ブラジル南部で採集された化石の一部が、採集番号を書いた部分ごと20年以上なくなっていて、産地が確かめられないままになっていた。
その一片は2022年に大学の収蔵庫で見つかり、2026年6月に科学誌『Scientific Reports』で新種として記載された。
名付けてSilescelida acristata(シレスケリダ・アクリスタタ)。
約2億4千万年前の中期三畳紀に、南米で暮らしていた小型の爬虫類だ。恐竜やワニ類が栄える前の時代にあたる。
研究したのは、ブラジル・サンタマリア連邦大学(UFSM)のクアルタ・コロニア古生物学研究センター(CAPPA)と、リオグランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS)などのチームだ。
標本はリオグランデ・ド・スル・カトリック大学(PUCRS)の博物館が収蔵している。
採集番号の部分が20年以上失われていた標本
標本が採集されたのは、リオグランデ・ド・スル州ドナ・フランシスカ市の「ポスト(別名フォグリアリニ)」と呼ばれる化石産地だ。
左肩甲骨、右腸骨、左大腿骨という3片の骨で、たがいにくっついた状態で見つかったため、同じ個体のものと考えられた。
ところが、採集番号が書かれていた大腿骨の根元部分(近位端)が事故で失われ、20年以上のあいだ、この標本の産地などを確かめられなくなっていた。
採集番号は、どこの地層で見つかったかをたどるための手がかりだ。
収蔵庫で見つかった一片
転機は2022年、研究チームのガルシア氏らがPUCRSの標本コレクションを訪れたときだった。
この一片には採集番号が付いており、これによって、化石がドナ・フランシスカ市の「ポスト」産地(南緯29度37分38.9秒、西経53度22分06.5秒)で採取されたものだと確かめられた。
産地が確定するというのは、地層の年代を特定できるということでもある。
この場所は、パラナ盆地のサンタマリア・スーパーシーケンスに属するピニェイロス・チニクア層の一部で、化石は「ディノドントサウルス群集帯」と呼ばれる地層区分に含まれることが分かった。
年代でいえば約2億4千万年前・中期三畳紀のラディニアン期にあたる。
ちなみに研究チームは、この標本を「MCP 4186-PV」という管理番号でPUCRSに保管している。

「沈黙の脚」と名付けられた新種
この化石に与えられたのがSilescelida acristataという学名だ。属名の由来は、ラテン語のsiles(沈黙)とギリシャ語のskelēs(後肢)を組み合わせたもの。
論文によると、この名は、採集番号が書かれていた大腿骨の根元部分が失われ、産地が分からなくなっていたことを指す。
種小名のacristataは「クレスト(隆起)がない」という意味のラテン語で、大腿骨の裏側にあるはずの「第4転子」と呼ばれる骨のふくらみが、この個体では無いことに由来する。
第4転子は、尾大腿筋(m. caudofemoralis)が大腿骨に付着する部位だ。
Silescelidaでは、この部位にかすかなすじがあるだけで、はっきりした隆起になっていない。論文は、これをこの種を見分ける特徴の一つとしている。
見つかったのは肩甲骨・腸骨・大腿骨だけで、頭の骨や歯はない。
肩・腰・脚の3片だけで新種と分かった理由
「たった3片で新種を決めていいのか」と思うかもしれない。
論文によると、この標本は、肩甲骨の根元に前後方向のくびれがないこと、肩甲骨の上端が非対称に広がっていること、腸骨の上縁がまっすぐなこと、大腿骨の頭が内側へ広がっていることなど、複数の特徴の組み合わせで、これまで知られている他の非アルコサウルス類のアルコサウリフォルム類と区別できる。
大量絶滅からの回復期に生きていた小型の爬虫類
Silescelida acristataが生きていた約2億4千万年前の陸上は、約2億5200万年前のペルム紀末の大量絶滅から回復している途中だった。
ScienceDailyによると、Silescelida acristataは小さなアリゲーターほどの大きさで、ほっそりした体で四足で動き、小型の動物を食べていたとみられる。
この時代に大きく多様化した爬虫類の仲間が、アルコサウリフォルム類(Archosauriformes)だ。
アルコサウリフォルム類からはアルコサウルス類が生まれ、その系統にワニ類と、鳥類を含む恐竜類が含まれる。
Silescelidaは、エウクロコポダ類(Eucrocopoda)の基部に近い位置に置かれた。
論文によれば、ブラジル南部の三畳紀では、このような初期のエウクロコポダ類が見つかったのは初めてだ。

半直立の脚を持つ仲間のグループ
爬虫類の仲間には、体の横に脚が張り出す姿勢の捕食者もいた。
論文は、プロテロスクス類(proterosuchids)とエリスロスクス類(erythrosuchids)をそうしたグループとしている。
これに対し、エウクロコポダ類の初期の仲間は、ほっそりした体で脚が体の下に付く、半直立の四足の捕食者だったと論文は述べている。
ScienceDailyは、Silescelidaの脚も近縁種と同じように半直立だったと説明している。
ScienceDailyによると、脚が体の側方ではなく体の下に付くと、体が地面を進むときの抵抗が減り、効率よく移動できる。
こうした変化は、のちにアルコサウルス類が成功する土台になった体の変化の一部と関係づけられている。
Silescelidaが恐竜の直接の祖先というわけではない。
大腿骨に残る特徴
大腿骨はほぼ完全で、最大の長さは172.9ミリある。尾大腿筋の付着部がはっきりした隆起にならない特徴は、ゴンドワナクス(Gondwanax)、ラゲルペトン類、翼竜と共通する。
一方、エウクロコポダ類の多くでは、この部位に低い隆起やこぶがある。
エウパルケリア科の可能性がある南米初の例
系統解析では、Silescelidaはどの解析でもエウクロコポダ類の基部に置かれた。
一部の系統樹ではエウパルケリア科(Euparkeriidae)の内側に入り、近縁の可能性が示されたが、多くの系統樹では、位置がエウクロコポダ類の基部のなかで変わった。
このため、論文はエウパルケリア科の仲間である可能性にとどめている。エウパルケリア科が1つのまとまりなのかどうかも、解析によって結果が分かれ、はっきりしていない。
エウパルケリア科の確実な仲間は南アフリカのEuparkeria capensisだけで、仲間かもしれない種が中国・ドイツ・ポーランド・ロシアから知られている。
南米では、今回が初めてのエウパルケリア科の可能性がある例だ。
論文は、この発見が、初期のエウクロコポダ類が従来の想定より広く分布していたことを示すと述べている。
南米のこうした種が、前期三畳紀に起きた分散の生き残りなのか、それより後の分散によるのかは、今の化石記録では確かめられないとしている。
ScienceDailyによると、リオグランデ・ド・スル州の岩石には、陸上脊椎動物の進化のさまざまな段階の化石が残り、知られている最古級の恐竜も含まれる。
この発見の意味
論文は、ブラジルで初期のエウクロコポダ類が見つかったことが、南米が初期のアルコサウリフォルム類の多様化で重要な役割を果たしたという見方を支えるとしている。
この分野の研究は、ペルム紀末の大量絶滅の直後に広がったプロテロスクス類とエリスロスクス類に偏っており、中期三畳紀のエウクロコポダ類は比較的注目されてこなかった。
うん。骨が3つしかなくても、形を丁寧に比べれば、進化の道すじが分かってくるんだよ
20年も迷子だった骨が名前をもらえて良かった!
参考文献:
一次ソース: Garcia, M. et al., A new eucrocopodan archosauriform from the Middle Triassic of southern Brazil and the phylogeny of Euparkeriidae(Scientific Reports, 2026年6月10日)DOI:10.1038/s41598-026-53740-9
研究機関: サンタマリア連邦大学(UFSM)/リオグランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS)ほか/ 二次ソース: ScienceDaily










コメント