出るかすかな光
コロナ放電とは、強い電場のなかで空気がちょっとだけ電離して、青白い光や紫外線(UV)を出す現象のことだ。高圧線の近くで「ジリジリ」という音がしたり、先端がうっすら光って見えたりするのも同じ原理になる。
木の葉の先は、とがっているせいで電気が集まりやすい。雷雲が近づくと、その尖った場所で一瞬だけ空気の分子が電子を放り出し、かすかな光がパチッと走る。一回の発光はコンマ数秒から数秒ほどで、人の目にはほぼ見えない。
よく似た発光に、船のマストで見える「セントエルモの火」がある。船乗りたちは古代から目撃してきたが、森のてっぺんでも同じ仲間の放電が起きているのではないか、という発想は長らく物理学者を悩ませてきた。
家庭でイメージしやすい例だと、冬にドアノブで「バチッ」と感じる静電気の巨大版が近い。ドアノブの代わりに雷雲、ノブに伸ばす指の代わりに葉先、というわけだ。ただし規模は桁違いで、ひと枝で1時間に数百回という頻度で起きる。
70年以上、仮説どまりだった理由
この現象を最初に予想したのは1950年代の大気物理の研究者たちで、それから半世紀以上のあいだ「森のてっぺんでコロナが起きているはずだ」と言われ続けてきた。ところが誰も自然界で撮影できなかった。
理由はシンプルで、光が弱すぎるからだ。昼間の太陽光に比べると、コロナ放電のUVなんてホタルの光を真夏のグラウンドで探すようなもの。おまけに嵐の真っ最中なので、雨と風と雷に耐える観測装置がまず存在しなかった。
実験室で無理やり高電圧をかければコロナは簡単に見える。ただし閉じた箱の中と、風が吹き荒れる嵐雲の真下では条件がまるで違う。外で本当に同じことが起きているのかは、現場に乗り込んで測るしかなかった。
改造ミニバンで嵐を追いかけた観測旅


屋根から望遠鏡が生える2013年式トヨタ・シエナ
チームが選んだ武器は、2013年式のトヨタ・シエナを改造した観測車だった。屋根には自作の望遠鏡が伸び、UVに強い特殊カメラと大気の電場を測るセンサーがびっしり積まれている。
この装置には「Corona Observing Telescope System」という名前がついた。ニュートン式望遠鏡の先にUV専用カメラをつなぎ、位置情報と電場の記録、そして水銀ランプを使った校正機能を一台にまとめている。太陽のUVは遮断してあるので、本物のコロナ・雷・山火事でないと光は映らない仕組みだ。
車体は一見するとどこにでもある旧型ミニバン。そこから望遠鏡がにゅっと伸びているミスマッチ感は、町の中で注目を浴びながら嵐に突っ込むことになった。
フロリダでは3週間ハズレ続けた
2024年6月、博士課程学生のパトリック・マクファーランドとウィリアム・ブルン教授は、ほぼ毎日のように雷雨が起きるフロリダを目指した。雷雨天国で一気にデータを取るつもりだった。
ところが現地の嵐は短命で、望遠鏡を立てる前にあっさり消えていく。セットアップに時間を取られているうちに青空が戻ってしまうパターンが繰り返された。3週間粘ってもまともな記録は取れず、チームは手ぶらでペンシルベニアに戻る途中だった。
望遠鏡を立てて雷雲を追う作業は、釣り糸を垂らしたのに魚影がない海で粘るのに近い。ただ粘るだけではなく、光が弱すぎるので徹底的に暗い場所と、太陽光の当たらない角度も同時に確保しないといけなかった。
ノースカロライナで訪れた決定的な2時間
帰路の州間高速道路95号線の西側で、ようやく動きが鈍い大きな嵐雲が居座り始めた。チームはノースカロライナ大学ペンブローク校の駐車場にミニバンを停め、約30メートル(100フィート)先のスイートガムの高い枝に望遠鏡を向けた。
雷雨はおよそ2時間続き、激しい雨と何度もの落雷をともなった。この2時間のあいだに、スイートガムの枝先で859回のコロナ放電が記録された。嵐の勢いが弱まる頃、近くのロブロリー松でもさらに93回の発光が観測されている。
「半世紀以上も、コロナが存在すると仮説が立てられてきた。これはその証拠だ」とマクファーランドはコメントしている。彼はこの瞬間の論文の筆頭著者となった。その後の観測でも合計4回の別の雷雨、4種類の樹木でコロナ放電が確認され、「偶然」ではないことがはっきりした。
森が空気を掃除している可能性


なぜ葉の先端だけが光るのか
雷雲の底は大きなマイナスの電気を帯びている。すると地面の側にプラスの電気が誘い出され、木の幹を伝って上へ、上へと集まっていく。これを「正電荷の上昇」と呼ぶ。
電気は尖った場所に集中しやすい性質がある。避雷針が細くとがっているのも同じ理由だ。木のてっぺんにある細い葉先は、雷雲から見ると無数の「ミニ避雷針」のようなもので、そこで電場が一気に強くなる。
電場が限界を超えると、空気の分子から電子が引きはがされ、可視光とUVのコロナ光が生まれる。一枚の葉の先でごく小さく光るだけだが、森全体で同時多発しているとすれば、スケールはまったく違ってくる。
UV光からヒドロキシルが生まれる
コロナ放電が放つUVは、空気中の水蒸気分子を叩き壊す力を持っている。壊れた水の破片が別の分子とくっつくと、ヒドロキシルラジカル(OH)という反応性の高い分子ができる。
ヒドロキシルは大気の「主要な酸化剤」と呼ばれる存在で、簡単に言えば空気中のよごれに酸素をくっつけて落としやすい形に変える「洗剤」だ。木が出す揮発成分や人間が排出する汚染物質を、雨で流せるような姿に変えてくれる。
普段のヒドロキシルは、太陽光と水蒸気とオゾンが複雑に絡み合って作られている。嵐雲の下は太陽光が遮られるので、本来ならヒドロキシルが少なくなる時間帯のはずだ。そこを森のてっぺんのコロナ放電が埋め合わせているとすれば、嵐は空気を荒らすだけでなく、同時に掃除屋としても働いていることになる。
とくに注目されたのは、強力な温室効果ガスのメタンとヒドロキシルの反応だ。メタンは二酸化炭素より単位量あたりの温室効果が何十倍も強い厄介者だが、ヒドロキシルと出会うと分解が進む。チームの過去の試算では、森のてっぺんで起きるコロナ放電は森内部のヒドロキシル発生源として無視できない量になり得るという結果が出ていた。
まだ残っている大きな謎
いいことずくめに見えるが、観測ではコロナが発生した葉に小さな痛みの跡も見つかった。毎年何度もコロナを浴びる木は、ダメージを受けているのか、それともうまく慣れているのか、まだ誰にも答えが出せていない。木の側が積極的に尖った葉先を伸ばし、放電を引き受ける戦略を持っている可能性もある。
研究チームは今後、樹木生態学者や生物学者と組んで、樹種ごとに違う電気的な反応を比べる計画だ。葉の形、樹高、葉の厚みの違いによって、コロナの起きやすさがどう変わるかを調べていく。森全体での正味の効果を出すには、地域差や季節差の観測データも必要になる。
嵐と森と大気化学をまたぐこの研究は、気候変動のシミュレーションにも波及しそうな領域として注目されている。調査は米国国立科学財団(NSF)の支援を受けており、今後も改造ミニバンは嵐を追い続ける予定だ。共同研究者のジェナ・ジェンキンス准教授やデイビッド・ミラー研究員も、次の嵐シーズンに向けて装置の改良を進めている。
木って嵐のときにお掃除もしてたんだ! すごい!
森は二酸化炭素を吸うだけじゃなく、嵐のたびに目に見えない光で空気を洗っていたかもしれない。70年以上ずっと謎だった現象が、改造ミニバンと粘り強い観測で証明された一例だ。
参考文献:
Scientists just captured trees glowing with electricity during storms
出典: ScienceDaily (Penn State)










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