6600万年前に恐竜などを絶滅させた小惑星の衝突跡、メキシコのチクシュルーブ・クレーターの地下では、熱い水が岩の中をめぐる「熱水系」が、少なくとも約800万年続いていた。
英国グラスゴー大学などの国際チームが、2026年6月に学術誌Communications Earth & Environmentで発表した。
これまでの見積もりの約4倍で、地球で記録された衝突起源の熱水系として最も長いという。ただし、この研究が測ったのは熱水の活動が続いた期間で、そこに微生物がいた証拠を見つけたわけではない。
熱水系は生命の誕生や繁栄の場になりえたと考えられており、チームはその機会がどれだけ長く続いたかを調べた。
そもそもチクシュルーブクレーターとは

直径約200kmのクレーター
6600万年前、現在のメキシコ・ユカタン半島に直径約10キロメートルの小惑星が衝突した。その跡がチクシュルーブ・クレーターで、直径は約200キロメートルある。
今は陸の地下と海底に埋もれているが、「峰状リング(ピークリング)」をもつ大型クレーターとしては、地球で最もよく保存されている。
衝突で岩は地下深くまで砕け、水が通る道ができた。そこに衝突の熱が残り、熱い水が岩の割れ目をめぐる熱水系ができた。
掘削で取り出した岩にも、ゼオライトや粘土鉱物、カリウムに富む長石など、熱水でできた鉱物が多く見つかっている。

キク衝突で砕けた岩に熱が残って、熱い水がめぐる場所ができたんだね!
地球の生物種の約75%が姿を消した大絶滅
背景をおさらいしておくと、この衝突は巨大な津波や地球規模の火災を引き起こし、「衝突の冬」で光合成も妨げられた。
鳥類以外の恐竜は絶滅し、衝突とその後の影響で、地球の生物種の約75%が姿を消したとされる。これは今回の論文の発見ではなく、よく知られた背景だ。
一方、地下の様子は違った。今回の数値計算では、衝突から2万年後から300万年後ごろまで、上にある海水が砕けた岩(角礫岩)を通ってしみ込み、熱水をくり返し補給していた。
この補給は約400万年後に止まった。


なぜ地下の熱水が800万年も続いたのか


水を通しやすい岩、衝突の熱、地熱
熱水系は、熱と水が出会うところならどこにでもでき、冷えていく衝突クレーターの中にもできる。
共同研究に加わった米国の大学宇宙研究協会(USRA)の発表によると、チクシュルーブでは、水を通しやすい岩、衝突の熱、もともとの地熱の3つが重なって、熱水系が何百万年も続いたとみられる。
筆頭著者で、英国のSUERC同位体科学センターとグラスゴー大学に所属するアンマリー・ピッカースギル氏は「地球上では、温かい水が流れているところなら、どこでも生命が見つかる。小惑星の衝突が熱水系をつくることは、以前から知られていた」と話している。
今の地球でも、火山地帯や深海の熱水噴出孔のまわりでは、日光に頼らずに微生物が暮らしている。
衝突でできた熱水系も、高温を好む微生物のすみかや、生命が生まれる前の化学反応の場になりうると提案されてきた。
ただ、地球の約200の衝突構造のうち70以上で熱水活動の証拠が見つかっているのに対し、微生物が住みついた明確な証拠があるのは8か所だけだ。
今回の研究も、チクシュルーブの地下に微生物がいたことを示したものではない。
カリウムに富む長石が記録した年代
調べた岩は、2016年に国際深海科学掘削計画(IODP)と国際陸上科学掘削計画(ICDP)が共同で行った第364次掘削で、クレーターの峰状リングから取り出されたものだ。
チームは、海底下約706〜756メートルのインパクトメルト岩(衝突で溶けた岩が固まったもの)4試料を分析した。
これらの岩では、溶けた岩が急に冷えてできた斜長石の結晶のまわりを、あとから熱水の中で育ったカリウムに富む長石が包んでいる。
チームは、長石の中のアルゴンの同位体の比から年代を求める「アルゴン-アルゴン年代測定法」で、この長石ができた時期を調べた。
3つの試料から得た22の「プラトー年代」(信頼性の高い年代)は、6600万年前ごろから5800万年前ごろまでばらついていた。
最も古いものは衝突の年代(6605.2万年前)と区別がつかない。
チームは、衝突から最も若い年代(5830万年前、誤差±130万年)までの差、780万年±130万年を「約800万年」とし、熱水活動が続いた最短の期間とした。
長石は熱水活動のあいだ、時期も場所もばらばらに少しずつ育ったと考えられている。





約800万年って、これまでの見積もりと比べてどれくらい長いんだろう?
「保守的な見積もり」を大きく上回った理由
これまでの見積もりはずっと短かった。古地磁気と地層の年代からは最低30万年とされ、2007年の数値計算では、深さ1キロメートルの温度が90℃まで下がるのに150万〜230万年かかるとされた。
この計算をした研究者自身も、控えめな(保守的な)見積もりだと考えていた。今回の約800万年はその約4倍で、地球で記録された衝突起源の熱水系としては最も長い。
チームは数値計算もやり直した。
米国地質調査所(USGS)の計算プログラムHYDROTHERMを使い、掘削で実際に測った岩の性質(角礫岩で孔隙率20〜35%など)を入れて、地下の温度の上がり方(地温勾配)を変えた3通りを計算した。
以前の計算と同じ1キロメートルあたり13℃では、熱水活動は約100万〜250万年で終わった。
一方、掘削孔の底の現在の温度(66.5℃)に合う1キロメートルあたり70℃の計算が、年代測定の結果と最もよく合った。
共著者で元グラスゴー大学のエヴァンゲロス・クリストウ氏は「計算手法の進歩で、複雑な自然の仕組みを、これまでにない現実味でシミュレーションできるようになった」と述べている。
70℃/kmの計算では、深さ約1キロメートルの温度は衝突から550万年後に90℃、640万年後に70℃まで下がり、ほぼ現在の値に戻った。
水の流れは610万年後には始めの1万分の1ほどに弱まり、800万年後には実質的に止まった。チームは、水の流れが弱まって岩の中の水がよどむと、長石も育たなくなったと考えている。
800万年は、熱水の流れが続いた期間の見積もりで、微生物が活動できる温度だった期間を示したものではない。
ただし、調べたのは峰状リングのごく一部だ。著者らは、この期間は場所によって違い、局所的な値かもしれないと書いている。
約65キロメートル離れた別の掘削コアの未発表の年代を合わせると最長1600万年の可能性もあるが、再分析なしには解釈が難しいという。
火星の地下にも同じ環境があるかもしれない


論文は、熱水活動が長く続くほど、生命が生まれる前の化学反応が起きたり、生命が育って広がったりする機会が長くなると考えている。
ただし、初期の地球の岩はほとんど残っていないため、初期の衝突跡に実際に生命がいたとは確かには言えない、とも書いている。
そこで、生命に必要な温度と水の流れの条件がどれだけ長く続いたかを調べた。
ピッカースギル氏は「衝突でできた、すき間が多く割れた岩には、微生物が放射線や極端な温度から守られる小さな環境ができる。そうした条件が、生命に根づいて栄える機会を与える。何十億年も前の地球でも、おそらくそうしたことが起きた」と述べている。
火星についても、ピッカースギル氏は「火星のように、地球ほど厚い大気に守られていない惑星は、その歴史の中で非常に多くの衝突を受けてきた。水がずっと多かったかもしれない時期もあり、十分に大きな衝突なら、長く続く熱水系ができて生命を支えられたかもしれない」と話す。
論文も、チクシュルーブ(直径約200キロメートル)より大きな、初期の地球やほかの天体の数千キロメートル級の衝突なら、さらに長い熱水系ができた可能性があるとしている。
どのクレーターを探査するかといった具体的な計画は、この論文では示されていない。
まとめると、チクシュルーブの峰状リングの地下では、熱水の活動が少なくとも約800万年続いたことが長石の年代からわかり、新しい数値計算もそれを支えた。
一方で、調べたのはクレーターのごく一部で、微生物がいた証拠は見つかっていない。
この研究が示したのは、大きな衝突が生命にとっての機会を、これまで考えられていたより長く生み出しうる、という可能性だ。



隕石の跡の地下で熱い水の流れは少なくとも約800万年続いたけど、そこに微生物がいたかはまだ分からないんだね。住めたかもしれないのと、本当に住んでいたのは別の話か。
参考文献:
Pickersgill, A. E., Christou, E., et al. (2026). A long-lived impact-generated hydrothermal system at the Chicxulub impact structure. Communications Earth & Environment. DOI: 10.1038/s43247-026-03618-5
論文本文(オープンアクセス): Europe PMC PMC13249567
発表: Universities Space Research Association(2026年6月10日)









