2019年の終わりから2020年の初めにかけて、オリオン座の肩で光る赤い星ベテルギウスが、急に暗くなりました。100年以上の記録で、いちばん大きく暗くなった出来事です。NASAの解説によると、この出来事は今では「大減光」と呼ばれています。
米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)ヘイスタック天文台などの研究チームは、大減光の後の2021年から2026年にかけて、電波でこの星の大気を調べました。すると、ベテルギウスの形のわずかな細長さが、すぐそばを回る伴星シワルハの位置と相関していました。伴星が大気を周期的に乱していることと合う結果だと、論文は書いています。論文は2026年9月1日に、学術誌『The Astronomical Journal』に掲載されました。
大気の中を回る伴星シワルハ

画像: Aaron McKinnon Data: NASA/JPL/NOIRLab. Visualization: NOIRLab. / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
ベテルギウスは、オレンジがかった赤い色の赤色超巨星です。NASAの解説によると、この種類の星は一生の終わりに近く、年をとるとふくらみます。ベテルギウスの大きさは太陽の約700倍で、重さは約15倍あります。
これまでの研究で、この星の明るさには約400日の周期のほかに、約2100日の長い周期の変化があることが知られていました。ただ、長い周期の原因は分かっていませんでした。
2024年と2025年に発表された2つの研究が、それぞれ別に答えを出しました。長い周期は、すぐ近くを回る伴星で説明できるという結論です。前の2つの研究によると、伴星はベテルギウスの広がった大気の中を回り、軌道の大きさは星の半径の約2.3倍です。
2025年には別のチームが、光でこの伴星をとらえたかもしれないと報告し、「シワルハ」と名づけました。いまは国際天文学連合の正式な名前です。発表文によると、ベテルギウスはアラビア語で「アル・ジャウザの手」を、シワルハは「彼女の腕輪」を意味します。
伴星の証拠は、その後も増えています。2026年に発表された別の研究は、超大型望遠鏡VLTの撮影で、予想された伴星の位置に光る点を写しました。ただしその別の研究も、伴星が本当にベテルギウスと重力で結びついているかの確認は2回目の観測を待つとしています。2026年に出た別の分光の研究は、光と紫外線のスペクトルの変化が、伴星の後ろに広がる航跡のような乱れと合うと報告しました。
7つの周波数の電波で、大気を層ごとに見る
今回の研究チームが使ったのは、電波望遠鏡のVLAと、アルマ望遠鏡(ALMA)です。観測した電波は、22 GHzから485 GHzまでの7つの周波数でした。
VLAでは、2023年・2024年・2026年に、アンテナを最も広げた配置で観測しました。アンテナどうしの間隔は0.68〜36.4 kmです。アルマの観測は、2021年9月の2日間と2023年に行われました。
周波数を変えたのには、わけがあります。発表文によると、周波数の違う電波は、星の大気の違う深さを見せてくれるからです。今回の周波数の範囲では、周波数が高いほど星の深い層を見ています。論文によると、いちばん短いサブミリ波では星の半径の約1.2倍の所を、センチ波では半径の数倍の所を見ています。
どの周波数でもベテルギウスは円盤として写り、周波数が高いほど円盤は小さく見えました。
研究を率いたMITヘイスタック天文台のリン・D・マシューズ博士は、「VLAとALMAのすばらしいデータを組み合わせたことで、説得力のある結果が得られた」と話しています。「これらの装置で、近くの星の円盤を実際に見分けられるのはすごいことだ」とも語りました。
大減光のあと、大気の温度はふつうに戻っていた

画像: ESO/M. Montargès et al. / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
この研究には、大減光の前と後を比べるという目的もありました。2019年8月、マシューズ博士らの前の研究が、44 GHzでのベテルギウスの輝度温度は過去30年で最も低い値だと報告していたからです。
輝度温度は、電波の明るさから出した温度です。星の大気が電波を通しにくいとみなせる場合は、ガスの平均の温度のめやすになります。
今回の観測では、22 GHzと44 GHzの輝度温度が、2019年の過去最低の値から上がっていました。新しい値は、過去約30年の測定とばらつきの範囲で合うところまで戻っていました。22 GHzで測った輝度温度は約3500 Kで、ベテルギウスの見かけの表面(光球)の温度と同じくらいです。発表文も、星の広がった大気は大減光からおおむね回復していたと伝えています。
一方で、前と違うところもありました。輝度温度がいちばん高くなる所が、星の半径の約2.7倍以上と、2016年より前の測定より外側に移っていたのです。論文は、大気の密度の分布が変わった可能性と合うとしています。
ただし、論文はこの点に慎重です。以前の電波の測定は少なく、1つ1つの測定の誤差も大きいので、この変化が大減光の直接の結果だとは言い切れないと書いています。
キクじゃあ、もっと星の表面に近い所の大気は、どれくらいの温度なんだろう?
表面のすぐ上にある、冷たい層


アルマの485 GHzの観測で、チームはこれまでより光球に近い所の温度を調べられました。そこでは、輝度温度が光球の温度より1200 K以上低い値まで下がっていました。
外から内へたどると、輝度温度は星の半径の約2.7倍の所の約3500 Kから、約1.2倍の所の約2220 Kへと下がっていきます。内側の層ほど冷たかったのです。
星の見える表面(光球)と、その上の彩層にはさまれた所に、温度のいちばん低い冷たい層がある。発表文によると、これは前から考えられてきたことでした。2001年に別のチームが手がかりを報告し、2017年の別の研究がアルマの観測で確かめています。今回の測定で、この冷たい層があることとその場所が、より確かになりました。
この冷たい層は、赤外線の観測から考えられてきた分子のガスの殻「MOLsphere」と重なります。赤外線を使った別の研究で求められたこの層の温度は、約1500〜2300 Kでした。ただ2017年の別の研究が指摘したように、同じ高さにあるかもしれない温かいガスを赤外線は感じにくいという弱点があります。
電波の測定から、論文は、この辺りでは光球よりずっと冷たいガスが大部分を占めているとみています。どの周波数でも、電波で測った温度は、同じくらいの高さを紫外線で調べた温度より低くなっていました。冷たいガスが、温かいガスに混じり続けていることを示す結果です。
本当にいちばん温度が低い場所がどこなのかは、まだ決まっていません。アルマのさらに高い周波数(バンド9と10)で観測すれば、場所をもっと絞り込めるはずだと論文は書いています。
伴星が離れて見える頃に、星は細長くなる
ここからが、今回の研究の中心です。伴星の軌道は、前の研究が見積もったものです。前の研究の見積もりについて、マシューズ博士は「この伴星は星のとても近くを回っていて、実際に星の広がった大気の中を通り抜けている」と話しています。
これほど近い軌道なら、ベテルギウスの電波で見える大気をゆがませたり、左右で形を変えたりするかもしれない。論文は、こう考えて伴星の跡を探しました。
チームはまず、それぞれの観測で電波の円盤に楕円を当てはめ、つぶれ具合を測りました。つぶれ具合は楕円率という数で表し、長い方の直径と短い方の直径の差を長い方の直径で割って出します。どの周波数でも楕円率は10%以下で、ベテルギウスはほぼ丸い形でした。それでも楕円率はいつも0ではなく、時期の近い観測どうしでは似た値になる傾向がありました。
次に、観測した日に伴星が軌道のどこにいたかを、2025年の別の研究が求めた軌道の式から計算しました。論文は、伴星の位置を軌道位相という数で表しています。位相0で伴星は星の前を通り、0.5で星の後ろに隠れます。0.25と0.75は、伴星が見かけ上いちばん星から離れる時期で、0.75のときは、0.25のときと星をはさんで反対側にいます。
この位相と楕円率を並べると、ある傾向が見えてきました。伴星が見かけ上いちばん離れる時期の近くで楕円率が大きくなり、前を通る時期と後ろに隠れる時期には0に近づいていたのです。
たとえば2024年10月は、伴星が見かけ上いちばん離れる頃でした。このときの楕円率は、22 GHzでも44 GHzでも0.104でした。一方、2026年4月の22 GHzの楕円率は0.016で、この日の伴星の位相は2.54でした。
論文は、この結果が、伴星が周期的に大気を乱していることと合うとしています。伴星がベテルギウスの外側の大気の密度や構造、温度などに大きな影響を与えているかもしれない、とも書いています。発表文は、池の波紋を見て水面のすぐ下で何かが動いていると分かるようなものだ、とたとえています。
なお楕円率と位相を比べた論文の図には、今回の測定のほかに前の研究の観測3点も入っています。2017年と2022年に発表された観測です。



伴星が横に離れて見える時ほど、星の形が少し細長くなる傾向があったってことなんだね!
伴星そのものは、電波では写らない


画像: H. Boffin (ESO)/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
伴星そのものは、電波の画像に写っていたのでしょうか。
今回の電波のデータでは、伴星そのものは写っていませんでした。これは、チームにとって予想どおりの結果です。チームの計算では、伴星が出す電波は44 GHzで約0.1マイクロジャンスキーしかありません。VLAで見つけられる強さより、10倍以上弱い値です。
発表文も、シワルハは電波では暗すぎるとみられ、観測で見える明るさの数十〜数百分の1しかないと計算されたと伝えています。
伴星の位置も、条件がよくありませんでした。高い周波数の観測をした2023年8月、伴星はベテルギウスの中心から約23ミリ秒角しか離れていない計算でした。これは、その周波数で見た星の半径と同じくらいです。
チームは、伴星の予想位置の近くに明るさのむらがないかも探しました。しかし、伴星とはっきり結びつけられる模様は見つかっていません。像の細かさが足りなかったことと、高い周波数の観測の時期に伴星の位置が悪かったことが理由です。



じゃあ、細長くなる向きも、伴星の位置に合ってたのかな?
細長くなる向きは、なぜそろわないのか


画像: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/E. O’Gorman/P. Kervella / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
実は、この結果には謎も残っています。楕円率は伴星の位置と相関しているように見える一方で、楕円の長い方の向きは周波数ごとに違っていました。
アルマの高いほうの3つの周波数では、長い方の向き(位置角)は31〜47度でした。これに対して、VLAの周波数では約90〜120度です。
論文は、理由の候補を挙げています。周波数ごとに大気の違う深さを見ているので、伴星の後ろにできる航跡のような立体的な乱れの違う部分を見ているのかもしれない、という考えです。
確かめるには、いろいろな周波数と伴星の軌道の位置で、さらに観測を重ねる必要があります。発表文も、まだ観測の少ない周波数を中心に、伴星の軌道のもっと広い範囲で観測を足す必要があると述べています。開発中の次世代VLAのような新しい装置ができれば、こうした研究はずっと手軽になると期待されています。
地上からは赤い光の点にしか見えない星の、形のほんのわずかな変化から、写らない相棒の動きを読む。この研究の面白さはそこにあると、筆者は考えます。



伴星が星の形を変えてるって、言い切れるの?
言い切れません。論文は、楕円率と伴星の軌道の位置の間に相関を見つけたと書き、この結果は伴星が大気を周期的に乱していることと「合う」としています。伴星が大気に大きな影響を与えているかもしれない、という強さです。
記載されている箇所: 論文の抄録と5.2節



大減光で変わった大気は、すっかり元どおりになったの?
温度はふつうの値に戻っていました。ただ、温度がいちばん高くなる所は以前より外側に移っていて、大気の密度の分布が変わった可能性と合います。論文は、以前の測定が少なく誤差も大きいので、大減光の直接の結果とは言い切れないとしています。
記載されている箇所: 論文の分析(4.1.2節)



伴星の電波は、別の周波数で探せば見つかるかもしれないの?
可能性は残っています。論文は、シワルハが活発でフレアを起こす若い星なら、時間とともに変わる別の種類の電波を出している可能性は、まだ否定できないと書いています。ただ、今回の周波数はそうした電波を探すのに向いていないそうです。
記載されている箇所: 論文の結果
研究メモ
- 掲載誌
- 天文学の論文を載せる米国天文学会の学術誌『The Astronomical Journal』に、2026年9月1日に掲載されました。
- 研究者
- MITヘイスタック天文台のリン・D・マシューズ博士が率いる4人のチームです。ハーバード・スミソニアン天体物理学センター、マンチェスター大学、ヨーロッパ南天天文台の研究者が加わりました。
- 対象
- オリオン座の赤色超巨星ベテルギウスの、広がった大気です。大減光の後の2021〜2026年に、星の半径の約1.2〜2.6倍の範囲を調べました。
- 方法
- 電波望遠鏡VLAとアルマ望遠鏡で、22〜485 GHzの7つの周波数の電波で星を円盤として写しました。楕円を当てはめて大きさ・つぶれ具合(楕円率)・輝度温度を測り、楕円率を伴星シワルハの軌道の位置(位相)と比べました。
- 結果
- 22・44 GHzの輝度温度は2019年の過去最低から戻り、22 GHzで約3500 Kでした。内側ほど温度は下がり、半径の約1.2倍で約2220 Kでした。楕円率は伴星が見かけ上いちばん離れる頃に大きく、前を通る頃と後ろに隠れる頃に0に近づいていました。
- 注意点
- 楕円率と伴星の位置の関係は相関で、伴星が大気を周期的に乱していることと合う、という段階です。楕円の向きは周波数ごとに違い、その理由はまだ分かっていません。確かめるには、いろいろな周波数と軌道の位置で観測を足す必要があります。
参考文献:
一次ソース: L. D. Matthews, A. K. Dupree, A. M. S. Richards, W. R. F. Dent, New Spatially Resolved Observations of Betelgeuse from the VLA and ALMA: Evidence for Atmospheric Perturbations from a Close Companion(The Astronomical Journal, 2026)DOI:10.3847/1538-3881/ae953d
研究機関: MITヘイスタック天文台 ほか / 発表文: NSF NRAO「What Lurks Within the Shadows of Betelgeuse?」(2026年10月26日)
別の研究: Goldberg JA, Joyce M, Molnár L, A Buddy for Betelgeuse: Binarity as the Origin of the Long Secondary Period in α Orionis(The Astrophysical Journal, 2024)DOI:10.3847/1538-4357/ad87f4
別の研究: Montargès M, et al., VLT/SPHERE images of the candidate companion of Betelgeuse(Astronomy & Astrophysics, 2026)DOI:10.1051/0004-6361/202661023
別の研究: Dupree AK, et al., Betelgeuse: Detection of the Expanding Wake of the Companion Star(The Astrophysical Journal, 2026)DOI:10.3847/1538-4357/ae2ed5
基礎知識: NASA Science「What is Betelgeuse? Inside the Strange, Volatile Star」
アイキャッチ画像: Photo: Johnny Kaufman / Unsplash









