はかせ、星が死んだらブラックホールになるんだよね? でも「ブラックホールじゃないかも」って論文が出たって本当?
よく見つけてきましたね。ドイツのゲーテ大学フランクフルトのチームが、死んだ星の中に小さな宇宙が生まれてブラックホールにならない『グラバスター』誕生の仕組みを、初めて理論的に示したんです
しかも論文の主著者はまだ修士課程の学生。25年も解けなかった大問題の答えを、若き理論物理学者がアインシュタインの方程式から導き出した。
そもそもブラックホールはなぜできるのか


燃え尽きた星に起きる重力崩壊
太陽より何十倍も重い星は、中心で核融合反応を起こして光と熱を放っている。水素を使い切るとヘリウム、その次は炭素や酸素──と、より重い元素を燃やしながら一生を過ごす。最後には鉄まで作るが、鉄はエネルギーを生まないので、ここで燃料切れとなる。
すると、内側から外向きに広がろうとする放射圧が一気に弱まる。重力に押し負けた星は、自分自身の重さで内側に潰れていく。これが重力崩壊と呼ばれる現象だ。スピードは凄まじく、星の中心部はわずか1秒以下でほぼ光速に近い速度まで落下するとされる。
理論上、太陽の数十倍にあたる質量は最終的にたった一つの点に押し込められる。この「点」が特異点で、その周囲を事象の地平面と呼ばれる球状の境界が取り囲む。光すらここから逃げ出せないため、外からは真っ黒な穴に見える。これがいわゆるブラックホールだ。
特異点という物理学の「壁」
ここで物理学者は厄介な問題に突き当たる。質量がゼロの大きさに詰め込まれると、密度は無限大になってしまう。空間の歪みも無限大、時間の流れすら止まる。
これは私たちが知っている物理法則がまるで通用しない状態だ。アインシュタインの一般相対性理論も、量子力学も、ともに「ここから先は分からない」と白旗を上げる場所である。
しかも事象の地平面の内側では何が起きているのか、光が出てこないので観測もできない。理論上の予言と、観測できる現実の間に、深い断絶が横たわっている。
何十億個もの太陽の質量がほんの一点に押し込まれているなんて、本当にそんなことが起こり得るのか──理論物理学者の頭の中には、ずっとそんな疑問がくすぶってきた。物理法則が壊れた場所に、物理法則を当てはめて説明する──このねじれを誰もが感じている。
鍵を握る「グラバスター」の仕組み


中身がダークエネルギーで満たされた天体
こうした不安を解消する候補として、20年以上前から提案されてきたのがグラバスターと呼ばれる仮想天体だ。英語では Gravastar、Gravitational Vacuum Star(重力真空星)を縮めた造語である。
質量も密度もブラックホールとほとんど変わらない。だから外側から重力波などで観測しても、見分けがつかないほどよく似ている。しかし決定的な違いがある。ブラックホールに必ずあるはずの特異点も事象の地平面も存在しないのだ。
では何が中身なのかというと、薄い物質の殻の内側がダークエネルギーで満たされている、というのがグラバスターの基本構造である。ダークエネルギーは私たちの宇宙を加速膨張させていると考えられている謎の力で、重力とは逆の反発する圧力を持つ。
この外向きの圧力が、内向きに潰そうとする重力と釣り合えば、星は安定した状態を保てる。例えるなら、潰されまいと中から風船を膨らませ続けるようなイメージだ。これが理論の骨子だった。
内側で生まれる「ミニ宇宙」のビッグバン
ただ一つ、長年答えが出ていない問題があった。「ダークエネルギーで満たされたグラバスターは、そもそもどうやって誕生するのか?」普通の星の物質が、どうやって謎のダークエネルギーに置き換わるのか、誰も式で示せていなかったのだ。
今回、ゲーテ大学フランクフルトのダニエル・ヤンポルスキー氏とルチアーノ・レッツォラ教授が示したシナリオはこうだ。重力崩壊が極限まで進んだとき、星の物質が圧縮された内部で新しい小さな宇宙の「ビッグバン」が起こる。
私たちの宇宙が138億年前に始まったときと同じような出来事が、死につつある星の中で再現されるという発想だ。生まれたばかりのミニ宇宙はダークエネルギーで満たされており、ゴム風船のように急速に膨張を始める。
その膨張が、外側から押し寄せる重力崩壊を内側から押し返す。潰そうとする力と広がろうとする力がちょうど釣り合った瞬間、星はブラックホールに落ち込む寸前で踏みとどまる。こうして安定したグラバスターが完成する、というのが彼らの提案である。
ヤンポルスキー氏はインタビューで「ビッグバンは、星がほぼブラックホールになる直前まで崩壊した段階で起こる、と考える方が自然だ」と語っている。物質が極限まで圧縮された場所では、まだ私たちが知らない物理現象が顔を出す余地が十分にある、というわけだ。
このプロセスをアインシュタインの一般相対性理論の方程式から動的に解いた研究は、今回が世界で初めてだという。約25年議論されてきた「グラバスターはどう生まれるか」という問いに、理論物理学が一つの解を提示した瞬間だ。
25年の謎が解けた今、何が変わるのか


観測でブラックホールと見分けられるか
グラバスターは外から見るとブラックホールとほとんど区別がつかない。それでも内部の構造はまったく違うため、観測の精度が上がれば違いが見えてくる可能性がある。
例えばアメリカの重力波望遠鏡LIGOやヨーロッパのVirgoは、ブラックホール同士が合体する瞬間の重力波を捉えてきた。事象の地平面が存在するブラックホール同士なら、合体の最後にきれいに信号が消える。だがグラバスターには地平面が無いため、合体直後にエコーのような信号が漏れ出す可能性が理論的に予想されている。
将来打ち上げ予定の宇宙重力波観測機LISAは、現行の地上望遠鏡より遥かに低い周波数まで観測できる。これまで「ブラックホール合体」とされてきた信号の一部に、もしエコーが検出されれば、その天体はじつはグラバスターだった、という見方ができるかもしれない。
これまで観測でブラックホールが確認されてきたとされるデータも、内部までは誰も見たことがない。理論側がこうして対抗仮説を整備することで、観測側に「何を見れば違いが分かるのか」という具体的な指針が渡される。理論と観測のキャッチボールが進めば進むほど、宇宙の闇に光が当たっていく。
銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールもまた、観測の対象だ。事象の地平面望遠鏡EHTが天の川銀河中心の射手座Aスターをリング状に捉えた画像はよく知られているが、リングの内側が「真の暗闇」なのか「ダークエネルギーで埋まった見えない構造」なのかは、画像の精度ではまだ判別できない。グラバスター説を取れば、こうした観測も別の意味を持ち得る。
「分からない」を探究する物理学の姿勢
ヤンポルスキー氏は、レッツォラ教授の指導のもと、この計算を修士論文のテーマとして取り組んだ。学生段階の研究が、四半世紀解けなかった問題に解の形を与えたことになる。
レッツォラ教授は今回の成果について、ブラックホールを否定するものではない、と強調している。「重力崩壊の最も自然で単純な答えは依然としてブラックホールだ」と言いつつ、それでも代替案を真剣に検討する姿勢こそが理論物理学者の仕事だと語る。
歴史を振り返れば、地動説も量子論も、最初は「異端の解釈」と呼ばれていた。グラバスターという考え方も、いつか「常識」の側に回るかもしれない。
ブラックホールの中で何が起きているのか、まだ誰も見たことがない。そこに踏み込むためのもう一つの地図が、今回の論文によって書き加えられた、と考えるのが妥当だろう。
えー! 星の中で新しい宇宙が生まれてるかもしれないの? じゃあ自分たちの宇宙も、誰かの星の中で生まれたのかな?
面白いところを突いてきますね。実はその発想は研究者たちも真剣に議論していて、私たちの宇宙自体が、別の宇宙の星の中で生まれた『内側の宇宙』かもしれない──そんな大胆な仮説まで存在するんですよ
宇宙の終わりとも、宇宙の始まりとも繋がるグラバスターの研究。観測との突き合わせはこれからだが、夜空を見上げる楽しみがまた一つ増えた。
参考文献:
A dying star could create a new universe instead of a black hole
出典: ScienceDaily









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