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20年『迷子』の骨が新種爬虫類に! 2億4千万年前・恐竜前夜のブラジル

2026 8/12
歴史・考古学
2026年8月12日
🕑この記事は約13分で読めます
シルミー

はかせ、化石って掘り出したら終わりなんじゃないの? 20年も『迷子』になった骨があるって本当?

はかせ

それが本当なんだ。ブラジルの博物館で20年以上眠っていた化石の破片を2022年に見つけ直して、やっと新種の爬虫類だと分かった話なんだよ

掘り出しさえすれば化石研究は完了、と思われがちだ。ところが、ブラジル南部の州でかつて採集された化石の一部が、産地を示す情報とともに20年以上どこかへ紛れ、記録が確認できないまま眠っていた。その『迷子の骨』が2022年に大学の収蔵庫で再発見され、2026年6月に科学誌『Scientific Reports』で新種として正式に記載された。名付けてSilescelida acristata(シレスケリダ・アクリスタタ)。2億4千万年前の中期三畳紀、恐竜も現代のワニもまだ姿を見せていなかった時代に、南米で暮らしていた小型の爬虫類だ。

研究を率いたのは、ブラジル・サンタマリア連邦大学(UFSM)のクアルタ・コロニア古生物学研究センター(CAPPA)で、リオグランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS)とリオグランデ・ド・スル・カトリック大学(PUCRS)が共同で参加。恐竜とワニの共通祖先グループ「アルコサウリフォルム類」の進化史に欠けていた1ピースを埋める発見となった。

目次

始まりは20年以上前、標本箱の中で消えた記録

収蔵庫の標本箱のイメージ

物語は20年以上前のブラジル南部までさかのぼる。リオグランデ・ド・スル州ドナ・フランシスカ市の「ポスト(別名フォグリアリニ)」と呼ばれる化石産地で、小さな爬虫類の骨が採集された。左肩甲骨、右腸骨、左大腿骨という3片の骨で、たがいにくっついた状態で見つかったため、同じ個体のものと考えられた。

ところが、この骨は本格的な研究に進む前に、事情があってPUCRSの収蔵庫に長く眠ることになる。しかも、採集番号が書かれていた大腿骨の根元部分(近位端)が20年以上のあいだ行方不明だった。標本を管理する上で採集番号は「どこの地層で見つかったか」を辿るための命綱で、それが失われた化石は科学的な議論の対象になりにくい。産地と地層が不明なままでは、いくら形が珍しくても新種として登録できないのが古生物学のルールだ。

結果として、この化石は「面白そうだが決め手を欠く標本」として、ケースの奥へと押し込められていった。特別な事件があったわけではない。膨大な収蔵標本を抱える大学では、こうした「宙ぶらりんの化石」が誰にも見つけられずに眠り続けることが珍しくない。

この化石の場合、たまたま研究者の目に留まって世に出るまでに、実に四半世紀近い時間がかかった。しかもきっかけは、大がかりな再発掘でも新技術による再解析でもない。ある技術訪問の日、収蔵庫の片隅で失われていた欠片が偶然、見つかったのだ。採集現場に戻ることなく、標本箱の中から一つの新種が浮かび上がるのは、古生物学ではめずらしくない筋書きだ。

2022年、収蔵庫の片隅で見つかった一片

転機は2022年だった。CAPPA/UFSMの研究チームがPUCRSの標本コレクションを技術的に訪問した際、20年以上ゆくえ知れずだった大腿骨の近位端が、収蔵箱の隅から見つかった。

この一片には採集番号が刻まれており、これが復元されたことで、化石がドナ・フランシスカ市の「ポスト」産地(南緯29度37分38.9秒、西経53度22分06.5秒)で採取されたものだと初めて確定した。産地が確定するというのは、地層の年代を特定できるということでもある。この場所は、パラナ盆地のサンタマリア・スーパーシーケンスに属するピニェイロス・チニクア層の一部で、化石は「ディノドントサウルス群集帯」と呼ばれる地層区分に含まれることが分かった。年代でいえば約2億4千万年前・中期三畳紀のラディニアン期にあたる。

ここまで揃って、化石はやっと科学の俎上に載る資格を得た。研究チームは肩甲骨・腸骨・大腿骨の形態を細かく計測し、既知の三畳紀爬虫類と系統解析にかけていく。すると、他の近縁種にはあっても、この個体にはないある「特徴の欠落」が浮かび上がってきた。それが結果的に、新種を新種たらしめる決め手になる。

ちなみに研究チームは、この標本を「MCP 4186-PV」という管理番号でPUCRSに保管している。今後、追加の骨が近くの岩石から見つかる可能性も残されており、産地情報が復活したことで、周辺調査の再開にも道が開けた。標本番号と地層データが正式に紐付いた瞬間から、その化石は世界中の研究者が引用・比較できる「公共の資料」に変わる。逆に言えば、番号と地層が分からないままでは、どんなに珍しい形をした骨でも科学の議論の場に上げにくい。今回の再発見は、研究の入口が「発掘」だけでなく「収蔵庫の再点検」にもあることを、はっきり示した事例といえる。

「沈黙の脚」と名付けられた新種

爬虫類の化石骨のイメージ

この化石に与えられたのがSilescelida acristataという学名だ。属名の由来は、ラテン語のsiles(沈黙)とギリシャ語のskelēs(後肢)を組み合わせたもの。「20年以上ものあいだ沈黙していた大腿骨」を指す、じつに詩的な命名だ。単に発見者の名前を残すのではなく、化石が眠っていた四半世紀という時間そのものを名前に刻み込んでいる。

種小名のacristataは「クレスト(隆起)がない」という意味のラテン語で、大腿骨の裏側にあるはずの「第4転子」と呼ばれる骨のふくらみが、この個体では無いことに由来する。第4転子は、尾に伸びる筋肉(尾大腿筋、m. caudofemoralis)が付着するための骨のフックのようなものだ。同じグループの爬虫類の多くには存在するのに、Silescelidaでは目立った隆起が見当たらない。これが「新種と呼ぶに足る違い」の中核になった。

体格は、現生の小型のアリゲーターほどの大きさで、ほっそりとした四足歩行の姿勢を取っていた。食性ははっきりしないものの、体格と歯の情報から、より小さな動物を狙う小型捕食者だったと考えられている。中期三畳紀の南米で、じめじめした河川沿いを歩き回っていた姿を想像すると、恐竜ほど派手ではないが独特の存在感を放つ動物だ。

肩・腰・脚の3片だけで新種と分かった理由

「たった3片で新種を決めていいのか」と思うかもしれない。だが古生物学では、骨1本の形の違いが分類の決め手になることが珍しくない。今回の場合、肩甲骨の形状、腸骨のプロポーション、大腿骨の関節面と第4転子の有無を組み合わせると、既知のどの三畳紀爬虫類にも当てはまらない組み合わせが浮かび上がった。

むしろ、発掘現場で回収される化石の大半は完全な骨格ではなく、こうした断片的な標本だ。今回の発見は、部分的な化石であっても、丁寧に形態を比べれば進化史の一角を明らかにできることをあらためて示している。

大量絶滅から立ち直る世界の、地味だが重要な主人公

三畳紀の風景のイメージ

Silescelida acristataが生きていた約2億4千万年前は、生物史上最大の危機であるペルム紀末の大量絶滅(約2億5,200万年前)から、まだ1,200万年しか経っていない時期にあたる。海の生物の9割以上、陸の脊椎動物種の大半が姿を消したあと、生き延びた系統が空いた席を奪い合いながら、新しい生態系を組み立て直している最中だった。

この「立て直しの時代」の主役の一人が、アルコサウリフォルム類(Archosauriformes)と呼ばれる爬虫類の大グループだ。この仲間の中から後にアルコサウルス類が生まれ、そこから枝分かれして恐竜(およびその子孫である鳥類)とワニ類という、地上と空を長く支配することになる二大系統が出てくる。今のスズメと今のワニが遠い親戚に見えるのは、この時代の共通祖先まで系譜をさかのぼれるからだ。

Silescelidaはこの系統の初期の枝、「エウクロコポダ(Eucrocopoda)」と呼ばれるやや原始的なグループに位置づけられた。恐竜でもワニでもないが、両者の祖先型に近い形を持ち、「アルコサウルスらしさ」が徐々に組み上がっていく途中経過を示す動物だといえる。

三畳紀の中頃は、体のプロポーション、脚の付き方、骨の内部構造など、あちこちで進化の「実験」が同時多発的に走っていた時期でもある。Silescelidaはその実験の一端を担う、地味だが欠かせない一人だ。派手な巨大恐竜が舞台に立ち上がる前に、こうした小型の脇役たちが、体の設計図を細かく書き換えていた期間があったからこそ、後の恐竜時代の繁栄が可能になった。

半直立姿勢が語る「歩き方の実験」

爬虫類の骨格のイメージ

今回の化石が特に語ってくれるのは、歩き方の進化だ。爬虫類というと、体の横に足が張り出したトカゲのような「這うような姿勢」をイメージしやすい。この姿勢では、地面と体のあいだで胴が横に大きくくねり、素早く長く走るのには不利になる。

Silescelidaの大腿骨は、こうした「横張り出し型」から一歩進んで、足がやや体の真下に近い位置に付く「半直立姿勢」を取っていたことを示す。真下に近い場所で脚が地面を蹴ることで、胴の左右のねじれが減り、より効率的に前へ進むことができる。恐竜が二本足で走り出せた背景にも、この「脚を真下に立てる方向への進化」があった。

もちろん、Silescelidaが恐竜と直接の祖先関係にあるわけではない。ただ、この時期の近縁グループが同時多発的に半直立姿勢を試していたことは分かっており、Silescelidaはその「歩き方をめぐる大実験時代」を裏付ける一標本だ。

脚の付き方は、単に走る速さの話にとどまらない。心臓や肺と手足の連動の仕方、狩りや逃走の作戦、生息場所の広さまで、動物の生き方そのものを大きく作り変える要素だ。恐竜がのちに広い平原へ勢力を広げられた背景には、この時代の地味な骨格改造の積み重ねがある。

大腿骨の「小さな切り欠き」が読ませてくれること

大腿骨の関節部分の角度や、後ろに伸びる筋肉が付着する場所の形は、その動物がどんな姿勢で立っていたかを推定する強力な手がかりになる。第4転子が無いというSilescelidaの特徴は、逆にいえば「他の仲間はどこにその筋肉を張っていたのか」をくっきり浮かび上がらせる比較点にもなる。

一つの骨の「有る/無い」を丁寧に並べていくと、系統樹の枝分かれの順序を推定する強い証拠になる。今回の系統解析でも、こうした細かな形質の組み合わせが決め手になった。

南米に広がっていた「忘れられた爬虫類グループ」

世界地図・大陸のイメージ

系統解析の結果、Silescelidaは「エウパルケリア科(Euparkeriidae)」と呼ばれる、これまで研究例の少ない爬虫類グループに近い位置に置かれた。ただし、系統樹上の位置は解析条件によって揺れ動くため、著者らは「確実にエウパルケリア科と断定はしない」と慎重な言い回しをしている。

それでも重要なのは、この仲間がこれまで南アフリカ・中国・ドイツ・ポーランド・ロシアなど、南米以外の各地からしか知られていなかった点だ。名前の由来にもなっているEuparkeria capensisは南アフリカで見つかっている、この系統の代名詞ともいえる動物だ。

今回、南米(ブラジル)にも近縁とみられる形が生きていたことが示されたことで、エウパルケリア科の分布域が一気に大陸を超えて広がった。三畳紀の陸地は、超大陸パンゲアがまだ大きく分裂していない時期にあたるとはいえ、それでもグループごとに地域偏りがあったと考えられていた。今回の発見は、彼らが従来の想定以上に世界各地に散らばっていた可能性を示す。

言い換えれば、化石記録から浮かんでいたグループの分布図には、まだかなりの「白地」が残っている。南米、とくにリオグランデ・ド・スル州の三畳紀層には、今後もこの空白を埋める発見が出てくる可能性が高い。この地域は世界最古級の恐竜化石も産出することで知られ、三畳紀の陸上脊椎動物の研究にとって世界有数の宝庫だ。今回の発見は、その「宝庫」がすでに知られていた恐竜だけでなく、恐竜以前の脇役たちについても、まだ多くの秘密を隠している可能性を示している。

また、こうした化石の空白は、単に「まだ見つかっていない」だけでなく、化石として残りにくい地層条件や、過去の発掘の偏りにも左右される。世界中の三畳紀層を等しく調べられているわけではないからこそ、今回のような発見が「例外」ではなく、これからも続き得る「典型」になる可能性がある。

だから何か? 恐竜と鰐の共通祖先像が、少しずつ立体になる

恐竜とワニのイメージ

Silescelida acristataの発見は、単に「新しい種類の爬虫類が増えた」という話に留まらない。恐竜と現代のワニが分岐する直前の姿を、また一歩具体的に描けるようになったという点で、進化史全体に効いてくる発見だ。

三畳紀の中頃は、恐竜が主役になるずっと前の「準備期」にあたる。半直立の脚、細身の体、地味な体格の小型捕食者たちが、あちこちで新しい体の使い方を試していた。この時代の主人公は、絶滅を生き延びて次の帝国を築く前の、いわば「無名の設計者たち」だ。恐竜だけを追っていると見落としがちなこの層に、また一人、はっきりした名前が加わった。

もう一つ見落とせないのが、この化石が世に出るまでの経緯だ。四半世紀近く収蔵庫で眠っていた標本が、たった一片の再発見をきっかけに新種として名前を得た。世界中の博物館の収蔵棚には、まだ研究の光が当たっていない「もう一つのSilescelida」が眠っている可能性が高い。フィールドでの新発見だけでなく、既存コレクションの丁寧な見直しが、進化史の空白を埋める大きな力になっていると、筆者は感じている。今後は南米各地のブラジル・アルゼンチンの三畳紀層で、この仲間の追加標本が見つかっていくのではないかと考えられる。

恐竜が姿を現す前夜の世界は、まだまだ地味な発見の余地に満ちている。派手さは無いが、そこにこそ今の私たちにつながる進化の骨組みが眠っている。沈黙していた大腿骨の一片が四半世紀ののちに新種として名を得たように、名前もまだ与えられていない標本が、世界のどこかの棚で研究者の目が届く日を静かに待っている。

はかせ

いい話だよね。派手な恐竜じゃなくても、こうした地味な化石が進化史の空白を丁寧に埋めていくんだ

シルミー

20年も迷子だった骨が名前をもらえて良かった! 私の部屋の宿題プリントも、いつか誰かに再発見されるかなあ

参考文献:
一次ソース: Garcia, M. et al., A new eucrocopodan archosauriform from the Middle Triassic of southern Brazil and the phylogeny of Euparkeriidae(Scientific Reports, 2026年6月10日)DOI:10.1038/s41598-026-53740-9
研究機関: サンタマリア連邦大学(UFSM)/リオグランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS)/リオグランデ・ド・スル・カトリック大学(PUCRS)/ 二次ソース: ScienceDaily

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化石 古生物 恐竜 爬虫類 進化
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この記事を書いた人

シルミー編集者のアバター シルミー編集者

科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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