星が一生を終えて潰れたあと、ブラックホールではなく「グラバスター」という別の天体になる——そんな仮説の、長年の難問だった「どうやって生まれるのか」に、理論的な解が示された。
論文は、ゲーテ大学フランクフルトの理論物理学者ダニエル・ヤンポルスキー氏とルチアーノ・レッツォラ教授によるもので、2026年にPhysical Review Dに掲載された。
ヤンポルスキー氏は、この解をレッツォラ教授の指導を受けた修士論文の中で見つけた。
グラバスターはあくまで理論上の天体で、まだ観測で見つかってはいない。今回の成果も「もし存在するなら、こうやって生まれうる」という理論計算である。
そもそもブラックホールはなぜできるのか
星は、内部で原子が核融合を起こしてエネルギーを出すことで輝いている。とても重い星が核燃料を使い切ると、放射圧が重力に対抗できなくなり、星は自分の質量で潰れていく。
理論上、この崩壊は質量が一つの点に集まるところまで進み、その点が特異点になる。光を含むすべてのものが事象の地平面の向こうに消えて戻ってこないため、外からは見えない。
これがブラックホールだ。
特異点という物理学の「壁」
プレスリリースは、ブラックホールにはなお大きな課題が残ると述べ、次のような疑問を挙げている。太陽100億個分の質量が、どうして一つの小さな点に集中できるのか。
その点で時空が無限に曲がるとはどういうことか。特異点では物理法則が破綻し、何が起きるかを予測できなくなる。
さらに、ブラックホールはあらゆる情報を観測から隠す、とプレスリリースは述べている。
論文も、通常のブラックホールには一般相対性理論の予測力が破綻する特異点があり、事象の地平面の半古典的な進化は情報喪失の問題につながる、と述べている。
こうした問題を解くため、ブラックホールに代わる数学的な記述がこの数十年、注目を集めてきた。
鍵を握る「グラバスター」の仕組み

中身がダークエネルギーで満たされた天体
こうした問題への候補として提案されたのが、重力真空凝縮星(gravitational vacuum condensate star)、略してグラバスターだ。
形成の仕方については、約25年議論が続いてきた。
グラバスターは、質量もコンパクトさもブラックホールにほぼ並ぶ。論文によると、コンパクトさはブラックホールに限りなく近づけられるため、見分けるのは難しいと長く考えられてきた。
しかし決定的な違いがある。ブラックホールに必ずあるはずの特異点も事象の地平面も、グラバスターには存在しないのだ。
では何が中身なのかというと、薄い物質の殻の内側がダークエネルギーで満たされている、というのがグラバスターの基本構造である。
ダークエネルギーの負の圧力は内部を膨らませようとする。これに対し、重力と、殻の中の接線方向の圧力が膨張を押さえ込み、静止した解になる。
キク潰れていく星の中で、いったい何が崩壊を止めるんだろう?
崩壊する星の中心で膨らむ「泡」
ただ、グラバスターがどのように生まれるのかは、これまで十分に扱われてこなかった。論文は、一般的な球状の物質分布からの形成は難しさのためほとんど取り組まれてこなかった、と述べている。
今回、ゲーテ大学フランクフルトのダニエル・ヤンポルスキー(Jampolski)氏とルチアーノ・レッツォラ教授が示したシナリオはこうだ。
一様なちりの球がつぶれていく古典的な計算(オッペンハイマー・スナイダー崩壊)を出発点に、その中心に大きさゼロの「ド・ジッター領域」が生まれるとした。
ド・ジッター領域は、ダークエネルギーに相当する反発する圧力をもつ時空だ。
プレスリリースは、この過程を、星の内部に宇宙を生んだビッグバンとそう違わない出来事が起こり、ミニ宇宙が生まれると説明している。
ヤンポルスキー氏は、このビッグバンが起こる時期について、「生まれつつある宇宙のビッグバンは、星がすでにほとんどブラックホールになる寸前まで崩壊した時点で起こりうる」と話している。
さらに「ビッグバンが起きるのは、物質がすでに極限まで圧縮された、ごく遅い段階だけだと考える方が想像しやすい。それによって新しい効果が生じる」とも述べた。
この膨張が、外側から押し寄せる重力崩壊を内側から押し返す。論文によると、膨張はブラックホールの境目(シュワルツシルト半径)の近くで自然に遅くなり、つぶれてくる外側の表面と出会って止まる。
潰そうとする力と広がろうとする力がちょうど釣り合った瞬間、星はブラックホールに落ち込む寸前で踏みとどまる。こうして安定したグラバスターが完成する、というのが彼らの提案である。
ただし論文は、これが「細かく調整された条件のもとで」起こりうると書いている。必要なのは、ド・ジッター領域の初期の空間曲率とエネルギー密度の調整だ。
どんな星でも自然にこうなる、という話ではない。同じ静的なグラバスターに至る初期条件は無数にあり、空間曲率が大きくエネルギー密度が小さいと、泡はゆっくり膨らむ。
逆の場合は、崩壊が星の表面がほぼシュワルツシルト半径に達するまで普通に進んでから、泡が急速に膨らんで崩壊を止める。
論文は、そのときの泡の発生源として、量子ゆらぎなどを例に挙げている。
さらに、つぶれ始める星の詰まり具合(質量と半径の比)がある上限、8分の3を超えていると、ブラックホールになるのは避けられないことも分かった。
この過程が光速を超えられないという制約から出てくる上限だ。
このプロセスを、高次の補正項を持ち込まずにアインシュタインの一般相対性理論の方程式から動的に解いてみせたのは、今回が初めてだという。
ただし論文は、より現実的な物質の状態方程式や、球対称からのずれがあっても成り立つかは今後の研究が必要だと述べている。
一般的な初期条件の崩壊がグラバスターとブラックホールのどちらになりやすいかも、まだ分かっていない。
25年議論された問いへの一つの答え
グラバスターをブラックホールと観測で区別できるかについて、論文は先行研究を引いて次のように述べている。
電磁波で区別できるかは議論が続いている一方、重力の摂動への応答が違うため、重力波では区別できることは明らかだとされる。
ただし、これは今回の研究が示したことではなく、論文が先行研究として引いている話だ。
今回の研究の意義は、あくまで「グラバスターがどう生まれるか」を理論的に示した点にあり、その観測的な確かめ方までを主張したわけではない。
ブラックホールを否定するものではない
今回の成果は、ブラックホールを否定するものではない。
レッツォラ教授は、プレスリリースで次のように述べている。
「ブラックホールの代わりを探すことは、ブラックホールへの懐疑を意味するものであってはならない。ブラックホールは今も、重力崩壊の行き着く先として最も自然で単純な解だ」。
続けて、「しかし、科学者一般として、とくに理論物理学者として、私たちが知らないことに偏りのない姿勢で向き合い、受け入れられている考えと、より風変わりな解釈の両方を探ることが欠かせない。歴史は、後者が前者になることが珍しくないと教えている」とも述べた。
論文自身、グラバスターを「ブラックホールをまねる天体」の一つとして扱い、どうやってできるかを理解することが、それが実在するかを確かめる第一歩だとしている。



グラバスターは、もし存在するならこう生まれうるっていう計算なんだね。重い星が潰れた先としていちばん自然なのは、今もブラックホールってことか。
参考文献:
Jampolski, D., & Rezzolla, L. (2026). Formation of gravastars. Physical Review D, 113, L121502. DOI: 10.1103/c6lw-nx7k(プレプリント: arXiv:2509.15302)
ゲーテ大学フランクフルトのプレスリリース: Big Bang inside a Star: How a Gravastar forms









