地球から7.5光年の所に、氷点下の冷たさでぼんやり光る天体があります。名前はWISE 0855です。温度は約265ケルビン、セ氏にすると氷点下8度ほどで、知られている中で最も冷たい褐色矮星です。
米国アリゾナ大学スチュワード天文台のブリタニー・マイルズさんらのチームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)でこの天体を11時間、15分おきに観測しました。その結果、上空にまだらな水の雲があり、その厚さが変わっているとみられる証拠が見つかりました。深い所から上がってくるガスの変化とも、見分けがついたといいます。論文の査読前の版は2026年9月17日に公開され、天文学の専門誌『The Astronomical Journal』に受理されています。
「なりそこないの星」の中で最も冷たい天体

画像: NASA/Penn State University / Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
褐色矮星は、星と惑星のあいだのような天体です。NASAの解説によると、核融合で輝くだけの重さが無いので、「なりそこないの星」と呼ばれることがあります。それでも惑星よりは重く、星と同じようにガスの雲が縮んでできたと考えられています。
アリゾナ大学の発表文は、褐色矮星を「惑星には重すぎ、星として燃えるには小さすぎる」天体と説明しています。できたときの熱の残りで、ぼんやり光っているのです。発表文によると、この天体の重さは木星のおよそ2倍で、大きさは木星とほぼ同じです。
褐色矮星のうち、表面温度がおよそ450ケルビン以下の最も冷たい仲間は、以前からY型矮星と呼ばれています。以前の理論の研究では、約375ケルビンより冷たいY型矮星では、大気の一番上で水が凝結すると予測されてきました。以前の理論の研究によると、この天体は上空に水の雲ができるほど冷たく、それでいてアンモニアは凝結しない程度には暖かい天体です。
今回の論文はこの天体を、太陽系の外で水の雲の模様と大気の上下の混ざり方を切り分けるのに、最もよい「実験室」の1つと位置づけています。
雲はあるのか、分かれてきた見方

画像: International Gemini Observatory/Joy Pollard / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
これまでの研究では、この天体の大気の読み方が定まっていませんでした。雲があると考えても、雲の無い大気に深い所のガスが上がってくると考えても、データとおおまかには合います。ただ、どちらも完全には合わなかったのです。
雲の手がかりを最初に示したのは、2014年の研究です。この研究では、雲の無い大気のモデルとは合わず、硫化物と水の氷の雲が半分(50%)を覆うモデルでよく再現できました。この研究チームは、太陽系の外で水の雲の直接の証拠がある初めての候補だとしました。ただし、深い所からのガスの動きなどで予測が変わるかもしれない、という断り付きです。
2016年に発表された別の研究は、スピッツァー宇宙望遠鏡でWISE 0855の明るさを23時間ずつ2回、数か月あけて測りました。明るさの変化の幅は、1回目が4〜5%、2回目が3〜4%でした。この研究は、少し暖かい褐色矮星と変化の幅が似ていることから、変化の原因は水の雲ではないかもしれないとも考えました。結論は「水の氷の雲の確かな証拠は、まだ無い」でした。
JWSTの時代に入ってからの別の研究でも、決着はついていません。JWSTのデータを使った別の解析では、水の雲の証拠とされてきた波長の特徴を、雲を入れずにガスだけで再現できました。ただしそのときの大気の温度の分布は不自然で、雲かもしれない「何か足りないもの」があることを示していました。JWSTの中間赤外線の観測を使った別の研究は、上空で水蒸気が減っていると結論しました。もっとも、その研究チーム自身も、水蒸気が減っていることが、そのまま水の凝結を意味するわけではないとしています。
以前の観測には、方法の上の限りもありました。JWSTより前の褐色矮星の明るさの変化の研究は、広い波長をまとめて測るか、分解能の低い分光に限られていたのです。
キクじゃあ、JWSTはどうやって雲とガスを見分けたんだろう?
11時間、15分おきに撮ったスペクトル


画像: NASA/ESA/CSA JWST NIRCam; Alves de Oliveira et al. & Melina Thévenot / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
今回のチームは、JWSTの分光器NIRSpecを使いました。観測はJWSTの第1期の観測計画2327番として行われました。2023年12月2日(世界時)の1時3分から12時9分までの観測です。論文の著者には、マイルズさんのほか26人が名を連ねています。
チームは、この天体の光を波長ごとに分けて、15分ごとに記録しました。とらえた光は、波長2.87〜5.27マイクロメートルの赤外線です。取り出したスペクトル(波長ごとの明るさ)は44枚になりました。分解能は約1000という中くらいの細かさです。
光を波長ごとに細かく分けると、何がよいのでしょうか。この方法なら、分子ごとの吸収の変化を見分けられます。雲や温度が変わったときに起きる、広い波長にわたる変化と区別できるのです。
マイルズさんは、発表文で「JWSTの前は明るさしか測れず、雲と化学と温度の効果が全部まざっていました。今は本当に見分けられます」と語っています。
共著者で、アリゾナ大学月惑星研究所の所長のマーク・マーリーさんは、大気を網戸にたとえています。「光は大気を通って宇宙に出ていきます。網が光の一部をこしとっている網戸ごしに、世界を見るようなものです。網の両側の世界を知るには、網そのものも理解しなければなりません」と話しています。
チームは、JWSTのNIRCamで撮った別の観測計画(1230番)の画像で、観測のあいだにWISE 0855の位置に背景の天体が重なっていなかったことも確かめています。
いちばん大きく揺れたのは一酸化炭素


11時間のスペクトルでは、波長によって1〜10%の変化が見られました。時間とともに最も強く変わったのは、一酸化炭素(CO)のガスが光を吸収する部分でした。一部の波長では、いちばん明るい時と暗い時の差が最大10%に達しています。変化が最も大きかったのは、波長4.5〜4.8マイクロメートルのあたりです。
論文はこの結果から、COの量の変化がWISE 0855の明るさの変化にいちばん効いていると読み取っています。反対に、水蒸気の吸収がCOより強い波長では、変化は小さめでした。水蒸気の吸収線のすき間には、どの分子とも合わない変化もありました。明るさの変化の一部は、ガスの量の変化によるものではないかもしれません。
チームは、変化の主な原因を探るために、主成分分析という統計の方法も使いました。たくさんのスペクトルの変化を、いくつかの「変わり方の型」に分けて、それぞれの重みを比べるやり方です。
1番目の型が変化の60.5%、2番目の型が4.7%を占めました。1番目の型は、平均のスペクトルと似た形をした、広い波長にわたる変化です。2番目の型は、COとホスフィン(リンの化合物)が目立つ波長で強く出ました。2番目の型の変わり方は、形も周期も1番目と違っていました。
COとホスフィンの変化は、そろって動いていました。1番目と2番目の型の時間の変わり方が違うことから、論文は、2つの変化が表面の別々の模様から来ているとみています。ただし、変化の34.7%は2つの型では表せず、変わり方は複雑です。3番目より後の型は、1つずつでは1.5%以下でした。



つまり、全体の明るさの揺れとは別に、COとホスフィンがいっしょに揺れてたってことなんだね!
上空の水の雲と、深い所から上がるガス
チームは次に、データを大気のモデルと比べました。使ったのは、PICASOとcoolTLUSTYという、計算で大気を再現するモデルです。どの組み合わせでも、水の雲を入れたモデルのほうが、雲の無いモデルよりデータとよく合いました。平均のスペクトルの形に合わせるには、水の雲が必要だったのです。
ただ、時間の変化の読み方は、モデルによって違いました。PICASOのモデルでは、観測のあいだの見かけの温度の差は0.6ケルビンでした。ここでいう温度は、自転で見える面の見かけの暖かさを表す目安です。PICASOでいちばん合うモデルにも雲は入っていましたが、時間を追って合わせても、雲の具合は変わりませんでした。
coolTLUSTYのモデルでは、温度と雲の厚さの両方を変えないと、観測された変化の大部分を再現できませんでした。温度の変化の幅は1.3ケルビンで、雲の具合を表す数は0.6変わりました。この数が4.0から4.6に変わると、雲の層の厚さはおよそ半分になる計算です。雲が光をさえぎる力も弱まります。
coolTLUSTYの考え方では、WISE 0855の大気は、厚さの違う水の雲でまだらになっています。論文は、上空の雲は水だけでできているとみられる、と結論しました。雲の薄い所からは、COやホスフィンの多い深い層が見えます。水の雲には、水蒸気が強く吸収する波長の変化を小さくする傾向もあります。
一方で、COとホスフィンの量の変化は、雲の厚さや温度の変化だけでは説明できないほど大きいものでした。深い所のガスの変化は、まだらな雲ではなく深い所の温度の変化から来ている、とチームは考えています。
明るさの変化には、少なくとも2つの大きな原因があるというのが、チームの見立てです。1つは上空の温度か雲の変化、もう1つはCOの深さかそれより深い所の温度の変化です。発表文はこの深い所の動きを、熱いスープの鍋で底の温かい液が上がってくる様子にたとえています。内部の熱が、COやホスフィンを絶えず上へ運んでいるというわけです。



じゃあ、この天体はどれくらいの速さで自転してるんだろう?
自転の周期も、雲の答えも、まだ途中


Photo: Planet Volumes / Unsplash
発表文は、自転につれて雲の量や温度が少しずつ違う場所が順に見えてくる様子を、暖かい所と冷たい所のつぎはぎがゆっくり回るようだと表しています。ところが、WISE 0855の正確な自転の周期は、まだ分かっていません。
JWSTのデータでは5.4〜5.6時間の周期が強く出ましたが、11時間より長い周期も強く出ていました。強く出た周期は、観測時間のおよそ半分です。観測の75%以下だけを使うと、意味のある周期は見つかりませんでした。スピッツァーとJWSTの3回の観測を通しても、周期はそろっていません。
JWSTのデータからスピッツァーと同じ条件の明るさを計算すると、変化の幅は4〜6%でした。前に発表されたスピッツァーの値と同じくらいです。周期が変わるのか、いくつかの成分が重なっているのか。それを確かめるには20時間を超える観測が必要だと、論文は述べています。
向きについても、論文は推定を出しています。WISE 0855は、赤道を真横から見る向きにあるとみられます。時間で変わる特徴は、赤道から中緯度にかけての帯状の風(ジェット)から来ている可能性が高い、という見方です。
同じデータから、別の見方も
雲の厚さが変わるという読み方は、使うモデルによって答えが分かれています。論文自身も、とても冷たい褐色矮星の大気を1次元のモデルで理解するのは難しいと書いています。今回のモデル合わせは、今のモデルでどこまで説明できるかを示したもの、という位置づけです。
2026年9月には、同じJWSTのデータを別の方法で解析した別の論文も出ています。その別の論文は、データの3枚に1枚のスペクトルを解析しました。そして、スペクトルの変化の主な原因は大気の温度の分布の変化だ、としています。この別の論文でも、COの量の変化が特定の吸収の所でスペクトルを変えていて、ホスフィンと二酸化炭素の量の変化も関わっている可能性がありました。著者の一覧を見ると、この別の論文にはマイルズさんも加わっています。
発表文でマイルズさんは「水の雲が薄くなったり厚くなったりしていることを確かめられたのは、これが初めてです」と語っています。ただ、論文の言い方は「まだらな水の雲の証拠を示した」で、雲の厚さが変わるかどうかはモデルによって答えが違いました。マイルズさんは、JWSTでもっと長く観測して、自転と大気の立体的な動きを詳しく調べるつもりです。
マイルズさんは「褐色矮星は本当の惑星ではありませんが、惑星のようにふるまいます」とも話しています。「木星とこの天体は見た目はまるで違いますが、天気の様子は似ています」という言葉もあります。
地球の天気予報も、雲と気温と空気の上下の動きを読み分ける仕事です。光の点にしか見えない天体で、その読み分けが分子ごとに始まった。雲の答えがどちらに転んでも、次の長い観測で確かめられる問いになったことが、この研究の大きな一歩だと思います。



水の雲の厚さが変わってるって、言い切れるの?
答えはモデルによって分かれます。論文は、データを大気のモデルと比べて「まだらな水の雲の証拠」を示したとしています。雲の厚さを変える必要があったのはcoolTLUSTYのモデルで、PICASOのモデルでは、いちばん合うモデルに雲は入っていても、雲の具合は時間で変わりませんでした。
記載されている箇所: 論文(arXiv)の考察



水の雲より深い所には、ほかの雲はないの?
論文は、深い所に予測されている硫化物やカリウムの雲について、上空の雲の切れ目がその雲まで突き抜けているか、そもそもその雲が無いかのどちらかだと考えています。どちらなのかは決めていません。
記載されている箇所: 論文(arXiv)の考察



この結果って、ほかの惑星の空にも当てはまるの?
発表文は条件付きの言い方です。木星を動かす対流・雲・化学の物理がこの天体にも当てはまり、その物理がどこでも同じなら、JWSTで調べ始めた太陽系の外の巨大ガス惑星にも当てはまる、としています。
記載されている箇所: アリゾナ大学の発表文
研究メモ
- 掲載誌
- 天文学の専門誌『The Astronomical Journal』に受理された論文です。査読前の版は、2026年に論文の公開サイトarXivで公開されました。
- 研究者
- 米国アリゾナ大学スチュワード天文台のブリタニー・マイルズさんが率いたチームです。論文の著者には、マイルズさんのほか26人が名を連ねています。共著者には、アリゾナ大学月惑星研究所の所長のマーク・マーリーさんも入っています。
- 対象
- 地球から7.5光年の所にある、知られている中で最も冷たい褐色矮星WISE 0855(約265ケルビン)です。望遠鏡による天体の観測の研究です。
- 方法
- ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の分光器NIRSpecで、2023年12月2日に11時間、15分おきに波長2.87〜5.27マイクロメートルのスペクトルを撮り、44枚を取り出しました。主成分分析で変化を型に分け、水の雲を入れた大気のモデルと入れないモデルに当てはめて比べました。
- 結果
- 変化の幅は波長によって1〜10%で、最も大きく変わったのは一酸化炭素の吸収の所でした。水の雲を入れたモデルは、どの組でも雲の無いモデルよりよく合いました。coolTLUSTYのモデルでは、温度と雲の厚さの両方の変化が必要でした。
- 注意点
- 雲の厚さが変わるという読み方はモデルによって違い、PICASOのモデルでは雲の具合は時間で変わりませんでした。自転の周期はまだ分からず、確かめるには20時間を超える観測が必要とされています。


参考文献:
一次ソース: Brittany E. Miles et al., Water Cloud and Chemical Modulations in the Coldest Brown Dwarf(arXiv査読前の版v1, 2026。The Astronomical Journal に受理)DOI:10.48550/arXiv.2609.20664
研究機関: アリゾナ大学スチュワード天文台 ほか / 発表文: University of Arizona「First Detection Of Variable Water Clouds Outside Of Our Solar System」(Astrobiology.com, 2026年10月9日)
別の研究: Faherty JK, et al., Indications of Water Clouds in the Coldest Known Brown Dwarf(The Astrophysical Journal Letters, 2014)DOI:10.1088/2041-8205/793/1/L16
別の研究: Esplin TL, et al., Photometric Monitoring of the Coldest Known Brown Dwarf with the Spitzer Space Telescope(The Astrophysical Journal, 2016)DOI:10.3847/0004-637X/832/1/58
別の研究: Kothari H, et al., Time-resolved JWST Retrieval Analysis of the Coldest Brown Dwarf: Temperature and Chemical Variations in WISE 0855-07(arXiv査読前の版v1, 2026)DOI:10.3847/1538-4357/ae8e74
基礎知識: NASA APOD「Brown Dwarf Gliese 229B」(1999年3月24日)
アイキャッチ画像: Photo: NASA Hubble Space Telescope / Unsplash









