系外惑星はすでに6,000個以上見つかっているが、そのほとんどは大気の有無が分からないままだ。赤色矮星のそばを回る岩石惑星が、何十億年も大気を保てるのかどうかは、はっきりしていなかった。
2026年7月16日、ハーバード大学とスミソニアン天体物理学センターのチームが、学術誌『Science』に新しい結果を発表した。
地球から48光年先、赤色矮星のハビタブルゾーンにある岩石惑星LHS 1140bで、大気が今もはっきり残っている証拠を掴んだのだ。
証拠は、上空からゆっくり漏れ出すヘリウムだった。
キク大気が見つかった惑星って、これまでにもあったのかな?
ハビタブルゾーンの岩石惑星で「初めて」の意味
ここでいうハビタブルゾーンとは、恒星からの距離がちょうど良くて、水が液体の状態で存在しうる領域を指す。太陽系なら金星と火星の間あたりだ。
近すぎれば水は蒸発し、遠すぎれば凍る。地球はその「ちょうどいい距離」に運よくいる。
ハビタブルゾーンにある岩石惑星はいくつか見つかっているが、大気があるかどうかまで確かめるのは難しかった。
これまでもガス惑星や、恒星のすぐそばの灼熱の岩石惑星では、大気を検出した例があった。
だが「岩石惑星」で「水が液体でいられる距離」で「大気が残っている」の3つが揃った例は、今回のLHS 1140bが初めてだ。
LHS 1140bは質量が地球の5.6倍、半径が1.73倍の、地球より大きな岩石惑星(スーパーアース)だ。
論文の筆頭著者で、ハーバード大学で博士号を取ったばかりのコリン・チェルビム氏は「他の恒星のハビタブルゾーンにある岩石惑星で大気が見つかったのは、これが初めてだ」と話す。
指導教員のロビン・ワーズワース教授は「20年前は、地球型の惑星がほかにあるのかさえ分からなかった。その後、ありふれていることが分かり、ハビタブルゾーンでも見つかった。次の問いは、そのどれかが大気を保てているかだった。今、少なくとも1つは保てていると分かった」と語る。
もう1人の指導教員デイヴィッド・チャルボノー教授は当初、この計画に懐疑的だった。数式から予測しただけで、岩石惑星では一度も観測されたことがなかったからだ。
チェルビム氏は秋からシカゴ大学で研究を続けるという。
兄弟惑星「b」と「c」で運命が分かれた


LHS 1140系には、大きさや軌道の違う複数の惑星が存在する。中心星は太陽の約2割(0.18倍)の質量しかない赤色矮星で、30億年以上たった古く穏やかな星だ。
、地球からの距離は約48光年。宇宙のスケールでは「ご近所」と言っていい距離だ。
今回の観測で特に効いたのは、b(今回大気を検出)とc(小型で内側寄り)が同じ夜に恒星の前を横切ったことだ。
2024年9月23日、チームは6.5時間かけて、39分ずれて起きた2つの惑星の通過をまとめて観測した。
同じ夜なので、装置の状態や地球の大気の揺らぎ、恒星の明るさの変化といった条件をほぼ揃えたまま、両者を比べられた。
結果はきれいに割れた。bはヘリウムの吸収線が明瞭に検出され、大気の存在が「統計的に堅い」(デイヴィッド・チャルボノー教授)レベルで示された。
一方cではヘリウムのシグナルは検出されなかった。同じ夜・同じ装置で観測して片方だけ検出——という結果は、装置由来のアーティファクトを消し、bの大気の実在性を強く支持する。
cは質量が地球の1.9倍、半径1.27倍と小さく、24.7日で回るbより内側を3.78日で回っていて、地球のおよそ5倍の光を受けている。
以前の観測でも、cには大気がほとんどないか、まったくないことが示されていた。大気を保てる惑星と保てない惑星の境目は「宇宙の海岸線」と呼ばれ、bとcはちょうどその両側にあると論文は述べている。



同じ夜に兄弟の惑星bとcを比べたから、ヘリウムが見えたbの大気は本物だって言えたんだ。
決め手は「ヘリウムが漏れている」という証拠
チームはチリのラスカンパナス天文台にある口径6.5メートルのマゼラン・クレイ望遠鏡に取り付けられたWINERED(近赤外エシェル分光器)を使い、惑星が恒星の前を横切る瞬間の光を分解した。
惑星の大気があると、恒星光の一部が大気中の原子に吸収され、特定の波長にだけ影が現れる。これがトランジット分光法だ。
ヘリウムは近赤外の1083ナノメートル付近に強い吸収線を持ち、大気の上層から宇宙へ逃げていく成分を捉えるのに向いている。
この検出が偶然の産物でない点も見逃せない。チェルビム氏はまず既知の惑星の性質を分析し、LHS 1140bならヘリウムの大気を持つはずだと理論から予測した。
その予測を確かめるために望遠鏡の観測時間を確保し、狙い通りにヘリウムのシグナルを掴んでいる。チャルボノー教授は、結果を見て「検出は統計的に揺るぎない」と納得したという。
「2024年に検出、2025年に非検出」の奇妙な変動
面白いのは、ヘリウム吸収の強さが年によって変わっていたことだ。2024年の観測では明確に検出されたのに、2025年には検出されなかった。
論文はこれを、大気の脱出量が時間的に変動している証拠と解釈している。
ただし、2025年に見えなかったのは、強い紫外線の量や上層大気の温度が変わって脱出が弱まり、観測で捉えられる限界(吸収の深さ約0.6%)を下回ったためかもしれない、というのが論文の説明だ。
「30億年もった大気」の中身と、水素が消えた謎


チームの推定では、LHS 1140bの大気は30億年以上にわたって維持されてきた可能性がある。この年数は、主星が30億年以上たった古い星であることにもとづく。
ただし、上層大気はヘリウム主体で水素は枯渇しているという奇妙な組成だった。もともと大量にあったはずの水素の多くはすでに逃げ、より重いヘリウムだけが残ったと見られている。
より重い分子(水蒸気・二酸化炭素・窒素など)は下層に閉じ込められている可能性が高く、これは既存の大気分別モデルとも一致する。
この「水素が抜けてヘリウムが残る」という順序には意味がある。惑星が生まれた直後は、宇宙で最も軽い水素を大量に抱えた分厚い原始大気に包まれていたはずだ。
ところが軽い気体ほど惑星の重力を振り切って逃げやすい。
30億年以上という長い時間の中で、まず水素が優先的に宇宙へこぼれ落ち、次に軽いヘリウムが今まさに逃げつつある——今回捉えたのは、その脱出の現場だと解釈できる。
裏を返せば、これだけ長く気体を保ち続けられたこと自体が、LHS 1140bの重力と恒星からの距離が「大気を持てる条件」を満たしていた証拠でもある。
言い換えれば、上空から見える「軽い成分」で大気の存在自体は分かったが、下の方に何があるかはこれから調べる、という段階だ。
今回の観測は大気研究のゴールではなく、スタートラインを引いた成果と言える。



岩の惑星より、ガスの大きな惑星の方が大気は見つけやすいのかな?
ガス巨星の大気検出とは何が違うのか
ヘリウム脱出そのものは、これまでもガス巨星型の系外惑星で何度か観測されている。木星サイズで恒星のすぐそばを回る「ホットジュピター」などが代表例だ。
それらは大気がぶ厚く、シグナルも大きく、比較的検出しやすい。
岩石惑星が難しいのは、単純にサイズが小さく大気も薄いためシグナルが微弱だからだ。しかもハビタブルゾーンにある惑星は恒星から遠く、そもそも観測機会(トランジット)が少ない。
LHS 1140bが恒星の前を横切るのは24.7日に1度、数時間だけだ——その一瞬に、大気を透過した恒星光の色をナノメートル単位で切り出す作業になる。
装置ノイズと大気の揺らぎに埋もれかねない、極めて繊細な観測だ。
今回の成果は、この「小さく・遠く・薄い」の3重苦を、既存の地上望遠鏡でも越えられることを示した点で意味が大きい。
しかも使ったのは特別な次世代装置ではなく、チリで動いてきたマゼラン望遠鏡と近赤外分光器WINEREDの組み合わせだ。
研究チームは、逃げ出すガスを地上から探す方法が、岩石惑星の大気を調べる重要な道具になりうるとしている。チェルビム氏は、同じモデルで似た惑星を探すつもりだという。


生命はいるのか? 過度な期待を戒める


ここで冷静に区別すべきなのは、「大気がある」と「生命がいる」が別の話だという点だ。
今回検出されたのはヘリウムが宇宙に漏れている痕跡であり、地表に海があるか、酸素があるか、有機分子があるかは何も分かっていない。
また、赤色矮星は若いうちはフレアと呼ばれる放射線の爆発を頻繁に起こすことが多い。LHS 1140は古く、今は活動が穏やかな星とされるが、過去の放射線が地表にどう影響したかは分かっていない。
さらに、LHS 1140bのような赤色矮星のハビタブルゾーン惑星は、恒星に近すぎるため潮汐ロック(常に同じ面を恒星に向ける自転)状態にある可能性がある。
だとすれば昼側は灼熱、夜側は極寒という極端な世界で、大気が両者の温度差を熱運搬してならしている必要がある。地球のような穏やかな気候が成立する条件は、思ったより厳しい。
とはいえ、「岩石惑星がハビタブルゾーンで大気を保ち得る」という事実そのものが、これまで理論だけだった話に初めて実測の裏付けを与えた点で、意味のある成果だ。
次のステップは、下層大気の水蒸気や炭素化合物を捉える観測だ。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や、これから稼働する超大型望遠鏡(ELT)による追観測が待たれる。
参考文献:
一次ソース: Cherubim, C. et al., Helium escaping from the atmosphere of a nearby rocky exoplanet orbiting in a habitable zone(Science, 2026)DOI:10.1126/science.aea9708
研究機関: Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian / 二次ソース: ScienceDaily









