ローマ・リンダ大学のウィリアム・K・ヘイズ教授(生物学)とM・ケール・モリス氏が、2026年3月に学術誌『Toxins』で論文を発表し、北米に広まった「赤ちゃんガラガラヘビの方が大人より危険」という通説が、どこで生まれ、どう広がったのかを調べた。
研究は、1900年から2025年の新聞記事130本の分析と、2つのアンケート調査からなる。
アンケートは2008〜2009年に行ったもので、大学生など3,751人には通説を聞いたことがあるかを、南カリフォルニアの救急隊員や看護師など75人には通説を信じているかを尋ねた。
赤ちゃんの方が危険ではないことは、この研究で新しく確かめたものではなく、毒の量やかまれた人の症状を調べた先行研究にもとづいている。
研究が広く報じられたのは同年7月だ。
「赤ちゃんヘビの方が危険」通説はどこから来たのか

1960年代後半に現れ、1970年代のカリフォルニアで定着
論文によると、赤ちゃんの方が危険だとする記述は1936年、1958年、1965年の記事にも見られるが、1967年以降に急に増えた。
赤ちゃんは毒の量を調節できず、かむと毒を全部注入してしまう、という説明を、論文は「毒放出仮説(VD仮説)」と呼ぶ。
この説明で赤ちゃんの方が危険だとした最も古い記事は、1967年のテネシー州の新聞で、ガラガラヘビを趣味で飼う生命保険の営業担当者の話を載せていた。
その後、1968年にアラバマ州、1969年にサウスダコタ州で繰り返され、1975年ごろからカリフォルニアの新聞で目立つようになった。
1970〜1999年のカリフォルニアの記事は、13本すべてが誤りだった。2000〜2014年には北米全体で誤りが多数を占め、論文はインターネットで共有された誤情報も後押ししたとみている。
テレビ局、ウィキペディアのガラガラヘビの記事(2005〜2010年)、郡や大学、獣医関係のサイト、砂漠の旅行ガイドなども誤情報を広げ、その多くは今もネット上に残っている。
誰の話を載せた記事が誤っていたか
記事が誰の話を載せたかで、正しさは大きく違った。大学教授の話を載せた記事は16本すべてが正しかった。
一方、医師や獣医師、薬剤師など医療の専門職の話を載せた記事で正しかったのは15本中46.7%で、消防や警察の話を載せた記事は6本すべてが誤りだった。
記事の種類で見ると、ガラガラヘビの一般的な解説記事は86本中62.8%が正しかったのに対し、地元でかまれた事故を伝える記事で正しかったのは44本中18.2%だった。
事故の記事は、医療の専門職や消防・警察の話を載せることが多かった。
キク赤ちゃんの方が危ないって書いた記事は、どんな理由をつけてたんだろう?
130本の新聞が語る、誤報の「型」
論文の骨格は、130本の記事を「なぜ赤ちゃんの方が危険と言えるのか」という理由づけで分類したことにある。
最も多かったのが前述の毒放出仮説(VD)で、実に82本(63.1%)がこれを持ち出していた。しかもそのうち半分以上は、赤ちゃんの方が危険だと誤って結論づけるために使われていた。
次に多いのが「大きなヘビはそもそも毒の量が多く、噛むときに送り込む量も多い」という毒量仮説(VQ)で、39本(30.0%)。
この理由づけは97.4%が正しく述べられていた。三つ目は「赤ちゃんの毒は成分の濃度や毒性が高い」とする毒組成仮説(VC)で、14本(10.8%)。
これは正誤の判定が難しいとして論文も慎重に扱っている。
記事が他の新聞にもそのまま載ることで、誤情報が増えることもあった。
論文は、出どころが特定できず分析から外した極端な例として、「生まれたときの赤ちゃんガラガラヘビは、成長したガラガラヘビと同じ量の毒を持つ」という一文を挙げる。
この一文は1976年5月21日に少なくとも19紙に載り、その年のうちにさらに27紙、1977〜1990年に別の16紙に載った。
赤ちゃんも毒の量を調節できるとみられる


獲物に合わせて毒の量を変える
通説の土台にある「赤ちゃんは毒の量を調節できない」という考えには、反対の証拠がある。
ヘイズ教授は1995年、プレーリーガラガラヘビ(Crotalus v. viridis)の幼蛇が、小さな獲物より大きな獲物に多くの毒を注入することを報告した。
論文はこれを、幼蛇も大人と同じように毒の出し方を制御できることを示す研究とし、身を守るためにかむときも同じだろうと推測している。
ただし、幼蛇についての証拠は限られている、と論文自身も書いている。大人は1回で毒を出し切らず、次にかむ分を残せる。
著者らは、毒を採取するときの観察から、赤ちゃんも同じだろうとみている。
体の大きさが毒の総量を決める
では、なぜ大人の方が危険なのか。論文によると、毒は頭にある1対の毒腺で作られ、たくわえられる。
体長は1方向に伸びるが、毒腺は縦・横・奥行きの3方向に大きくなるため、体が長くなるにつれて毒腺の中の毒の量は急に増える。
実際に、獲物をかむときも、身を守るためにかむときも、大人は赤ちゃんよりずっと多くの毒を出すことが実験で確かめられている。
ヘイズ教授らは、この量の差を伝えることが、通説を正す鍵だとしている。



毒の量が少なくても、毒そのものが強ければ赤ちゃんの方が危ないのかな?
毒性が高くても量が少ない
一方で、多くの種(すべてではない)では、幼蛇の毒の方が毒性が高い。それでも臨床研究では、赤ちゃんにかまれた人の症状は、大人にかまれた人より軽いことが示されている。
ヘイズ教授は大学の発表で、「多くの証拠から、赤ちゃんガラガラヘビも大人と同じように毒の出し方を制御でき、大人はかむときにずっと多くの毒を持ち、注入すること、そして大人の方がかまれた人にずっと重い症状を起こすことがわかっている」と述べている。
60年の浮き沈み — 通説はどう覆ったか
論文は記事を年代で区切り、正確さの移り変わりを追った。1900年から1969年までは比較的まともで、カリフォルニアで57.1%、それ以外の地域で77.8%の記事が正しかった。
ところが1970年から1999年にかけてカリフォルニアの正答率は0%まで落ち込み、通説が同州で完全に定着する。
2000年から2014年には誤りが北米全域へ広がり、正しい記事はカリフォルニアで19.2%、他地域でも32.0%まで減った。
流れが変わったのは2015年以降だ。2015〜2025年の正しい記事の割合は、カリフォルニアで76.9%、それ以外で78.9%に戻った。
論文はその理由の一つとして、記事が大学教授など専門家の話を載せることが増えたことを挙げる。大学教授を引用した記事の割合は、2015年より前の8.2%から、それ以降は31.3%に増えた。
医療の専門職を引用した記事は15.1%から3.1%に減ったが、統計的にはっきりした差ではなかった。
ヘイズ教授らは、赤ちゃんが持ち、ふだん注入する毒の量は大人よりはるかに少ないという点を強調することが、疑う人に納得してもらうのに大切だと書いている。
「知っている」と「本当」は別 — 相関と因果を切り分ける
この研究を読むときに混同しやすいのが、「通説を聞いたことがあるか」と「通説を信じているか」の違いだ。
2008〜2009年に、29州の53教室(大学52、高校1)、計3,751人の学生に、通説を聞いたことがあるかを尋ねた。
聞いたことがある割合は南西部の州で最も高く52.6%、北東部で最も低く16.4%で、全体では37.2%だった。
これはあくまで認知度で、正しいと信じている割合とは別物だ。
論文はこの地域差を、カリフォルニアの新聞が通説を広げたという見方と合うとしているが、地域差だけでは、新聞が通説を広げたとまでは言えない。
一方、2009年4月にカリフォルニア州リバーサイド郡の救急医療の講習会で、救急隊員・消防士、救急救命士、看護師の計75人に尋ねると、通説を事実だと信じていた人は73.3%だった。
VD仮説を聞いたことがある人は90.7%にのぼった。論文は、多くの人が訓練の中で通説を学び、受け入れたのだろうとみている。
ただし、この調査は1か所の講習会に集まった75人に聞いた小規模なもので、医療者全体の割合を示すものではない。
誤解が生んだ静かな損失


論文は、通説を信じることで起こりうる問題を挙げている。ヘビの危険を大きく見すぎると、むやみに恐れ、出会ったガラガラヘビを殺してしまうことが多い。
逆に、大きなヘビの方が安全だと思って近づく人もいるかもしれない。論文によると、ガラガラヘビは生態系で大切な役割を持つが、近年アメリカの多くの地域で数が大きく減っている。
医療の場では、救急隊員や医療者が誤解していると、かまれた人の恐怖をあおり、治療を難しくしかねない。患者や家族に迫られて、症状に対して過剰な治療をしてしまうおそれもある、と論文は書く。
ヘビを恐れて外で過ごすのを避けると、運動不足やビタミンD不足、自然欠乏症にもつながる、とも指摘している。
ヘイズ教授は、どのガラガラヘビにかまれても医療上の緊急事態で、すぐに手当てを受ける必要があると強調している。有効な治療は抗毒素だけだという。



思い込みがあると、ヘビをむやみに殺したり、治療が行きすぎたりするおそれまであるんだね。
参考文献:
Hayes WK, Morris MC (2026). Are Baby Rattlesnakes More Dangerous than Adults? Origin, Transmission, and Prevalence of a Media-Driven Myth, with Evidence of Effective Messaging to Dispel It. Toxins, 18(3), 144.
DOI: 10.3390/toxins18030144
論文本文(PMC): https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13030322/
ローマ・リンダ大学の発表(ScienceDaily掲載、2026年7月9日): Scientists just debunked a dangerous baby rattlesnake myth









