はかせ、ずっと遠くの惑星で「夕方の方が朝より熱い」ってわかったんだって! そんな細かいことまで見えるの?
ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡のすごさですよ。惑星の朝側と夕側を分けて観測できたんです。ただ、その差を生む『風』や『雲』の話は、観測というより解釈・モデルの部分も多いんですよ
灼熱の系外惑星WASP-121bで、大気の「朝側」と「夕側」で温度や成分にはっきりした違いがあることが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測から示された。研究はマックス・プランク天文学研究所などのチームが進め、論文は2026年、Nature Astronomyに掲載された。最初に整理しておきたいのは、観測から直接わかった「事実」と、そこから導かれた「風や雲による説明(解釈・モデル)」は分けて読む必要がある、という点だ。前者は確かなデータ、後者はモデルとの照らし合わせによる有力な仮説にあたる。その区別を意識しながら見ていきたい。
朝と夕で別世界 — 灼熱惑星WASP-121bの正体


昼側2500度・夜側725度の極限環境
WASP-121bは「ホットジュピター」と呼ばれる、太陽系の外で見つかる巨大ガス惑星のひとつだ。木星に近い大きさを持ちながら、主星のすぐそばをかすめるような近い軌道を回っている。
距離が近すぎるため、表面の温度はすさまじいことになっている。昼側の平均気温は約2770ケルビン(摂氏約2500度)、対して夜側は約1000ケルビン(摂氏約725度)。鉄が溶けるどころか、岩石まで蒸発するような世界だ。
その温度差は1700度を超える。地球で言えば、赤道ともっとも寒い地域の年平均気温の差はおよそ数十度にとどまることを思えば、いかに極端な惑星かがイメージできる。同じ一つの惑星の中に、まるで別々の世界のような環境が、昼と夜として同居しているわけだ。この極端さこそが、この惑星を大気研究の格好の舞台にしている。
潮汐ロックが生んだ「永遠の昼」と「永遠の夜」
これほど主星に近いと、惑星の自転と公転が同じ周期に固定される現象が起きる。これを潮汐ロックと呼ぶ。地球から見る月がいつも同じ面しか見せないのと同じ仕組みだ。
結果としてWASP-121bでは、片方の半球が常に主星を向き、反対の半球は常に冷たい宇宙を向くことになる。昼側はずっと焼かれ続け、夜側はずっと熱を逃がし続けるという状態だ。
その昼と夜のちょうど境目にあたる細い帯状の領域が、今回の主役である「ターミネーター」だ。地球で言えば、朝焼けや夕焼けが起きる場所にあたる。研究チームは、このターミネーターを朝側(モーニング・ターミネーター)と夕側(イブニング・ターミネーター)に分けて観測した点で、過去の研究と一線を画している。これまでの観測の多くは、惑星の大気を「ひとまとめ」にして平均的な姿を捉えていた。それを朝と夕の二つに切り分けて見ようというのだから、必要な精度は一段跳ね上がる。遠い惑星の細い縁を、さらに左右で区別するという挑戦だ。
JWSTが捉えた朝と夕の違い


近赤外線分光器が「惑星の影」を読み解く
使われたのはJWSTに搭載されたNIRSpec(近赤外線分光器)という装置だ。近赤外線をまとめて分光できるJWSTの主力機器の一つで、今回の観測ではその中でも特定の波長帯を高い解像度で捉えるモードが使われている(装置全体としては0.6〜5マイクロメートルほどの範囲を扱えるが、今回の解析は主に長波長側の一部を用いている)。
系外惑星の本体は主星に比べてはるかに暗く、直接撮影するのは難しい。そこで研究者は、惑星が主星の手前を横切る「トランジット」と呼ばれる瞬間を狙う。星の光が惑星の大気をすり抜けて地球に届く、ごく短い時間に出るわずかな変化を捉えるのだ。
分子はそれぞれ決まった波長の光を吸収する。光をプリズムで虹色に分けるように分光すれば、大気にどんな物質がどのくらい含まれるかを読み取れる。地球から見れば点でしかない惑星の大気を、星の光を借りて間接的に「味見」しているようなものだ。惑星そのものは見えなくても、その大気を通り抜けた星の光には、大気の「指紋」が刻まれている。その指紋を丁寧に読み解くのが、系外惑星の大気研究の基本的な考え方だ。
夕側の方が光を多く吸収していた
これまでのWASP-121b観測でも、平均的な大気の温度や成分はある程度把握されていた。今回の新しさは、トランジット中の時刻ごとに信号を分けて解析した点にある。普通は数時間にわたる全データを平均してしまうが、マックス・プランク天文学研究所のCyril Gappらは時刻別に信号を切り出した。時刻ごとの変化を許す解析の方が、平均化したモデルより観測データによく合うことも示されたという。
ここで効いてくるのが、WASP-121bが1回のトランジットの間に約30度自転するという事実だ。この自転を利用すると、トランジット開始直後は朝側、終了直前は夕側の大気を見ている、という「順番」が生まれる。時刻別の信号を切り出せば、片側だけを取り出せるわけだ。
その結果、夕側のターミネーターは朝側より光を多く吸収していた。これは、夕側の大気がより高温で膨張し、主星の光を遮る「面積」が広くなっているためと解釈できる。膨らんだ大気ほど厚くなり、光をたくさん吸収するということだ。
水分子が引きちぎられるほどの灼熱
同時に観測からは、夕側の方が一酸化炭素(CO)の吸収が強く、逆に水(H2O)の吸収が弱まっている様子も見えてきた。ただし論文自体は、水については「ほぼ一定で、わずかに減っている可能性がある」という慎重な表現をしている点は補っておきたい。
一酸化炭素が増えたというより、温度が上がると同じ分子でも吸収のパターンが変わるためだと研究チームは指摘する。一方で水の方は、夕側の上層大気の温度が高すぎて、水分子そのものが水素と酸素にバラバラになっている可能性が考えられている。鍋で水を熱すれば蒸発するが、ここではその先まで進んで分子の結合まで切れているかもしれない、という話だ。もっとも、これも観測された吸収の弱さを説明する解釈の一つであり、断定というより有力な見立てだ。
なぜ夕方だけが熱くなるのか


東向きに吹く猛烈な大気の風
朝側と夕側の差を生んでいる主役は、惑星規模の大気循環だと考えられている。WASP-121bでは、焼かれ続ける昼側にたまった熱が、自転と同じ向き(東向き)に吹く強い風によって運ばれる。
風は昼側の熱を抱えたまま夕側へと流れ込み、夕側のターミネーターは「主星の熱」と「運ばれてきた熱」の両方で温度が上がる。膨らんだ大気が観測に見えていた、というシナリオだ。逆に朝側は、夜側から流れてきた冷えた空気を受けるため、夕側よりも低温になると考えられる。地球でたとえるなら、風下にあたる夕側にばかり熱がたまり、風上の朝側には冷たい空気が流れ込んでいるようなイメージだ。同じ「昼と夜の境目」でありながら、風がどちらから吹いてくるかによって、朝と夕でこれほど表情が変わってしまう。惑星をぐるりと回る大気の流れが、境界線の温度に差をつけていたわけだ。
この描像はこれまで理論モデルで予測されてきたものだが、朝側と夕側を分けた観測によって初めて具体的に裏づけられた、という位置づけだ。「風の存在を直接見た」というより、「観測された朝夕の差が、風による循環モデルとよく合う」という形での裏づけである点は押さえておきたい。
足りないのは「鉱物の雲」かもしれない
ただし、観測された朝と夕の差は、研究チームが組んだ大気シミュレーションが予測した値より大きかった。何かが朝側をさらに冷やしている可能性がある。
有力な候補が、シリケート(ケイ酸塩)鉱物でできた雲だ。地球の雲は水滴だが、灼熱の系外惑星では水は雲にならず、代わりに溶けた岩石の粒子が空に浮かぶと予想されてきた。朝側のやや低温な領域にこの鉱物雲が広がっていれば、下層の熱い光を遮り、見かけの温度をさらに下げる効果を生む。研究チームは、こうした雲を考慮に入れれば観測との食い違いを説明できる可能性がある、と指摘している。ただしこれはあくまで有力な仮説であって、雲の存在が直接観測されたわけではない。
高温の大気では、岩石をつくる元素の一部が気体として漂っているとも考えられている。温度がわずかに下がる場所では、その気体が再び凝縮して微粒子になる。これが「鉱物の雲」の正体ではないか、という見立てだ。雲がつくられ、流され、蒸発するというサイクルを高速で起こす環境はモデル化が難しく、現在のシミュレーションの多くは雲の物理を簡略化している。今回の結果は、その「足りていない物理」の存在を観測から指し示した、とも言える。
次の標的は別のホットジュピターたち
研究を主導したCyril Gappらは、同じ手法を他のホットジュピターにも広げようと計画している。今回の観測はJWSTのプログラムとして実施され、別のプログラムで得られたデータもあわせて用いられた。研究チームには、ドイツのハイデルベルク大学、フランスの複数の研究機関、米国のジョンズ・ホプキンス大学、オーストラリアのニューカッスル大学やクイーンズランド大学など、各国の天文学者が名を連ねている。
系外惑星研究は、もはや「ある・ない」を確かめる段階を超え、大気を経度ごとに分けて立体的に調べる時代に入りつつある。地球からは点でしか見えない遠い世界の、朝と夕の表情の違いまで、観測から語れるようになってきた。今回の手法を他のホットジュピターに広げれば、似た条件の惑星どうしでも、風の流れや雲の出方がどう変わるのかを、データから比べられるようになるだろう。
何百光年も先にある世界の朝焼けと夕焼けを見分ける——少し前なら空想のような話が、いまや実際の観測テーマになっている。WASP-121bで確かめられた手法が、これから他の灼熱惑星にも応用され、遠い世界の「一日」の姿が少しずつ描き出されていくのかもしれない。その積み重ねの先に、いつか地球に似た惑星の空模様を読み解く日も見えてくるはずだ。
惑星の「朝」と「夕」を分けて見られるなんてすごい! 風とか雲の話は、まだ「たぶんそう」なんだね
そう。確かなのは『夕側の方が光を多く吸収していた』という観測事実。それを東向きの風や鉱物の雲で説明するのは、モデルとよく合う有力な仮説です。事実と解釈を分けて読むのが、天文ニュースを楽しむコツですよ
灼熱の惑星の、朝と夕の表情の違い。それをここまで細かく読み解けるようになったこと自体が、望遠鏡と解析技術の進歩を物語っている。風や雲の詳しい姿は、これからの観測とモデルの往復でさらに鮮明になっていくだろう。遠い世界の空模様が次にどんな顔を見せるのか、静かに楽しみに待ちたい。
参考文献:
Gapp, C., et al. (2026). Atmospheric asymmetries in WASP-121 b revealed by rotational transits detected with JWST. Nature Astronomy. DOI: 10.1038/s41550-026-02887-6










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